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株式会社コー・ワークス
(宮城県仙台市)
大出さん、岡村さん株式会社コー・ワークスは、2009年(平成21年)設立。ITを軸に、モノ・コトづくりを通して課題解決を行うために様々な事業を行っている。
従業員数は26名(2024年12月現在)。
今回は、執行役員・コーポレート本部長の岡村亜希さんと、経営推進室の大出侑季さんからお話を伺った。
外部の公認心理師を活用することに加えて、社内担当者自身も公認心理師資格を取得し、社内外の支援体制を充実させている。
まず、職場のメンタルヘルス対策の取組みを始めたきっかけや推進体制などについて、お話を伺った。
従業員が笑顔で過ごせるようにメンタルヘルス対策の取組みを始めました 「職場のメンタルヘルス対策の取組みを始めたのは2019年頃です。2018年頃から、従業員のエンゲージメントが明らかに下がっている様子が気になっており、何かしたいと思いました。会社ですので慈善事業ではありませんが、寝ている時間を除けば1日の半分以上を会社で過ごしていますので、辛い顔よりも笑顔で過ごせる時間にしたいという気持ちがありました。」
「当社は、プロダクトというよりも人が財産の会社ですので、従業員が最大限のパフォーマンスを発揮できるようにするために、心の健康も体の健康も大事にするための取組みを始めたいと経営側に相談したら、すぐに理解を示してくれました。そこで、私(岡村さん)が当時、経営推進室長という立場で取組みを始めました。」
外部の公認心理師と顧問契約を締結し支援してもらっています 「今は、メンタルヘルス推進担当者として私(岡村さん)ともう1名が、健康経営の取組みを進める担当者として大出さんともう1名の計4名が中心となって進めています。」
「また、2019年当初より、外部の公認心理師の方と顧問契約して様々なサポートをしてもらっています。当時、社内でメンタルヘルス対策の取組みを進めることについて相談していたところ、社長の知り合いからその方をたまたま紹介してもらうことができました。最初の頃は、メンタルヘルス対策をしようといっても自分で調べられる範囲の知識しかありませんでしたので、外部の公認心理師の方からいろいろなことを教えてもらうことができたのが助けになりました。」
社内担当者もメンタルヘルスに関する知識を身につけ、公認心理師資格を取得しました 「私(岡村さん)自身も、2022年に公認心理師資格を取得しました。もともとメンタルヘルスのボランティア活動や社内のメンタルヘルス担当をしていたので、さらに知識を深めたいという気持ちが芽生えていたことに加えて、経営側により一層理解してもらうためには私自身が知識を身につけることも大事だと感じるようになりました。また、身近に公認心理師として活躍されている方がいたこともあり、自分も挑戦してみたいと思うようになりました。」
「勉強はとても大変でしたが、社内で起きるメンタルヘルスに関する問題を考える際に、医学的な面なども含めて以前よりも多角的に捉えられるようになったと思いますし、メンタルヘルス不調になった方に対するアプローチの選択肢も以前より増えたと感じています。」
「私(岡村さん)が公認心理師資格を取得したあとも、外部の公認心理師の方には顧問契約を継続してお願いしています。内部の人間には話しづらいこともあるかもしれませんし、今は執行役員という立場になっていますので、経営側に近い立場の人間に話しづらいと感じることもあるかもしれないと思うので、外部の人間に相談できるルートを確保しておくことも大事だと考えています。」
ストレスチェックの実施義務はない従業員数だが、外部専門家に実施者を依頼し、自社のニーズに合ったシステムを活用してストレスチェックを実施し、従業員との全員面談も踏まえて社内の課題を分析し、職場環境改善につなげている
次に、ストレスチェックの取組みについてお話を伺った。
外部の公認心理師に実施者をお願いしてストレスチェックを実施しています 「当社の従業員数は50人未満ですので、ストレスチェックの実施義務はありませんが、2019年からストレスチェックの実施を始めました。ストレスチェック実施者は、当初より外部の公認心理師の方にお願いしています。」
