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オムロン ソーシアルソリューションズ株式会社
(東京都港区)
オムロン ソーシアルソリューションズ株式会社は、事業を通じてよりよい社会づくりに貢献するというオムロングループの一員として、人々が安心・安全・快適に生活できるソリューションを提供している。主に、券売機、自動改札機など駅務機器システムや交通管制システムなどソーシャルオートメーション事業を展開している。顧客と深く結びついてシステムの提案や構築を行うことで、社会システムの自動化・高度化を通じた渋滞緩和等の社会価値を創造している。
従業員数は671人(2019年11月現在)。滋賀県の野洲に開発生産や品質保証などを担う主要拠点があり、450人近くが在籍している。それ以外は東京の本社ならびに全国の営業拠点に在籍している。
今回はオムロン ソーシアルソリューションズ株式会社 人財開発センタ センタ長の小林史彦さん、オムロン エキスパートリンク株式会社 総務センタ東日本エリア統括部東京事業所 事業所長の久保文彦さん、保健師の野崎律子さんと星野寛子さんの4人からお話を伺った。
産業保健スタッフ部門と人事部門が連携し、管理監督者主導型アプローチによる職場環境改善活動を実施
産業保健スタッフ部門による日常的な面談内容のサマリーと、ストレスチェック後の集団分析結果のデータと考察をもとに行った管理監督者主導型アプローチによる職場環境改善活動についてお話を伺った。
久保さん、野崎さん、星野さん(オムロン エキスパートリンク株式会社)
「オムロン ソーシアルソリューションズ株式会社では過重労働・メンタルヘルス対策の一環として、“時間外労働時間が月40時間を超えた場合”のほか、“入社や転勤等で新たな部署に配属されてから3か月後”の該当者全員に対して、問診システムによる疲労度チェックを行う仕組みがあります。その結果、健康リスクの高い社員に対しては必ず面談をしています。1人あたり30~45分ぐらいかけて話を聴きますので、健康状態はもちろん、働く環境を詳しく把握できる機会になっています。」
「以前はオムロングループの各会社に、安全衛生スタッフがおり、各会社で雇用された保健師などが産業保健活動を行っていました。2018年4月にオムロングループの産業保健を含む人事・総務・経理領域の間接業務をひとつに集約して、オムロン エキスパートリンク株式会社(以下、OLI)が新たに設立されました。現在私たちは、オムロン株式会社だけでなく、グループ会社の健康課題に対するアプローチや、メンタルヘルス対策の支援も行っています。その一つが、今回のオムロン ソーシアルソリューションズ株式会社(以下、OSS)における職場環境改善活動のサポートです。(【図1】参照)」
【図1】OLIとOSSの関係図
「最初、職場環境改善活動に関して、これまでオムロングループで実施してきた“従業員参加型アプローチ”をOSSに提案しましたが、手法になじみがなく、職場全員が集まってここまで実施するにはハードルが高いし、時間の確保が難しいという意見がありました。」
「そこで、日頃の関わりを通して把握しているOSSの事業特性や組織風土から、比較的トップダウンだと進めやすいと考え、OSSの職場環境改善の手法としては、管理監督者の自主性を引き出し、部署ごとの特徴を反映した対策が実施できる“管理監督者主導型アプローチ”が適していると判断しました。そして人財開発センタ長の小林さんにアドバイスを求めたところ、まずは経営層にこの職場環境改善活動の“方針の決定と指示”を出してもらうための説明の機会を小林さんが設けてくださいました。実際の経営会議の場では、ストレスチェック制度においても職場環境改善活動がストレスの改善に有効であり、生産性の向上にも効果があることを示しました。労働者健康安全機構のパンフレット“これからはじめる職場環境改善~スタートの手引き~”に書かれているエビデンスを抜粋し、職場環境改善に取り組むには医療職や管理職が一体となって進めていく必要があることを説明しました。」
