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ボッシュ株式会社
(東京都渋谷区)
(鯨井さん、戸澤さん、水野さん)
ボッシュは、1911年(明治44年)に日本で事業を開始して以来、コーポレートスローガンである「Invented for life」を体現する革新的なソリューションを提供し、日本社会の生活の質の向上に取り組んでいる。モビリティソリューションズ、産業機器テクノロジー、エネルギー・ビルディングテクノロジー、消費財の4つの事業領域において、ニーズに応じたサービスや製品を提供している。
ボッシュ株式会社の従業員数は約6,700名(2020年6月現在)。渋谷本社には約500名、一番大きな工場がある埼玉県東松山工場には約1,500名が勤務しており、その近くにボッシュ健康保険組合の拠点がある。その他、全国に工場、事務所、研究開発施設等がある。
なお、職場復帰支援の取組みに関しては、2017年4月掲載のボッシュの取組事例のページを参照願いたい。
今回は、ヘルス・セーフティ・エンバイロメント部ゼネラル・マネージャーの水野英二さん、同部の鯨井幸洋さん、人事部門ボッシュトレーニングセンタージャパンの戸澤健太さんからお話を伺った。
研修の対象者や目的などを踏まえて、英語版資料の作成や、eラーニングの活用など、研修内容や実施形態を工夫する
最初に、メンタルヘルス研修の実施状況について、戸澤さんを中心にお話を伺った。
「メンタルヘルスに関する研修は、主に3種類実施しています。1つは、新入社員を対象としたものです。入社時のオリエンテーション研修の全体プログラムの中にセルフケア研修を位置づけています。ボッシュ健康保険組合のカウンセラーがセルフケアについて講義しています。」
「2つ目は、中途採用の社員を対象としたものです。新入社員同様、オリエンテーション研修の中にセルフケア研修を位置付けています。中途採用社員向けのオリエンテーション研修の全体プログラムは、2020年から実施形態をeラーニングに変更しました。当社では、2020年春頃の新型コロナウイルス感染症の拡大前から、デジタルツールを活用した研修について検討を進めていました。その上で、メリットデメリットを踏まえてメリットが大きいと判断できる研修内容についてはeラーニングに移行するという方針が立てられました。中途採用社員向けのオリエンテーション研修は、講義中心で、双方向のやりとりの少ない内容でしたので、講師や受講生の拘束時間、コスト面、感染症対策などとのバランスも踏まえて、eラーニングに移行することを決めました。実際にやってみて、社員自身の都合の良い時間に受講できるという面や、講師の想いが詰まった教材への満足度の高さなど、プラスの面が多く見られました。他の社員と実際に会いたかったといった意見ももちろんありましたが、その点は事前に想定していましたので、他の研修などの機会を活用して補っていきたいと考えています。」
「eラーニングでのセルフケア研修では、“こころの耳”サイトの“eラーニングで学ぶ「15分でわかるセルフケア」”を活用しています。また、当社は外資系企業で、外国人の社員も一定数いるため、こころの耳運営事務局の許可を得た上で、“eラーニングで学ぶ「15分でわかるセルフケア」”の英語版も独自に翻訳して作成しました。受講状況は、当社の研修管理システムにてトレーニングセンター側で把握できるようになっていますので、一定期間未受講の社員には受講勧奨しています。」
「3つ目は、製造ラインの監督者を対象としたものです。製造系部門で、技能員だった者が管理監督する立場に昇格するタイミングで、安全衛生に関する研修を実施しており、その中で、ボッシュ健康保険組合のカウンセラーがメンタルヘルスについて講義しています。3時間の研修で、部下へのケアに関する内容と、セルフケアの内容を盛り込んでいます。」
「その他、“さわやかヘルスプラン”も継続して実施しています(詳細は2017年4月掲載のボッシュの取組事例のページに掲載)。2016年には、健康保険組合連合会の“すこやか保健事業表彰”の最優秀賞を受賞しました。長く継続して実施していることが評価されたようです。2020年は、コロナ禍で、集合研修の実施が困難となってしまいましたが、実施予定だった研修の内容を資料にまとめ、対象者に配布する形で、なんとか実施を継続することができました。」
必要に応じてオンラインでの相談対応も活用することによって、小さな事業所の社員にケアを行き届かせることにつなげる
次に、相談対応の状況について、鯨井さんを中心にお話を伺った。
「相談体制としては、大きな事業所に看護職(保健師・看護師)を1名ずつ、計6名配置している他、東松山市にあるボッシュ健康保険組合にカウンセラーを3名配置して、必要に応じて各事業所に出向いて相談対応する体制を整えています。」
