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南海放送株式会社
(愛媛県松山市)
南海放送は、1953年開局。愛媛県を放送対象地域としたテレビやラジオの放送事業を行っている。
社員数は112名(2020年12月現在)。
今回は、代表取締役社長の大西康司さんからお話を伺った。
メディア業界のイメージを払拭し、健全な働き方を定着させるため、トップダウンで取組みを推進する
最初に、メンタルヘルス対策に取り組むに至った経緯についてお話を伺った。
「当社がメンタルヘルス対策に本格的に取り組み始めたのは2017年頃です。放送局は、いわゆる3K、4Kの仕事と言われていて、長時間労働や、肉体的に大変な仕事が多く、また、長時間働くことが“誇り”という職人気質の面もありました。それには良い面もあったのだと思いますが、弊害も出てくるようになり、当時の社長(現会長)が『このままではだめだ、働き方を変えよう』と旗を掲げ、取り組み始めました。」
「取り組みを始めて3、4年が経ちましたが、良い効果が出てきていると感じています。例えば、ストレスチェックは3年連続で受検率100%を達成しているのですが、全体のストレス度合いを示す“総合健康リスク”は年々減少傾向にあります。また、当社が利用しているストレスチェックシステムの集団分析結果から算出される“いきいき度”も高いとの評価を受けています。」
「ストレスチェック実施初年度には、当時の社長(現会長)が『ストレスチェック結果から職場環境の良い部署は褒めよう』と発案し、表彰制度もスタートしました。良い雰囲気で良い仕事をし、適切な働き方で、仕事の成果としても良い結果を出しているところは褒めていこうということで、社長賞として始め、現在も継続しています。」
「ストレスチェックについては、当社の社員のみを対象にすると約110人ですが、同じ職場で一緒に働いている人も含めようという考え方のもと、非正規社員も対象としています。そして、2020年はグループ会社全体まで拡げ、約210人を対象に実施しました。」
目的に応じたチームを作り、適任者を選任し、自由な発想で取組みを展開してもらうことによって、効果的な取組みが生まれる
次に、職場のメンタルヘルス対策の取組み全体について、お話を伺った。
「職場のメンタルヘルス対策の土壌づくりとして、働き方改革の取組みを推進するため、2つのチームを作りました。1つは、社内の部長クラスで構成する“働き方改革推進チーム”です。このチームは、業務改善に関する内容を中心に取り組んでもらっており、副業解禁などを検討し、会社の規程類の変更などを行ってきました。その中でも特に積極的な取組みとしては、“カエル会議”があります。“カエル会議”とは、部署のメンバーで意見を出し合って、より効果的な解決策を考えて実施していくという取組みです。こうした取組み方があることを外部研修で知り、当社でもやってみようと、まずは内勤業務の多いラジオ編成の現場で実施してみることにしました。部署の課題を参加者全員が付箋に書き出し、課題に対する解決方法を話し合い、具体的な行動に落とし込んでいきました。その上で、最終的に『スキルマップを作ってみよう』と決まりました。一人ひとりがどの業務ができるのか、業務の棚おろしを改めて確認し、特定の一人しかできない業務があれば、他の人でもできるようにしていこうと考え、属人化を防ぐ業務改善につながりました。また、働き方そのものについても、“カエル会議”実施前は、『チームで動く』というよりは『自分の担当部分のみを深堀していく』という傾向が強かったのですが、“カエル会議”を通じて他の人の業務内容まで理解することができ、部署全体の仕事の流れがわかるようになったといった感想が聞かれました。」
「もう1つは、関連会社を含む女性社員を中心に構成された“ワークライフバランス推進チーム”です。こちらは、育児、介護の問題などきめ細かい働き方に関する提言をしてもらうために立ち上げました。具体的な取り組みの1つが、“パワーフレーズの社内掲示”です。自由闊達でポジティブな職場の雰囲気を作るため、社員からパワーフレーズを集め、トイレなど目に留まるところに掲示していきました。パワハラ・セクハラに関する注意喚起の内容も同様にトイレに掲示しています。トイレに行くたびに目に入るので、意識化されることで効果があると感じています。(【写真1-1、1-2】参照)」
