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株式会社友伸エンジニアリング
(東京都府中市)
栗須さん、塩谷さん 株式会社友伸エンジニアリングは、1971年に設立。配電盤を中心としたハイテクシステムの開発および産業用のソフトウェア開発を行っている。
従業員数は、116名。本社と東京工場が80名、他は福島県の鹿島工場、岩手県の一関工場などに在籍している(2024年2月現在)。
2018年9月掲載の「職場のメンタルヘルス対策の取組事例」では、会社全体でメンタルヘルス対策に取組んでいること、また、外部EAP機関のカウンセラーによる相談窓口がうまく機能していること、総務部が率先して職場のコミュニケーションを円滑にするための関与をしている状況などをお伝えした。あれから5年間の活動を中心に、総務部 部長の栗須健二さん、課長の塩谷朋之さんからお話を伺った。
早期対応を行う重要性を社員皆が感じるようになったことで、産業医や外部カウンセラーとの早めの相談ができており、メンタルヘルス不調者の早期回復につながっている
まず、現在のメンタルヘルス対策の体制と、メンタルヘルス不調者への対応について、栗須さんを中心にお話を伺った。
「役員会の最初の議題は、今でも毎回、職場のメンタルヘルス対策についてです。いつもと様子が違う社員の状態や職場状況について報告した上で、対策を検討しています。これまでに、総務部門以外のすべての部門でメンタルヘルス不調者が発生したことから、誰もがメンタルヘルス不調になり得ることを実感しました。社員も早期対応を行う重要性を感じてきているようで、ちょっとした声かけを自然に行っている様子が見られています。」
「外部EAP機関の横森カウンセラーによる月1回の面談は、現在も継続しています。先日行った設立50周年の全社イベントでも紹介しましたし、社員にとって、何かあればいつでも外部カウンセラーに相談できると思える存在になってきていると思います。外部カウンセラーに相談したいときは、総務部の大平さんが日程調整をしています。大平さんもこれまでと変わらず日頃から社員皆の様子を気にしてくれていて、大平さんから外部カウンセラーの面談につなげることもあります。」
「前回(2018年9月)の時点では今後の予定としてお話しした、岩手県と福島県の拠点で働く社員に対する外部カウンセラーによる全員面談は、2018年以降継続的に実施しており、2023年は11月に行いました。外部カウンセラーによる個人面談が終わった後、私(栗須さん)と大平さんと外部カウンセラーの3人で職場の状況を確認し、現地の管理職とともに、メンタルヘルス不調者への対応と職場環境改善の検討を行うという流れで実施しています。」
「また、長年産業医をお願いしていた先生がコロナ禍で多忙となり、産業医業務が難しくなったため、3年前に産業医を変更しました。新たな方は精神科の先生にお願いし、外部カウンセラーの面談日とは別に月1回面談日を設けているほか、職場復帰時や長時間労働時など、医師による意見が必要な時に面談をお願いしています。」
「会社全体として、メンタルヘルス不調に早めに気づくことが大切であるという意識が高まったことで、いつもと違う様子がみられた場合は、1週間以内に外部カウンセラーとのオンライン面談を必ず設定するなど、早期対応ができるようになりました。このため、相談が必要と思われる社員は前回 (2018年9月)よりも増えていますが、多くはカウンセリングを通じて状況が改善する方向に進み出すことができているため、すぐに医療機関につながなければならないというほどではありません。」
「メンタルヘルス不調による休職は取りやすくしています。また、職場復帰支援は、当社の“職場復帰支援プログラム”に基づいて、それぞれの社員に合わせた職場復帰支援プランを準備し、通勤訓練、時短勤務、定時退社など、段階を踏んで復帰できるようにしています。その中で産業医による面談も行っています。本人が『すぐ復帰でも大丈夫』と言っていたとしても、慎重に進めています。早期対応と丁寧な職場復帰支援のおかげで、最近は、休職しても1ヶ月ほどで職場復帰できていますし、再休職者はいません。」
若手社員と総務部員との定期的な面談を通じて、若手社員の声を大切にし、課題があれば解決策を一緒に考え支援していく
若手社員への支援など、より良い職場環境にしていくための様々な施策について塩谷さんを中心にお話を伺った。
「『入社から3年目までは見放さない』という方針は今も変わりはありません。新入社員が1年間、月1回、私たち総務部とグループ面談するフィードバック会も続けています。フィードバック会では、新入社員一人ひとりが“ヒアリングシート”に記入し、それをもとに発表した上で、皆でフィードバックし合います。“ヒアリングシート”では、上司からの声かけの頻度や業務での支援状況などについて点数をつけてもらっており、そこから新入社員同士で考えたり感じたりしている不安や悩みを共有し合い、他の社員や私たち(総務部門)がフォローしています。」
