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西日本高速道路サービス四国株式会社
(香川県高松市)
西日本高速道路サービス四国株式会社は、西日本高速道路(NEXCO 西日本)グループの一員として、四国地方の高速道路の料金収受業務(料金システム機器の監視業務と精算業務)と、交通管理業務(高速道路における事故時の支援や安全走行のための交通管制、トラック等への法令違反車両の取り締まりや積荷の落下防止などの指導)を主に行っている。
社員数は650名。料金収受業務が約500名、交通管理業務が約120名、本社が約30名である。
今回は、代表取締役社長の平山博登さん、総務部人事課調査役の小川浩史さんの2人からお話を伺った。
簡単業務改善提案制度により、「まずやってみてうまくいった」事例を多く集める
メンタルヘルス不調の未然防止に向けた職場のメンタルヘルス対策活動および職場環境改善の取り組みに関して、平山さんを中心に2人からお話を伺った。
「私共の業務は、お客様に安全安心を提供すること、そのために間違いなく料金を徴収し、事故や困りごとの際は寄り添って対応することに重きを置いています。24時間365日、高速道路を守り交通を確保することで、物流を円滑に流すためのインフラを支えています。」
「四国地方は特に、人口減少による働き手の減少が続いています。私たちも社会全体が少子高齢化する中で、人員の確保や業務の効率化を進めてきました。勤務体系は料金収受部門が日勤、昼夜勤、夜勤となっており、1か月の中でシフトによる交替制勤務となっています。交通管理部門は2交替制となっています。共に、24時間体制の業務であり、それぞれの職場にて少ない人数で担っていることから、互いのコミュニケーションが重要になります。」
「また、中途採用で入社した方が多くいます。ご自身の病気や親の介護のための離職で、地元の四国に戻ってきた方もいます。また、今後、南海トラフにおける地震等災害が発生した際に備えて、誰もが対処できる体制にするために定期的な人事異動の必要性が生じてきました。こうして、いろいろな働き方に配慮が必要となってきたことから、3年前から職務給を職能給に見直しするなど新たな人事制度を制定すると共に、運用最適化に向けてさらなる見直しに取り組んでいます。」
「交替制勤務ということもあり、変則的な勤務形態のため、体に無理がかかってしまいがちです。それらへの対策として当社では“①良好な睡眠の確保”や“②ストレス耐性の向上”、“③職場環境改善の取り組み”の3点を重点的に進めています。」
「“①良好な睡眠の確保”については、専門家から交替制勤務における効果的な睡眠をとる方法を教えていただき、それらをまとめ小冊子を作成し、社員の皆さんに配布する準備を進めています(【写真1】参照)。社員自身の課題としてとらえてもらえるように、産業医の監修の下、昼夜勤→日勤、公休→昼夜勤など勤務体系が変わる際の“各勤務の標準的な睡眠時間目安”を図で示しました。『睡眠は、可能な限り同じ時間帯でとる』、『昼夜勤務の休憩時間に、昼寝を1時間程度とる』など効果的な睡眠をとるポイントも挙げています。また、各事業所の社員が少ないので、産業医の選任義務はないのですが、今年度から新たに産業医を選任し、51か所すべての職場を巡回指導していただくことを始めました。日頃から健康診断等で対応いただいている医師に産業医を依頼しました。職場巡視の中で、どういったところで仮眠をとっているのかといった職場環境や状況などを把握し、指導頂いています。」
「“②ストレス耐性の向上”については、私(社長)自ら、職場のストレスに関して学ぶ団体のファシリテーターの資格を取得し、ストレスへの対処方法を講師として社員に直接伝えています。例えば、管理職や料金所長などが集まった研修の際に社長講話40分の内、20分ほど時間を取って、話しています。さらに、アンガー・マネジメントに関する講座も、私(社長)自ら、講師として伝えています。職場で仲良く協力し合う風土を根づかせたいとの思いから、怒りやイライラをコントロールするためのちょっとした手法を、先程の社長講話や様々な会議の合間に行っています。」
「“③職場環境改善の取り組み”については、特に様々な活動を行っています。中途採用の社員が多いこともあり、社員それぞれの価値観の違いも多く見受けられます。それが人間関係にも関わってきます。ただ、職場のチームとして、お客様に安全安心を届けるという使命を持っていますので、チームワークが大切になります。当社では、社長と社員とが直接意見交換できる機会として、“社長との意見交換会”を設け、毎年、各支店と交通管理部門で開催しています。事前に社員から集めた意見や現場の要望を受けながら整理していき、頂いた意見には当日その場で、なるべく答えを出すことを大切にしています。今年は全体で約230件の意見が出され、積極的に意見交換を行いました(【写真2】参照)。」
