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三井不動産株式会社(東京都中央区)

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三井不動産株式会社
(東京都中央区)

【写真】池田さん、中尾さん、櫻井さん、河本さん、柴崎さん 三井不動産株式会社は1941年(昭和16年)設立。オフィスビル、商業施設、ホテル・リゾート、ロジスティクス、住宅など、幅広いソリューションとサービスの提供を行っている。
従業員数は、1,973名(2023年3月現在)。
今回は、人事部 部長補佐の河本信利さん、柴﨑翔平さん、池田集和さん、健康管理センター産業医の櫻井靖久さん、保健師の中尾素子さんからお話を伺った。

人事部と健康管理センターは独立の組織として、情報を厳密に分けて管理しながらも、必要な連携は密に行うというメリハリある体制が構築されている

まず、職場のメンタルヘルス対策のための体制についてお話を伺った。

河本さん・柴﨑さん・池田さん
「人事部の中に健康管理センターを設置しています。健康管理センターには、産業医の櫻井先生と保健師の中尾さん、事務サポートのメンバー2名が常時いるほか、精神科産業医が月2回、公認心理師が週1回きています。」

河本さん・柴﨑さん・池田さん
「私(河本さん)は健康担当チームのチームリーダーという立場で、健康管理センターと極めて近い立場で連携を常にとっています。例えば、健康管理センターが社員に発信する内容はすべて私にも共有されていますし、長時間労働者への面談に声かけした従業員から反応がない場合には、私たちから声をかけるなど、様々なバックアップをしています。」

櫻井さん・中尾さん
「健康管理センターだけが、従業員の健康管理を孤立して頑張るのではなく、会社の施策として人事部が発信し、推進していただいているので、心強いです。」

河本さん・柴﨑さん・池田さん
「もちろん私たち人事部を経由せず、直接健康管理センターに相談する人もいますので、そうした人たちの個人情報は、健康管理センター内で守られています。健康管理センターは人事部の中に設置はされていますが、独立していて、すべての情報のやりとりをしているわけではありません。守秘義務に配慮した上で、必要な連携は様々な形で行っています。長時間労働者の面談結果を毎週1回フィードバックしているほか、定例会議を月1回実施しています。また、社内チャットツールでのやりとりも日々行っています。情報は適切に管理しながらも密な連携を行える体制を構築しています。」

メンタルヘルス不調による休業から職場復帰までの支援として、リハビリ出社や1年間の定期的な面談など丁寧なフォローを実施しており、再休業率はほぼ0となっている

次に、職場のメンタルヘルス対策の具体的な取組みについて、櫻井さん、中尾さんを中心にお話を伺った。

「まず、新しく入社される方全員に対してメンタルヘルス研修を行っています。新卒入社の方はもちろん、キャリア入社の方が毎月いますので、その方たちに対しても半年に1回のペースで研修を実施して、全員に受講してもらっています。研修は、私(中尾さん)と公認心理師とで1時間程度実施しています。また、管理監督者に対しては年2回ラインケア研修を実施しています。」

「さらに、新卒入社の社員に対しては、入社から半年経つタイミングで私(中尾さん)が全員と面談をして、そのあと櫻井先生にも健康診断の結果を伝える時に併せて面談してもらっています。」

「ストレスチェックの高ストレス者に対しては、一人ひとりに産業医面談の案内を出しています。2023年の高ストレス者は全体の6.8%でしたが、そのうち医師による面接指導を希望した方の割合は、12.2%でした。以前は精神科産業医の先生が普段勤務している病院へ、面接指導を受けに行ってもらう形にしていたのですが、そこまで行くのが難しいという声もあり、申し込みが少ない状況でした。そこで、3年前から社内で櫻井先生による面接指導を受けられる体制に変更しました。それからは、医師による面接指導を希望する方の割合は年々増えてきています。」

「ストレスチェックの集団分析結果は、業務改善や人事配置などの参考にしています。全体的に結果が良いことと、4、5年に一度はジョブローテーションがある会社ですので、従業員参加型の部署ごとの職場環境改善などは、特に実施していません。直近では、ストレスチェック・健康診断・労働時間等の結果をクロス分析し、エンゲージメント向上施策の推進に活かしています。」

「メンタルヘルス不調による休職者率は1%未満で推移しています。0人にはならないのですが、早めに相談に来てもらえているので休業期間は比較的短く、3か月~7、8か月程度で職場復帰される方が多くなっています。また、職場復帰支援を健康管理センターで丁寧に実施しており、リハビリ出社を経て安心して職場復帰できる体制を作っていますし、復帰後1年間は精神科産業医と公認心理師による定期的な面談を行い、フォローしています。こうした取組みのおかげで、最近では、再休業率は、ほぼ0となっています。」

「また、少し前から公認心理師によるキャリアカウンセリングも始めました。キャリアカウンセリングでは、自分のキャリアや職務課題だけではなく、自分の家族のことなどプライベートなことも含めた相談が気軽にできるといったことを案内しています。その上で、休業の必要などが生じた場合には、本人の了承を得て健康管理センターに情報連携してもらうという形にしています。」

