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PHC株式会社 松山地区
(愛媛県東温市)
PHC株式会社は、体外診断機器などの医療機器や医療用情報システム、研究・医療支援機器などの製造・開発・販売など行っている。松山地区では、従来パナソニックグループの一員として、古くはテープレコーダーやラジカセ、その後、CD-ROMドライブやテープドライブ等の音響・情報機器を開発・製造していたが、2007年よりヘルスケア関連事業へ変更していき、2014年4月にはパナソニックからカーブアウトし、2018年4月より現在の社名となった。
松山地区の従業員数は約850人。
今回は、人事部西日本人事課松山人事係の伊藤彰さん(係長)と冨士渕誠さん、松山地区健康管理室の三宅吉博さん(産業医)と上田裕美さん(看護師)の4人からお話を伺った。
メンタルヘルス不調者に対して、1日1回最大5分間の「超短時間日々面談」を実施
最初に、メンタルヘルス対策の取り組み体制および社内での相談窓口での取り組みについてお話を伺った。
「松山地区の健康管理室は常勤の看護師と、週1回の非常勤産業医の2名で行っています。ただ、産業保健スタッフのみですべてを対応することは難しいので、人事部門の支援を受けると共に、毎月開催される安全衛生委員会の場を活用して、健康管理室の取り組みについて承認を得るようにしています。趣旨や取り組み内容を理解してもらえることで、組織を巻き込んだ活動の推進につながっていると考えています。」
「社内の相談窓口としては、主に健康管理室と労働組合があります。これらの窓口に、最初相談が来た後、職場や組織としての対応や配慮が必要となる相談になると、人事部門に相談が行く流れになっています。」
「健康管理室では、日常的な相談対応の中で、職場の内容に関しては、本人の了解を得て職場の上司や人事部門にも事情を確認することがあります。このような相談対応を通じて、職場のあり方なども率直に話し合うことができるので、本人も納得し、メンタルヘルス不調になって休むところまで至っていないのではないかと思っています。また、人事部門と連携し、休みがちな従業員が、連続して休み始めたら健康管理室に、すぐに連絡してもらうことで、産業保健スタッフから体調確認を行い、すばやくフォローができる仕組みが整っています。」
「また、産業医からも、直接、職場長へ指導や声掛けといったアプローチを行っています。自分の業務で手一杯になりがちな職場長自身が意識し、心構えができることで、上司から部下へ体調を気遣う声掛けが行われるようになってきていると思います。さらに2019年4月からは時間外労働時間が45時間以上の月が2回あると看護師が、3回以上あると産業医が、該当者に声掛けする形をとり、過重労働からくるメンタルヘルス不調を防止する体制を整えています。」
「2005~2007年頃、パナソニックグループ全体の事業再編において、松山地区もヘルスケア関連事業へ変更していく中で、未経験の新たな業務に慣れなかったり、新たな人間関係に戸惑ったりして、心に負担がかかり、メンタルヘルス不調者が増えた時期がありました。当時、休業から復帰した従業員を含むメンタルヘルス不調の従業員が、10名程度いました。月1回、一人1時間から1時間半をかけて個別面談を実施していましたが、状況を十分に把握するのが難しい場合があったり、長時間の面談がかえってストレスになってしまったりするということがありました。」
「そこで、2008年から短時間の面談を毎日こまめに行う “超短時間日々面談”に変更しました。具体的には、毎日、退社前に健康管理室へ立ち寄ってもらい、昨日の退社時からの私生活での出来事や当日の業務、健康状態、気持ちの変化などについて最大で5分程度、立ち話をしていただくというものです。短時間話してもらうことで、動作速度や会話時における顔色、表情や目線、声色・声量などちょっとした変化も、毎日見ていると分かってきます。当社の製造現場で行われている変化点管理手法(対象となるものについて、事前と事後で何が変化しているかを把握し管理を行うこと)に注目し、当時の産業医と一緒に考え、面談手法に応用してみました。」
「例えば職場で嫌なことがあると、翌日出社しづらくなることがあるかと思います。そうした突発的な休みが続くと再休業にもなりかねません。その“嫌なこと”を、退社前に健康管理室に来て話してもらうことで、産業保健スタッフとしては、それを聴いて、一緒に検討をしたり、考え方を見直してみたり、周囲へ支援を求めたりすることで、本人が安心できれば、翌日の出社につながります。」
「毎日面談を行うことで、調子が悪い方向に変化していると把握した場合、産業医との面談につなげたり、特別な配慮を行うよう職場に伝えたりと、すぐに対応できることが利点としてあります。尚、対象者が、毎日面談に来るか否かは本人の意思に任せています。」
「結果として月1回の面談で対応していた時の再休職率が39.1%に対して、超短時間日々面談で対応してからの再休職率は7.1%と大幅に改善しました。2013年に職場復帰支援プログラムを策定した後は、メンタルヘルス不調者数もさらに減り、最近では面談対象が0人となったため、超短時間日々面談を実施する必要が無くなりました。」
