読了時間の目安:
約8分
大手製造業B社
(西日本)
西日本にあるB社は、従業員数約1000名の製造業である。現場の技術職が約700人、事務職が約300人である。
今回は、健康推進センター部門長、産業医、保健師2人の計4人からお話を伺った。
社内相談窓口にてあらゆる相談を受けることで、メンタルヘルス不調者の早期発見・早期対応につなげる
相談窓口の設置と案内、メンタルヘルス研修などのメンタルヘルス対策活動および、職場復帰支援の取り組みについてお話を伺った。
「安全衛生部門の下部組織として健康推進センターが設置されています。専属産業医1名、保健師2名、看護師1名が事業所内の産業保健スタッフとして在籍しています。健康推進センターは、あらゆる相談を受ける窓口として機能しています。まずは、産業保健スタッフが話を聴いた上で、外部委託しているカウンセラーや外部の医療機関への受診等につなぐ役割も担っています。カウンセラーによる面談日を月1回設けており、当事業所内の相談室で、カウンセリングを行っています。その他、悩んでいる本人が電話やメールで相談できる社外の相談窓口も紹介しています。」
「社員に対するメンタルヘルス研修としては、新入社員には入社時にセルフケア研修を行っています。また、管理職には新任時と階層別に4年に1回、ラインケア研修を実施しています。以前、当社の各事業所の産業保健スタッフが中心となって、管理監督者用と産業保健スタッフ用に、独自のメンタルヘルスマニュアルを作成しました。今でも当事業所の産業保健スタッフがメンタルヘルスの研修講師を行う際は、これらのメンタルヘルスマニュアルを参考にしています。」
「10年ほど前、全社的にメンタルヘルス対策に力を入れ始めようとしている中で、当事業所でもメンタルヘルス対応のできる保健師を新たに採用しました。採用後、人事と連携しながら対応を行い始めました。その中で、メンタルヘルス不調で休職していた社員の復職後の定着率が低いことに課題を感じていたこともあり、職場のメンタルヘルス対策に力をいれるべく、相談窓口の設置と案内、様々なメンタルヘルス研修を実施し始めました。」
「相談しやすい環境づくりを行うという点では、当センターが相談窓口であることを事前に広く周知しておく必要があります。相談内容が深刻化する前に、相談に来てもらえるようにすることが大切です。周知方法としては、さまざまなメンタルヘルス研修を実施する際に案内したりする他、相談窓口をまとめたメッセージカードを独自に作成して配布したりしました。現在は、イントラネットの掲示板にカウンセラーの来社日を掲載したりもしています。また、毎月、当センターより“健康だより”を発行し、事業所内の掲示板に掲示しています。その中にはメンタルヘルスに関する記事も多く掲載しています。」
「また、長時間労働者に対しては必ず産業医面談を行っています。一定時間数を超えた対象者には問診表を渡して、面談前に記入して頂きます。問診項目の中には、抑うつ気分や疲労感などメンタルヘルスに関するものもあり、このような産業医面談を通じて、早期発見、早期対応につなげています。」
「当事業所でのメンタルヘルス関連の相談の特徴としては、人間関係を理由とするものが多く見受けられます。その点では、現場の技術職より、事務職の方が多いように感じます。また、40代前半から50代前半の社員層が少ないこともあり、世代間ギャップによるコミュニケーション不足によるものも見受けられます。」
「この10年間のメンタルヘルス不調による休職者数の傾向としては、多いときと少ないときとで波がありました。その中でも、中途採用者のメンタルヘルス不調者が多かったように感じています。やる気や技術的な自信をもって、途中から入ってきたけれども、環境が大きく変わり、仕事の進め方などが以前の会社と異なることで、なかなか思うような成果が出せないという葛藤を感じたり、年下の新入社員が力をつけてきて伸びてきているのを見て焦ってしまったりと、いろいろありました。世代間ギャップを埋めるための即戦力ということで、一時期積極的に中途採用を行っていましたが、中途採用者には、入社後に行うセルフケア研修の機会が定まっていませんでした。そのため、現在は、入社してからの節目の年や年齢に応じてセルフケア研修を実施しています。2011年には、入社5年目以内の39歳以下の400名を対象にセルフケア研修を実施しました。」
「休職や復職については、社内規程でルールが定められています。休職の情報は人事部門で集約していますが、休職・復職に関する診断書の情報は、必ず産業保健スタッフにも知らせる流れになっています。休職に入る前に、一度は産業保健スタッフが面談を実施するようにしています。そして、休職に入ってからは、基本的に2週間に一度は上司が本人と連絡をとり、状況を把握することとしています。その上で、産業保健スタッフは、専門的な立場から上司をバックアップする体制となっています。また、必要に応じて、産業医が休職者と面談することもあります。休職中は生活リズムを記録してもらうことなども適宜案内しています。生活リズム表を確認することで、復職時期の目安がつけやすいということもあります。」
「そして、本人が職場復帰できそうだという段階になると、本人から上司を通じて産業保健スタッフに連絡が入ります。産業保健スタッフとしては、職場復帰に向けての環境調整として、上司と話をした上で、本人の業務の見直しや、場合によっては部署異動をすることもあります。そして、復職の一歩手前という位置づけで、最長3か月間の時短勤務ができるリハビリ出勤制度を実施します。基本的には6時間勤務から始めます。リハビリ勤務が始まった後は、本人、上司、産業保健スタッフが集まって、現状を確認した上で業務量や業務内容、勤務時間数について話し合い、通常勤務に戻していきます。また、復職の際に、障害者職業センターのリワークプログラムを紹介する場合もあります。自力だけでは生活リズムの立て直しが難しい人やストレス対処が苦手な人などには、有効だと感じています。」
「その後、正式に復職し、通常勤務となった後も、最初は残業禁止や出張禁止などの就業上の措置を講じています。復職後も産業保健スタッフとの面談を、当初は2週間おきに行い、安定してきたら1か月おき、さらに良くなってきたら2か月後という形で行い、制限や就業条件の見直しを徐々に行い、大体半年くらいかけてアフターケアをしています。」
【ポイント】
- ①社内相談窓口を、あらゆる相談を受ける窓口として社員に広く知ってもらうために、独自のメッセージカードを配布したり、研修時に案内するなど継続的に周知していく。
- ②メンタルヘルス研修がうまく機能するために、入社時だけではなく、入社してからの節目の年齢や、中途採用者に対して、研修を受ける機会をつくる。
- ③職場復帰に関する社内規程で、関係者の役割や流れを明文化する。
- ④社内規程に基づいて、産業保健スタッフが、本人の健康状態や再発防止も視野に入れた上で、上司と話をして業務の見直しなどの環境調整に積極的に関わる。
(2020年4月掲載)
関連コンテンツ