読了時間の目安:
約10分
株式会社大塚製薬工場
(徳島県鳴門市)
(左から人事部長の小松五郎さん、仲さん、逢坂さん)
株式会社大塚製薬工場は、臨床栄養製品を中心とした医薬品、医療機器、機能性食品等の製造、販売および輸出入を主な事業としている。
従業員数は、2,247名(2019年末現在)。徳島県鳴門市の本社や工場をはじめ、釧路や富山にも工場があり、全国に支店を持っている。
今回は、人事部副部長の佐藤恭弘さん、人事部人事労務・安全衛生担当(兼)生活相談室の産業カウンセラーである逢坂孝志さん、仲さおりさんの3人からお話を伺った。
専任の心理職による相談室を社内に設置し、窓口として広く案内することで、早い段階で状況を把握でき、早期対応につながる
最初に、相談体制や研修などメンタルヘルス対策の取り組みについてお話を伺った。
「当社の健康管理体制は、本社を中心に、各工場・事業所にも担当者を配置しています。人事部長が安全衛生統括責任者を、人事部が安全衛生事務局を担っています。各工場に総括安全衛生管理者を置き、安全管理者と衛生管理者も配置しています。加えて、50名以上の営業所には産業医を配置し、毎月1回以上定期的に衛生委員会を実施しています。」
「社内相談窓口として、“生活相談室”を1998年から設置しています。仕事や職場環境での不安や悩みに限らず、家族の問題など相談内容は多岐にわたっています。実際、『眠れない』『最近落ち込んでいる』といったメンタルヘルス関連の早期の段階での相談は多いです。また、自身のキャリア形成に関する相談や、上司から紹介を受けて相談に来る社員もいます。相談対応は、私たち産業カウンセラー2人が行い、年間約300件対応しています。守秘義務が前提にありますが、相談内容によっては、本人の同意のもと、上司及び人事部内担当者で情報を共有し対応することもあります。また、週1日、精神科医による面談も行っており、社員との面談を通じて、薬や睡眠の相談対応や、業務が行えるかなどの意見を頂いています。」
「産業カウンセラーの相談対応は、社員が周囲の目を気にせず相談しやすいように、勤務時間外に行ったり、会議室や社外の喫茶店などで相談対応を行ったりする場合もあります。相談時間は様々ですが、1時間程度です。」
「以前は、本社から生活相談室の社員が各工場に出向いて相談対応を行うこともありましたが、最近はテレビ会議システムなどを利用しています。顔の表情や声などの様子が見える形での相談対応を心がけています。」
「社員に対してはイントラネット等で安全衛生推進体制や生活相談室の案内をするとともに、担当者の氏名やメールアドレス、内線番号を掲載し、いつでも相談できる仕組みにしています。生活相談室以外に社外の相談窓口も案内しています。最新情報はイントラネットを通じ案内するとともに“こころの耳”の掲載情報も活用させていただいています。」
「メンタルヘルス研修として、管理監督者を対象に、私たち産業カウンセラー2人が講師となってラインケア研修を実施しています。職場の中ではまず管理監督者の支援と協力が必要だと考えているからです。約1時間半の講義時間で、1回に30名ほどが参加します。“こころの耳”に掲載されている実際の事例なども活用しながら、部下が休業に至る際に、どのように働きかけるとよいかなどを5、6人ずつに分かれてグループワークで考え発表してもらいます。その後、講師から気づきのポイントや注意点などを伝えます。各工場にも出向いて実施しており、交替制勤務の工場でも全員が受けられるように、1日3回実施することもあります。」
「その他、前年は全社員に向けてセルフケアに関する研修をe-ラーニングにて行いました。ストレスチェックの後、自身のストレス状況に目を向けストレス対処法を身につけてもらう内容でした。外部向けの映像制作を行っている部門にも協力してもらい、約30分の視聴形式のコンテンツを制作し、配信しました。」
「さらに、今年は、社員からのアンケートで要望の多かった発達障害の特性や関わり方を学ぶ研修を実施しました。その中では、発達障害支援を行っている専門医に、約1時間半にわたり、発達障害の特性や周囲がどのように対応したらよいかなどを、事例をもとに解説していただきました。受講者からは、発達障害の方への関わり方の基本を学ぶことができたという声が多くあり、発達障害についての理解を深めてもらえたと感じています。研修はテレビ会議システムで全国の事業所にも中継し、受講を希望する管理監督者約100名の参加がありました。反響が大きかったため、急遽もう1日、追加で実施しました。」
「今回の発達障害に関する研修は、時期的に、部下に目標管理の面接を行う前であったこともあり、研修を受けたことで、『本人の特性を踏まえて、できなかったことより、できることを評価する』いうことが意識して実践できるようになったようです。生活相談室での社員との面談の際にも、『目標管理の面接の際に上司の対応が変わって驚きました』『これまでできなかったことの指摘が多かったのですが、今回初めて、ここはいいよと上司に評価されました』という声があり、私たちも嬉しかったです。他者への関わり方を学ぶことで、『上司が変われば部下も変わる』ことを実感するとともに、部下にとっても『仕事が楽しい』といった働きがいにつながっていくことがよく分かりました。」
