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株式会社北川鉄工所(広島県府中市)

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株式会社北川鉄工所
(広島県府中市)

【写真】長島さん 北川鉄工所は1918年(大正7年)創業 。金属素形材事業、産業機械事業、工作機器事業を柱に、さまざまな製品や サービス を提供している。
北川鉄工所の従業員数は1,431人(2022年3月31日現在)。広島県を中心に9つの生産拠点、11の支店・営業所を構えている。
今回は、経営管理本部 安全・環境推進部 安全衛生管理課で衛生管理者の長島絵梨さんからお話を伺った。

マンパワー不足などの課題がある中でメンタルヘルス対策を強化するために、外部機関の利用や従業員のメンタルヘルス対策スキルの底上げなどに取り組み、費用の増加も最小限に抑えている

まず、職場のメンタルヘルス対策の強化を行った背景についてお話を伺った。

「近年、当社ではメンタル不調による休業者が目立つようになってきました。休業者からは、『体調は悪かったがメンタルヘルス不調だと気づかなかった』、休業者の上司からも、『部下の体調が悪いと気づかなかった』といった声が多く聞かれ、職場のメンタルヘルス対策の強化が必要だと考えるようになりました。また、せっかくストレスチェックを実施して集団分析結果を出すのだから、それをしっかり活用しようという経営層の意向もありました。」

「見直しを行う以前も、ストレスチェックやラインケア対策など、基本の施策は行っていましたが、従業員個人へのきめ細やかな対応までできていなかったため、そこが課題だと考えました。ただ、新たな取組みをプラスで実施するには、マンパワーや費用面など様々な問題がありました。」

「こうした問題を解決するために、今の組織体制や使用しているツールの使い方の見直しなどを行い、当社で今できることを目標に取組みを始めました。常勤の専門職がいないという課題に対しては、専門的知識が必要な場合は外部機関を利用する。マンパワー不足に対しては、従業員個々のメンタルヘルス対策スキルを底上げすることで、解決できるのではないかと考えました。」

「費用面については、これまで外部講師にお願いしていたメンタルヘルス研修を一部内製化し私たちが行うなど、削れるものは削りその分を充てることで、全体的な追加費用がかからないように工夫しました。現場の方々が一生懸命働いて稼いだお金を、私たちが有意義に使い、良い形で実践する。このような姿勢は、職場のメンタルヘルスに対する現場の意識変化にもつながっていると感じています。」

職場環境改善の取組みを進めるためにアクションプランシートの充実や研修の実施、相談の機会に加えて、管理職の負担を少しでも軽くするためのお悩みアンケートの実施やそれを踏まえたカリキュラムの調整など、様々な工夫がされている

次に、ストレスチェックの取組みの具体的な見直しについてお話を伺った。

「ストレスチェックの取組みは毎年見直しをし、少しずつバージョンアップしてきています。初年度は集団分析結果まで出さず最低限の実施にとどまりましたが、2年目からは集団分析結果を出し、職場環境改善の取組みも始めました。職場環境改善活動は、最初は部長が課長にヒアリングした上でアクションプランシートを作成してもらう形だったのですが、翌年からは課長を含む管理職まで実施対象を拡げました。アクションプランシートには、集団分析結果を踏まえて目指す組織の状態やビジョン、改善させたい因子や具体的なアクションを記載してもらっています(【図1】参照)。アクションプランシートを踏まえて実践し、翌年の集団分析結果を見て評価をするというPDCAサイクルを回しています。」


【図1】アクションプランシート

「職場環境改善活動をより効果的に実施してもらうために、近年2つの取組みの強化を行いました。1つ目が“ストレスチェックフィードバック研修”の開催です。役員と管理職140名に向けて、ストレスチェックの実施業者の講師が、集団分析結果の見方や職場環境改善の方法などについて講義しています。その中で、自職場のアクションプラン作成のヒントとなるよう、様々な部門や職種でグループをつくり、事例などの発表や意見交換を行いました。研修後には、職場の課題や良い事例などを皆で共有しあい、問題解決へむけた共通認識を持つことで、職場環境改善の実施につなげています。(【写真1】参照)」


【写真1】ストレスチェックフィードバック研修の様子

「2つ目が、高ストレス職場の改善相談の実施です。当社の基準では、ストレスチェック集団分析の対象人数が10名以上で、高ストレス者が20%以上となった職場を高ストレス職場としています。これに該当する高ストレス職場に対して、外部専門機関である産業保健総合支援センターの相談員などと連携しながら職場環境改善の支援を行っています。まず、高ストレス職場の管理職へヒアリングを行い、解決困難な事案は外部専門機関へ相談し、対策をとりました。また、高ストレス職場になることが多い職場の管理職に対しては、外部専門機関による“お悩み相談会”も実施しました。“お悩み相談会”は、職場環境改善方法の提案だけでなく、職場の問題に苦労している管理職の心のケアにも重点を置いています。そして、“お悩み相談会”後、私たち(衛生管理者)が高ストレス職場の従業員全員に個人面談を行った上で、職場へフィードバックし、改善状況の後追いと改善結果の確認をしています。」

