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株式会社湯元舘(滋賀県大津市)

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株式会社湯元舘
(滋賀県大津市)

【写真】大竹さん 株式会社湯元舘は、1929年(昭和4年)創業、1964年(昭和39年)設立。利他グループの一つとして、滋賀県で旅館事業を営んでいる。
社員数は166名(2024年4月現在)。
今回は、支配人の大竹優さんからお話を伺った。

ストレスチェックの実施方法や産業医の選定など、その時その時のニーズや状況を踏まえて見直している。

まず、職場のメンタルヘルス対策の取組みについてお話を伺った。

ストレスチェックは紙とデジタルのどちらがいいか試行錯誤中です 「ストレスチェックは年1回、健康診断の問診票を配るタイミングで案内を配って実施しています。健康診断の実施機関とは別の会社にストレスチェックの実施をお願いしているのですが、健康診断と同じタイミングの方が受検しやすいのではないかと考え、この時期にしました。調査票は、57項目の職業性ストレス簡易調査票を使用しています。」

「実施方法は、以前は紙媒体で行っていて、回答した結果を健康診断時にもってきてもらっていたのですが、管理側の手間を軽減するために、2年前からデジタルでの実施に切り替えてみました。デジタルでの実施の場合は、一定期間の間に、一人ひとりがQRコードを読み込んで、受検してもらう形式で、自由な時間に回答することができます。ただ、受検率はデジタルでの実施に切り替えて下がってしまいました。紙媒体の時は80~90%の受検率でしたが、今年度はデジタルで実施したところ60%くらいでした。」

「また、結果から受ける印象も紙媒体とデジタルでは違うように感じています。紙媒体で実施していた時は、1か月後くらいに結果が紙で配られていましたが、デジタルの場合は受検後すぐに結果が出てくるので、ありがたみがないというか、便利ではあるのですが、軽く感じられてしまうような印象を受けています。当社は旅館を運営していますが、お客様アンケートをデジタルに変えたら回収率が下がってしまったので、内容は同じでも実施方法によって影響があるのだなと感じています。紙媒体の場合は、物を配布、回収して集計、送付する手間が発生する一方、デジタルだとそうした手間が不要になるので、どちらも一長一短で、悩ましいと感じています。次回のストレスチェックの実施方法をどちらにするかは現在検討中です。」

産業医は近隣の医師にお願いして相談しやすさを向上しました 「ストレスチェックの結果について、実施直後に開催する安全衛生委員会で実施者である産業医に解説していただいています。業界平均や一般平均と比べて当社がどうか、グループごとの分析結果がどうか、といったお話をしてくださっています。」

「産業医は、最寄り駅のすぐ隣でクリニックをされている医師に2年前からお願いしています。インフルエンザの予防接種などもお願いしているのですが、ご近所なので都合をつけていただきやすく、うまくいっていると感じています。」

「ストレスチェック後の医師による面接指導も、近くに産業医がいるため、利用しやすくなっているのではないかと思います。産業医に相談ができることは、ストレスチェック実施後に、全員に案内しています。高ストレスの方には『ぜひ受けてください』、それ以外の方には『こういった相談ができます』と、メッセージにメリハリをつけて案内しています。」

シフト制で全員集まることが難しい勤務環境の中で、1on1ミーティングを実施したり、グループごとのミーティングの内容を工夫したり、様々な取組みを実施して社内コミュニケ―ションを支えている

次に、社内のコミュニケーション活性化のための取組みについてお話を伺った。

1on1ミーティングで社員が話しやすい環境をつくっています 「前期の会社の方針として、『もっと話をしよう』を全社的に掲げて、各部署でコミュニケーション活性化のための方策を実施してきました。たとえばフロント部門では、1on1ミーティングを月1回実施しています。」

「1on1ミーティングの導入時には、1on1のやり方や注意点などを解説する動画を総支配人が作成して、各部署に連絡しました。考課面談ではありませんので、かたい話はあまりせず、相手に話してもらうということを大事に実施してもらっています。あらたまった相談の機会ではなく、ちょっと時間を作って『最近どう?』という話ができる機会があることで、大事な話がポンと出てきたりすることもあります。いかに話しやすい雰囲気を作って、『どうでもいいんやけど、ちょっと話します』くらいのところまでもっていくことが、社員のメンタルヘルスケアのために大事なことだと思っています。」

シフト制でのコミュニケ―ションの難しさを補う工夫を凝らしています 「旅館の運営は24時間365日の対応が必要ですので、全員が集まれる機会はほとんどありません。普通の会社であれば仕事が終わった後にちょっと話そうということもできると思うのですが、当社はそれができないということが社内コミュニケーションの難しさだと思っています。年に1回全社員研修・経営方針発表会を行うため休館日を設けていますが、休館日でもフロントに誰もいないということは難しく、1人は戻って予約対応やフロント対応をしていますので、全員が集まるということはまずありません。」

「以前は、フロント課では月1回ミーティングを夜の仕事が終わってから、自主的に実施していました。早く仕事が終わった人、仕事が休みの人も自主的に集まって行っていました。ただ、やはり大変だということで、月1回2~3グループに分けてミーティングを行う形に変更しました。」

「そのような状況ですので、何か1つのことを全員に伝えることがとても難しいですし大変です。連絡ノートなどはありますが、紙で見て全員が同じように対応できるかといったらそうではないので、私が全グループに出てかみ砕いて説明し、すり合わせをするようにしています。そのほかの連絡事項については、例えば、朝からいる人と昼からくる人に2回同じことを言いますし、今日いない人には明日言う、というような感じで何度も伝えています。1つのことを全員に伝えることが本当に大変で、そのための次善の策という感じです。もどかしいところです。」

