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株式会社中村工務店
(長崎県長崎市)
中村さん 株式会社中村工務店は1963年(昭和38年)創業。住宅リフォーム、増改築、中古住宅販売などを行っている。
従業員数は約37名(2023年7月現在)。
今回は、代表取締役の中村鉄男さんからお話を伺った。
社員一人ひとりが“働く意味”について考え、会社の理想像を自ら提案し、仕事で実践していくことに重点をおいており、勤務時間の約2割を教育に費やしている
まず、企業理念策定の経緯と企業理念の実現のための社員教育の内容についてお話を伺った。
「約25年前に先代から引継ぎ、取締役に就任しました。当時は会社が多くの負債を抱えていたため、マイナスからのスタートでした。銀行からのアドバイスもあり、まずは負債を返済して会社の決算書をきれいにすることに主眼をおき、そのために売上を上げて利益を出すことを一番の目標に無我夢中で働いていました。それから約5年経ち、財務状況は健全になりました。やっとスタート地点に戻ることができたと思ったところでふと周りを見回してみたら、昔から一緒に働いていた社員は家族を除いて1人しか残っていませんでした。」
「これは私自身が変わらないといけないということだと考え、自己変革や社風づくり、人材育成、コーチングなど幅広い分野を学びました。それまでの売上至上主義から脱却し、売上を止めてでもまずはこの会社の社風を確立し、社員がやりがいを感じられて安心して働ける企業の実現を目指すことにしました。」
「まず、企業理念として、『我々は長崎を魅力ある街とするためにお役に立ち、信用信頼の住まいのパートナーとして成長し続け、社員のやりがいの持てる安心企業を実現します。』を掲げました。“社員のやりがい”とは、社員が自分たちで目的を明確にして、自分たちでやりたいことを楽しくうち込める環境つくりがあることによって達成した喜びが、次なるやりがいとなることを意味しています。その結果、“安心企業”として、お客様にとっては無くてはならない会社、社員はやりがいをもって物心両面で安心して仕事に打込める会社、この会社で絶対に働き続けたいと思ってもらえる会社づくりを実現することを示しています。」
「この企業理念を具現化するために、社員ほぼ全員が、自己成長のための外部研修を受けています。最近は当社のことなどがある程度わかってきた入社3年目に皆が受けられるように業務調整しています。 “基礎→応用→実践”のプログラムを通じて、社員一人ひとりが自分を見つめ直し、自己成長する力を促し、行動変容につなげています。そして、“働く意味”について考え、『ああいう会社になりたい』という理想像を社員自ら提案し、実践していくことを私も支援しています。」
「そのほかにも、研修会や個別のセッションを日々行っています。研修会は月に1回開催していて、5つの班に分かれて『当社の業務をより良くするには』などといったテーマについて社員同士で話し合いながら考える時間としています。他社の好事例を見ながら自社でも実践したいことを挙げてもらうこともあります。研修会の最後にグループから発表してもらい、その内容のうち私の方でできることはすぐに行い、難しいものはその理由を説明するようにしています。個別のセッションでは、私が部下にコーチングや面談対応を行うこともあります。」
「こうした人材育成、コミュニケーション活性化の取組みはすべて勤務時間内に行っていますので、勤務時間の8割がメインの業務、2割がこれらの取組みという配分になっています。これらを通じて皆が同じベクトルをもって働くことができるようになり、団結力にもつながっていると実感しています。社員間の風通しを良くし、お互いの信頼関係を高めることで、働きやすい環境づくりにつながっていると考えています。」
社員間で“ありがとう”の気持ちを多く伝え合う仕組みをつくることで、社員同士の前向きなコミュニケーションの活性化につながっている
次に、現在行っている職場環境改善やコミュニケーションの活性化の取組みなどについてお話を伺った。
「社員主導で、社員たちが考えたやりたいことに挑戦し、私がそれを支援していくといった取組みの中で、様々な職場環境改善やコミュニケーション活性化の取組みを行ってきました。」
「取組み開始当初には、社長あてに匿名で意見を伝えることができる“改善提案箱”を設置しました。すると、箱のふたが閉まらないほど多くの意見が社員から寄せられました。それら1つ1つに対応していきましたが、多くの意見が寄せられる状況は2年ほど続きました。ですが、その後月1回の研修会をはじめ、定期的に社員の意見を聞いて対応するようになったことで、改善提案箱への意見は、最近ではほとんど無くなりました。」
「また、社員間で“ありがとう”の気持ちを多く伝え合える環境を作るために、“ありがとうコイン制度”を導入しました。日々の業務の中で、相手の“いいね”に気づき、その気持ちを“ありがとうカード”に書いて手渡すことで、感謝の気持ちや励ましの気持ちをお互いに送りあっています。“ありがとうカード”が一定数たまると、“ありがとうコイン”に替えることができます。毎日の朝礼の中で、テーマに基づいて社員各自が思っていることや考えたことを発表してもらうこともしているのですが、発表は手挙げ方式ですので、発表者には私から発表してくれてありがとうの想いをこめて“ありがとうカード”を渡しています。集めたコインで社員は会社からご褒美がもらえるだけでなく、相手の喜びにもつながることで、社員同士の前向きなコミュニケーションの活性化になっていると考えています。」
「メンタルヘルス対策の面では、社内の相談窓口を用意しています。担当している社員の名前を取って、“りょうこの部屋”として周知し、業務に関わることやプライベートなことまで幅広く相談対応しています。“りょうこの部屋”はなんでも相談窓口として社員全員に案内しており、心の中にもやもやが溜まった時や悩みや不安を抱えた時にも利用してもらっています。その中で、必要に応じて社外の専門機関につなげることもあります。また、社外のメンタルヘルス関連の相談窓口も契約しており、社員に案内しています。」
「また、社員自ら部活動をつくりたいといった提案があれば、会社から助成金を支給し、活動を支援しています。これまでに、マラソン部、ゴルフ部、バトミントン部、釣り部、バイク部などが立ち上がりました。他にも、勤務時間内に地域の清掃活動やイベントへの参加を社員が積極的に行っています。自分たちが働いている地域に貢献することや、会社と家庭以外のかかわりを持つことで、より豊かな時間を過ごすことができていると考えています。」
「2014年頃からこれらの活動をはじめ、当時25名程だった社員数が今では40名近くになりました。また、女性も働きやすい職場環境を目指していたこともあり、今では社員の4割が女性となっており、この業界の中では比率が高い割合となっています。こうした既に行っていた取組みを報告することで、2022年に“健康経営優良法人(中小規模)”の認定を受けることができました。企業業績としても、15年連続で長崎県内での住宅リフォーム売上No.1を維持しています。」
「これからも、社員からの要望を取り入れ、社員全員が豊かで幸せな人生を送るために、生活安定の保証と安心して働ける環境を一番に考え、給与や生活水準の向上などが実感でき、生きがい働きがいをもてる職場つくりに努めていきます。」
【ポイント】
- ①社員一人ひとりが“働く意味”について考え、会社の理想像を自ら提案し、仕事で実践していくことに重点をおいており、勤務時間の約2割を教育に費やしている。
- ②社員間で“ありがとう”の気持ちを多く伝え合う仕組みをつくることで、社員同士の前向きなコミュニケーションの活性化につながっている。
- ③話をよく聴くことができる社員が社内の相談窓口を担うことで、社員が日常の中で抱えるもやもやした気持ちや不安な気持ちなどを聴いてもらえる環境があり、安心につながっている。
【取材協力】株式会社中村工務店
(2023年9月掲載)
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