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バンドー化学株式会社
(兵庫県神戸市)
山口さん、山川さん バンドー化学は1906年(明治39年)創業。自動車や産業機械・農業機械などの伝動ベルト、土砂や鉄鉱石などを運搬するコンベヤベルト、食品加工や物流などの現場で使われる軽搬送用ベルトなど、様々な製品を製造している。
バンドー化学の従業員数は約1,300名(2022年3月31日現在/単体)。
今回は、執行役員(健康担当)の山口勝也さん、保健師の山川奈々さんからお話を伺った。
休業日数率を健康に関する主な指標とし、要因の分析を行うことによって、実態に即した取組みの展開につながっている
まず、従業員の健康に向けた取組みの経緯と現在の状況についてお話を伺った。
山川さん
「当社は、今のように健康経営という考え方が広く知られるようになる前から、20年以上にわたって従業員の健康課題を分析してPDCAを回してきました。1つ1つの施策は決して目立つものではなく、コツコツと地道に行ってきたものばかりですが、これまで一定の成果を上げてきており、近年は健康経営銘柄やホワイト500に選定されるという形で外部評価にもつながっていて、嬉しく思っています。」
山口さん
「2017年には“バンドーグループ健康宣言”を制定しました。一人ひとりの心身の健康が企業経営の基盤であるとの考えを基に、グループ全体が“がっちり”一体となって、“わくわく”と“いきいき”と健康づくりに取り組んでいくことを目指しています。当社で20年以上続けてきた健康への取組みを、健康宣言という形であらためて言葉にしたところです。健康宣言を制定したことによって、従業員一人ひとりが自分ごととしてとらえてほしいということをあらためて伝える機会になったと思います。(【図1】参照)」
【図1】バンドーグループ健康宣言
山川さん
「当社では、休業日数率を主な指標として活用しています。休業日数率は、何らかの疾患によって7日以上休業した従業員の延べ休業日数から算出しています。休業日数率を指標にすることで、労働力の損失を明確にすることができ、会社が従業員の健康管理に取り組む必要性を伝えることができています。休業日数率は0であることが当然望ましいですが、まずは、当社の最良値である0.4%を目標に取り組んでいます。ただ、なかなか目標を達成できていないというのが現状です。」
山川さん
「休業日数率が上がっている要因として、療養している従業員が多いことがあります。療養の主な理由を分析すると、メンタルヘルス不調と生活習慣病によるものが全体の約8割を占めている状況です。このため、メンタルヘルス不調と生活習慣病を予防する対策が重要だと考え、改善するための取組みを進めています。」
山口さん
「保健師は全社で9名おり、各事業場に配置していて、各事業場の従業員一人ひとりに目配りをしてくれています。例えば、工場であれば毎月の朝礼に保健師も参加し5分程度の健康講話をするなど顔が見える活動を通じて、相談しやすい雰囲気を作っています。また、産業医も各事業所で契約しており、月1~2回相談対応しています。」
ストレスチェックだけでなく、現場のニーズに合わせてEQ開発やアサーションセミナーなど様々な取組みを継続している
次に、職場のメンタルヘルス対策の取組みについてお話を伺った。
山川さん
「メンタルヘルス不調に対する主な取組みとしては、ストレスチェックの実施と結果の分析、高ストレス者への対応、ストレス耐性の測定、EQ能力の開発、アサーションセミナーなどがあります。それぞれ、様々な施策を実施しその評価分析を行ってきました。」
山川さん
「ストレスチェックとストレス耐性の測定は、2022年から一緒に実施する形にしました。それぞれ、個人結果を本人にフィードバックするだけでなく、部署や年代ごとでの集団分析も行っています。」
山口さん
「集団分析結果は、保健師が各事業所で説明しています。事業所の中でもうまくいっている職場と、そうでない職場がありますが、うまくいっていない職場を責めるのではなく、うまくいっている職場では、何ができているからうまくいっているのかといった視点で見てもらうことを意識しています。」
山川さん
「ストレス耐性の集団分析結果として、若年層に、ストレスに打ち勝つ力や、前向きに考えていく力がやや不足している傾向があることがわかったので、今後はこうしたところにも力を入れていけたらと考えています。」
山川さん
「また、職場内コミュニケーションの不足というところを課題に、風通しの良い職場作りを目指して、心の知能指数といわれるEQ能力開発の取組みも10年以上継続して行っています。自分自身の感情認識や、他者の感情認識、コントロールといった、人間関係を適切に管理することの重要性とスキルを学ぶことで、組織運営をより良い方向に導いていくことに役立ててもらっています。経営層から順番に受けており、今は工場のグループ長、課長クラスまで進めてきました。」
山口さん
「工場で働いている従業員は、手順やマニュアルをしっかり守って働くことをはじめに徹底的に教育されるので、与えられた環境の中で真面目に働くことへの想いが強い方が多いです。ただ、その分我慢しすぎてしまう傾向もあるので、一人ひとりに心を開いてもらえるような話の聴き方をして、必要な配慮をしていくことが大事だと考えています。そのためには、聴く側の人間のコミュニケーション能力を高めることが大切で、その方法の一つとしてEQ開発が役立つと考えています。」
