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株式会社プロデュース
(福岡県北九州市)
園川さん、中原さん、永住さん 株式会社プロデュースは2000年(平成12年)設立。2004年(平成16年)8月に「グループホームきらめき」を開設後、主に高齢者向け介護支援施設運営事業を行っている。グループホーム、小規模多機能ホーム、デイサービス、ケアプランセンターなど、現在7つの施設がある。
従業員数はグループ全体で105名(2023年10月現在)。それぞれの施設に10~30名在籍している。
今回は、代表取締役の中原亜希子さん、経営管理室室長の永住賢二さん、「お里の家きらめき本条」管理者の園川輝美さんからお話を伺った。
資格を保有する職員がすべき業務とそうでない業務を切り分け、マニュアル化やチェックリスト化することで、“超時短労働者”を含め多くの職員で業務を分担することができ、個々人のワークライフバランス向上につながっている
まず、高い離職率と人手不足を改善するための取組みについて伺った。
「介護業界は、肉体的にも精神的にも大変だというイメージがあり、求職者から敬遠されがちです。当社でも年々応募が減り、人手不足に悩んでいました。また、介護資格を保有する職員が、専門的な介護業務だけでなく、掃除や洗濯といった介護資格がなくてもできる業務も“利用者のために全て自分ですべきもの”という思いで自ら行っていたため、職員の業務負担も大きくなっていました。さらに、メンタルヘルス不調などを抱えながら働いていた職員が急に欠勤するといったこともあり、周囲の職員への負担が増えていました。こうした状況から退職者が増加し、2017年の離職率は30%以上となり、事業所の業績も低迷していました。」
「こうした状況を変えるために、当社の経営目標を『定年を71歳とし多種多様な働き方を受け入れることで雇用問題を解決する』と定めました。月に2回だけの出社や1日1時間だけといった働き方を“超時短労働者”として定め、一定業務のみの勤務者、高齢者、健康問題を抱えている方など、あらゆる人材を職員として戦略的に活用することを目指しました。役職者(各施設の室長、リーダー、サブリーダー)からも、『施設利用者の視点に立つことは大事だが、介護資格を持った人が全ての業務を行う必要が本当にあるのか』といった意見があり、こうした視点も踏まえて職場改善を進めていくことにしました。」
「具体的には、製造業の“カイゼン思想”を導入し、業務を細分化した上でマニュアル化やチェックリスト化を徹底的に行い、“仕組み化”しました。特に、介護資格を保有する職員がすべき業務とそうでない業務を切り分け、そうでない業務(掃除や洗濯、料理など)については、新たに求人を募集することにしました。近隣に住んでいて短時間なら働ける女性や高齢者などを“超時短労働者”として雇用し、介護業界で働くことが初めてでも初日からすぐに戦力として働いてもらえるよう“仕組み化”することを考えました。例えば、利用者別の個別の施設への送迎に関しては、 “送迎手順書”を作成し、業務内容と優先順位を明確にしました。これまでは、日々の職員の気づきとやり方に頼っていましたが、それらを文章化してまとめ、誰でも対応できるようにしました。また、これまでは利用者別の個別サービスの対応も全体で共有することが難しかったのですが、“入浴手順書”など内容を文章化することで実現することができました。(【図1】参照)」
【図1】送迎手順書(例)、入浴手順書(例)
「さらに、職員からの職場改善の提案を受けて、文房具などの備品の位置を決め、ラベルを貼って何がどこにあるかわかるようにしました。これによって、初日からでも働きやすい環境ができました。また、物を運ぶ際に使用できる大きめのワゴン(スーパーワゴン)を用意しました。それまでは職員がそれぞれ個別に運んでいましたが、スーパーワゴンを使うようにしたことで労働効率が1.5倍以上になりました。スタッフの視野も広がりましたし、高齢労働者にとっても、身体の負担なく、楽に運ぶことができるようになりました。(【図2】参照)」
【図2】備品の整理整頓・ラベル貼り、スーパーワゴン
「こうした職場環境改善を通じて、少しの時間だけシフトに入る“超時短労働者”の雇用を実現することができました。その結果、例えば、これまで1日8時間働いていた職員が育児等で短時間勤務になったとしても、“超時短労働者”であるスタッフがフォローするといったことも可能になりました。当社の役職者の約8割は女性となっており、女性にとって働きやすい職場であることがこうした数字にも表れていると思います。世代を超えて助け合う社風ができてきていると思います。」
【図3】短時間勤務を皆でフォロー
「時間外労働時間は、多い職員でも月に10時間程度です。休暇取得も促進しており、ワークライフバランスの実現につながっていると思います。介護施設では24時間365日の稼働が必要なため、シフト制でまわしていますが、急にシフトに入れなくなった場合でも、社内SNSを通じてスタッフ間でのシフト交代が自然と行われています。他の施設の平均的な人員体制よりも1割多く職員を雇っていますので、全体的なゆとりにもつながっています。」
「これらの取組みの結果、2018年の離職率は約8%まで減少しました。また、人手不足も解消し、それまで離職者の穴埋めとして派遣労働者を利用していた分の人件費年1000万円を0円にすることができました。職員が定着するようになったことで求人にかかる費用も大幅に減らすことができ、その分を他の事業の充実のために使うことができています。」
人材育成とコミュニケーション活性化に力を入れることで、職員自ら自発的な動きをするようになり、困った際の相談や支援が自然とできるようになる。
