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紀の國建設株式会社
(北海道函館市)
紀國さん 紀の國建設は1957年(昭和32年)創業。総合建設企業として、函館を中心に渡島・檜山地方で地域に根を張り、建築・土木、官公庁工事などを幅広く手掛けている。また、現在は札幌支店も立ち上げ、精力的に受注を広げている。
従業員数は24名(2023年12月現在)。
今回は、代表取締役の紀國隆介さんからお話を伺った。
会社が就労状況を把握できていない状況から脱するために、覚悟をもって組織やルールの整備に取組み、その後も働きやすい職場づくりや従業員の健康を守るための取組みの改正を続けている
まず、就労環境の改善や健康面の対策など、長年にわたって取り組んできた働きやすい環境づくりについてお話を伺った。
「私が入社したのは2008年です。当時の従業員数は15名ほどでした。その頃は、従業員がそれぞれ“個々”で業務を担当し、個人の判断で自由に働いている状態だったため、事務所への出社もほとんど無く、建築現場への直行直帰が慣例でした。会社側は、従業員の就労状況も、業務時間や業務内容も全く把握できていませんでした。また、従業員の年齢は50代後半~70代が中心になっており、高齢化が進んでいました。」
「2010年に専務取締役に就任しました。はじめにとりかかったのは、会社の土台作りです。会社の存続のためには、それまで個人の判断で自由に動いていた就労環境を見直し、組織やルールを整備することが急務だと判断しました。それまで自由にできていたのですから、整備の過程では、当然ほとんどの従業員が抵抗を示しました。中には退社した従業員もいました。ですが、事業継続のために最低限必要なことだと考え、覚悟をもって進めました。」
「2017年には、勤怠システムとグループワークシステムを導入しました。これによって、従業員の業務時間と業務内容、そして空き時間が分かるようになりました。工事現場は工期が決まっていますので、工事現場部門ではどうしても残業が発生してしまうことがあったのですが、従業員の業務の状況が把握できるようになったことで、余裕をもった業務調整ができるようになりましたし、代休・振休・有休の取得促進ができるようになりました。そして、管理部門では、残業時間はほぼ無くなりました。週1日のノー残業デーも設けました。また、グループワークシステムの導入によって、従業員間でのやりとりが増え、社内コミュニケーションの活性化にもつながったと感じています。」
「従業員の高齢化に対応するため、新卒者や中途者の採用を積極的に行っており、若い従業員も増えました。採用時には、向上心をもっている人であることを大事にしています。当社は従業員の3割以上が女性で、建設業界の中では女性占有率が高い方だと思います。女性が活躍できる企業を目指したい、という想いはありますが、だからといって何か特別なことをしているわけではありません。その人その人の能力・適性・スキルを踏まえて、技術職、営業職、現場管理職として採用しています。また、服装や髪、女性に関するおしゃれをすることなどは自由です。業務に支障がないことは、個々人の自由で良いと考えています。」
「他にも、育児休暇制度を4年かけてつくりました。現在、初めて男性従業員が育児休暇を取得しました。育児休暇をとりやすい職場風土や空気感を社内でつくり、従業員全員を巻き込んだ上での制度の実現でした。このように働きやすい環境づくりに取り組んできたことで、職場環境や社内の雰囲気も変わってきたと実感しています。」
「従業員の健康面に関しても取組みを強化しました。実は、私が入社する前は従業員の健康診断がほとんど実施できていませんでした。会社側も従業員本人も健康診断に対する意識が非常に低い状況でした。そのような中で、ある従業員が若くしてがんに罹患し、闘病後に亡くなるという事態が起こりました。私自身とてもショックでしたし、会社としても従業員の健康を守れなかったという責任を感じました。その反省を受けて、2015年から、全従業員が健康診断を受診する体制を整えました。協会けんぽとも連携しながら、有所見者には会社側が特別休暇を与えて再検査に行かせるようにしたり、保健指導を受けさせたりしました。従業員には、健康に気をつけるよう日々伝えています。今は、当社ホームページの安全方針にも『労働安全衛生法並びにその他の関係法令、当社社内規定を遵守します』と記載し、従業員の健康を守ることを心がけています。」
