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株式会社アキツ
(大阪府東大阪市)
株式会社アキツ(2024年1月に「亜木津工業株式会社」から社名変更)は1978年(昭和53年)に個人商店として創業後、1996年(平成8年)に法人化。一般産業用のゴムやプラスチック、スポンジやジョイントシートの加工製造と販売を行っている。
従業員は約160名。大阪の本社は約75名(2023年7月現在)。国内全体で製造拠点4か所、営業拠点5か所を配置している。
今回は本社管理部 部長の青山祐子さんからお話を伺った。
ワークライフバランスの充実のため、時間単位での有給休暇制度や、一定時刻になると自動的にパソコンを停止させるシステムの導入など、様々な取組みを行っている
まず、健康経営と職場のメンタルヘルス対策に取組むきっかけなどについてお話を伺った。
「数年前、当社の製造現場で被災者が数カ月入院する重大な労働災害が発生しました。当時は安全に対する意識は低く、売上や利益を重視する傾向が強い会社で、短納期を実現するためには多少の危険を冒してでも仕事を進めることが日常でした。この労働災害を受け、事の重大さに経営トップは、一旦は廃業を考えるほどでした。しかしながら、社員の雇用を守るためにも2年以内に安全で安心して働ける、快適で健康的な職場環境を構築できるなら事業を継続しようと決意しました。」
「このような労働災害が二度と起きないように、との思いから、いろいろと調べて検討した結果、“労働安全衛生マネジメントシステムISO45001”の認証取得を目指すことに決め、それに向けた体制づくりをしていきました。ISO45001では、労働安全衛生分野について “組織の状況”や“取組みの計画策定”などISOマネジメントシステム特有の事項が要求された上で、PDCAサイクルをまわしていきます。こうした取組みを、中央労働災害防止協会や専門家の支援を受けながら2年以上かけて行い、2020年3月にISO45001の認証を受けることができました。中小企業の製造業としては、日本で初めてだったそうです。こうした取組みを通じて、安全で快適な職場環境の構築への意識が醸成されてきたと思います。当時事故にあった社員は今も元気に働いています。」
「その後、次のステージへ進むために何をしようかと考えていたときに、“健康経営”にたどりつきました。“健康経営”というキーワードは、協会けんぽ大阪支部や銀行、保険会社などからの案内で以前から知ってはいたのですが、詳しく情報収集したりはしていませんでした。ですが、実際にチェック項目を見てみると、当社で既に取り組んでいるものが多く、思ったほどのハードルの高さではないことがわかったので、挑戦してみることにしました。ISO45001の活動を通じて、職場環境に関する社員向けアンケートを毎年行い、できるところから改善活動していましたので、それらを“健康経営”の取組みとしても報告しました。こうした取組みを評価していただき、昨年(2022年)“健康経営優良法人(中小規模法人)”の認定を受けることができました。」
「当社のビジョンの一番の要は、“ワークライフバランスの充実”です。社員がより働きやすく、満足できる職場環境を目指していきたいという思いがあります。その一環として、これまであった土曜の出勤日をなくし、今年(2023年)4月から土日休みの完全週休二日制としました。また、時間単位での有給休暇の取得もとれるようにしました。1,2時間早く帰宅したいというニーズも多かったので、時間単位で有給休暇が取得できるようにしたことは、社員にとても喜んでもらえました。」
「さらに、残業時間を抑制するために、19時になると自動的にパソコンを停止させるシステムを昨年(2022年)4月から導入しました。社長と専務の経営トップ2人の判断で始めた取組みです。ただ、導入当初は『毎晩、パソコンが使えなくなると業務に支障が出る』といった意見が出てくることも想定していたので、様々な場面での対応策も水面下で考えておきました。ところが、いざ導入してみたらそのような意見は一切出てくることはなく、日が明るい時間に帰れることを社員も喜んでいるようでした。十数年前は、朝まで働いて床で寝ていた社員もいたのですが、今では考えられません。システム導入から1年が経ち、年間の業務の受注状況にも対応できていることが分かりましたので、今年(2023年)4月からはさらに時間を繰り上げて、18時30分にパソコンを停止させて、完全退社するようにしています。時間外労働時間のさらなる削減につながっています。」
定期的に上司等との面談の機会を設けることで、なんでも話しやすい環境をつくり、そこから会社側の課題等も把握している
次に、定期的な面談の実施についてお話を伺った。
「当社では、年に2回、全社員が直属の上司と1対1で面談をする機会をつくっています。日頃の仕事で困っていることから、プライベートなことまで、話したいことをなんでも話していいと伝えています。」
