読了時間の目安:
約8分
運輸業C社
(福岡県)
福岡県にある、運輸業C社の支店従業員数は約300人である。
今回は、総務課長、保健師の2人からお話を伺った。
毎月1回、保健師等が事業所内を巡回し、健康面で気になる社員に声がけや個別面談を行うことが早期対応につながる
最初に、メンタルヘルス対策の取組およびストレスチェックの取組について2人からお話を伺った。
「当社では、各拠点に、保健師や看護師の資格を持った専門職を配置しています。また、支店ごとに産業医を配置し、就業上の配慮が必要な際の産業医面談の他、ストレスチェック後の高ストレス者のうち医師による面接を希望する者、あるいは保健師等が必要と判断した者に対し、産業医が面接対応しています。」
「毎年、本社から“安全衛生管理方針”およびその方針を具体化した“安全衛生特別強化項目”が伝えられ、安全衛生に関する取組計画の他に、各支店で重点実施項目を決め、活動を行っています。毎年6月は、“メンタルヘルス対策推進月間”と定められており、当支店では、その時期にあわせてストレスチェックと集団分析を実施しています。福岡市内の他の支店と合同で、保健師等と産業医とで定期的にミーティングを実施し、情報交換を行っています。」
「年間スケジュールとしては、4月に新入社員に対し、衛生講話としてメンタルヘルスを含む心と身体のセルフケアについて私(保健師)が話をしています。心の病気は、心の弱い人が罹患するのではないということや、ストレスの対処法、会社で実施しているストレスチェック制度などについて説明をしています。また、職場において様々な人間関係で悩んでいる方が多いということから、他者との関わり方の特徴について理解するためエゴグラムを使って交流分析に関する学習を行ったり、ストレスコーピングについて学んだりする他、自発的に相談することの必要性も紹介しています。さらに、当社独自にまとめたメンタルヘルス不調の気づきを促す冊子を、入社時に全員に配布しています。」
「5~6月には、定期健康診断の実施に合わせて、検査結果の他、自覚症状のチェックをもとに、気になる方には保健師等が個別面談を行っています。」
「当社では、2003年から全社的にストレスに関するチェックに取り組んでいます。当初は、セルフケアチェックの一環として、イントラネット上で“自分でできる健康プログラム”として始めました。ストレスチェックが義務化される前から取り組んできた背景として、当時、社会的にも職場のストレスを感じる方が増加してきていたことや、当社としても全社的に疾病休業統計の休業延べ日数の病類上位にメンタルヘルス疾患が上がってくるようになったことがありました。」
「当支店では、ストレスチェック義務化後の2016年から毎年ストレスチェックを実施し、集団分析についても、保健師が各所属長宛てに集団分析結果に関するコメントを追記して返却しています。また、安全衛生委員会においても、集団分析結果を共有しています。」
「高ストレス者に対しては、個人結果シートと一緒に面談などについての案内文を同封しています。案内文では、医師による面接指導を受けるか否かは任意ですが、自身で気づいていない心身不調を把握するきっかけにもなることから、面接の必要性について伝えています。併せて、支店で外部委託しているカウンセラーによる面談の案内や、健康保険組合の相談窓口、公的機関の相談窓口をお手紙で案内しています。」
「その他、保健師は毎月、管内の事業所を巡回し、個別面談を行っています。一般的な健康相談の他、メンタルヘルス不調者や高ストレス者などフォローが必要な方には、巡回の中で声掛けや面談を行っています。すぐに医療機関への受診が必要か、それともまずは生活習慣の改善を行うのかという見極めが大切で、医療機関や産業医への円滑な橋渡し役として活動しています。実際、産業医の面接指導につなげて、あまり眠れていなかった方へ睡眠指導をしたり、体調が悪かった方に受診を勧めたりしました。また、日常の面談の中で得た情報は、個人が特定されない形で、技能系社員・事務系社員別、悩み分類別に安全衛生委員会で報告し情報共有しています。その他、所属長から、部下の勤怠状況が不安定であるとか、仕事でミスが多い、職場にうまく適応できていないなどの相談も寄せられます。」
毎月、保健師等が事業所内を巡回し、健康面で気になる社員に声かけや個別面談を行うことで、早めの受診勧奨や産業医面談につながる。ストレスチェックの高ストレス者に対し、保健師等も積極的に面談をしている。また、巡回し話を伺うことにより職場環境などの把握もでき、管理職への提案もしやすくなる。
職場環境に関してアンケートを行う際、事前に安全衛生委員会などで必要性を説明することで回収率が高くなる。
次に、ストレスチェック後の集団分析結果などによる職場環境改善活動の取り組みについて、お話を伺った。
「厚生労働省の“ストレスチェック制度実施マニュアル”の中で、集団分析の結果に基づく“職場環境の改善”において、具体的な改善活動と計画策定を促すツールとして“メンタルヘルス改善意識調査票(MIRROR)”(以下「MIRROR」)が紹介されていました。現場を対象に無料で利用できる点から、当支店でも利用することにしました。安全衛生委員会で事前に説明し、ご理解いただいてから実施しました。」
「ストレスチェック実施時の集団分析結果に基づき、昨年は総合健康リスクの数値が高い5部署に対して、MIRRORを実施しました。社員は無記名で記入し、各部署で回収の上、保健師に提出してもらいました。回収率は99.0%とほぼ全員に提出していただき、とても協力的でした。そして、MIRROR実施後2週間ほどで、各所属長に結果を返却しました。記入後、間を置かずに結果を返すことが大事だと考えたからです。リストアップされた各職場の“良いところ”と“改善の要望が高いところ”のそれぞれ上位10位をもとに、長所の項目の継続及び改善要望の課題への対策検討を、各部署で毎月実施している“職場全体会議”の場で、目標設定に向けてどこから取り組むのかを話し合い、実施してもらいました。」
「取り組み目標に関しては、部署によって違いが見られました。例えば、技能職の多い職場での“ノー残業デー実施”について、実際は難しいだろうと思いながらも、働き方改革の流れもあるため、今できるところから取り組んでいくことになりました。また、連携協力がうまくいっていない部署については、職場内の会議や、ちょっとしたミーティングの回数を増やすなどして情報共有の仕方の見直しを図るという目標を掲げていました。これらの活動がうまくいけば、職場環境の改善のみならず、残業を減らすことにもつながるのではないかと思っています。一つ一つ検討し、目標を掲げ、小さなことでも実績を積み上げていくことが大事だと思います。対象となった5つの部署においてMIRROR分析の要望率が高い項目を見ると、社員が何に悩んでいるのか明らかになります。ちょうど1年経過したところですので、管理職の方と、実際に取り組めたのか、取り組んでみてどうだったかの評価を今年は集めたいと思っています。」
職場環境に関してアンケートを行う際、事前に安全衛生委員会などで必要性を説明し理解を得ることで、回収率が高くなると思われる。さらに、結果の返却が早いことで、分析結果を職場の実態と合わせて実感することができる。職場環境改善のためには、一つ一つ課題を検討し目標を掲げ、小さなことでも実績を積み上げていくことを社員が実感することが大切である。
【ポイント】
- ①毎月保健師等が各事業所を巡回し、健康面で気になる社員に声かけや個別面談を行うことが早期対応につながる。
- ②職場環境に関してアンケートを行う際、事前に安全衛生委員会などで必要性を説明し理解を得ることで回収率が高くなり、より職場の実態に合った分析結果が見えてくる。
- ③様々なツールを活用しながら、職場環境改善の取り組み目標を掲げ、小さなことでも実績を積み上げていくことを社員が実感することが大切である。
(2020年9月掲載)