「相談対応は基本的には対面で実施していますが、コロナ禍ということもあり、2020年からはオンラインでの面談も開始しました。もともと、営業所が北海道から九州まで全国各地にあり、そこで働いている社員へのケアは十分行き届いているとはいえない状況でした。今回のオンライン面談の開始を機に、そうした遠隔地への面談対応もできる体制を整えられたと考えています。また、2018年には全国各地の営業所からの要望に応じてカウンセラーが直接出向いて、メンタルヘルスに関するミニ講座も行いました。そこでカウンセラーの顔を知ってもらえていたことも良かったと思っています。」
「また、毎年実施するストレスチェックにおいて、高ストレス者のうち医師による面接指導を希望する人が非常に少ないことに課題意識をもっていました。そこで、医師による面接指導の前段階として、看護職やカウンセラーとの面談をうながしたところ、面談希望者の増加につながりました。」
「日頃のメンタルヘルスに関連する年間の相談人数は、看護職によるものが約1,000人、カウンセラーによるものが約800人程度で推移しています。2020年は、コロナ禍のため相談対応が難しい状況がありましたが、それでも看護職は約1,150人、カウンセラーは約500人と面談することができました。」
「社員にとってカウンセラーにいきなり相談するということはなかなかハードルが高いと思いますが、看護職がうまくカウンセラーとの相談を勧めてくれています。実際、カウンセラーへの相談につながった内、本人希望が4分の3、事業所の看護職や上司、人事担当者などの勧めによるものが4分の1となっていて、まわりがサポートする体制も構築できていると考えています。」
社員意識調査の結果を踏まえた改善活動や、職場の物理的環境を変えること、サンキューカードの導入など、職場環境をより良くするために多様な角度からアプローチする
最後に、働きやすい職場をつくるための取組みについて、水野さんを中心にお話を伺った。
「主に3つの取組みを行っています。1つは、社員意識調査の実施です。2年に1回、ボッシュ全体で実施しているもので、職場環境や他部署との協力体制、部署内のコミュニケーションなどに関する約60問の質問に従業員が回答し、その結果を事業所や部門ごとに算出し、改善活動につなげていくものです。結果は管理職に届くようになっており、満足度の低い項目や、前回と比べて満足度が下がっている項目などを踏まえて、改善活動の内容を部下と相談しながら決め、実際に改善活動を行い、PDCAサイクルを回す、という形で実施しています。この活動を通じて、よりよい働きやすい職場環境を作るということを目指しています。コロナ禍ということもあり、直近の実施は2017年となっていますが、状況が落ち着いたら再開する予定です。」
「2つ目は、IWC(Inspiring Working Condition)というコンセプトに基づいた、職場環境づくりの活動です。今は、変化のスピードが早く、他部署との協働や創造性がこれまで以上に求められる時代になってきました。そのため、職場環境を変えることを通じて、新しい時代に求められる働き方にマインドを変えていく取り組みをしています。その一環として、渋谷本社を全面リニューアルいたしました。フリーアドレスを導入し、その日に好きな場所で仕事をすることができるようになっています。また、瞬時に情報共有ができるコラボレーションエリアや、集中して仕事ができるフォーカスルーム、個人に合わせて高さを調整したり立って仕事のできる昇降式の机など、様々な環境を整え、個人の働き方や仕事の特性、健康状態などに応じて仕事ができる工夫を取り入れています。その他、社員が集まる憩いの場であるコミュニケーションエリア「The NEST」には、卓球台や本物の車で作ったミーティングスペースなど、感性を刺激し創造力を高めて仕事ができる仕掛けを展開しています。」
「3つ目は、サンキューカードの導入です。もともと、上司面談を年3回実施しており、その中で上司から部下へのフィードバックは実施していました。加えて、上司から部下へのフィードバックだけでなく、組織内にプラスのフィードバックが促進される文化を創り出すことを目的に、2019年からThank you cardを導入しています。当社のリーダーシップの3つのキーワードである“Spark”、“Respect”、“Initiative”に合わせて3種類のカードを用意しており、お世話になった方や身近な方に感謝の気持ちを伝えるツールとして活用されています。感謝の気持ちを言葉にして伝えることで、仕事に対するモチベーションが高まると、従業員から感想が寄せられています。」
「職場環境をより良くし、社員同士のコミュニケーションを活性化することによって、社員のメンタルヘルスの向上にもつながると考えています。」
【ポイント】
- ①研修の対象者や目的などを踏まえて、よりよい研修内容や実施形態などを検討することによって、より効率的かつ効果的な研修の実施につながる。
- ②必要に応じてオンラインでの相談対応も活用することによって、対面での相談対応の難しい小規模の事業所の社員に対しても支援が届きやすくなる。
- ③職場環境を物理的に変えることが、目に見えないメッセージとなり、社員のマインドセットの変化につながる。
- ④サンキューカードを導入することによって、普段見えにくいフィードバックを可視化することができ、社員のモチベーションの向上につながる。
【取材協力】ボッシュ株式会社
(2021年3月掲載)