働く人のメンタルヘルス・ポータルサイト

株式会社青木農場(新潟県新潟市)

  • 事業者の方
  • 部下を持つ方
  • 支援する方

読了時間の目安:

12

株式会社青木農場
(新潟県新潟市)

【写真】青木さん(写真左側) 青木農場は、1968年(昭和43年)に創業し、2016年(平成28年)に株式会社化。米や茶豆を栽培しているほか、お餅や米粉スイーツ、冷凍おこわ等の製造を行っており、生産から加工、販売まで行う「農業の6次産業化」に取り組んでいる。
従業員数は10名(2024年2月現在)。
今回は、代表取締役の青木弘さんからお話を伺った。

食の危機ともいえる現状で農業を続けていくために、高額な設備投資に挑戦しながら、加工業、販売業も含めた“農業の6次産業化”に取り組んでいる

まず、農業の現状と農業に対する想いについてお話を伺った。

「最近は、農業だけだとなかなか利益が出ない状況になっています。生産コストが上がっている一方で、販売価格はお客様にとって購入しやすい金額が維持されています。また、近年は異常気象が増えているので、種をまいても無事収穫できるかどうか、その時期になってみないとわかりません。生産コスト自体は変わりませんので、毎年ギャンブルをしているような状況です。それでも、千年来の農地を自分の代でつぶすわけにはいかないからと、農業自体では利益が出なくても副業・兼業をしながら農地を守っている60・70代の方も多くいます。今後、基幹的農業従事者数は大幅に減少するという予測を農林水産省も出しており、食の危機が始まっていると考えています。」

「こうした現状に対する危機感から、本当に農業を続けていくために、第1次産業である農業生産だけでなく、第2次産業の加工業、第3次産業の販売業も含めた“農業の6次産業化”に取り組んでいます。農業機械も加工施設も非常に高額ですので、大きなチャレンジではありますが、農業一本では生き残れない、と覚悟を決めて、柱をいくつも作って経営を安定させながら地域に根差した農業をやっていきたいと考えています。」

従業員の幸せに寄与する他産業並みの働き方の実現を目指して、戦略的に仕事を選んだり機械への投資をしたりと工夫をこらしている

次に、株式会社化した経緯と従業員の働き方についてお話を伺った。

「江戸時代からこの地に移り住み、300年以上農家を続けています。私も若い時から父と共に、米づくり、茶豆づくりといった農業生産と、自社栽培米を使ったお餅の加工を長年行ってきました。当初は60歳になったら引退しようと考えていました。子どもたちにも、家業は継がなくていい、好きな道に行っていい、と話していました。そこに、会社勤めをしていた長男から農業をやりたいと言われました。ただ、それまでの農家のやり方では、先細ることが見えていました。それならば、今後成長していけるように人を集めることができる、そのために社会保障をしっかりする場所にしたいという考えから、株式会社化しました。それが2016年(平成28年)です。」

「現在の従業員数は10名です。そのうち正社員は4名。週20時間程度働いてもらっているパート・アルバイトの方は6名います。近所の方で時間に融通が利くけどフルタイムで働くことは難しいという方にお願いしています。当社にとってもそうした働き方は助かりますし、従業員にとっても、自分の時間を持ちながらも、働いて収入もあるのがちょうど良いようです。」

「業務は主に生産担当と工場担当があり、状況にあわせて交互に担当してもらっています。また、正社員のうち生産を専門に担当してもらっている1名については変形労働制としています。冬の時期は作業があまりないので週2日程度の出社としていますが、4月頃からは非常に忙しく、特に8月は枝豆の収穫で毎日収穫する必要があるので、その時期は休みは週1日程度としています。」

「農業は、生産だけを行う場合は、性質上天候等の自然条件に左右されるため、労働基準法について、労働時間や休憩時間、休日に関する規定は適用除外とされています。時間外労働、休日労働を行った場合、他産業であれば割増賃金を払う必要がありますが、農業では割増で支払う必要がありません。また、22時から翌朝5時の深夜労働も、他産業であれば50%以上の割増賃金を払う必要がありますが、農業では25%以上でいいとされています。」

「しかしながら当社は、『他産業並みの働き方を目指していこう』と会社を起こしたときに決めました。1週間の労働時間の上限は40時間とし、時間外労働は1.25倍、深夜労働は1.5倍の賃金を払うことにしました。他の農業仲間からは、『そのやり方だと本当に苦しくなるよ』、『週40時間で農業なんてできるのか』と言われたこともあります。おっしゃるとおりなんです。でも、やはりそこを目指していかないと、いつまでたっても変わらない。24時間働きづめで、きつくて危険で苦労ばかりみたいな状況から脱却したいのです。そして、やるからには、“儲かる”、“休める”、“稼げる”、というところを目指したい、というのが自分自身に課したハードルでもありました。」

「以前、ブロッコリーを生産したことがあります。この地域はブロッコリーが特産なので、面積も広くとり、1000万円弱くらいの売上はありました。ですが、ブロッコリーの収穫は手作業で、夜電気をつけて作業しないと出荷が間に合いません。家族でやる分にはできるのかもしれませんが、当社は最低賃金以上かつ深夜労働の場合は1.5倍の賃金を払うことにしていましたので、収支が見合いませんでした。また、腰の負担といった労働負荷も高く、長い時間この働き方はできないと考えて、ブロッコリー生産は1年で思い切ってやめました。ブロッコリー生産の機械化は、当時まだ普及しておらず、収穫も箱詰めもすべて手作業でしたので、これは当社のみんなを幸せにするものではないと判断しました。」

