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株式会社ベネッセコーポレーション 東京本部
(東京都多摩市)
幼児や学生を対象とした通信教育や、試験・塾事業など「国内教育」事業を中心に、海外事業、語学、保育、介護事業など幅広い事業展開を行っている株式会社ベネッセホールディングス。
中核を担う株式会社ベネッセコーポレーションの従業員数は、約6,000人。本社のある岡山は約200人程度であり、現在は東京に業務が集中している。東京本部全体では正社員と契約社員約1800人、パート・アルバイト約4,000人である。
今回は、人財本部人財支援部労務課課長の市川竜さん、労務課相談デスク担当の佐藤宏次さん、堀口均さん、姫野久美さん(保健師)、人材企画室企画課の藤原美穂さんの5人からお話を伺った。
産業保健と人事労務のそれぞれの立場からなるチームで対応する「相談窓口」を設置
最初に、相談窓口の設置や研修などメンタルヘルス対策の取り組みと体制についてお話を伺った。
「当社は以前から、岡山本社と東京本部に産業医とは別に保健師を雇用するなどして、従業員の健康管理体制に力を入れていました。そして、2008年に当社のヘルスケア体制の見直し、“医療&保護モデル”から“マネジメント&自立モデル”への転換を掲げ、産業保健の立場からのサポートと、人事労務の立場からのサポートを統合し、従業員へのアプローチと同時に組織へのフィードバックを行える形を目指して、“相談デスク”を立ち上げました。」
「相談デスクの対象者は、本社支社合わせて全9か所、約6,000人です。相談デスクで受け付ける相談の内容は限定せず、仕事や心身の健康、職場の人間関係、キャリア関連など幅広く受け付けています。『どこに相談したらよいかわからない』という悩みは、『まず相談デスクまでご相談を』と従業員に伝えています。相談デスクがハブとなって、相談内容に応じて社内の各担当部署や関連する専門家と連携しながら、相談内容を解決していく流れになっています。産業保健スタッフが人事部門と一体となって専門性をいかしながら解決していくことが、この相談デスクの大きな特徴だと思います。」
(「【図1】ベネッセコーポレーションの産業保健体制」参照)
【図1】ベネッセコーポレーションの産業保健体制
「相談デスクは、現在常勤者が5名おり、うち保健師が2名在籍し、嘱託の産業医と連携しています。設立当初から、人事部門の労務課の中に相談デスクを設置しています。メンタルヘルス不調になった要因として業務量やハラスメントの関連が疑われる場合は、その対応を人事部門と一体的に取り組んでいく必要があるからです。相談デスクへの相談は敷居が高いと感じる従業員もいると思われるので、外部EAP機関による窓口も設置し、内容を会社に知られずに相談できるという体制も整えています。」
「相談を受けた際に、メンタルヘルスに関する内容であった場合には、産業医と面談し、意見をもらいながら、一緒に解決していきます。また、職場復帰支援や復帰後の支援も、産業医と連携しながら、相談デスクが行っています。」
「メンタルヘルス研修は、新入社員研修、入社後半年のフォロー研修の他、新任管理職への研修などで、必ず実施しています。特に力を入れているのは、新任管理職への研修です。管理職が職場のメンタルヘルス対策のキーマンだと考えているからです。当社では、2003~2006年にかけて、中途採用を大規模に行ったのですが、異文化から当社の文化にうまく適応できず、相当数のメンタルヘルス不調者が出た時期がありました。その際、新たに精神科専門医を産業医として迎え入れたのですが、その医師からラインによるケアを充実させ早期に部下の不調に気づき、早く対応することを指導されました。勤怠状況や、仕事のパフォーマンスに現われる“いつもと違うさまざまなサイン”に管理職がいち早く気づき、早期に相談デスクにつなぐということを徹底しました。この方針は現在も変わっていません。このようなラインケア研修は、新任管理職だけではなく、それ以前に管理職になった方々に対しても、この10年かけて行ってきました。」
「ラインによるケアを充実させることで、早く対応でき、病気休業期間や就業制限日数が減らせるという想定のもと、研修を行い、ケアができる体制づくりを進めてきました。データを見てみると、相談デスクを立ち上げた2008年から就業制限日数が徐々に減少しました。この10年間では約半分になっています。休業期間も短くなっています。また、メンタルヘルス不調による休職者数も2008年以降10年間で1/3までに減少しています。ラインによるケアを充実させてきたことで、就業制限日数の減少が実証されたと考えています。休業期間や就業制限日数の短縮により、労働損失を最小限に抑えることができてきたと思っています。」
産業保健と人事労務のそれぞれの立場からなるチームで対応する「相談窓口」を設置することで、個人だけでなく組織に関する問題が生じた時に、すぐに受け止め、解決策を共に考える仕組みができている。ラインによるケアの充実が、病気休業者数、休業期間、就業制限日数の減少につながっているようである。
職場復帰前に、復帰先の職場の上司と本人との面談を必ず行う
次に、職場復帰支援の取り組みについて、お話を伺った。
「休暇が2週間を超えたり、休業診断書が出たりした場合は、傷病休暇の申請書と主治医の診断書を提出してもらいます。休職中は人財支援部付けに異動となります。休職期間については、勤続年数によって日数を定めています。この期間で復職できなければ休職期間満了による退職となります。」