年に1回人事部による全員面談を実施し、その中から把握された働きづらさなどを改善するための施策をスピード感をもって検討・実行していることが、社員の話しやすさや安心して働ける環境につながっている

最後に、人事部による全員面談について、河本さん、柴﨑さん、池田さんを中心にお話を伺った。

「早い段階から社員とコミュニケーションをとることを大事にしており、その一環として人事部による全員面談を年1回行っています。対象は全社員で、15名程度の人事担当者が、1か月強かけて実施しています。海外にいる社員と面談するために海外にも行きます。この“人事面談”の施策は30年以上継続して実施しています。」

「面談では、仕事や自分のキャリアといった内容の他、家族のこと、自分や家族の健康、個人的な悩みや要望など様々な話が出ます。当社はジョブローテーションが多く、今の人事部にいる者も別様々な部署でたくさんの社員と一緒に働いてきた経緯がありますので、話しやすい面はあるのではないかと思っています。他方で、情報管理は極めて厳密にやっており、本人が希望される場合を除いて上長などへの報告ももちろんしません。そうした点も、安心して話してもらえる要因になっているのではないかと思います。」

「健康管理センターに面談にくる方も、年1回の“人事面談”の際に、話のさわりはしているという方がほとんどです。それだけ社員と人事部との信頼関係があるのだなと思います。人事部に内緒にしてほしいという方は少ないので、就業上の配慮が必要な場合なども社内の調整がスムーズに進みます。」

「“人事面談”の中から、働きにくさや職場での不具合などがありそうであれば、より働きやすい環境にしようと人事部全体で取り組むことにしています。たとえば、海外勤務をしている方の働きぶりや社員の健康状況を実際に現地に行って見るのですが、実際に行ってみると、この国に駐在することは心身ともに負担が大きいということがわかったので、駐在員の手当てを厚くしたことがあります。オンライン面談ではそこまでは気づくことができないですし、単に駐在員から手当てを少し上げてほしいと言われても、東京にいるだけでは様子がわからないので判断が難しかったと思います。」

「また、中途入社の方や新入社員の方が、新しいコミュニティになじめなくて悩んでいるといった声が特にコロナ禍に多かったので、横のつながりや斜めのつながりを作るような仕組みを作ろうと考えて、メンター制度を作りました。中途入社後1年ほどは、仕事では全くかかわらない部署の人で年齢の近い先輩たちをメンターとして決めて、社内の人脈を一緒に作ってもらっています。あえて全くかかわらない部署の人とすることで、普段の仕事ではかかわらない部分を知る機会になったりしています。」

「“人事面談”では不平不満の声も受けるのですが、その中に会社の本質的な課題につながるものもたくさん含まれているので、“人事面談”が終わってから、何か制度化できないかといった議論はよくしています。『何か言ったら、人事部がちゃんと動いてくれる』といったことは、働く上での安心感につながっているのではないかと自負しています。」

「また、“人事面談”を通じて、雰囲気の良い部署は何がうまくいっているのかといった成功事例探しもしています。たとえば、ストレスチェックの集団分析の結果で同僚のサポートが良い結果だった部署の人からの話を聞いて、『この人がいるから』とわかることもあれば、ちょっとした何気ない会話の時間を必ず作っている、といった施策の工夫に気づくこともあります。そうした成功事例はその後の横展開につなげています。」

「そして、“人事面談”の中で、黄色信号や赤信号だと感じたらすぐにエスカレーションするようにしています。その判断基準が、人事部内で明確にあるわけではありませんが、社員の表情を見て違和感があるなど、面談を行った者それぞれの感覚で感じ取ったものを大事にしています。残業時間が何時間以上だから産業医面談を実施するといった定量的なものは健康管理センターの方でみているので、人事部では定性的なところをみているという役割分担ができていると思います。」

「当社はジョブローテーションが多い分、いろいろな人と接する機会が多く、横のつながりが多い職場だと思います。おせっかいを焼いたりするような人間関係が作りやすい会社で、それが当社の社風になっていると思います。それらがメンタルヘルス対策においても、Face to Faceでコミュニケーションをとり、連携を進めていくという良い体制につながっているのではないかと思います。(【図1】参照)」


【図1】企業価値向上につながる健康経営

【ポイント】

  • ①人事部と健康管理センターは独立の組織として、情報を厳密に分けて管理しながらも、必要な連携は密に行うというメリハリある体制が構築されている。
  • ②メンタルヘルス不調による休業から職場復帰までの支援として、リハビリ出社や1年間の定期的な面談など丁寧なフォローを実施しており、再休業率はほぼ0となっている。
  • ③年に1回人事部による全員面談を実施し、その中から把握された働きづらさなどを改善するための施策をスピード感をもって検討・実行していることが、社員の話しやすさや安心して働ける環境につながっている。

【取材協力】三井不動産株式会社
(2023年12月掲載)