「一方で、枝豆の収穫は地域の周囲の農家が手作業をしている頃から、いち早く機械化を始めました。機械だとすべての豆を取り切れないので、農家としてはせっかく育てたのにもったいないという気持ちがあるのですが、うちは少々のロスには目をつぶって効率を重視することにしました。機械を使うことにより、生産効率は数倍に上がっていますし、若いからできる作業ではなく70歳になってもできる作業とすることが、事業継続するために大事なことだと思っています。また、良い豆と悪い豆の選別も、以前は手作業で行っていたのですが、カメラで読み取ってAIで選別する機械を導入しました。早く作業を終えて、休む時間を確保できるようにしています。機械はとても高額で導入するのも簡単ではないのですが、人間の負荷を抑えるために機械投資を積極的に行っています。」

一人ひとりの時間を大切にしてもらいたいからこそ、時間を作るために効率を重視し、生活の糧を得るために利益を求め、オンとオフの切り替えをしっかりしていく、という仕事とプライベートの好循環が生まれている

最後に、従業員の様子と従業員に対する想いについてお話を伺った。

「従業員の年齢構成は、20代が1人、30代が3人、あとは60代以上です。若い方たちは、夏の時期に毎年募集している枝豆収穫のアルバイトに来てくれていた学生出身者がほとんどです。卒業後、他の会社で働いたあと、転職して戻ってきて当社で働いてくれています。枝豆の選別作業において、夏はとても暑い環境になります。そこで、いち早く作業場に冷房を取り入れたり、トイレを整備したり、お弁当を用意したり、アルバイトの方にも働きやすい職場環境を作ってきたことが、良かったのかもしれません。」

「従業員の皆さんはとても優秀です。教えなくても私の作業している様子をみて作業効率を上げる工夫を自分なりに考えてくれたり、自分で資格の勉強をして業務に活かしてくれたり、とても助かっています。私も従業員の方から改善点やアイデアを出してくれることに感謝を伝えることで、コミュニケーションの向上にもつながっていると思います。農業経験者は私だけなのですが、それぞれが以前の業務や経験で身に着けてきた知識や経験を活かして活躍してくれています。」

「そして、それぞれの時間を大切にしてほしいとも考えています。人はいつかは死にます。だからこそ、今生きている幸せを感じていてほしい。仕事が大好きだったら仕事をやってもいいと思いますし、車が好きだったりキャンプが好きだったり旅行が好きだったり、何もしていないことが好きな方もいる、そうしたそれぞれの時間を大切にしてほしいと思っています。そのためには、時間を作る必要がありますし、趣味を活かすためのお金を得るために会社として利益を求める必要があります。効率よく仕事を行い、事務所を出たら気持ちを変えて自分の時間に入れるようにする。そして、睡眠時間をしっかりととってもらうことが、メンタルヘルス不調の予防にもつながります。例えば、労働8時間の後、睡眠8時間、仕事以外の8時間で睡眠、休養をしっかりとってもらうことで、集中して仕事に取組んでもらえたらと思っています。昨年の残業時間は、管理担当者で月平均5時間程度、生産・加工担当者で月平均8.3時間程度でした。」

「繁忙期以外は基本的には、毎朝8時30分に皆でラジオ体操と朝礼をしてから、業務を開始しています。その時間まで、私からは仕事の話をしないようにしています。オンオフの切り替えを私自ら意識しています。朝礼時に社員皆の様子を確認し、声掛けをすることで、メンタルへルス不調の早期発見にもつながっていると思います。そこで何かトラブルや課題があれば早めの対応も可能です。」

「朝礼時には、私たちの仕事の価値についてもよく話しています。農業はなくてはならないものです。人間は食べなければ生きていけません。そのために必要な食をゼロから生み出す仕事です。そして、それは農地があってのものであり、農地を活かすということはある意味国土保全をしているとも考えられます。食と国土保全をしているということは、公共事業をやっているようなものだと伝えています。そして、私たちの仕事の証が喜ばれる、お客さんから美味しかったと言っていただくこともありますし、お餅を買われた方から感動したと言ってもらえることもあります。私たちは感動してもらえる仕事をしているんだ、ということをできるだけ皆で共有するようにしています。」

「また、年に1回、メンタルヘルス面を含む健康に関するアンケートを、全従業員に実施しています。結果は各個人にアドバイスと共にフィードバックしています。フィードバックと併せて、外部講師によるセミナーを行ったこともあります。そこで、それぞれが個人目標を決めました。『野菜から先に食べる』、『週○○分以上運動する』といった食事や運動面に関することや、『子供と一緒に風呂に入る』といった長時間労働対策の目標を掲げた者もいました。それを1か月ごとにできた、できなかったことを自己評価してもらうことで、心身の健康に関する意識がさらに高まったと思います。働き方や健康に関するこれらの取組をまとめ、2022年には“健康経営優良法人(中小規模法人部門)”の認定を受けました。農業分野においては数少ない認定とのことでした。」

「私一人でできることは限られています。社員さん、パートさん、アルバイトさんがいて成り立っているものであり、経営資源は人そのものです。だからこそ、能力をいかんなく発揮してもらいたいと思っています。そのためにしっかりした労働環境を整えていきたいと思いますし、労働対価も上げていけるように経営を頑張りたいと、それが私の使命だと考えています。」

【ポイント】

  • ①食の危機ともいえる現状で農業を続けるために、高額な設備投資に挑戦しながら、加工業、販売業も含めた“農業の6次産業化”に取り組んでいる。
  • ②従業員の幸せに寄与する他産業並みの働き方の実現を目指して、戦略的に仕事を選んだり投資をしたりと工夫をこらしている。
  • ③一人ひとりの時間を大切にしてもらいたいからこそ、時間を作るために効率を重視し、生活の糧を得るために利益を求め、オンとオフの切り替えをしっかりしていく、という仕事とプライベートの好循環が生まれている。

【取材協力】株式会社青木農場
(2024年3月掲載)