「休職に入る従業員には、直接、産業保健スタッフが面談をして、独自にまとめた“傷病休暇取得の手引き”をできる限り手渡しして説明しています。また、休職から復職までの一連の流れや手続きなどは社内のイントラネット上に公開しており、上司もいつでも確認できるようにしています。休職期間中は、基本的には相談デスクが本人との窓口となり、1か月に1回程度は、状況確認を行っています。」
「職場復帰においては、主治医の診断に加えて産業医の意見をもとに会社が最終的に判断する流れです。当社は所定労働時間が1日7時間ですが、1日7時間、週5日安定的に働けることが復職の基準ということで統一しており、さらに休む前の職場に復帰することを原則としています。これらは“傷病休暇取得の手引き”にも明示しており、復帰判定の基準を徹底して伝えています。」
「まず、主治医から『そろそろ復帰しても大丈夫そうですね』という意見が出た段階で、相談デスクに連絡するように案内しています。そして、本人に来社してもらい、相談デスクで状況を聴いた上で、産業医面談を設定します。その後も定期的に産業医面談を行います。基本的には月1回ですが、2週間に1回の場合もあります。回復状況を把握しながら復帰時期を検討していきます。主治医からの指導と併せて、早めに生活を整えるために生活記録表を付けてもらい、産業医から生活トレーニングのアドバイスを行っています。また、1年以上休職した場合は、リワーク施設の利用を勧め、本人の意思で利用するかどうか決めてもらいます。リワーク施設を利用した場合は、そこでのトレーニング状況も確認し、産業医とも連携を取りながら対応していきます。」
「復帰可能な兆しが見えた段階で、復帰先の職場の上司と本人との面談を必ず行うようにしています。会社に出社するというハードルの前に、上司との面談も職場復帰の状態を測るハードルとして設定しています。中にはどうしても面談に行けないというケースもあり、その場合は、休業が続くことになるので、“職場復帰プラン”を改めて見直すことになります。また、本人の職場復帰に向けての事前の不安をできるだけ取り除くという要素もあり、上司と直接会って職場の現状や復帰後の仕事内容などについて説明を受けることにしています。」
「最後の段階で“復職確認会議”を開催します。会議では、産業医、相談デスクの担当者、上司、本人が一堂に会して、認識を一つにします。復帰後の本人との関わり方や就業制限、段階的な進め方などの情報共有を行います。その他、人事制度上、様々なルールや手続きがありますが、こうした基本的な内容を確認したり、復帰日を決めたりしています。また、本人には復帰当日に何時にどこで誰に会えばいいのか、PC等の備品はどうなっているかなども説明します。細かいようですが、互いの齟齬は再発のリスク要因となるので、関係者間で同じ認識を持てるかが大切です。関係者が同じ土俵で確認する重要な会議ではあります。」
「無事に職場復帰した後も、定期的に産業医面談を行います。また、上司には本人の状況を適宜確認していただいた上で、その様子を相談デスクに報告してもらい、産業医と情報共有しています。就業制限期間は、現在、約3か月間です。就業制限が解除された後も、産業医面談を行うこともありますが、基本的にはこの時点で、産業医による定期面談は終了となります。」
「当社の場合、カンパニー体制の中でそのカンパニーの仕事の特徴を把握している部門ごとに人事担当を配置しています。カンパニー人事担当がいることで、職場復帰に際して元の部署に戻すことが難しいと判断されるケースについても、カンパニーの中で対応できる仕組みができています。また、組織を中心とした職場環境の課題を把握することができます。例えば、相談デスクにある時期にある部門からの相談が集中していた場合、その部門の過大な業務負荷の存在が想定されます。そこで、業務をよく知るカンパニー人事担当に確認した上で、所属長とも確認するなどして人手を増やすといった対応をとり、職場の環境自体をよくする対策などにもつなげています。こうしたことも相談デスクに相談が集まることで臨機応変に対応できる利点だと考えています。」
職場復帰前に、復帰先の職場の上司と本人との面談を必ず行うことで、復帰状態を測ると共に、本人の事前の不安を取り除くことにつながっている。また、復帰決定時には、復帰初日のストレス緩和を目的に、本人に対して、復帰当日に関する詳細を説明し、関係者間で齟齬が生じないよう情報を共有しておく。
【ポイント】
- ①産業保健と人事労務のそれぞれの立場からなるチームで対応する「相談窓口」を設置することで、個人だけでなく組織に関する問題が生じた時に、早期に状況を把握し、総合的な解決策を考える仕組みができている。
- ②メンタルヘルス研修を通じて、ラインによるケアを充実させることにより、部下の不調に気づき、相談デスクにつなぐなど早期対応につながり、休業期間や就業制限日数が短くなることにつながる。
- ③職場復帰前に、復帰先の職場の上司と本人との面談を必ず行うことで、復帰状態を測ると共に、本人の事前の不安を取り除くことにつながっている。
- ④復帰決定の際は、復帰者に対し、復帰初日のストレス緩和を目的に、初日に行うことの詳細を説明し、関係者間で齟齬が生じないよう情報を共有しておく。
【取材協力】株式会社ベネッセコーポレーション
(2020年6月掲載)
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