「実行計画の流れとしては、7月にストレスチェックを実施し、外部委託先から9月末に集団の分析結果が返却され、10月中に私たちの方でフィードバックレポートにまとめ、職場環境改善策の提案をします。そして経営層の合意を得たのち、安全衛生委員会で審議した上で、11月~12月に、組織別に説明会を開催します。意識したのは、目的や計画を明確にするだけでなく、具体的にスピード感をもって組織的に進めたことです。」
「実際の組織別のフィードバック説明会は、現場の負担を考え、限られた時間で効率的に行いました。具体的には、管理職を構成メンバーとする部門会議の中で、1時間から1時間半程度の時間をつくってもらい、管理職同士で話し合うグループワークも組み入れました。そして8つのすべての部門に対して、約1か月間という短期間で実施しました。OSSの現場経験のある久保所長と私たち産業保健スタッフが現場の状況を理解しながら一緒に進められたことが大きいと思います。センタ長の小林さんにも可能な限り説明会に参加いただき、冒頭で重要性を話していただいたことも大きな力添えになりました。」
小林さん(OSS)
「ストレスチェック制度が始まって以来、これまで集団分析結果からみた当社全体の傾向や部門別の傾向などは、データをもとに部門会議でも報告はしていましたが、各自で自分の部署のデータを確認するだけに留まっていました。しかしながら、今回実施した組織別フィードバック説明会では、個別面談などを通じて普段から社員と接している産業保健スタッフが、現場の社員の視点から見えてくる忌憚のない意見と合わせて伝えたことで、管理職からも活発な意見が出てきて、双方向型でやり取りできました。」
久保さん、野崎さん、星野さん(OLI)
「当グループ会社のストレスチェックの質問票の中には、ワークエンゲージメントを測る質問項目も入っています。日々、OSSの社員の相談対応をしている中で、各世代で職業生活に対する考え方や思いの相違が世代間の断層のようなものを生み、若手社員がなんとなく元気がないように感じていました。そこで、集団分析結果をもとにワークエンゲージメントが高くイキイキした人と、心身ともにストレスフルでヘトヘトな人を相対的に比較してみました。すると、40歳を境に、若い年代にヘトヘトな人の割合が多いという結果が出ました。また、経年の推移をグラフ化して別のグループ会社と比較したり、事業別、部門別などいろいろ分析したりしたことで、思いの外、はっきりとした違いが出ました。例えばストレス反応はOSSのどの年代でも同じように表れているものの、ワークエンゲージメントは、経年でみても、年代間による差が出ているといった特徴が見えてきました。ストレスチェックを継続実施してきたからこそ見えたものでもあると思います。」
「この差が何なのかを考えたときに、OSSの業務内容がシステム構築であることから、何かあればいつでもすぐに対応しなければならない点や、一定の顧客と長くじっくりと付き合わなければならない点が関係しているのではないかと考えました。つまりOSSではベテラン社員のほうが若手社員よりも顧客の満足と信頼を得やすく、若手社員は自身の力不足を感じやすい傾向にあると想定しました。また、日頃の保健師面談で気になった、各年代の仕事に対する思いや考え方の違いや、若手が将来の姿として描くベテラン像と現実のベテラン者の実態のギャップから、異なる世代間で意思疎通を図ることの難しさも実感していました。そこで、説明会は、分析結果を部門ごとに経年でまとめ、保健師からみたOSS社員の現状の声を添えたものを共有し、管理職同士のグループワークを通して課題解決を考えて頂く形式にしました。」
「グループワークで記入するシートは、自身の部署とグループワークの中で出てきた意見とを比較しやすいように、1枚にしました。その際、問題提起より、自身の部署の強みを活かすことにつながるよう、『良いところ、うまくいっているところを伸ばす』という視点に持っていくように心がけました。本質的な職場の現状に向き合いながらも、建設的な提案をしていただくように、事前に伝えて、ワークを開始しました。」
「すべての管理職にワークに参加してもらうと、様々なタイプがいることがわかりました。個々に改善策を記入してもらうにあたり、“白紙の人”、“組織が悪いと一点張りの人”もいれば、“厳しい環境にあっても自分ができることを考える前向きな人”など多様でした。その後、グループワークでそれぞれが自分の考えを語る中で、現場の特徴を踏まえて、『実はあの時こう言いたかったんだ』といった“言葉の裏にある思い”を話す人もいました。管理職全体でグループワークをするからこそ見えることがあり、この活動を続けることで、対象職場だけはなく、人事部門側と産業保健スタッフ側とでもさらに、情報共有し協力し合うことの必要性を実感しました。」