「社内研修や相談対応にも力をいれています。社内研修は、外部講師を招いて、アンガーコントロールやハラスメント研修、キャリアに関する研修などを定期的に実施し、様々な知見に触れる機会を作っています。また、産業カウンセラー資格のある社員を中心に社員からの相談に対応しているほか、“レスキューメール制度”という、グループ全体のハラスメント通報窓口を設置しています。」
「取り組みを進めるに当たっては、なかなかスムーズに進まないこともありましたが、当時の社長(現会長)が、適宜、『とにかくやるんだ』とトップダウンで進めていくことを伝えたことで、社内関係者にも協力してもらい、前に進めてくることができたのだと思います。」
アンケート調査や面談など、様々な形で社員の意見をくみ取り、可能な限り実現していくことが、健康経営の実現につながっている
最後に、働きやすい職場をつくるための取組みについて、お話を伺った。
「働きやすい職場づくりの取組みは、10年ほど前から少しずつ進めてきました。その1つが“異動希望調査”です。以前は人事異動といえば“天の声で決められている”といった感じでしたが、10年ほど前からは年に一度異動希望調査を実施し、人事異動を検討する際の大切な要素の1つとして扱っています。」
「異動希望調査と併せて、“意識アンケート”と“希望兼務調査”も、毎年実施しています。意識アンケートは、たとえば、親の介護が必要になりそうだとか、子どもが進学したなどといった家族の状況について書いてもらっています。普段、家族環境の変化を把握する機会はなかなかないので、意識アンケートに可能な範囲で書いてもらって、その状況も考慮して、異動や転勤などを総合的に決めるようにしています。希望兼務調査は、たとえば営業にいる社員が報道もやってみたいといった、社内での兼務希望を叶えるためのものです。自分のやりたいことと現在の仕事を両立させ、いきいきと働けるようにすることを目的に実施しています。」
「また、上長と部下との面談も、10年ほど前から年に2回実施しています。事前に、経営方針を踏まえた今後の目標と、過去1年間の実績を部下が自分自身で資料にまとめた上で、それをもって上司との面談に臨みます。普段からコミュニケーションはとっていますが、この面談では形式立てて、部下から示された目標に対して、上司からアドバイスをしたり、上司はどのようなサポートができるかということを話したりしています。派遣社員や業務委託の方に対しても、人事部門が年2回ほど面談をしています。過度なプレッシャーがかかっていないか、気になっていることはないか、といったことを人事部門が集約して、必要に応じて現場にフィードバックしています。以前は、ハラスメントなどの問題がたまにありましたが、このような形式の面談を始めた後は、早期に対応することができているようで、大きな問題になることは無くなりました。」
「その他、『昼食をゆっくり食べられるスペースがない』という社員からの意見を踏まえて、“コミュニケーションルーム”を新たに設置しました。コミュニケーションルームといっても、きっちりした部屋を作ることは難しかったので、1階のオープンスペースにパーティションを置く形にして、イベント開催時でも対応できるよう、柔軟に使えるようにしています。また、新型コロナウイルス感染症の影響で学校が休校になった際には、このコミュニケーションルームが、子どもの託児スペースとしても活躍しました。(【写真2-1、2-2】参照)」
「2020年には、放送局で初めて“健康経営優良法人2020(大規模法人部門)”の認定をいただきました。申請準備段階においては、幸い、過去に取り組んできた様々なことが健康経営の取組項目に多く当てはめることができたので、申請そのものはそれほど大変ではありませんでした。」
「当社は放送局ですので、啓発的なこともやっていく必要があると考えています。そのためにも、社内はもちろん、地域社会に向けても、私たちは、『従業員の健康管理を経営的な視点で考え、戦略的に取り組んでいる』ことを自ら示すことが必要だと考えています。旗振り役としてこれからも取り組んでいきたいと考えています。」
【ポイント】
- ①経営者が自ら「働き方改革を進める」といったメッセージを発信し続けることで、社内での様々な取り組みが進めやすくなる。
- ②目的に応じたチームを作り、適任者を選任し、そのメンバーが自由な発想で検討している。その中で実現可能な取組みを展開することにより、効果につながっている。
- ③トイレなど目につきやすい場所に伝えたいメッセージを掲示することで、社員に行き渡りやすくなる。
- ④上司と部下間の定期的な面談の機会を設けることが、問題の早期対応につながる。
【取材協力】南海放送株式会社
(2021年2月掲載)