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株式会社中央コーポレーション(岩手県花巻市)

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株式会社中央コーポレーション
(岩手県花巻市)

【写真】 佐々木さん、菅原さん 株式会社中央コーポレーションは1951年(昭和26年)設立。橋梁や水門、陸閘(りっこう)などの社会インフラの設計、製造、据付、メンテナンスなどを行っている。
社員数は140名(2023年7月現在)。
今回は、代表取締役社長の佐々木史昭さんと取締役総務部長の菅原克彦さんからお話を伺った。

自社が健康経営に取り組むメリットと負担について社長自らが情報収集し、社内の理解を得る

まず、メンタルヘルス対策を含む健康経営の取組みを始めたきっかけと、具体的な取組みについてお話を伺った。

令和5年度安全ポスター 「最初のきっかけは社員の喫煙率の高さでした。特に若い人の喫煙率が、社会全体としては低下しているのに対し、当社は高いということが気になっていました。ただ、ルール化して禁煙を押し付けるというのも難しいですし、健康の大切さに自分で気づいて自分で決心しないと変わることはできないと思っていました。取り組むきっかけがないかと思っていたところ、所属する“花巻商工会議所”が健康経営優良法人の認定を受けていることを知り、健康経営優良法人を目指すことが一つのきっかけになるかもしれないと思いました。」

「ただ、健康経営優良法人の認定を受けるのは簡単なことではありません。普段から忙しく仕事をしている社員に新しいことをしてもらうことになるわけですから、納得してもらえるだけの情報収集を私(佐々木さん)自身がする必要があると考えました。そこで、どのようなメリットがあり、どの程度の負担があるのかといったことについて、健康経営に詳しい方に話を聞いたり、すでに健康経営優良法人の認定を受けている周囲の会社に話を聞いたりしました。その中で様々なアドバイスをもらうことができ、挑戦してみることにしました。2020年から本格的に取組みをはじめ、2021年と2022年に“健康経営優良法人(中小規模法人部門)”の認定、さらに、2023年には、“健康経営優良法人(中小規模法人部門)ブライト500”の認定を受けました。」

「健康経営の取組みの一つとして、スマートフォンアプリによる“歩数チャレンジ”を実施しています。もともとは、歩数だけでなく、禁煙や睡眠、栄養、エクササイズの5つの項目でのチャレンジを実施していたのですが、社員の中では、歩数が一番定着したので、今は歩数チャレンジだけ継続しています。」

「歩数チャレンジでは、5人で1グループを作って、日々活動し、その内容を5人で毎日共有し合います。また、毎週、総務部にて歩数を集計して順位をつけ、社内全体で共有しています。経営者を含む全社員で実施し、28チームに分かれています。“〇〇チームが歩数を稼いでいるな”や“自分のチームの順位が上がってきたな”などがアプリ上で分かるので、それを見ながら昼休みに歩き始める人もいます。私(佐々木さん)も毎日1万歩を目指し、家に帰ってから走るなどしています。体調はもともと悪い方ではないのですが、歩数チャレンジを始めてからもっと良くなったと感じています。」

「チーム構成は半年に一回変えています。同じ部署の人とはなるべく別々になるようにしたり、年齢や性別が偏らないようにしたり、以前一緒になった人とは一緒にならないようにしたり、チーム編成も工夫しています。職場では違う部署なのですが、このチャレンジで同じチームになった2人が結婚したケースもありました。違う部署でも名前くらいはわかると思いますが、同じチームになって毎日報告するといったコミュニケーションをとることで、関係がつくりやすくなるのではないかと思います。」

残業時間の削減のための工夫や、誕生日ミーティング、1on1ミーティングといったコミュニケーションの機会を増やすことなどを通じてメンタルヘルス不調の予防につなげている

次に、職場におけるメンタルヘルス対策の取組みについてお話を伺った。

「健康経営に取り組み始める前から継続して、“誕生日ミーティング”という取組みを行っています。140名いる社員一人ひとりの誕生日に、社長室まで来てもらって、私(佐々木さん)と担当役員や総務部長など2名で商品券をお渡しして、コーヒーを飲みながら30分くらい話す時間を作っています。誕生日はある種特別な日ですから、その日に社長から“おめでとう、最近頑張っているね”と声をかけられると悪い気はしないですよね。それで少し気持ちがホッとするのか、“実はこんなことがあるんですよ”みたいな話が出てくることがあります。上司より私(佐々木さん)の方が大事なことを知っていることもあったりします。」

「ただ、それでもメンタルヘルス不調になってお休みする社員が4~5人同時にいたことがありました。当社では製造業と工事業を行っていますが、特に、立会検査や書類対応のある部署は忙しく、残業時間の上限規制を始める前は、残業してまでも期日に間に合わせるという考え方でやっていたので、精神的に負担が大きかったのだと思います。」

「そこで、まず残業時間を減らす取組みをしました。残業時間の割増賃金を払うと、会社としては、原価に見合わなくなってしまうという視点も含めて各部署の上司と意思共有をし、とにかく残業以外の方法で仕事をまわすことを考える方向に転換を促しました。その実行のために、各部署で“マネジメントプログラム”という中期的な行動計画を立て、残業時間が上限を超えない仕事のやり方を計画的に取り組みました。たとえば、仕事が特定の人に偏っている場合は他の人に振るようにしたりしています。また、勤怠管理システムを導入して日々の残業時間を把握できるようにしました。上司が部下の残業状況を常に把握できるようになりましたし、総務部も定期的に確認をして部署に働きかけることもしています。こうした取組みの結果、残業時間はかなり減りました。また、退職者も減り、社員の増員につながりました。」