「また、年に1回は、全社員が、製造部門の統括責任者と私(青山さん)の2人と面談をする機会をつくっています。1人につき30分ほど時間をとって、対面で行っています。全社員との面談を開始した1年目は、『いろいろと話したいことがあったんです』といった雰囲気が多く感じられ、職場環境のことからプライべートなことまで幅広い話をお聴きしました。私たちのペアも、現場系と事務系、男性と女性ということもあり、立場が違うので、話しやすかったのではないかと思います。製造部門の統括責任者もフレンドリーな方なので、面接のように重い感じではなく、雑談的なところから話が広がっていきました。私が質問するときは、『なにか悩みはある?』といったネガティブなことではなく、『なにか夢はある?』という風に、未来を見据えたポジティブなところから入っていくことを心がけました。定年退職後のことを話される方もいましたし、休みの日にしていることから話が広がっていく方もいて、とにかくなんでもいいので話をしてもらうことを大切にしました。そういった話の中では、『自分の夢を考えるときに、この会社にいることにしばられる必要はないよ』といったニュアンスを伝えることもあります。」
「社員全員と面談をしている中で当社の課題としてみえてきたのが、“当社の中で今後のキャリア形成のイメージが見えない”ということです。中小企業ではありがちだと思いますが、当社には明確な人事評価制度がなく、どのようにしたら昇進・昇格するのかが社員にとっては不透明でブラックボックスのようになっていたため、そこにモヤモヤを感じている人が多くいることが分かりました。そのため、今後、明確な人事評価制度を作り、徐々にオープン化していきたいと考えています。」
50人未満の事業所も含めた全事業所でストレスチェックの実施や、管理監督者へのメンタルヘルスマネジメント検定の受験の推奨、専務によるメンタルヘルスの講習会など、社員のメンタルヘルスを守るための様々な取組みを実施している
最後に、現在行っているメンタルヘルス対策についてお話を伺った。
「当社では、健康診断業務を依頼している健診機関に、ストレスチェックの実施と、労働者が50人以上いる大阪地区の事業所における産業医業務も併せて依頼しています。産業医には、製造現場などの職場巡視や、安全衛生委員会の出席の他、社員への面談対応をお願いしています。健康診断結果を踏まえた面談など身体面に関する面談は15分、メンタルヘルスに関する面談は45分という枠組みにしており、産業医の面談日を社員に事前に告知しています。産業医面談後、必要に応じて専門医につなげるようにしています。」
「ストレスチェックも毎年実施しています。大阪地区以外の事業所は20~30人規模なので、ストレスチェックの実施義務はありませんが、健康経営優良法人の認定に向けた取組みの一環として、2021年からは全事業所でストレスチェックを実施しています。」
「ストレスチェックは、会社のメールアドレスを持っている社員にはWEB上で受検してもらい、その後、本人あてに結果の連絡がきてWEB上で結果を確認できる仕組みになっています。結果と併せて、“こころの耳”サイトや相談窓口の案内なども掲載しており、本人のセルフケアにつなげています。製造現場などで働いていて会社のメールアドレスを持っていない社員には、質問紙(マークシート)に記入してもらい、後日、個人結果を配布しています。」
「管理監督者に対しては、大阪商工会議所のメンタルヘルスマネジメント検定の受検を推奨しています。ラインによるケアをしっかり学んでもらい、部下の“いつもと違う”ことに早く気づけるようになってもらうとともに、部下との面談時の話の聴き方にも役立つことを期待しています。合格者には、ちょっとした報奨金も支給しています。こうした働きかけを通じて、多くの社員が挑戦するようになってきています。」
「また、当社では3か月に1回、様々なテーマでメンタルヘルスの講習会を行っています。専務が講師を務め、1回30分程度の時間をとって、全社員に対して行っています。もちろん製造現場があり全社員が一堂に会することは難しいので、例えば、大阪地区の場合は3回に分けて会議室に集まって行うなど、全社員が受けられるように工夫しています。テーマは、“ストレスって何?”といった話からはじめて、ストレスコーピングや睡眠の話など、少しずつ幅が広がってきています。途中でクイズを出したり質問を投げかけたりして、説明が一方的にならないように工夫しています。(【写真1】参照)」
【写真1】社内でのメンタルヘルス講習会
「社長含め社員の健康あっての会社です。会社の利益と社員のプライベートをバランスよく経営していくためにも、社員の心身の健康が非常に重要であると考えています。これからもワークライフバランスを意識しながら、社員に気持ちよく、長く働いてもらえるよう力を入れていきたいと思います。」
【ポイント】
- ①ワークライフバランスの充実のため、時間単位での有給休暇制度や、一定時刻に自動的にパソコンを停止させるシステムの導入など、様々な取組みを行っている。
- ②定期的に上司等との面談の機会を設けることで、なんでも話しやすい環境をつくり、そこから会社側の課題等も把握しようとしている。
- ③50人未満の事業所も含めた全事業所でストレスチェックの実施や、管理監督者へのメンタルヘルスマネジメント検定の受験の推奨、専務によるメンタルヘルスの講習会など、社員のメンタルヘルスを守るための様々な取組みを実施している。
【取材協力】株式会社アキツ
(2023年7月掲載)