「こうした取組みに加えて、2022年度は管理職のサポートにも力を入れました。アクションプランシートを作成してもらう中で、個別に相談を受けていたのですが、『あれもこれもやっているのに、さらに何をやればいいのかわからない』という声がありました。ただでさえ、日常業務で大変な管理職にさらに追い打ちをかけてしまっているのではないかという思いから、管理職の気持ちが少しでも楽になるような研修カリキュラムにしたいと考えました。そこで、“ストレスチェックフィードバック研修”の実施の案内と併せて、管理職に、今抱えているお悩みアンケートを取って、その結果を踏まえてカリキュラムを決めるという形にしました。」

指導職へのラインケア研修の実施や、自分専用のセルフケアツールの導入など、メンタルヘルス対策の裾野を広げる取組みも行っている

最後に、その他の取組みと、今後の展望についてお話を伺った。

「新たに始めた取組みとしては、それまで管理職を対象に行っていたラインケア研修を、下の役職の指導職にも展開しました。当社は製造業ですので、1人の管理職に対して、多い部門では80名近くの部下がいます。課長の下には2~3人の指導職がいて、課長と部下の間をつなぐ中間管理職のような役割を果たしています。指導職が気づかないとなかなか課長まで上がってこないという面がありましたので、指導職にもラインケアに関する知識をしっかり持ってもらうよう、研修を行うことにしました。150名が対象で、ライン操業や夜勤をしている職場もあるので日程調整に苦労しましたが、3年がかりで全員受講することができました。」

「研修参加者には、実施後に研修で分からなかった事や、日頃の困り事などをアンケートシートに書いてもらいました。私たち(衛生管理者)の方でも、指導職の悩みや職場の状況、取り組みなど、研修中のグループワークの内容をメモしておきました。それらを踏まえて、専門的な内容などは講師の見解も確認した上で、一人ひとりに支援のアドバイスなどコメントをつけて、アンケートシートを返却しました。その結果、指導職から私たち(衛生管理者)へ部下のメンタルヘルスに関する相談が寄せられるようになってきました。さらに、研修で出た質問と回答をまとめた“指導職ラインケア研修Q&A”を作成し、全指導職へ共有するとともに、社内電子掲示板でいつでも見られるようにしています。(【図2】参照)」


【図2】指導職ラインケア研修Q&A

「また、自分専用のセルフケアツールを導入しました。これは、ストレスチェック実施業者が提供しているツールを活用しています。メンタルヘルス不調になった従業員やストレスチェックを受検した従業員から、“自分にあったセルフケアがわからない”という声が、日頃から多く寄せられていました。ただ、セルフケアの方法は個人で異なると共に、医療的な専門知識が必要なこともあるため、私たちだけでは回答が難しいと感じていました。自分専用のセルフケアツールは、ストレスチェックの個人結果と個人要因にあわせて、eラーニングやコラムが自動的に紹介される仕組みです。手軽さからセルフケアを身近に感じてもらえるようになったと思います。」

「さらに、このツールにより関心をもってもらえるよう、新入社員研修など様々な研修の中で少し時間をもらい、試しにみてもらう機会を作るなどもしています。『あなたの状況にあわせて紹介されるので使ってみませんか』と様々な機会にアナウンスをしています。」

「こうした取組みの結果、2020年度と2021年度のストレスチェック集団分析結果を比較すると、困った時に周囲の人に相談したり助けを求めたりしているかを示す“相談行動”が改善し、“上司同僚のサポート”も継続して良い水準となりました。会社規模がそれほど大きくなく、メンタルヘルスについて十分な専門知識をもった者がいない場合でも、外部機関やツールを上手に利用して、今あるメンタルヘルス対策を強化すれば成果が出ることを実感できました。」

「こうした取組みを5年以上続けてきて、最近やっとメンタルヘルス対策の必要性が社内で認めてもらえるようになってきたと感じています。心が折れそうになったこともあったのですが、従業員の皆さんが頑張れってずっと背中を押してくれたおかげで頑張ることができました。今後の当社が目指す姿は、“働きやすく成長できる企業”です。個々がいきいきと働き、職場全体が活性化している状態にしていきたいと考えています。」

【ポイント】

  • ①マンパワー不足などの課題がある中でメンタルヘルス対策を強化するために、外部機関の利用や従業員のメンタルヘルス対策スキルの底上げなどに取り組み、費用の増加も最小限に抑えている。
  • ②職場環境改善の取組みを進めるためにアクションプランシートの充実や研修の実施、相談の機会に加えて、管理職の負担を少しでも軽くするためのお悩みアンケートの実施やそれを踏まえたカリキュラムの調整など、様々な工夫がされている。
  • ③指導職へのラインケア研修の実施や、自分専用のセルフケアツールの導入など、メンタルヘルス対策の裾野を広げる取組みも行っている。

【取材協力】株式会社北川鉄工所
(2023年2月掲載)