「さらに、“1on1ミーティング”を始めました。誕生日ミーティングを長年やってきて、対話することに効果があるという感触をもっていました。1on1ミーティングでは、3か月に1回、上司と本人との1対1で30分程度面談しています。」

「1on1ミーティングを始めるに当たっては、まず、この社員のミーティングをする相手はこの上司という基本体制を決めました。仕事の流れを踏まえつつ、部署によっては1人の部長や課長に対して部下が大勢いることもありますので、同じ人が何時間も面談しないで済むように、分担して実施する形でバランスをとりました。また、このミーティングのやり方については、様々なところから情報収集してきて、大事なポイントを私(佐々木さん)がまとめた上で説明しました。上司が自分の話をすることがメインではないということ、雑談を交えるなど部下が話をできやすいように配慮すること、などを伝え、上司自らさらに勉強できるよう資料を渡しました。そして、上司たちにとっても1on1ミーティングをやることが初めてでしたので、まず私が役員に対して実施し、その体験を踏まえてその役員が管理職に実施し、その管理職が部下に実施する、という形で降ろしていきながら始めました。実際に、まず部下として自分が体験することで、こういう風にすればいいのかと最初の雰囲気がわかったり、もっとこうした方が話しやすいということに気付いたりできたのではないかと思います。」

「1on1ミーティングを通して、上司が部下の状況を以前より把握できるようになり、仕事量を調整するとか、必要に応じて異動させるといった対処ができるようになりました。また、このミーティング後に上司から、私におおまかな報告があるので、社員の状況をおおよそ把握することができています。」

「一方で、少し気になる社員がいたら、1on1ミーティングを担当する上司の組み合わせを変えてみたりすることもあります。このミーティングが機能していたらいつも同じ上司でもいろいろな話ができると思うのですが、この上司に話してもしょうがないと思ってしまっていたら何回話しても仕方ないと思うので、その場合はさらに上の上司や横の部署の上司と1on1ミーティングができるようアレンジしたりしています。そうしたことは仕組みにまではなっていなくても、社員140人くらいですと、それぞれの人となりは把握していますので、私(佐々木さん)が毎朝工場をまわって一人ひとりの顔を見て気になる人がいたり、仕事がうまく流れていなさそうに見えたり、そもそも明らかに大変な工事現場だったりしたときなどに、試しにやってみている感じです。本当は仕組みにできたらいいのかもしれないのですが、やはり顔を見てその場ですぐにちょっと話をしたり、会議での様子を見たりといったところから感じ取ることが大事なのだと思います。それは社長が直接行うだけではなく、部長や課長も部下の状況を、日々感じ取り、何かあれば自分の上司と話してみる。そして、その上司がさらに上の上司に相談する、といったことができていることが大事なのではないかと思います。」

令和5年度安全大会 「職場のコミュニケーション活性化といっても、結局は人間同士いかにうまく話をするかといったことなので、それぞれの部署の責任者が感じたようにやってもらうしかないのではないかと思っています。もちろん人によって感じ方が鈍かったり強すぎたりするので、難しさはあります。うまくいっている部署では、課長が部下のことを普段からよく見ているし、声もかけるし、だからその部署の情報も吸い上げることができています。当社では社員に対して、業務に関連する資格試験に多くチャレンジしてもらっていますが、うまくいっている部署では合格率が高いという傾向も出ています。社員一人ひとりのモチベーションを管理職が挙げている成果ではないかと分析しています。そのような管理職を会社としてどのようにして増やしていくのかというところまでは、まだ取り組めていないのですが、誕生日ミーティングや1on1ミーティングを継続していることで、社員同士つながりを感じながら仕事ができるように少しずつなってきているのではないかと思います。」

「メンタルヘルスに関する指標としては、”メンタルヘルス欠勤率”などを総務部でモニタリングしています。メンタルヘルス欠勤率とは、予定されている勤務日数に対してメンタルヘルス不調が原因で欠勤した割合のことで、1か月ごとに算出しています。0.9%以下を目標にしていて、140人のうち1人以下だと0.9%以下を達成することができます。昨年(2022年)から今年(2023年)にかけてはずっと目標を達成した状態で推移しているので、取組みの効果が出ているのではと考えています。」

「メンタルヘルス不調に陥ってしまうと、実際に仕事ができない状態になりますし、そのような部署では仕事が進まないということが現実に起こっています。このようなことをなんとかするためには、やはり社員全員が心身ともに健康になってもらうことが、一番コストもかからず良い方法だと思っています。それをどのように当社で実現していくかを、今後も考えていきます。」

【ポイント】

  • ①自社が健康経営に取り組むメリットと負担について社長自らが情報収集し、社内の理解を得る。
  • ②残業時間の削減のための工夫や、誕生日ミーティング、1on1ミーティングといったコミュニケーションの機会を増やすことなどを通じてメンタルヘルス不調の予防につなげている。

【取材協力】株式会社中央コーポレーション
(2023年10月掲載)