山川さん
「その他にも、上司の厳しさがハラスメントにつながりかねないという懸念のある職場からの相談を受けて、アサーションセミナーも実施しました。お互いを尊重していくためのアサーションスキルを学んでもらい、ロールプレイを行って、実際にどう感じたかというところをディスカッションする、という形で進めました。」
自社の今後の課題である高齢化問題への取組みを早めに開始し、“元気度チェック”や“健康セルフチェック表”など既存の取組みについて現状に合わせた見直しを進めている
最後に、生活習慣病対策と、今後の課題と展望についてお話を伺った。
山川さん
「生活習慣病対策としては、生活習慣アンケートの実施、国内拠点を繋いでのオフィスヨガ、運動教室や運動動画の配信、栄養士による食べ方講座、睡眠アドバイザーによる快眠セミナー、禁煙及び受動喫煙防止に向けた取り組み、社内外の健康イベント推進など、事業所ごとの課題に合わせて、年間を通して展開しています。」
山川さん
「直近の生活習慣アンケートでは、運動習慣がないと答えた従業員が約7割いることがわかりました。コロナ禍による自粛ムードが従業員の私生活にも大きく影響していて、体重増加や運動不足を引き起こしていることがわかったため、これまで集合型で行っていたオフィスヨガや運動教室をオンライン化しました。」
山口さん
「生産ラインに入っている従業員は、リアルタイムで参加することは難しかったのですが、オンライン化に伴ってYouTubeでのアーカイブ配信もはじめたことで、そうした従業員も動画閲覧という形で参加できるようになりました。就業時間内に取り組んだ分は就業として認めることで、取り組みやすくしています。(【写真1】参照)」
【写真1】オフィスヨガ・運動教室
山川さん
「最近は、従業員の高齢化という新たな問題に直面しています。現在の従業員の平均年齢が43.8歳で、同業他社に比べても高い状況になっています。従業員の約7割を40歳以上が占めるという状況で、このままだと10年後には9割近い従業員が40代以上になるという計算になります。年齢とともに身体不調が増加するということはわかっています。働き盛りの40代、50代が身体不調に陥った場合の生産性低下をできるだけ避けるために、これまでの問題解決型アプローチに加えて、重症化予防、高齢化対策といった、未来を見据えていく対策の強化が必要になってきています。」
山川さん
「このため、まずは現在行っている取組みの見直しを始めました。たとえば、年に1回“元気度チェック”という体力測定会を行っているのですが、こちらの項目と目的を見直しました。以前は自身の体力を知ることを目的にしていましたが、高齢化対策も追加して、瞬発力やバランス力、記憶力などの項目を追加しました。また、40歳以上の従業員に腰痛の訴えが増えているという状況が近年の社内アンケート結果から見えているため、柔軟性やロコモチェックの項目も追加して、安全に就業できる体力や能力を図る内容に変更しました。測定結果を分析したところ、柔軟性が著しく低下しているということがわかったため、先ほど紹介した運動教室では柔軟性を向上する内容を増やすなど、その後の取組みにもつなげています。(【図2】参照)」
山川さん
「また、“健康セルフチェック表”という、従業員1人1人が1年間の健康目標を設定して自身の健康PDCAを回すなかで、自身の健康について上司と対話をするツールの見直しも行いました。これまでは、年度初めに健康目標を立てて年度末に評価するという形を取っていたのを、サイクルを半年に変更して、人事考課面接のタイミングに合わせて年2回上司と健康について対話する形にしました。PDCAのサイクルを短くすることによって、自分ごととして健康を捉えてもらうということを意識づけるとともに、上司に対して必要な健康面での配慮や頑張っていることを伝える機会になればと考えています。上司からのコメントを入れる欄を設けているので、上司から必ずフィードバックがあるという仕組みにしています。(【図3】参照)」
【図2】元気度チェック
【図3】健康セルフチェック表
山口さん・山川さん
「これからは人生100年時代と言われていますので、私たち一人ひとりがヘルスリテラシーを持って自立していくことが求められています。当社でも、在職中だけではなく、従業員の退職後にも目を向けた施策展開を行っていきたいと考えています。従業員が生き生きと長く働いて、在職中から、退職後も見据えた健康基盤を作ってもらう。バンドー化学で働いていたら、退職後もきっと良い人生になると思ってもらえることを目標としています。これからも、従業員一人ひとりの人生が、当社で働くことで、より豊かなものになってくれることを願っていますし、そういった意味でも未来を見据えた健康経営というものをこれからも推進していきたいと考えています。」
【ポイント】
- ①休業日数率を健康に関する主な指標とし、要因の分析を行うことによって、実態に即した取組みの展開につながっている。
- ②ストレスチェックだけでなく、現場のニーズに合わせてEQ開発やアサーションセミナーなど様々な取組みを継続している。
- ③自社の今後の課題である高齢化問題への取組みを早めに開始し、“元気度チェック”や“健康セルフチェック表”など既存の取組みについて現状に合わせた見直しを進めている。
【取材協力】バンドー化学株式会社
(2023年2月掲載)
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