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長崎南部森林組合(長崎県大村市)

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長崎南部森林組合
(長崎県大村市)

【写真】田中さん 森林組合は「森林組合法」に基づいて設立され、森林所有者が組合員となり、協同して林業の発展を目指す協同組合である。長崎南部森林組合は、2002年(平成14年)に、長崎、諫早北高、大村、西彼杵郡の4森林組合が合併し発足した。森林の植栽・保育・間伐・主伐や、ヒノキを中心とした販売・加工などの製材業を主に行っている。
職員数は、89名(2023年8月現在)。現場作業を行う森林・加工技術員が68名、事務職が21名である。事業場は、本所と4つの支所、製材所と6つに分かれている。
今回は、代表理事組合長の田中一樹さんからお話を伺った。

経営者自ら職場の状態を感じとり、ハラスメント対策や処遇の改善などを率先して行ったことによって、風通しがよくモチベーションの高い職場づくりにつながる

風通しのよい職場を作るために行った職場環境改善の取組みについてお話を伺った。

「私は2016年(平成28年)に組合長となりました。それ以前は長崎県庁の職員として働いていました。この組合に来て最初に取りかかったのが、ハラスメント対策と処遇の改善です。そのとき、職場の雰囲気がギスギスしているように感じることが気になっていたため、職員へのヒアリングを行いました。すると、ハラスメントと処遇面に課題があることが分かったため、早速それらの解決に向けて動き始めました。」

「ハラスメント対策については、前職での経験を踏まえて、まず規程をつくる必要があると考えました。未然に防止し発生した場合には迅速に解決を図るため、“ハラスメント防止規程”と“ハラスメントのない快適な職場にするために”の文書を作り、支所長・課長会議でまとめました。完成した規程は、私(田中さん)が事業場を回り全職員に周知徹底を図りました。職員が様々な考え方や意見を話すことができる風通しのよい職場を作るためには、スピード感をもって行うことと、経緯をオープンにすることが大事だと思っていますので、それらを意識して進めました。内部・外部の相談窓口も設けています。」

製材 「職員の待遇の改善については、長年赤字が続いていたため、なんでも費用カットの方向になっており、職員の給与は据え置き、ボーナスは半分にカットされていました。このため、まずは当組合の財務状況や事業状況などの現状について、様々な角度から検討しました。その上で、職員に対しては、『今後、組合が赤字になったとしても、皆の年収を下げんよ(下げはしないよ)』と表明しました。その後、住居手当の付与を復活したり、ボーナスを以前の水準に戻したり、退職金の規定を見直して金額を3倍に増やしたり、数種類の資格に手当を付与したりと様々な改善を行いました。収入面が安定することは職員の安心につながりますし、仕事に対するモチベーションも上がります。様々な分野の資格を有する職員も増え、行政などの入札案件も多く受注できるようになりました。ここ10年間連続で当期黒字を維持しています。」

「風通しのいい職場を継続するため、事務職に対しては私(田中さん)が個人面談を年に2回30分ほど行っています。業務で行き詰っていることはないかといった仕事上の話から、体調や病気面に関する話まで幅広く話を聴いています。森林技術員に対しては現場の上司にあたる支所長が日頃から話を聴くようにしています。支所長が対応に困った場合は私(田中さん)に相談してもらうようにして、対応を引き継ぐといった流れにしています。こうした対応を行ってきたことによって、現場の雰囲気は良くなっていると思います。」

「最近は地元の高校生へのインターンシップにも力を入れており、林業で使う様々な重機や機械操作を体験してみて、その機械への興味から入ってくる新卒者も増えています。若手職員には日頃から支所長が自分から声かけするように伝えています。私が組合長になってからの約8年間での退職者は、夏場の作業があわなくて辞めた新卒者が2人いましたが、多くは今も現場で働いています。」


森林の間伐・主伐

メンタルヘルス面を含む健康をテーマに、外部講師によるセミナーを定期的に行ったり、経営者自ら全体会議で話題にしたりすることで、従業員の健康意識の向上につながる

健康経営への取組みをはじめたきっかけと、具体的な取組内容、今後に向けた想いなどについてお話を伺った。

「長期的な視点に立って考えると、従業員の労働災害を防止すること、つまり安全面の対策を講じることと、従業員が健康で長く勤められるようにすること、つまり健康面の対策を講じることは、なによりも大切だと考えています。安全面については、これまでも安全講習会や安全教育の受講、高性能林業機械の配置を増やすなどの対策を行ってきましたので、労災件数は減少してきています。健康面については、毎年職員全員が健康診断を受診していますが、有所見などの問題がある職員が、事務職で約7割、森林技術員で約4割と高い傾向にありました。何かしら対策が必要だと考え、外部機関が開催する“健康経営セミナー”へ参加しました。そこで、健康経営の必要性を学び、職員の健康を促進するために本格的に健康経営に取り組むことを決めました。そして、2019年度(令和元年度)に長崎県の健康経営推進企業の認定を受けました。」