総務部門へ気軽に相談しやすい環境をつくったり、毎朝の朝礼やラジオ体操時に声かけをしたりするなどして、早期に気づき早期に対応できる仕組みを準備している
次に、相談しやすい環境づくりや社内コミュニケーションの工夫などについてお話を伺った。
「相談しやすい環境づくりにも取り組んでいます。具体的には、総務部門の従業員がいつでも相談を受けることを社内でアナウンスしています。相談は、メンタルヘルスに関わることでなくてもよく、なんでも気軽に話をしてほしいと伝えています。実際には相談というよりも『私の話を聴いてほしい』ということが多いようですが、中にはすぐに対応すべきこともありますので、その際は、現場に行って状況を確認したり、配置転換などをしたりといった必要な対応をしています。相談しやすい環境をつくることが、早い段階での対応につながり、メンタルヘルス不調の予防にもなっているのではないかと思います。」
「また、従業員のコミュニケーションを高めることもとても大事だと考えています。そのためにも、私や各部門の上司が、部下と関わる機会を増やすことを大切にしています。毎朝の朝礼やラジオ体操には全員が参加しています。そこで従業員の様子を見て、気になれば声をかけますし、課題があるようならば、上長が現場に行って様子の確認や調整、増員などを行うこともあります。このように、従業員が困っていることは何か、課題は何か、をできるだけ早く知り早めに対応することが大事だと考え、常にアンテナを張っています。私たちの業種は、一歩間違えれば、ヒューマンエラーで命を落とす可能性さえあります。そうしたヒューマンエラーは、心に余裕がないことによって起こりやすくなることもあると思います。『自分さえ良ければいい』ではなく、『みなで確認、注意、対応し合う』感覚を大切に、相手の立場に立って考え、丁寧で誠実な仕事を積み重ねることが、いい仕事につながり、従業員を守ることにつながると考えています。」
「2020年には、会社の創業60周年に伴い会社ロゴをリニューアルしました。また、新社屋も建築しました。『未来に向けて進み続ける』という想いを込め、決意を新たにしたものです。また、ハード面でもソフト面でも従業員の働き方や職場環境が以前にも増して良くなったことが評価され、2020年12月には“北海道働き方改革推進企業ホワイト認定企業”(現在はブロンズ認定)の認定を受けました。さらに、2021年には、“健康経営優良法人(中小規模法人部門)”の認定を受け、以降4年連続で認定されています。そして、2022年12月には女性活躍推進法に基づく“えるぼし認定”で最高ランクである“3段階目(3つ星)”を取得しました。これら認定を取るということが目的ではなく、従業員の皆がいつまでも健康な心身で不安なく働いていただくことや、女性が活躍する働きやすい職場、働き甲斐のある環境づくりが目的で進めてきたものですが、当社のこれまでの取組みを認めてもらえることは嬉しいです。そして、創業100年を目指してこれから会社のブランディングを進めていくために、当社の働き方を発信していくことはますます重要になってくると考えています。」
「2023年に、代表取締役に就任しました。2024年の年始挨拶の中で初めて、『挑戦はわたしたちを成長させる』との企業理念を発表しました。建設業界は、保守的な考えが強い傾向にあるため、どうしても最初に“できないこと”を考えてしまいがちです。しかしながら、そうなると成長は止まってしまいます。今までやったことが無いことでも、“挑戦する”機会を私たちが従業員に与えるなどして、常に皆で考えて“新しいことを考える能力”を高め、できるために挑戦をする向上心が大事だと考えています。」
「建築がメインの会社ですが、『依頼された事は何でも対応できる。困ったときに来てもらう』そんな特徴のある会社を全員で構築していきたいと思います。そのためにも、従業員一人ひとりが心身ともに健康であり、モチベーションが上がり、様々な意見やアイディアが飛び交う職場にしていきたいと考えていますし、そのために今後も活動を継続していきます。」
【ポイント】
- ①会社が就労状況を把握できていない状況から脱するために、覚悟をもって組織やルールの整備に取組み、その後も働きやすい職場づくりや従業員の健康を守るための取組みの改正を続けている。
- ②総務部門へ気軽に相談しやすい環境をつくったり、毎朝の朝礼やラジオ体操時に声かけをしたりするなどして、早期に気づき早期に対応できる仕組みができている。
【取材協力】紀の國建設株式会社
(2024年3月掲載)
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