次に、社内のコミュニケーション促進の取組みと今後のビジョンについてお話を伺った。
「以前は私(中原さん)がトップダウンで決めて、一緒に動いていくという仕事の進め方をしていました。ですが、そのやり方では私一人への負担が非常に大きくなり限界を感じていました。そこで、私が自ら職員の声を聴き、職員が働きやすい環境をつくることに力を入れてみたところ、その方が成果が出ることに気づきました。役職者にもそうした関わりができるようになってもらうことが大事だと考え、まず、約30人の役職者への人材育成とコミュニケーション活性化に力を入れることにしました。」
「その取組みの一つが、外部講師による研修です。話の伝え方や周囲との人間関係、そして、自分とのコミュニケーションといった内容を、実習を通じて学びます。また、何のために働くのか、という自分の中での“働く目的”を考えることを通じて、今後どう生きていきたいかということを考え、今の気持ちの整理にもつなげています。その後、職員同士でOJTによる実習をしています。できているところを相手にフィードバックすることで、相手は自分が変わってきたことに気づくことができますし、そのことを見ていた周囲の人も変わっていきます。職員には『周囲の人にいい影響を与える人間になってほしい』と思っていて、それが日々の関わりから伝わるように意識しています。研修とOJTを通じて、“知る→分かる→できる”と、学びから現場での実践につなげることをこころがけています。」
「研修予定は、年初の段階で年間スケジュールを組んで決定しています。参加メンバーは、入社からの年数や年代を踏まえて決めています。職員には社内外の研修に積極的に参加することを促しており、会社としても教育研修費用を確保して職員に投資しています。年間延べ3500~4000時間を研修などを含む会議時間に使い、職員間の問題意識の共有を行っています。私(中原さん)から役職者に権限をわたして、各施設で自主的な運営ができるようにしたことで、職員の自発的な動きにつながってきていると実感しています。」
「2020年以降コロナ禍で集合研修が難しくなった時期には、各施設をweb会議システムでつないで研修やOJTをしました。この仕組みができたことで、何か困ったことがあった際にはweb会議システムをつないで、他の施設の役職者がアドバイスやフォローをするといったことが自然とできるようになりました。フォローできる者を明示して、いつでもどこでも相談できる体制にしています。」
「コロナ禍以降、社内SNSツールも積極的に使用しています。職員全員や施設ごと、役職ごとのグループなどを作っていて、業務上の相談などちょっとしたことは社内SNSツールのチャットでやりとりしています。チャットではなく顔を合わせて話をする必要性を感じた時は、先述のweb会議システムをつないで話すようにしています。」
「また、社内SNSツールを活用して、毎朝テーマに基づくメッセージを職員が発信するという取組みもしています。例えば、『名言から学ぼう』というテーマの場合、職員一人ひとりがその名言を自分なりに捉え表現することで、思考の質が上がることにつながっていると思います(【図4】参照)。発信は役職者からまずするようにしています。他にも、ある事業所では、その日良かった3つのことを報告しあう“スリーグッド”発信を毎日行っています。役職者が率先して報告することで、他の職員の発信も自然と続くという流れが生まれています。特に、新入職員が発信したときは同僚が一言声をかけるようにしているので、承認の場にもなっています。1日の終わりを、イヤな気持ちではなく少しでもポジティブな気持ちにできるように、取り組んでいます。」
【図4】社内SNSツールでのメッセージ発信
「こうした取組みを継続している中で、職員の健康に対する重要性をますます感じるようになり、取組みをさらに充実させるために健康経営優良法人認定を目指すことに決めました。幹部ミーティングの場で幹部と話し合って具体的な目標を決め、“健康経営宣言”を定めました。2020年から本格的に取組みをはじめ、2021年と2022年には“健康経営優良法人(中小規模法人部門)”の認定、2023年には“健康経営優良法人(中小規模法人部門)ブライト500”の認定を受けました。職員のあらゆる不安を解消し、目の前の介護業務に集中できるようにすることがサービス品質を高めるとの考えに基づき、今後も健康経営への積極的な取り組みを継続・発展させ、社員がいきいきと働ける環境の実現を目指していきます。」
「私たちのビジョンは、『ゼロ歳から100歳までが一つ屋根の下で、互いに役割(子供も高齢者も)を持つ会社』であることです。会社の業務を誰でもできるよう“仕組み化”し、多様な人を受け入れ、皆で働く。一人ひとり、皆が持っている力や強みに気づき、お互いを高め合う場にしていきたいです。このような自律した多様な個人とつながる有機的な組織の醸成が、ダイバーシティ&インクルージョン(D&I)な働き方を実現すると考えていますし、それを具現化した“ハーモニーハウス”をつくっていきたいと考えています。」
【ポイント】
- ①資格を保有する職員がすべき業務とそうでない業務を切り分け、マニュアル化やチェックリスト化することで、“超時短労働者”を含め多くの職員で業務を分担することができ、個々人のワークライフバランス向上につながっている。
- ②人材育成とコミュニケーション活性化に力を入れることで、職員自ら自発的な動きをするようになり、困った際の相談や支援が自然とできるようになる。
【取材協力】株式会社プロデュース
(2023年11月掲載)
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