健康経営セミナー 「具体的な取組みとして、たとえば毎年1月に行う各支所の安全講習会では、メンタルヘルス面を含む健康増進をテーマとした講演を外部講師に依頼して実施しています。また、健康診断の有所見者や特定保健指導対象者には、協会けんぽに依頼して保健師による保健指導を行っています。」

「また、病気と仕事の両立支援を行う制度を新たに策定しました。最近では3名の職員ががん治療のため入院や通院をしていましたが、病気休暇、休職期間(最長2年)を経て職場復帰することができました。策定した両立支援制度にもとづいて、軽い業務からはじめたり、勤務時間・作業内容などを配慮したり、定期的な面談を行ったりしています。がんなどの病気になっても仕事に戻ってこられるということを、日々伝えています。」

「メンタルヘルス面においては、 “職業性ストレス簡易調査票(57項目版)”を利用したストレスに関する調査を毎年実施しています。職場全体では、『職場の雰囲気は友好的である』、『働きがいのある仕事だ』、『仕事に満足だ』などの項目で“そうだ”と“まあそうだ”を合わせると8割を超えており、近年高い傾向を維持しています。上司や同僚からのサポートに関する項目も高いです。困った時にお互いに頼れる組織づくりを目指していますので、それがストレスに関する調査の結果にも表れているのではないかと考えています。こうした職場全体傾向は、安全講習会時に職員に対して説明しています。また、外部相談窓口として“地域産業保健センター(地さんぽ)”の案内も配布しており、必要に応じて利用するよう促しています。」

これだけ体操 「運動面に関しては、事務所ではラジオ体操や、佐賀県の安全大会で産業保健総合支援センターから案内された“これだけ体操”などの簡単な体操を行っています。森林現場では始業時のミーティングの時間に必ずストレッチを行っています。そのほかにも、身体を動かす機会を多くつくるため、昼休みに広場でバドミントンを行ったり、会議室で簡易の卓球を行ったりしています。」

「健康経営の取組みを始めて以降は、安全講習会や全体会議などことあるごとに、健康促進について話題として挙げてきましたので、職員の中でも健康への意識が高まりつつあると感じています。健康経営を実践するメリットとして、大きく3つ感じています。1つ目は、従業員のモチベーションの向上です。良好なコミュニケーションがとれるようになることで、職場が明るくなり、職員のやる気が向上すると思います。2つ目は、欠勤率や長期休業者の低下による労働生産性の向上とコストの削減です。3つ目は、企業のイメージアップです。職員の健康や働き方に配慮していることが対外的にも伝わり、採用にも有利に働いていると感じています。こうしたメリットは、従来実施してきた労災防止のための安全管理のメリットともつながっていると考えています。経営者は、積極的に職員の安全と健康に取り組まなければならないと思います。」

森林の植栽、保育 「森林の有する公益的機能は様々あります。地球温暖化防止のみならず、国土の保全や水源の確保、そして、しっかりと地中深く広く根をはる樹を植栽・保育することで、地盤が安定し、自然災害の防止にもつながっています。適切な森林の整備等を進めていくため、国は2014年(令和6年)から“森林環境税” を徴収し、この税を“森林環境譲与税”として県及び市町村に配分されます。(現在は前倒して配分・活用済)、これによって森林整備の事業量はさらに増大していくことが見込まれています。そのため、職員の増員・確保が必要だと考えています。毎年新卒者を含む若年者の採用を続けていますが、40歳以上のベテラン職員とともに長く勤めてもらうために、快適な職場環境をつくり、安全と健康に配慮し、健全な経営を維持していきたいと考えています。」

【ポイント】

  • ①経営者自ら職場の状態を感じとり、ハラスメント対策や処遇の改善などを率先して行うことで、風通しがよくモチベーションの高い職場づくりにつながる。
  • ②メンタルヘルス面を含む健康をテーマに、外部講師によるセミナーを定期的に行ったり、経営者自ら全体会議で話題にしたりすることで、従業員の健康意識の向上につながる。

【取材協力】長崎南部森林組合
(2023年9月掲載)