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株式会社大谷商会
(大分県由布市)
中野さん、大谷さん 株式会社大谷商会は、1952年(昭和27年)創業。LPガス販売やガソリンスタンド運営などのエネルギーに関する事業の他、車や生活環境(住宅・水・シニア訪問など)に関する事業などを行っている。
従業員数は37名(2024年10月現在)。
今回は、代表取締役社長の大谷章さんと、総務課の中野喜久一さんからお話を伺った。
健康増進に取り組んだ場合に“インセンティブ手当”をつけるなど給与体系を工夫することで、健康やスキルアップなどに取り組みやすい仕組みを作っている
まず、職場のメンタルヘルス対策の取組みを始めたきっかけと、はじめに取り組んだ給与体系の見直しについて、お話を伺った。
社長自身が健康で働けることの大切さを実感し、従業員の健康に取り組み始めました 「職場のメンタルヘルス対策に関する取組みを始めたのは、2009年頃です。私(大谷さん)が難病になり、健康で働けるということがとてもありがたいことだということを実感したことがきっかけです。従業員のみんなも、心も体も健康であることを第一に考えるようになりました。会社を、一緒に成長していきながら健康に働ける場所にするということを、今は一番大事に考えています。」
給与体系を工夫することで、健康やスキルアップなどに取り組みやすい仕組みを作っています 「はじめに取り組んだのが、給与体系の見直しです。健康に気をつけた人にはご褒美があったらいいな、という発想から全体の見直しを行いました。現在は、給与の内容を、 “仕事給”、 “基本給”、“生活給”の3つに分けています。“仕事給”は、年2回の個人面談の後に更新するという仕組みにしています。」
「“仕事給”の中に、“インセンティブ手当”というものを設けていて、11項目設定しています。その中に“健康(自己管理)”という項目があり、たとえば、ラジオ体操をしている、栄養のバランスを考えて食事している、運動している、などができていたら月1,000円の手当てがつきます。ラジオ体操は毎朝全員しているので、全員1,000円はもらえる、という感じです。」
「“インセンティブ手当”には他にも、”ビジネスマナー“や“スキルアップ”などの項目を設けています。“スキルアップ”は、当社で実施している研修に参加して、しっかり勉強しているとどんどん上がります。技術面だけでなく、自分で企画をしたり、お客さんにアピールするためにはどうしたらいいか、など、積極的にチャレンジしている人を評価する仕組みになっています。」
頑張った人が正しい評価を受けることができるよう、給与体系を進化させています 「“仕事給”の中には、他に“職務手当”と“資格手当”というものを設けています。“職務手当”の中には、“管理職手当”と“専門職役割手当”というものを作っていて、管理職よりも仕事の匠になりたいという人も、管理職と同じような手当をもらえる仕組みにしています。自分の仕事を極めてもらいながら、管理職の指示には従ってもらう、というように役割を明確にしています。」
「“資格手当”もユニークな仕組みになっています。自動車の運転免許を持っているだけでも月3,000円の手当てがつきますし、その他、どんな資格であっても取ってきたら月1,000円の手当がつく仕組みになっています。勉強してスキルアップして、資格を取得していくと、手当が増えていきます。頑張った人が正しい評価を受けられるようにしたいと思っていますし、そのためにも、より良い給与体系を目指してこれからも進化させていきたいと思っています。」
“メンタルケアー研修”や、社長による全員面談、外部相談窓口の設置など、様々なアプローチを導入して従業員のメンタルヘルスケアに取り組んでいる
次に、その他のメンタルヘルス対策の取組みについてお話を伺った。
“メンタルケアー研修”を実施しています 「“メンタルケアー研修”というものを実施しています。一度に全員が研修に参加することは業務の都合上難しいので、3チームに分けて参加してもらっています。毎月1回3時間の研修に3か月間参加した後、その後の3か月間で振り返りをするという流れで、毎年実施しています。研修以外にも講師の先生とレポートのやりとりなどをしています。」
「講師は外部の先生にお願いしています。過去に実施したテーマとしては、『自己分析・他己分析を通してコミュニケーション力UP』、『自分の未来を考えるワークショップ』などです。人材定着を目的に実施しています。」
年2回社長が全従業員と面談して、自分のことを安心して話せる環境を作っています 「また、5年ほど前から、年に2回、社長が全従業員と面談を行っています。“仕事給”の更新に関する面談でもありますが、仕事以外も含めて、困ったことがないか確認したり、家庭の状況によってサポートが必要そうな場合はそうした提案などもしています。オブザーブとして、私(中野さん)が同席しています。」
「最初の頃は堅苦しい雰囲気になることもありましたが、最近は従業員も少しずつ慣れてきて、いろいろな話ができるようになってきました。お茶やお菓子を出したり、時にはお香を焚いて五感を刺激してリラックスできるようにしたりと、面談環境も工夫しています。」
「また、面談の前にはアンケートへの回答をお願いしています。アンケートの内容は毎回社長が工夫していて、今年は、“お金と時間と休みがあったらどこに行きますか”という質問を入れました。こうした、仕事とは関係ない話も意図的に入れるなどして、とにかく従業員本人が話しやすい環境を作る、ということを大事にしています。」