利用するストレスチェックサービスは会社のニーズを踏まえて選定してきました 「はじめは、会社が従業員のために加入していた保険のオプションで利用できるストレスチェックサービスを利用して実施しました。ストレスチェックを実施するシステムを無料で利用することができて、詳細な設定は自分たちで行うというものでしたが、経年比較のために結果データを保存する場合は有料というものでした。」
「2022年からは、別の会社のストレスチェックサービスを活用しています。“職業性ストレス簡易調査票”に加えて、仕事内容や組織の関係なども分析できる項目が加わっていて、社内の状態を詳細に分析することができます。当社が見たい内容を網羅していて、データを蓄積していけるものにしたいと考え、今のサービスを選びました。」
ストレスチェック後は従業員面談も実施し、職場環境改善につなげています 「ストレスチェックは、現在、年2回実施しています。また、年1回は、ストレスチェック実施後に私(岡村さん)が全員と面談を実施し、会社に対して不安に感じていることなどについて話を聞いています。高ストレス者の方には、私(岡村さん)や外部の公認心理師が補足的に面談を行い、その面談結果を参考にした上で、医師による面接指導の対象者を判断しています。」
「全員面談後は、私(岡村さん)と社内の担当者で、面談とストレスチェックの結果を分析し、会社の課題を抽出して職場環境改善の計画案や面談とストレスチェックのまとめを作成し、外部の公認心理師にチェックやコメントをもらっています。また個人の面談結果が特定されないようプライバシーに配慮した上で、それらを経営側に提示するということを行っています。初年度は、短期的な施策として、事業部単位の会議体の選定、定期的な面談の在り方の検討と実施、情報発信、また、長期的な施策としては、評価制度の構築、各種規程の制定と見直し、といった内容を提案し、承認を得て実施しました。」
継続して発信し続けることで少しずつ変化が見られてきました 「最初の3年くらいは、思うようにいかないこともたくさんありました。施策を実施しても、当然ながら簡単に結果が出るわけではありませんし、私(岡村さん)が当時は執行役員ではなかったのでできることも今よりも限られていました。そのため、せっかく伝えているのになぜやってくれないんだという気持ちが従業員側から伝わってくることもありました。一方で、経営側の立場からすると、最初は、施策を実施することで社内の課題が解決するかどうかはわからないという思いもあったと思いますし、従業員から言われることを実現することが経営上良い判断とはならないことももちろんあったと思います。そうした両者の思いに挟まれるような感覚になったこともありました。」
「ただ、ここ2,3年は、社長も従業員のエンゲージメントに対する意識が高まってきていると感じていますし、従業員自身のメンタルヘルスに対する意識も変わってきていることを実感しています。継続的に取組みを続け、発信し続けてきたからこそ、少しずつ変化が見えてきているのだと考えています。」
毎日全員が顔を合わせる時間や、月1回全員が会社に集まって話す機会など、従業員間のコミュニケーションをとるための工夫を凝らしている
最後に、その他の職場のメンタルヘルス対策の取組みや社内コミュニケーション活性化の取組みについてお話を伺った。
従業員向けセルフケアセミナーとラインケア研修を継続的に実施しています 「従業員向けセルフケアセミナーを、外部の公認心理師の方にお願いして実施しています。開始当時は、セルフケアやメンタルヘルスという言葉になじみがない従業員も多くいましたので、従業員のヘルスリテラシ―を向上させることを目的に、年2回実施してきました。また、セミナーに参加すること自体に抵抗感を持たれる方も最初はいましたが、継続することで少しずつ様子が変わってきて、従業員自身もメンタルヘルスの重要性に気づいてくれるようになりました。」
「セミナーの内容は、従業員の変化に合わせて内容を変えてもらっています。最初の頃は講義形式で実施していましたが、最近はワークも取り入れてくれています。業務の都合でどうしても参加できない方には、録画したものを後で見てもらう形で、全員が参加できるようにしています。」
「2023年からは、ラインケア研修もはじめました。こちらも外部の公認心理師の方にお願いして、役職者を対象に実施しています。こうした研修について、今後は私(岡村さん)が実施することも考えています。」
