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株式会社ニットー(長野県須坂市)

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株式会社ニットー
(長野県須坂市)

【写真】栗田さん、根岸さん ニットーは1943年(昭和18年)設立。半導体や各種電子デバイス・通信機器に使われる精密部品や電子工学部品の研磨加工などを行っている。
ニットーの社員数は150名(2022年10月現在)。
今回は、管理部長の栗田哲夫さんと、管理部総務課主任の根岸恵美さんからお話を伺った。

中小企業だからこそできるきめ細やかな職場復帰支援プログラムと丁寧なコミュニケーションによって、スムーズな職場復帰、そしてメンタルヘルス不調による離職者ゼロを維持することができている

まず、職場復帰支援の取組みについてお話を伺った。

根岸さん
「職場復帰支援の取組みをはじめたのは2018年頃です。メンタルヘルス不調で休業していた社員が職場復帰をする際に、はじめて職場復帰支援に取り組みました。はじめてのことでしたので試行錯誤の連続でしたが、本人の意見を聴きながら、産業医と相談しつつ進めてきました。それ以降は、1回目の対応を参考に職場復帰支援プログラムを組み立てることができていて、だんだんと形になってきているかなと思います。」

根岸さん
「当社の職場復帰支援プログラムは、2か月程度の期間を設けて実施しています。最初は会社に来るのみという段階からはじめて、12時まで、15時まで、17時まで、最後はフルタイムと少しずつ勤務時間を延ばしていく形にしています。もともと製造現場の勤務だった方も、はじめの1か月間は総務課付けにして、入力作業などをしています。まずは会社にいること、みんなの中に一緒にいることが大事だと考えています。」

栗田さん
「メンタルヘルス不調の方が職場復帰する際、会社の人と会うことに負担を感じるという傾向があるので、まずは私と根岸が中心となって対応しています。総務課の中で常に同じ空間にいますので、事務作業の様子を見ながら時々声をかけています。その後、現場作業に戻るのですが、職場復帰支援プログラムの残りの期間中は、毎日必ず私か根岸のどちらかが顔を出して話をするようにしています。こまめに様子を見に行くといった対応は中小企業だからこそできることなのかもしれません。コミュニケーションをとりながら職場復帰支援を行うという形が当社には合っているのかなと考えています。こうした対応が功を奏しているのか、すんなり復帰できているという感じがあります。」

栗田さん
「職場復帰は、原則元の職場に戻るという考え方があると思いますが、当社では、不調となった原因を踏まえて元の部署に戻さないこともあります。現場では交替勤務のみの部署もあり、そのような部署にメンタルヘルス不調者が多い傾向があります。交替勤務が不調の原因である場合は、職場復帰してすぐに交替勤務の元の部署に戻すことは難しいので、まずは日勤作業の現場で復帰してもらうようにしています。ただ、そうすることで元の部署に迷惑をかけたという気持ちを抱えている社員もいるので、そうした気持ちを少しでも軽くするためにできることがないかということが現在の課題ではあります。」

根岸さん
「また、休業中でもコミュニケーションをとるため、毎月給与明細を送る際に、“体調はいかがですか”など一言コメントを、ふせんに書いて一緒に送るようにしています。職場復帰された方から感謝の言葉をいただけたので、少しでも気持ちのサポートにつながっているのではないかと思っています。」

栗田さん
「メンタルヘルス不調者はいますが、メンタルヘルス不調が原因で会社を辞めた方がいないということは、嬉しく思っています。メンタルヘルス不調に陥っても“当社で働きたい”と言ってもらえているので、私たちが日々行っていることも意味があるのかなと思えています。」

兼務をなくして役職に専念できる体制を整えると共に、研修や打ち合わせの機会を捉えてメンタルヘルスに関する情報発信を行う活動などを通じて、管理職自身の意識が高まり、早めに相談できる環境が育ってきている

次に、職場のメンタルヘルスに対する社員の意識を醸成するための取組みとそれによる変化についてお話を伺った。

栗田さん
「社員のメンタルヘルスに対する意識は、ここ数年で高くなっていると感じています。その背景の一つに、繰り返し繰り返し、メンタルヘルスに関する情報を発信してきたことがあるのではないかと考えています。」