会社が大事にしている考え方について自身の体験を話してもらう時間を大切にしています 「ミーティングは月1回1時間と限られた時間で実施していますので、その中で少しでも効果を出したいと思い、これまでいろいろ試行錯誤してきました。中でも効果があったと感じているのが、“利他グループフィロソフィー”を活用して考え発言してもらう時間を設けることです。“利他グループフィロソフィー”というのは、会社の価値観や信念を表現したもので、今の相談役が作ったものです。たとえば、『お客様を信用しましょう』、『仕事は日々考えてやって成長しましょう』などたくさんの項目があります。“利他グループフィロソフィー”は全社員に配布はしていますが、普通に働いているとなかなか見る機会がないので、“利他グループフィロソフィー”を踏まえた自分の体験を発表してもらう時間を作ってみました。発表する機会をつくることの効果を感じましたし、普段仕事の中ではなかなか聞けないそれぞれの成長に気づく良い機会だと感じました。」

「“利他グループフィロソフィー”を活用して話す機会をつくることが、職場環境改善にもつながっています。『利他グループは、仕事の成果で人を評価します』というものがあり、例えば、10個の重い荷物を汗水たらして5回運ぶよりも、台車を使って1回で運んだ方がいい、頑張った頑張らないではなく仕事の成果で評価する、ということです。これについて発表してもらったところ、一生懸命こうやっていたけど、こういう風にやった方がいいんじゃないかと思ってやってみたら、すごく良くなりました、と話してくれることがありました。“利他グループフィロソフィー”を軸に話すことで、皆が共通の価値観、考え方を持つようになり、それがチームとしての一体感につながっていると思います。」

社員旅行を復活させました 「3月には、20年以上ぶりに社員旅行に行きました。バスで大阪に行って、道頓堀の船に乗って、ホテルでランチをする、という日帰りのスケジュールで、2グループに分けての開催だったのですが、思ったよりもたくさんの方に参加してもらえました。皆さん楽しんでいましたし、こういう風にコミュニケ―ションをとる機会を作ることの大事さをあらためて感じました。」

ありがとう・いいねカードも実施しています 「ありがとう・いいねカードという仕組みも行っています。利他グループの全員を対象に、感謝の気持ちを伝えてもらっています。ありがとう・いいねカードは複写式の紙になっていて、所定のボックスに投函してもらっています。それを総務部門が回収して、複写式のうち1枚は総務部が保管し、もう1枚は感謝された相手の給与明細と一緒に渡しています。年間の最多感謝大賞と最多感謝された大賞を、年1回の全社員研修・経営方針発表会の時に表彰しています。」

社員が快適に過ごせる福利厚生施設や社員寮への投資を行ったり、若手社員の定着に向けたアンケートや面談を行ったり、様々な取組みを行い続けていることが離職率の低下につながっている

最後に、若手社員の職場定着に向けた取組みについてお話を伺った。

快適に過ごせる社員寮や休憩室を整備してきました 「10年ほど前から、新入社員の採用が難しくなってきたように思います。その頃から、それまで以上に採用にしっかり取り組み、若手社員が安心して働ける環境づくりに投資してきました。」

「たとえば、“はんなりハウス”という福利厚生施設を2018年に建てました。以前は当社の従業員駐車場だった場所に、今の相談役が福利厚生施設を建ててはどうか月例の幹部会議で投げかけ、その後本格的に動いていきました。それ以前も休憩室はありましたが、ご飯とみそ汁は置いていたものの、地味でいかにもバックヤードの休憩室という感じの施設でした。当時私は人事担当をしていたのですが、学生が会社見学にきた際に、ここで休憩しているよと言いづらい気持ちがあり、見学コースから外していました。“はんなりハウス”ができてからは、自信をもって、ここが当社の休憩室だと言えるようになりました。」

「また、社員寮も新しいものは、ユニットバスではなく、バストイレ別です。少しでも快適に社員に過ごしてほしい、という会社の想いが詰まっています。もちろん会社見学では社員寮も見てもらっています。」

「休憩所が利益を生むわけではないですし、きれいな社員寮を作ることも必ずしも必要不可欠ではないと思うのですが、会社がこうした施設を作ったことは一社員としてすごいなと思いました。」

若手社員の悩みの把握に努めています 「また、入社3年目までの若手社員へのアンケートを、数年前から実施するようになりました。7月に実施して、若手社員たちがどんな悩みを抱えているのかを把握し、気になる声が上がってきたら、何とか改善する方法を模索する、ということをしてきました。また、新入社員面談も総支配人が定期的に実施しています。」

様々な取組みが離職率の低下につながっています 「離職率は以前は少し高かったのですが、最近は改善してきています。以前は、入社して間もないうちに退職ということも度々あったのですが、ここ2年ほどそういう人はいないです。4月の入社式を迎えて、会社に実際に入ってみたら思っていたのと違ったということは、人によって程度の差はあれど、多かれ少なかれあることだと思います。どれが決め手ということではないと思いますが、1つ1つの取組みを積み重ねながら、物理的な面と精神的な面のケアを丁寧に行ってきた結果、離職率を下げることができたのではないかと考えています。」

【取材協力】株式会社湯元舘
(2024年12月掲載)