「その他、当社では、健康に対する意識醸成を図ることを目的に、メンタルヘルス対策だけではなく、身体面での健康増進にも積極的に取り組んでいます。例えば、健康増進の観点から、2017年6月以降、毎月、運動セミナーを実施しています。近隣のフィットネスクラブから講師を招き、当社の体育館で実施しています。社員だけではなく派遣社員も参加可能で、常時30~40名ぐらいの方が参加しています。また、ノー残業デーとしている水曜日の就業時間終了後の約1時間、体幹を鍛えるものを中心に、ヨガや太極拳、ボクササイズなどを行っています。このような機会を設けることで、日ごろ社内で顔を合わせることが少ない他部門の方とのコミュニケーションも促進しています。徐々に顔なじみが増え、激しい運動の後など、一体感が高まる感じがしますね。」
「本社以外の事業所の取り組みとしては、松茂工場では、外周ウォーキングラリーを実施しています。全周1,656mの防潮堤の内側に、社員用のウォーキングロードを設け、その利用を促進することで、社員が楽しみながらウォーキングを続け、生活習慣病の予防や改善につながるように働きかけています。また、釧路工場では冬にカーリング大会を実施したり、富山工場では地域と一緒になってリレーマラソン大会やソフトボール大会&バーベキューを実施したりなどしています。このように、毎年工夫をしながら、新たな活動に取り組んでいます。」
専任の心理職による相談室を社内に設置し、生活全般の悩み相談窓口として間口を広げ、また社内の精神科医との連携により、メンタルヘルス不調の早期発見・早期対応につなげている。ラインケア研修では、グループワークで事例検討をすることによって、より身近な問題として捉えられ、部下への対応力の向上にもつながる。
職場復帰支援として、本人や家族、上司へ、休業中の過ごし方や職場復帰に必要な事項を共有し、ガイドブックや説明書、提出書類などをまとめ、配布する
次に、メンタルヘルス不調からの職場復帰支援の取り組みについて、お話を伺った。
「メンタルヘルス不調で休業に至った場合の流れとしては、まず上司から人事部門に連絡があります。欠勤がしばらく続くと休職になります。休職に入る前には、生活相談室で面談を行うようにしています。その中で、休業中から職場復帰までの流れの説明や必要書類に関してまとめた“職場復帰プログラム”のファイルを本人に手渡しています。家族の方への参考資料として“療養説明書”も併せて渡しています。また、上司にも、今後、提出が必要とされる書類などについて案内しておきます。」
「休業期間中は、上司が本人と定期的に連絡を取ることになります。私たちも上司からの相談に対応し、注意点などを伝えています。そして、職場復帰の兆しが見えたところで、当社で準備した“療養状況チェックシート”に記入の上、提出してもらいます。項目が細かいのですが、状態が悪いと活字を読むことも辛い場合があります。このような書類が読めるかどうかも自分の今の状態を知ることになりますし、職場復帰して仕事ができるかどうかの大切な目安になります。また、シートの最後の部分は、主治医に記入していただきます。」
「職場復帰に際しては、本人からの復職願届出書と合わせて、“療養状況チェックシート”と生活記録表、そして主治医からの診断書を提出してもらい、これらをもとに、職場復帰が可能かどうかの判定を行います。メンタルヘルス不調による休業の場合は、精神科医も一緒に面談します。長期にわたる休業の場合は、組織体制や業務内容が変わっていることもあるので、職場の上司にも参加してもらい意見を聞きます。これらの意見を踏まえて最終的に会社が復帰時期などを判断することになります。」
「基本的に、職場復帰1か月後に、再度、面談を行います。復帰者の勤怠状況は日々確認していますが、必要に応じ、早めに声掛けをして面談する場合もあります。また、日頃、社員食堂など職場内で接する場合には、その様子を観察したりしています。周りの目を気にする方もいるので、こちらから声をかける時には配慮しています。」
職場復帰前には、独自に作成した「療養状況チェックシート」を本人が記入することで、自身の今の状況を把握してもらうと共に、記入済のシートを主治医が確認する流れとなっている。これらの記入シートをもとに、職場復帰の際の面談を行うことで、より円滑な職場復帰につながる。
【ポイント】
- ①専任の心理職による相談室を社内に設置し、生活全般の悩み相談窓口として間口を広げ、また社内の精神科医との連携により、メンタルヘルス不調の早期発見・早期対応につながる。
- ②ラインケア研修では、事例をもとにグループワークで検討することで、より身近な問題として捉えられ、部下への対応の向上にもつながる。
- ③ 職場復帰前には、会社で独自に作成した「療養状況チェックシート」を休職者本人が記入することで、自身の今の状況を把握してもらうと共に、記入済のシートを主治医が確認することで、その後の円滑な職場復帰につながる。
【取材協力】株式会社大塚製薬工場
(2020年5月掲載)
関連コンテンツ