小林さん(OSS)
「人事部門としても、現在の状況に危機感を持っています。当社は国内市場を中心に、鉄道や道路交通など社会インフラを支えるお客様の特定の業務プロセスを自動化するという領域の中で価値を認められ、一定の限られた土俵の中で高シェアを占めるといった形で、長らくビジネスをしてきたという特徴があります。顧客の要望に応え、その顧客の満足を得ていれば仕事が続くという思いと、自分たちが社会インフラを支えているという誇りがあって、これまでベテラン層の中高年は多少の自己犠牲や長時間労働も厭わず頑張ってきたのだと思います。しかし、若い社員にとっては『自分たちはそうはなれないと思う』という、意識のギャップがあると思っています。これは、集団分析結果や日頃の相談対応から保健師たちが想定していた傾向と一致していることが見えてきました。」
「グループワークでの意見交換においても、顧客に近い部門と開発部門とでは、人間関係やコミュニケーションの重要度の捉え方に違いが見られました。顧客に近い部門は、より密にコミュニケーションをとることが、早めの問題解決が図られるので良いのではといった話になります。しかしながら、開発部門だと、コミュニケーションや身近な同僚との支援環境を作ることよりも、まずは業務をしっかりとまわすためのルールを作る、それが問題解決の手法だと考える癖があります。品質を大事にする以上、一定の手順やルールを定め、遵守することは大切な考え方ではありますが、人間関係までもルール化する手法に頼ってしまい、グループワークでの話が空回りしてしまっていた部門もありました。」
「人事部門としては、社員間の距離を縮め、関係性をよりよいものにするために、業務上の事柄だけではなく、なにげない対話の機会を多くつくることが必要であると考え、経営重点課題の一つに挙げました。そして、他に行った従業員意識調査結果などを通じて、管理職が部下との会話の中では、問題解決先行になりがちで、相手に考えさせることなく、すぐに答えとダメ出しを言ってしまうため、結果として対話そのものが少なくなっていることが分かってきました。そこで新たに管理職層の研修にコーチングを取り入れ、1対1の対話の機会を増やしていく活動を始めました。経営層から順次始めていますが、1対1の対話の機会を上司自身が体験することで、心理的に何を言っても許されるという環境を作ることの必要性を実感してもらい、お互いが信頼できる関係を作ることで若手社員からも自ら話ができる環境づくりを進めています。」
久保さん、野崎さん、星野さん(OLI)
「今回の取り組みを通じて、私たちOLIが各グループ会社に対して、ストレスチェック後の集団分析結果と日常的な相談対応によるデータや考察をもとにした職場環境改善の支援をどのように今後行っていけばよいかの役割が見えてきました。私たちが的確なデータを、より分かりやすくまとめて提供したり、改善策を提案、説明したりすることで、会社側も課題が見え、職場環境改善に取り組むきっかけに繋がります。職場環境改善や人事施策に反映・実施されるといった役割分担のもと、相互に作用しながらPDCAサイクルを回して継続していくことが大事だと考えさせられました。」
【ポイント】
- ①職場環境改善活動を実施するにあたり、経営層や安全衛生委員会で目的や計画、実施内容を具体的に示し、事前に了承を得る。
- ②管理職を対象とする既存の会議の中に、集団分析結果の説明会や職場環境改善のためのグループワークの時間を設けることで、管理職全員が容易に参加できるようになり、職場環境改善活動の実現可能性が高まる。
- ③具体的な職場環境改善には、職場の文化や特性を汲んで行うことが重要である。
- ④ストレスチェック後の集団分析結果データに加え、産業保健スタッフによる日常的な相談対応での気づきや考察をもとにまとめた報告書を、管理監督者に直接説明することで、職場環境改善活動の気運が高まる。
【取材協力】
オムロン ソーシアルソリューションズ株式会社
オムロン エキスパートリンク株式会社
(2020年2月掲載)