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株式会社中田製作所
(大阪府八尾市)
中田さん、石田さん 中田製作所は1977年(昭和52年)創業。アルミ精密部品の超精密切削加工などの業務を、試作から量産まで柔軟に対応している。
中田製作所の従業員数は34名(2022年10月31日現在)。
今回は、代表取締役長の中田寛さん、生産管理課経営企画チームの石田まどかさんからお話を伺った。
メンターの配置やリーダーとの交流の機会など、新入社員が社内の人間関係をスムーズに広げられる工夫がされている
まず、新入社員へのケアのために行っている取組みについてお話を伺った。
中田さん
「2014年から毎年新卒採用を行っています。私が入社した2002年当時は従業員数15名くらいでしたが、現在の従業員数は2倍以上になっています。」
石田さん
「新入社員に対しては、メンターをつけています。例えば、新入社員が製造部に入ったら、製造部以外の先輩社員が3か月間メンターとしてサポートします。メンターは、なるべく年齢の近い者が担当するようにしていて、入社3年以内の者が担当することが多いです。毎日終業の5分前に、会議室や応接室、食堂など決まった場所に新入社員とメンターが集まって、その日あったことを話したり、一人暮らしの相談に応じたりしています。」
中田さん
「新入社員とは異なる部署の社員がメンターを担当するようにしています。同じ部署の先輩だと言いにくいこともありますよね。そうしたところをメンターがフォローする形にしています。」
石田さん
「新入社員によっては、思っていることをなかなか話すことができない人もいるのですが、上辺だけのやりとりになってしまうと意味がありません。本人が言いたいことをちゃんと汲み取ることを意識するという面では、メンターとなる先輩社員の勉強にもなっているのではないかと考えています。」
石田さん
「また、“週末会”と称して、毎週末に新入社員と先輩リーダーが話す場を設けています。当社では係長的なポジションをリーダーと呼んでいるのですが、各部署のリーダーが月替わりで週末会を担当する形にしています。先輩社員との交流の機会になるだけでなく、同期の仲を深める機会にすることも意識しています。1回30分以内で設定しています。」
中田さん
「私は週末会には参加していませんが、週末会で話した内容は議事録にまとめて私に回ってくる仕組みにしており、必ず目を通してコメントしています。週末の過ごし方や趣味の話などが中心になっていて、仕事の話はほとんどないようです。週末会は金曜日の仕事終わりの時間の実施であることと、入社後最初の3か月は残業無しと決まっていることで、確実に帰れるという安心感のもと、オフモードでの会話になっているのかもしれません。」
石田さん
「また、入社後にギャップを感じることを極力減らすために、入社前に当社のことを理解してもらうことを大事にしています。採用活動の中で学生から『社風はどうですか?』と訊かれることが多いのですが、こちらからは話さず、代わりに説明会の段階で必ず工場見学に来てもらうようにしています。ウェブ説明会の場合も、タブレット端末のカメラで現場の様子を写しながら、私が先輩社員に話しかけてやりとりしている様子をみてもらうようにしています。長く一緒に働いていくためには実際に自分の気持ちを感じてもらうことが大事だと思っています。当社のいろいろな雰囲気を感じとってもらった上で、良いと思ったらぜひ一緒に働きませんか?というスタンスでお伝えしています。」
中田さん
「ただ、仕事内容に関しては入社してからギャップを感じることがあると思います。当社の技術力の高さに魅力を感じて、自分もそうなりたいと思い入社する人も多いのですが、当社に入れば誰でもなれるというわけではもちろんなく、一人ひとりの努力が必要になります。また、当社の仕事は納期が短いものも多く、寸法公差という厳しい精度があるので100分の1mmズレただけで失敗になり、失敗による損失は何万円にもなります。こうしたこともあり、当社の仕事に対する姿勢は厳しいので、自信をなくしてしまうこともあるようです。」