「さらに、毎年7月には、各職場でアイディアを出し合い、業務の改善につなげていく“業務改善提案発表会”を実施しています。発表は、業務の効率化や安全性の向上に積極的に取組む内容で、中には既に有用であることが実証され、他部門でも水平展開されている改善内容もありました。日々の業務の中で気づいたちょっとした工夫を発表したり、各スタッフからの改善策をすぐに皆で実行しようとする環境を発表したりさまざまでした。今年は全体で53件の発表がありました(【写真3-1、3-2、3-3】参照)。」
「“業務改善提案発表会”と合わせて、2年前からは各職場に設置した“業務なんでも相談箱”を活用して“簡易業務改善提案箱”を始めました。業務改善や業務効率化に対する継続的な取り組みによって、“社員の考え続ける習慣づくり”を推進することを目的としています。改善提案が進まない理由の一つに、多くのステップを踏まないと進まないため、実行途中で疲れてやめてしまうことがあります。そこで、『まずはやってみて、うまくいきました』といった簡単な改善ですぐに実行できる活動を、実施した後に、1枚の簡単な提案書に記入して提出してもらう流れをつくりました(【写真4-1、4-2】参照)。今年は100枚ほど集まりました。年に2回審査を実施し、効果があれば、社内で水平展開していくことを考え、表彰しています。」
「もう1つ、業務に関する個別の相談などを受け付ける相談窓口として、先程申し上げた“業務なんでも相談箱”も3年前から各事業所に設置しています(【写真5】参照)。恥ずかしくて周囲に聞けないことや、実施のハードルは高いが『こんなことしてはどうだろうか』といった実施する前の改善提案はこちらで受け付けています。無記名での投稿も可能です。この箱は、該当現場の管理職ではなく、別の部門の管理職が毎月1回以上確認、回収しています。そして、疑問や質問に対しては、一般論として担当者が回答しています。また、改善提案に関しては実施できるかを検討した上で、実際に行うこともあります。職場環境改善の取り組みは、様々な機会を使って、社員に飽きさせないように工夫をしつつ、皆がすっきりした気持ちを持てるような職場づくりを推進していくように心がけています。」
「また、定年の2年ほど前には、セカンドプラン研修を実施しています。自身のキャリアを見直し、自分の棚卸をした上で、退職後の人生を考えてもらう機会をつくることで、今をイキイキと過ごしてもらうことを目指しています。」
「その他、メンタルヘルス対策の取り組みとしては、毎年、新任管理職には、外部講師によるラインケア研修を実施しています。さらに、外部EAP機関とも提携し、社外のカウンセリングルームに社員が無料で相談できる仕組みもあります。」
「最近始めた活動としては、すべての事業所にメンタルヘルス関連のマンガを配布しました。文章ばかりの本や資料では、なかなか手に取ってもらえないので、『マンガでやさしくわかる○○シリーズ』といった本を何種類か置いています。睡眠やメンタルヘルス、アサーションや、アンガー・マネジメント、傾聴などをテーマにそれぞれ書かれており、休憩時間などに読んでいただいています。」
「さらに来年度からは、ストレスチェック制度の導入を予定しています。ストレスチェック制度を入れただけで、形骸化してしまうことを防ぐため、最初の導入部分が肝心だと考えています。ストレスチェックと併せてワークエンゲージメントを調べる調査票もあると聞いておりますので、効率的に実施でき、統計処理等も行いやすく、その後の職場環境改善活動にもうまく機能できるようなものを、もう少し時間をかけて検討してから導入したいと考えています。」
「当社において、この3年間、メンタルヘルス不調で休んだ方はいません。これらメンタルヘルス対策や職場環境改善活動を通じて、さらに社員の健康に対する意識の向上を図っていきます。その一環として、香川県と協会けんぽ香川支部の協働事業である“事業所まるごと健康宣言”にも健康経営取り組み事業所として、先日認定を受けました。これからも活動を推進していこうと考えています。」
【ポイント】
- ①交替制勤務における効果的な睡眠をとる方法についてポイントを小冊子にまとめて周知している。勤務体系が変わる際の「各勤務の標準的な睡眠時間目安」を図示し、社員が実施しやすい工夫も加えている。
- ②定期的に、社長と社員とが直接意見交換できる機会を設けて、事前に社員から集めた意見や現場の要望を受けながら整理し、なるべく当日その場で答えを出すことが大切である。
- ③「簡易業務改善提案制度」や各職場に「業務なんでも相談箱」を設置し、日々の業務の中で工夫して実現した改善活動実績を提出したり、業務に関するちょっとした質問や改善案を提出しやすくするなど、様々な職場環境改善につながる機会を設けている。
【取材協力】西日本高速道路サービス四国株式会社
(2019年11月掲載)