「また、新入社員は1日1枚日報を書くこととしています。日報は、前日の夕食を思い出して書くところから始まります。生活習慣の観点から、ちゃんと食べているか食生活を確認することは大事だと考えていますし、いきなり業務内容を書き始めるのは書きづらいのではないかという考えもあります。そして、業務内容とそれに対して思ったこと、考えたことを書いてもらっています。プライベートや趣味のことが書かれていることもあります。日報は、毎日上司が確認してコメントを書いています。その後、総務部でも確認しています。」
「新たな取組みとして、3年前から私(塩谷さん)と若手社員との“1on1ミーティング”を始めました。入社1年目の社員に対しては1週間に1回15分ほど、入社2~3年目の社員に対しては2~3か月に1回行っています。プライベートなことや資産形成のことも含め、若手社員が話したいことを自由に話してもらい、その話を聴いています。ただ聴くだけではなく、感じたことをフィードバックしたり、私(塩谷さん)自身のことを話したりすることもあります。」
「1on1ミーティングを通じて、新入社員が考えていることや変わったらいいなと思っていることを話してもらい、その中の一部でも良い方向に変わったことが目に見えたり、会社に伝わったと感じてもらったりすることが大切だと考えています。例えば、洗面所のせっけんの刺激が強いと感じていた社員から、『せっけんを変えてもらうことはできないですよね』という話があり、総務部にて確認しすぐに変更しました。『上司と考えが合わない』といった話があった場合は、どのようにするかを一緒に考えた上で、会社としてできることを伝えています。業務内容における課題に対しては、話を聞いた上で、自分からアプローチをして変えることができそうなことがあるか確認した上で、ある場合はまず実践してもらい、1週間後に状況報告してもらい、また一緒に考えるといったサイクルでまわしています。」
「さらに、昨年(2022年)からは社員寮をやめて、会社の近くの100人規模のシェアハウスに登録して、入社5年目までは、費用の約2/3を会社が負担する形で住めるようにしています。今年(2023年)も地方から出てきた新入社員3人がシェアハウスに入りました。シェアハウスには、様々な立場や業種、年代の方々が多く入居していますし、花火鑑賞会やバーベキュー、クリスマスパーティー、アート制作などのイベントも多く開催されています。会社以外にもたくさんのコミュニティがあることを早い段階で感じてもらい、ストレス対処につなげてもらえればと思っています。」
「この5年間で見直しをしたものもあります。外部機関と契約していた電話相談窓口は、全く利用が無く、社内外の対面での相談窓口を充実させたことも踏まえ、廃止にしました。また、コミュニケーションをとることを目的とした活動に対して、月に1回、社員一人5000円を支給するという総務部の取組みは、コロナ禍以降、懇親会等の開催が難しくなったため廃止にしました。代わりに、民間の福利厚生サービスに新たに加入して、個々人に必要なサービスを選択して利用できるようにしました。」
「最近は女性の管理職や社員の割合が増えており、当社の要である技術部の1/3は女性です。採用ホームページや会社見学などで、先輩女性社員の働き方を知って、当社に入ってくる人が多いです。採用説明会においては、当社の業務が大変だということをしっかり伝えており、それを分かった上で入ってきてくれていると思っています。会社は、無くならない安定的な基盤としてあり続けることが、まず大事だと考えています。その上で、若手が重視しているSDGsや社会貢献といった価値観も大切にしながら、それぞれがやりたいことをできるように支援していく必要があると思います。」
「離職者は減っています。退職について相談に来た社員と面談をする中で、表面的な退職理由とは別の真の課題(テーマ)があったことに気づき、その対応を行うことによって離職が防止できたことも多くあります。最近は、入社2,3年目で退職した社員がいたのですが、離職時に話を聞いたら『友伸に入って良かったことはたくさんあった』と言ってくれて安心しました。本人が次の段階を目指して転職していくのであれば、それを止めることはないと思います。その点では、これまでの“離職防止”から、当社の風土にあった人に残ってもらいたいという“人材定着”に主眼が変わってきていることを実感しています。」
【ポイント】
- ①早期対応を行う重要性を社員皆が感じるようになったことで、産業医や外部カウンセラーとの早めの相談ができており、メンタルヘルス不調者の早期回復につながっている。
- ②若手社員と総務部員との定期的な面談を通じて、若手社員の声を大切にし、課題があれば解決策を一緒に考え支援していく。
【取材協力】株式会社友伸エンジニアリング
(2024年2月掲載)
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