メンタルヘルス不調者に対して、1日1回最大5分間の「超短時間日々面談」を実施することで、わずかな変調に対し早期の気づきや対処が可能となった。結果として、メンタルヘルス不調による再休業の減少にもつながったようだ。
職場復帰後は職場全体で復帰者をケアする仕組みをつくる
次に、職場復帰支援の取り組みについて、お話を伺った。
「職場復帰支援の制度化に関しては、パナソニックグループ全体で、労働組合も加わって検討した上で、2013年4月からグループ全体で導入されました。職場復帰支援プログラムについてまとめられた“こころの健康回復にむけた休復職の手引き”がその際に作られました。現在は、“支援チーム用”、“従業員用”の手引きの他、参考資料として“ご家族の方へのお願い”や“主治医の先生へのお願い”といった1枚にまとめた案内書面も作成し、利用しています。」
「休業中はしっかりと休み、プログラムをもとに状況を見ながら職場復帰支援を行い、再び休業することがないようにしっかりと見届けることが、制度の趣旨です。もちろん、私たち産業保健スタッフだけでは、支援が行き届かない点もありますので、休業される従業員のご家族の支援や、主治医のサポートを得ながら、順調な職場復帰を目指しています。せっかく採用した貴重な人材ですので、職場復帰した後も、定年まで働いていただきたいとの思いで取り組んでいます。」
「メンタルヘルス不調の場合、まず、健康管理室に相談があり、産業医等の面談の後、専門の医療機関の受診につなげることが多いです。休業時の本人との定期連絡窓口は、基本的には職場の上司が行います。また、休業中に健康管理室に来てもらい面談を行うこともあります。」
「職場復帰に必要な条件や手続きなどについては、休みはじめに説明をしても、体調が良くないため、あまり頭に入らない従業員もいるようです。その場合は、少し落ち着いて状況が理解できるようになり、職場復帰の兆しが感じられる時点で、詳しく説明しています。制度や体制についての資料“こころの健康回復に向けた休復職の手引き”を改めて説明すると共に、主治医に“主治医の先生へのお願い”を手渡してもらい、職場復帰に関する基準などについても知ってもらった上で、すぐに再休業とならないようにしっかりと、職場復帰可否の診断をしてもらうようにしています。特に当工場の場合、マイカー通勤者が多いこともあり、服薬の影響で眠気や注意力が不足するような状況では職場復帰は難しいと考えていますので、そこも含めて診断していただくように取り組んでいます。」
「復帰可否の判定手順として、主治医からの診断書にて、健康状態の回復を確認します。併せて連続2週間以上の“生活リズム確認票”を記録してもらい、生活リズムを確認します。それらを踏まえて、産業医による事前面談を経て、“試し出社”に入ります。試し出社では、土日祝を除く連続10日間、定時出退社の通常勤務で9割以上出勤できることを目標としています。」
「その後、“復職支援委員会”で検討します。復職支援委員会のメンバーは、職場の責任者、人事部門の責任者、人事部門の安全衛生担当と、産業医、看護師、そして、労働組合に加入している場合は労働組合の委員長または書記長も参加します。従業員を守るという観点から、委員会を通じて意見の擦り合わせを行うことで、立場や視点が偏らずに全方位でサポートやフォローができるように取り組んでいます。」
「復職支援委員会で職場復帰決定した後は、“慣らし勤務”に入ります。慣らし勤務は、通常の勤務時間で残業を行わず、一部の就業に制限をかけて、1年間かけて行います。その間、復帰した従業員を受け入れる職場の同僚にも、慣らし勤務期間中であることを伝え、職場全体でサポートしていただくようにしていただいています。場合によっては、職場の同僚の不安を小さくし、気をつける点などを伝えるため、産業医が職場へ出向いて説明を実施することもあります。職場全体で共通理解することで、復帰した従業員に対して職場で気になる点や小さな変化などに同僚が気づき、早めに本人へのサポートができることにもつながっています。」
「また、慣らし勤務期間中、健康管理室では、職場復帰から1週間後に産業医面談にて、体調確認のフォローを行います。以後1か月後、3か月後、6か月後、9か月後と1年かけて定期的に産業医面談と復職支援委員会を行います。職場、健康管理室、人事部門、労働組合など皆でフォローするようにしています。」
復帰する職場に産業医が出向いて、復帰した従業員への対応で気をつける点などを直接伝えることで、復帰した本人だけでなく同僚の不安を軽減し、職場全体でサポートしていくことになる。職場全体で共通理解することで、復帰した従業員に対して、気になる点や小さな変化などに同僚が気づき、早めに本人へのサポートにもつながる。
【ポイント】
- ①安全衛生委員会にて、産業保健スタッフの取り組みについて報告し承認を得る仕組みにすることで、関係者が内容を理解し、組織全体の活動の推進となる。
- ②メンタルヘルス不調者に対して、1日1回最大5分間の「超短時間日々面談」を実施することで、わずかな変調に対し早期の気づきや対処が可能となり、再休業者も減少した。
- ③復帰する職場に産業医が出向いて、復帰した従業員への対応で気をつける点などを直接伝えることで、復帰した本人だけでなく同僚の不安を軽減し、職場全体でのサポートにつながる。
【取材協力】PHC株式会社
(2020年1月掲載)
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