中田さん
「今の新入社員は誰かに迷惑をかけたり、我慢をしたりする経験が私たちの世代よりも少ないと感じることがあります。そうした世代に私たちの世代のやり方を押し付けるのではなく、今の若い世代の前提に立って関わることが大切だと考えています。」
「おやじ休暇」や「記念日休暇」など、社員が有休を取得しやすい仕組みを導入している
次に、働きやすい職場づくりのための取組みについてお話を伺った。
中田さん
「2010年頃まで、製造現場の残業は恒常的に多い状態が続いていましたが、現在はさまざまな工夫をして残業時間の削減に努めています。たとえば、18:30以降も残業する場合は私(中田社長)の承認が必要という仕組みになっているので、勝手に残業することはありませんし、遅くても20時までには帰るようにしています。また、定時で帰る日を決めたり、代休をとったり、現場をまわしながら全体で残業時間を抑える工夫をしています。」
中田さん
「また、有給休暇は月1回必ずとるようにしています。特に、私世代の男性は有休をとることにとても罪悪感があるので、2016年に“おやじ休暇”という仕組みを作りました。対象は10年以上在職している社員です。特別な休暇という訳ではなく、通常の有休休暇を利用する形なのですが、“有休”と言うと抵抗があるので、“おやじ休暇”という名前にして、社長命令で月1回絶対にとらなければいけないという形にしています。“おやじ休暇”を始めた頃はそれでも抵抗感があってなかなか利用が無かったのですが、今は皆、利用してくれるようになりました。」
石田さん
「“記念日休暇”もあります。これも通常の有休休暇の利用なのですが、誕生日や結婚記念日など、一人ひとり事前に“記念日”を決めてもらっています。そして、経営計画書の年間スケジュールに、誰がいつ記念日休暇で休むのかあらかじめ全員分書き込まれているので、堂々と休むことができます。記念日休暇には、会社からホールケーキかお花をプレゼントしています。」
【写真1】経営計画書 中田さん
「経営計画書は、毎年手帳の形で制作して社員全員に配っています(【写真1】参照)。評価制度や給料・賞与、交通費、勤続表彰など、社員に知ってほしい情報を詰め込んでいます。毎週の朝礼では、“今日は〇ページ”と言って読み合わせをして、各種制度などこういう意味でやっているものだということを私から併せて伝えています。また、年に一度開催している構想会議の中で変えてほしい項目について意見を訊き、変更を反映してきています。」
中田さん
「また、経営計画書の中では、会社として“やってほしいこと”、“やってはいけないこと”も明確に伝えるようにしています。たとえば、お客様への対応方針について、新規のお客様と既存のお客様のどちらを大事にするか。同じ条件であれば当然既存のお客様という答えになると思うのですが、同じ仕事内容で既存のお客様からは1万円、新規のお客様から100万円でと言われたら、新規のお客様と言いたくなると思います。会社の方針を踏まえて、そういうときも『既存のお客様の方を選ぶこと』と言っています。他にも、品質と納期のどちらを重視するのか。もちろんどちらも大切です。でもどちらかをとらなければいけないとなったら、『納期よりも品質を大事にすること』と伝えています。日々の業務の中で、どうしても迷う時が出てきますので、そのような時にこの手帳を見て社員一人ひとりが判断できるようにしています。」
石田さん
「その他、健康経営の取組みとして、昼食の費用補助を行っています。健康に特化した弁当屋のお弁当を、半額以下で食べられるようにしています。秋の季節であればタケノコの炊き込みご飯が入っているなど、季節に応じたこだわりのヘルシーメニューになっています。一人暮らしの社員だとどうしても栄養が偏ってしまいがちなので、昼食だけでもしっかり食べてもらえたらと考えています。」
石田さん
「また、事務所の階段の途中に『〇キロカロリー』という表示を貼っています。当社の応接室は3階にあるのですが、工場なので1階分が通常よりも高くなっており、上がってくるのがしんどいというお客様が多かったので、少しでも楽しんでもらえたらと思っています。」
