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株式会社北陸人材ネット
(石川県金沢市)
山本さん 北陸人材ネットは2007年(平成19年)設立。石川・福井・富山県にて、就職や転職のコンサルティング、人材を探している企業への人材紹介や人事制度設計支援を行っている。
社員数は5名(2023年11月現在)。
今回は、代表取締役社長の山本均さんからお話を伺った。
フルリモート勤務、フルフレックス勤務、越境学習手当、副業可など、社員の自主性を重んじた柔軟で手厚い仕組みを導入している
まず、社員の働き方などについてお話を伺った。
「当社は人材紹介業です。転職も含めた自分のキャリアについて考えていただくための相談対応などを行っています。社員は5名です。原則フルリモート勤務としていて、社員の居住地は石川県、富山県、北海道と様々です。原則として毎日1回オンラインにて全員で話すようにしていますが、リアルで会うことは滅多にありません。」
【写真1】各々が自由な場所で勤務 「原則フルリモート勤務をはじめたきっかけは、社員が夫の勤務に合わせて転居したことでした。石川県内ではあったのですが、車で片道1時間30分かかる場所だったため、毎日通うのは大変だということでリモート勤務を導入しました。その時は週1~2回は出社し、残りの日は自宅近くのコワーキングスペースで働くという形でした。その次の転機は2019年、社員が夫の転勤で海外に移住することになりました。その社員は、『働き続けたい』という意向を持ってくれていたので、フルリモートでも業務に支障がないかテスト期間を設けて確認した上で、フルリモート勤務になりました。その際、他の社員皆もフルリモート勤務にするという案もあったのですが、そこまでには至りませんでした。その後、2020年からのコロナ禍で緊急事態宣言が出たため、原則出社禁止となり、他の社員もリモート勤務を行うことになりました。そこで、十分仕事ができることを実感することができたので、その後は全社員原則フルリモート勤務としています(【写真1】参照)。リモート勤務での業務環境を整えるため、ノートパソコンと32インチの液晶モニターを全員の自宅に配布しています。」
「勤務時間も朝5時から夜10時までの間で自由な時間に働けるようフルフレックス勤務を導入しています(【写真2】参照)。清算期間は3か月としており、時間内に収まるように自己管理してもらっています。私たちの業務内容は働いた時間と成果が連動するものではないので、労働時間を細かく指定する必要はないと考えています。もちろんサービス残業をしなければならないような状況にするつもりはありませんし、自分で自分の身を守るために自己管理はちゃんとしてほしい、ということを伝えています。」
【写真2】午前中は家業の昆布業手伝い
1時間だけ業務→雪だるま祭りボランティア
【写真3】北海道 中島公園にて業務 「また、“越境学習手当”というものを支給しています。年間5万円まで、ワーケーションや本の購入など、自己投資に使っていいとしています。今は世の中の変化が激しく、そうした環境変化に対応していく必要がありますが、そのためには自分の中にある価値観を一部リセットし、新しい情報をインプットするということが大事だと考えています。“越境学習”とは、いつもと違う場所で仕事をすることによって得られる学びや気づきのことで、そうした効果を期待して“越境学習手当”という名称にしました。ワーケーションは越境学習効果が高いと言われていますし、好きな本を読むこともそうした効果が生まれる可能性があるのではないかと考えています。去年は私が北海道にワーケーションに行ったのですが、社員2人も一緒に行きました(【写真3】参照)。子育て中の社員だとワーケーションにはなかなか行きづらいので、本の購入など他の用途にも使えるようにし、今年(2023年)からは使い切れなかった分を繰り越しできるようにしました。」
「副業も可としています。当社で当たり前とされていることが、副業先の会社では当たり前ではない、というところから気づきや学びが生まれることもありますので、副業も越境学習効果があると思っています。実際に、社内で議論するときの間口が広くなっているということを実感しています。副業先に転職してしまうのではないか、ということを心配して副業可に踏み切れない経営者の方もいると思うのですが、もしそうなった場合は自社の魅力がないというだけのことだと私は考えています。社員に振られてしまわないようにとの理由で副業を禁止にするのではなく、社員に選ばれる会社作りを目指すことの方が大事だと考えています。」
「以前は、チェック&コントロールで細かいことを確認しながらマネジメントしていました。ただ、当時、地元の大学の仕事なども兼務していて忙しかったため、すべてを管理することは大変でしたし、社員もきつそうでした。ちょうどその頃、任せられる場づくりをするのがマネージャーの仕事だという視点が出てきた頃だったので、いろいろな本を読んで、その方向でやってみたらどうなるんだろうと思い、開き直って今のようなやり方をしてみた感じです。新しいマネジメント手法を自分の会社で実験しているような感じです。」
「当社はこうした働き方ですので、ハーズバーグの“二要因理論”の“動機付け要因”で動いている人でないと働くのは難しいと思っています。指示をされたら動ける、ほめてもらえたらやる気がでる、という人では、当社のフルリモート勤務は難しいと考え、当社の採用面接ではそうした点を重視してみています。」
売上の状況や社員同士の給与など情報公開を積極的に行い、社員の当事者意識を高めている
次に、経営や利益に対する考え方についてお話を伺った。
「利益の変動は結構あります。コロナ禍の時は落ちましたし、産休中の社員がいる時は稼働人数も減っていましたので売上も落ちました。ただ、この仕事でやっていくと決めた以上、そこは開き直るしかないと思っています。社員には売上の状況などは公開していますし、来期の売上では、最低限これくらい出す必要があるということも伝えています。また、年間の売り上げ目標を超えた分についてはインセンティブルールを設けていて、超えた分の約6割を社員に還元することにしており、そうしたルールも、もちろん社員には公開しています。」