月1回全員が顔を合わせてコミュニケーションをとる時間を大事にしています 「月1回、全社連絡会の日を設けています。コロナ禍となったタイミングで、全社連絡会も一度はオンラインでの開催になったのですが、やはり全員が会社の仲間として会話をする機会が大事だと考え、全社連絡会の日だけはリモート勤務をしている方も出社してもらっています。」
「全員出社に切り替えた当初は、『通勤が負担』、『出社するのは疲れる』、『その分仕事をした方がいい』といった意見も聞かれましたが、出社することに慣れてくると、『みんなと会えるのがうれしい』、『みんなでワークできるのか楽しい』といったフィードバックをもらえるようになりました。」
「全社連絡会では、みんなでワークをする時間も設けるようにしています。ワークの内容はたとえば、自分の強みと弱みを知る、自己紹介ワーク、などを実施してきました。自己紹介ワークは、コロナ禍以降に入社した従業員だとオンラインでしか会わないのでよく知らないといったことがあるので、実はこんな資格持っています、実はこんなことができます、などを自己紹介フォーマットに入力してもらって、グループごとに発表してお互いに質問するといった内容で実施しました。ワークの内容は、経営側が考えたり、“組織を良くする会議”という会議体を作っているのですが、そのメンバーがアイディアを出してくれたりしていて、毎月工夫しています。」
朝会で毎日の従業員の様子を確認し、ちょっとした変化を見逃さず早期対応につなげています 「また、毎日全社員で朝会を実施しています。全体で15~20分、その後チームに分かれて10分程行い、毎朝30分程度です。全体では、その日の体調などについて全員が順番に話します。メンタルヘルス推進担当者と、ラインケア研修を受けた役職者は、全員が話している様子を見て、いつもとちょっと違う様子がないかを確認しています。」
「いつもと違う様子がないかを確認するためのポイントとしては、たとえば目線や、普段この人は朝会でこういう会話をするのにこの数日あまり話さないな、など一人ひとりの傾向を踏まえて見るようにしています。これは、今の従業員規模だからできることだと思っています。」
「気になる様子があったら、役職者にチームでの様子を見てもらうようお願いしたり、役職者からメンタルヘルス推進担当者に連絡がきたりします。このように今は早期対応ができるようになっていますので、以前は長期間休む従業員もいましたが、ここ数年はかなり少なくなりました。休む場合でも、ちょっと気になったタイミングで1週間くらい休みをとり、その間は私(岡村さん)が毎日個別に連絡をとって対応すると、復帰できるということもよくあります。IT業界はメンタルヘルス不調者が多いと言われますが、当社はそれに比べるととても少ないと思います。」
自社開発のアプリを活用して、相談へのハードルを下げる工夫をしています 「また、メンタル面をサポートするために、“ココケア”というアプリを自社開発しました。月1回、自分のコンディションや体調、気分、業務状況、生活状況を登録してもらっているほか、話したいことや相談したいことを入力できる欄を設けています。毎月、メンタルヘルスに関するコラムと併せてココケアのURLを、全従業員にメールで送って活用してもらっています。この結果はメンタルヘルス推進担当者の2名しか閲覧できないようになっています。」
「話したいことや相談したいことを自由記述してくれた従業員には、返信を書いて送っています。また、“話したい”という項目にチェックをつけてくれた方には、すぐに時間をとってオンラインで15分程度話したりしています。リモートで業務をしていると人と話す機会があまりありませんので、業務のことでちょっと困っても一人で悶々としてしまうところがありますが、誰かと話すとすっきりするということも多いようです。」
「相談したい、とメールなどで連絡するよりも、配信されてきたものに対してポチッと押すだけの方が、相談のハードルは低いのではないかと思っています。また、そうやって気軽に相談できる場があるということを知っておいてもらえるだけで、いざ何かあったときには、配信したときに話してもらいやすくなるのではないかなと思っています。」
【取材協力】株式会社コー・ワークス
(2025年1月掲載)