社長自ら全社員と毎週必ずチャットのやりとりをすることで、社員が一人でストレスを抱え過ぎない環境を作っている
最後に、社員のメンタルヘルスケアに関する取組みについてお話を伺った。
中田さん
「毎週全社員とチャットでやりとりしています。毎週木曜日に、“A:今週良かったこと”、“B:今週良くなかったこと”、“C:AとBを踏まえて来週やりたいこと”、を一人ひとり送ってもらって、私(中田社長)から一人ひとりにコメントを返しています。文句でもなんでもどんどん書いてと言っています。とにかく思っていることや不満を溜めるなと。文字にした方が伝えやすいこともあると思います。5年ほど前に交換ノートの形ではじめて、3年前にスマートフォンによるチャットに変更しました。」
石田さん
「Aに今週良かったことを書くことで、1週間に1個以上は、良いことを見つけることができていると思います。大層なことでなくてもいいと言われているので、『あ、そういえばあの時こうやってもらって嬉しかったな』とか、そういう小さなことを思い出す機会になっていると思いますし、そういう気持ちがあると、相手にも『あの時めちゃ嬉しかった』など言いやすくなっていると思います。Bはなかなか難しいです。忙しく仕事をしていたらすぐ1週間経ってしまうので、今週どうだったかなと、思い返して考えるようにしています。Cは来週のことを書くので、必ず自分の業務カレンダーを見て、『来週はこういう予定があるからこのようにしよう』と、来週に向けての気持ち作りの時間になっていると思います。」
中田さん
「社員とのやりとりをはじめたきっかけは、信頼していたベテラン社員が辞めたことです。辞めた理由はいろいろあったのですが、その一つに、社員に頼られ過ぎてしんどくなってしまったことがありました。その人は、頼られたら一つ一つ丁寧に対応するので、ますます社員から頼られてしまって、どんどんしんどくなっていたようです。『社長の方針は大好きだけど、これ以上ここで頑張ったら社長を嫌いになってしまう』と言って辞めていきました。それがつらかったです。」
中田さん
「でも、彼が本音を私に言ってくれなかった訳ではないんです。私が言わせていなかったんです。言いたかったこともあったと思うのですが、私が日頃から理想ばかり話していたから、私に弱みを見せることができなかったのだと思います。私の方も弱みを見せていなかったのかもしれない。だから、今はできるだけ私の方から社員に弱みを見せるように努力しています。社長はいつもキレキレで元気で、なんでもできると思われると、皆が頼るし、社長が全部正しいという話になってしまいます。だからこそ、私自ら、しんどいとかつらいとか完璧じゃないとか、しょっちゅう言うようにしています。」
中田さん
「学生さんと話していた時に、私が間違ったことを言ったら社員が即座に突っ込んだんですね。それを見た学生さんが、『さっき社長が話していた途中で、社員の方が“社長、それ違います”と言えるところが、僕はいい会社だと思いました』って言ってくれたんですよ。それは嬉しかったですね。」
中田さん
「自分の時間をちょっと削ってでも、『私がやりますよ』と言ってくれる人がいるんですよね。その人たちのおかげで、この会社は成り立っていると思いますし、私も甘えてしまうこともあります。ただ、行き過ぎると過剰なストレス負荷になってしまいます。そのため、『何かあれば、24時間いつでも言っておいで』と社員には伝えていますし、『ありがとう』、『無理し過ぎちゃう?』、『どっかで休みやー』と日頃から多く声をかけるようにしています。」
【ポイント】
- ①メンターの配置やリーダーとの交流の機会など、新入社員が社内の人間関係をスムーズに広げられる工夫がされている。
- ②「おやじ休暇」や「記念日休暇」など、社員が有休を取得しやすい仕組みを導入している。
- ③社長自ら全社員と毎週必ずチャットのやりとりをすることで、社員が一人でストレスを抱え過ぎない環境を作っている。
【取材協力】株式会社中田製作所
(2022年12月掲載)
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