外部相談窓口の設置も予定しています 「こうした工夫をしてはいますが、悩んでいるということに自分で気づけない人もいると思いますし、本音で話すことが難しい人もいます。そうしたことを言える環境を何か整えることができないかと考え、来年から外部の相談窓口を設置してみることにしました。外部の方であれば、社内のグチも言いやすいと思いますし、退職を決める前の悩んでいる段階で相談できるようになるのではないかと思っています。相談対応は、“メンタルケアー研修”をお願いしている先生にお願いする予定です。」
感謝の気持ちを伝えられるアプリを活用しています 「また、感謝の気持ちを伝えられるアプリを導入しています。部署など関係なく、全従業員に対して、『今日は手伝ってくれてありがとう』、『誕生日おめでとう』など、日々の感謝の気持ちを積極的に伝えてもらっています。アプリ内のコインが溜まるとクオカードに替えることができますし、毎月集計して表彰もしています。」
「このアプリでは、感謝の気持ちを伝える以外にも、社内全体に発信したいニュースなどを掲載することもできるので、新入社員が入ったことを報告したり、他己紹介をしたり、工夫してくれています。アプリの活用方法について検討する実行委員会を設置していて、その中で、来月はどのような情報を載せるのが良いかなど話し合って、どんどん工夫してくれています。また、アプリを使うために自分のスマートフォンを使ってもらうことになるので、その通信代の手当として、全員に月1,000円支給しています。」
会社の利益の一部を従業員の教育やケアに還元するという発想で取組みを継続しており、良い循環が生まれている
最後に、従業員が活躍できる職場環境づくりや、こうした取組みに対する想いなどについてお話を伺った。
外部講師の方が会社の状況に合わせて研修内容を常にアレンジしてくれています 「“メンタルケアー研修”のほかにも、“スキルパス研修”と、“スッキリ・環境整備研修”というものを毎月実施しています。“スキルパス研修”は、“社会人としてのモラル・仕事の進め方”や“自ら考える力・行動する力”など自立型人間を育成するためのプログラム、“スッキリ・環境整備研修”は、片づけを通じて改善力を学ぶプログラムを、それぞれ外部講師の先生にお願いして継続的に実施しています。“メンタルケアー研修”も含めて、講師の先生方が、今の会社の状況に合わせて研修内容をいつもアレンジしてくれるので、マンネリ化することはありません。」
「こうした研修を始めてから、会社はどんどん変わってきているので、一緒に変わっていくことができない人は、当社で働くことがしんどくなって、個別にフォロー等したものの退職された方も少なからずいました。一方で、それ以降に入社した従業員は今のような環境が当たり前なので、ワクワクしながら働いてくれています。4年前から新卒採用に力を入れており、1年目は7名、2年目は3名採用することができました。現在、新卒者で辞めた人は1名です。2年目の新卒社員が1年間しっかり勤め上げ、研修や資格もクリアした上で“自分の本当にやりたい事”に向かって旅経ちました。もちろん私(大谷さん)も本人も納得済みの上での決断でした。」
もっと上を目指すために当社を飛び立つ従業員を応援しています 「高卒で入社した従業員で、研修などを通してぐんぐん成長し、入社5年経たずに所長になった人もいます。今は、もっと上を目指したいという本人の希望も踏まえて、外部に出向させています。当社は従業員を囲い込むという発想はありませんので、そのまま当社から飛び立ってもいいと思っていますし、その後当社と提携したり新しいビジネスを一緒に始めたりできる可能性もあると思っています。従業員がそんな風に伸びていってくれたらという気持ちで研修を実施しているので、むしろ嬉しいです。」
定年を60歳とし、以降は親会社からの出向とすることで、若手が自由に仕事のできる環境を作っています 「若手が自分たちのやりたいように仕事ができる環境を作ることも意識しています。まず、役職定年を55歳にしており、その後は下の世代にしっかり引き継いでもらうようにしています。また、当社の定年は60歳にしていて、60歳以降も働きたいという方には親会社である大谷グループからの出向という形に切り替えてもらっています。そうした仕組みにすることで、若い世代が上の世代のことを気にせず自由に仕事に取り組むことができるようにしています。同時に、高齢になった方にも活躍してもらえるように、大谷グループの定年は65歳にしており、希望で70歳まで働けます。70歳以降も働きたいという方にはアルバイトという形で働いてもらえるようにしています。今は、所長経験者の方がアルバイトで働いているのですが、なんでもわかるので頼りになりますし、仕事が落ち着いたら仕事を切り上げて帰るなど自分のペースで働けるので本人にとってもちょうど良いようです。」
会社の利益の一部を従業員の教育やケアに還元するという発想で取組みを行っています 「こうした取組みをするためにはお金がかかることもありますが、私は会社の利益の一部を従業員のために使う、という発想でやっています。はじめから予算を組んでやろうとすると、そこまでの余裕はないという発想になってしまいますが、たとえば利益が1000万円出ていたらその半分を従業員の教育やケアに使う、という考え方です。利益を何に使うのかは経営者側の判断によります。私は、従業員の教育やケアに使うことに重きを置き、それでいて、まだ会社は利益が出ているので、今のところうまくいっているということなのだろう、と思っています。」
【取材協力】株式会社大谷商会
(2025年1月掲載)
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