栗田さん
「2021年には、社員に対してメンタルヘルス研修を実施しました。社長が全社員に向けて話をする昼礼の時間を一部もらって、保健師に話をしてもらいました。メンタルヘルス不調では、最初に“眠れない”という症状が現れやすいということを踏まえて、交替勤務においても体調や睡眠のリズムが崩れないようにセルフケアするための方法を身につけてもらうことを目的に実施しました。」

栗田さん
「また、“メンタルヘルス不調に陥る前に皆で対応していきましょう”、“外部機関と相談することがメンタルヘルス不調を少しでも改善するきっかけになります”といったメッセージを社内全体に出すようにしています。以前もこうしたメッセージは出していたのですが、掲示しているだけでなかなか社内に浸透していかない状況がありました。そこで、最近はリーフレットを配ったり、打ち合わせの機会に何度も何度も説明したりするようにしています。」

根岸さん
「以前は、メンタルヘルス不調になってはじめて総務課に連絡がきて動き出すことが多かったです。最近は、本人が早い段階で“なにかおかしい”と気づき、自ら上司に相談して、上司から総務課に連絡がくることが増えてきました。なかには、上司と相談して早めに医療機関を受診するというケースも出てきています。早めに対処することで、休業することなく、仕事を継続しながらケアできていると思います。」

栗田さん
「中小企業ですので人手が足らないこともあり、メンタルヘルス不調で休業になると、様々な対応が必要となり、大変な面があります。ただ、最近は休業する前から様々な支援を、特に現場が中心となって対応してくれているので、非常に助かっています。上司が、体調を崩している様子や原因について本人から話を聞くことで、例えば、夜勤が負担になっている場合はシフトを日勤に調整するなど、現場で柔軟に対応しています。」

根岸さん
「管理職自身が、“部下とは日々コミュニケーションをとる必要がある”という意識を高めたということも大きいと考えています。日頃上司からいろいろ話しかけているからこそ、“この人だったら話せるな”という感覚を部下自身も持ち、上司に相談することにつながると思います。」

栗田さん
「2020年に会社の組織体制を大きく変更したことも下支えとなっているかもしれません。それ以前は、部課長職に空席が多く、経営者や他の管理職が兼務している状況でした。そこで、役職を全体的に引き上げて、すべての部課長職に配置することにしました。それによって、経営者も動きやすくなると共に、現場の社員にまで情報が伝えられる流れができました。メンタルヘルスについても取り組む余裕が生まれ、管理職たちも一人ひとりの部下に目を配る余裕が生まれたのではないかと考えています。縦のつながりと横のつながりが、しっかりともてるようになりました。」

根岸さん
「同時に、管理職それぞれが自分はどういう役割で、どういうことをする必要があるのかという意識も高まったように感じます。しっかり人員配置したことによって、経営者が部長たちを集めて話をする機会が多くとれるようになり、各部署でも定期的に打ち合わせの時間がとれるようになりました。経営者との話を部下に伝えやすくなったことも良い効果があったと思います。」

栗田さん
「また、社長の雰囲気も、社風として良い影響を与えているのかもしれません。社長はまず話を聞いてくれるタイプで、柔らかい雰囲気があります。私たちが強く主張したとしても話を聞いてくれますし、管理職でなくても気軽に話しかけることができるような方です。メンタルヘルス面においても、休業者だけなく、体調面で心配な社員の状況も気にかけています。そうした面で、当社は風通しがいい会社と言えるかもしれません。」

栗田さん
「今後は、メンタルヘルス不調になる前の段階で、できる予防はしていきたいと考えています。当社の課題として、メンタルヘルス不調者の傾向を分析してみると、入社して1~2年目の若い方と40代の男性に多いということがわかってきました。こうした傾向を踏まえてどのように職場環境を改善していくのかを、経営者にも共有した上で、意見をもらいながら進めています。引き続き試行錯誤していきたいと考えています。」

【ポイント】

  • ①中小企業だからこそできるきめ細やかな職場復帰支援プログラムと丁寧なコミュニケーションによって、スムーズな職場復帰、そしてメンタルヘルス不調による離職者ゼロを維持することができている。
  • ②兼務をなくして役職に専念できる体制を整えると共に、研修や打ち合わせの機会を捉えてメンタルヘルスに関する情報発信を行う活動などを通じて、管理職自身の意識が高まり、早めに相談できる環境が育ってきている。

【取材協力】株式会社ニットー
(2023年1月掲載)