「社員に当事者意識をもってもらうことが大事だと考えています。私は今61歳ですので、働けるのはあと15年ほどだろうと思います。私が辞めた時に、誰かが代わりに社長になれる仕組みにしておく必要があると思っており、社員には当事者意識を持って決められるマインドを持ってもらう必要があると思います。そのための基本は情報を公開することが大事だと思っています。」
「そして、社員のだいたいの給与も互いにわかるようにしています。基本年俸は私が社員の能力に合わせて決めています。社員の働きは日ごろのコミュニケーションの中で見えていますので特別なことはしていません。そのほかに、インセンティブルールによる分配もあります。これまではその分配についても私が決めていましたが、今後は、今期一番会社に貢献した人は誰かということを社員同士で総合評価して決めたらいいのではないかと思っています。お互いの評価がだいたい見えていることで、働きと評価が見合っているという納得が得られやすいという面はあると思います。」
「また、今年は社員皆で売上目標とそれを達成するための戦略を作っていました。エントリー者数がどういうルートからどのくらい入ってこないといけないとか、お勧めできる会社が何社くらい必要だとか、そういう会社から早い段階から相談されるように関係性を深める必要があるとか、具体的に作ってくれていました。もちろんそういうものを私が作ることもできますが、今、社員皆が自分事として議論して作っているからこそ理解して取り組めるものになっていると思います。」
「自分たちが好きなことをやって生きていければ最高だという考え方にシフトしていければいいのではないかと、私自身感じています。特に中小企業ではそれが可能だと思っています。上場企業は株主に対して配当する責任がありますから、短期的に利益を出し続ける必要があるのだろうと思います。対して、中小企業はオーナー会社がほとんどですので、上場企業と同じように継続的に利益を出す必要はないですし、好きにやったらいいのではないかと思っています。少なくとも私たちはそれを実践しているという感じです。」
「その上で、利益は、世の中に対して価値のある仕事をしたことに対するギフトだと思っています。それならば、自分たちがやって楽しいことでお客様が喜んでもらうことが最高です。利益を出すことを目標に掲げ、そのために我慢してやらねばならない、という考え方の方が不健全ではないかと思っています。」
社長を筆頭に皆が楽しみながら仕事をし、得意なところを伸ばしていくスタンスで、メンタルヘルス不調者もおらず相談もない状況が継続されている
最後に、職場におけるメンタルヘルス対策についてお話を伺った。
「メンタルヘルス不調者はいません。自分はこの会社で働きたいんだ、この仕事がやりたいんだ、と思えていたら、メンタルヘルス不調にはなりにくいのではないかと感じています。」
「社員からの改まった相談も、先程の海外へ行くという話を聞いたときは驚きましたが、それ以外はほとんどありません。その分、日々社内チャットを通じて、社員同士でプライベートも含めたグチをよく言い合っています。社員同士はとても仲が良く、トラブルなどもほとんどありません。お互いに言いたいことを言えているのではないかと思っています。」
「また、嫌な仕事をしないということも大事だと考えています。本人が嫌な仕事を、私から押し付けるようなことはしません。むしろそれぞれの得意技で勝負してもらえたらいいと思っています。そうした中から、私たちの想像を超えるような何かが生まれることが多くあります。“こうあるべき”ということは言わず、“あなたらしさってこういうことだと思うから、それはもっと磨いた方がいいんじゃない、可能性はすごくあると思うし、そこにとても期待しているよ”、といったことを伝えています。私が苦手なことをやってくれる社員もいますし、私が得意なことは私がやるし、そうした話をどんどんしていく中で、自然と役割分担が決まっていくような感じです。『馬を水辺に連れていくことはできても水を飲ませることはできない』ということわざもありますが、やりたくないのに無理にやらせてもしょうがないと思います。」
「私自身が楽しみながら仕事をしている姿勢を見せることも大事だと考えています。今は、仕事をしながら冬場にスキーができるという意味で、とても理想的な環境になっています。今年は北海道で2週間好きなところを行き当たりばったりフラフラしながら車の中で仕事をするという生活をしましたが、とても良かったし、また行きたいと思っています。皆も同じように好きな働き方ができるようになれば、結果的にパフォーマンスも上がりメンタルヘルス不調にもならないのではないかと考えています。『夢中は努力を凌駕する』とか『ゾーンに入る』と言われたりもしますが、夢中にやっているときは強いですし、楽しみながらやることによってゾーンの状態に入ることができるのではないかと思います。スポーツの世界ではすでにそうした考え方が主流ですが、仕事の世界でも同じようにできるといいなと思っています。」
「このような仕事のやり方が本当にうまくいっているのかと聞かれたら、わかりません。ただ、当社をプラットフォームに、それぞれがより自分らしい人生を送ることができれば最高だと思っています。私がいなくなっても自分のスキルで飯が食えるような人たちになってほしいと思っていますし、そういう人たちが、今は自分の意志でこの会社で働くことを選択しているという形であることを目指しています。」
【ポイント】
- ①フルリモート勤務、フルフレックス勤務、越境学習手当、副業可など、社員の自主性を重んじた柔軟で手厚い仕組みを導入している。
- ②売上の状況や社員同士の給与など情報公開を積極的に行い、社員の当事者意識を高めている。
- ③社長を筆頭に皆が楽しみながら仕事をし、得意なところを伸ばしていくスタンスで、メンタルヘルス不調者もおらず相談もない状況が継続されている。
【取材協力】株式会社北陸人材ネット
(2024年3月掲載)