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エーオンジャパングループ
(東京都千代田区)
エーオンジャパングループは、法人向けの損害保険・生命保険の保険代理店として企業経営上のリスクマネジメントや保険に関するコンサルティング、および人事コンサルティングサービスを行っている。
日本国内はグループ(4社)全体で約250人。東京地区は約230人。
今回は、エーオンベンフィールドジャパン株式会社代表取締役社長の谷水克哉さん、酒井千寿子さん、エーオンジャパン株式会社企業営業第一部アカウントエグゼクティブの西野有一さんからお話を伺った。
社員同士のコミュニケーションが積極的になるような仕組みを会社側がまず用意する
メンタルヘルス不調の未然防止に向けた職場のメンタルヘルス対策活動およびコミュニケーション活性化の取り組みに関して、お話を伺った。
「当社グループ全体でのメンタルヘルス活動は、2017年12月に立ち上げを行い、2018年1月から活動を開始しました。人事部門だけが中心という訳ではなく、各グループ会社から関心の強い方々が集まり、メンタルヘルスチーム事務局として皆で活動し始めました。私たちは、特にメンタルヘルス不調の未然防止(一次予防)に力を入れて活動しています。」
「当社グループは全世界120か国、約5万人の社員がいるグローバル企業です。各国でメンタルヘルス活動をしていますが、日本で取り組むにあたっては、イギリスのロンドンチームと連携して活動をはじめました。私たちの事務局では、イギリスでの活動に関する話を聞いたり、事例カンファレンスなどを行ったりしました【写真1】。その上で、日本向けにカスタマイズして、活動目的を、下記3点にまとめました。『①一般的なメンタルヘルス問題を学ぶ』、『②職場における快適性と安全性を再定義する』、『③私たちのストレス耐性とコミュニケーション力を高める』。」
【写真1】
「活動目的に沿って、年間を通して計画・目標を立て、活動内容を決めて取り組みました。2018年度の活動について紹介しますと、最初の活動は、1月から6月にかけて、コミュニケーション活性化のために“趣味”をキーワードに“趣味の会”の枠組みを作りました。例えば、当社グループのエーオンジャパン株式会社は130名ぐらいの社員数です。グループ会社間のみならず、同じ会社でも部門毎に異なったお客様を担当している関係上、他の会社・部門の方々とのコミュニケーションが非常に少ないといった現状がありました。メンタルヘルス対策の視点では周囲の同僚・仲間の変化に気がつくことは大切ですが、そもそも周囲の仲間を知らない、知る機会がなかったという課題がありました。知り合いになるためには、まずは自分のことを話して自らを周囲に知らせる必要があります。そのような理由から、“趣味”を通じて話し合う場を作りたいと考えました。『同じ趣味をもった者同士ならば、率直に素直に話ができるのではないか』、『自分のことを話すきっかけづくりとして最適ではないか』と考えたからです。そこで、国内の当社グループの従業員全員に対して、趣味についてのアンケートを取りました。それを事務局で分類し、それぞれの趣味について語り合う場として、昼休憩などで集まっていただくよう呼びかけました。」
「初回は、事務局主導で、それぞれ集まっていただきました。まずは自己紹介と所属、仕事内容、参加動機などを話します。趣味の話題を入口に、顔はなんとなく知っているけど、名前や仕事内容が不明だった方がどういった仕事をしているのかを知ることで、同じフロアにいる他者への関心につながります。メンタルヘルス対策の視点からは、いつもと違うなと感じた際でも、趣味の集まりを通じて知り合いになったことで、気軽に声をかけやすくなったということがあります。その他、仕事面においても、同じ趣味の人に相談して一緒に新規業務提案をするなどの動きも出てきて、新たなビジネスチャンスの創出などにも役立っています。」
「初回時に、同じ趣味のメンバーの中からリーダーを決めていただき、2回目以降の活動は参加者主導で進めていただく形にしています。野球やサッカー、ゴルフ、犬好き・猫好き、ウォーキング、ヨガ、読書、絵画、クッキング、日本酒の会など様々な趣味のグループが作られました【図1】。現在も継続して定期的に活動しているグループもあります。これがきっかけとなって、社内に同僚・仲間ができ、仕事以外の一面を知ることで、より積極的なコミュニケーションにつながっていると考えています。さらに、“課外活動支援制度”を設けており、趣味の内容によっては、かかった活動実費の一部を支援する制度もあります。例えば、ヨガ専門の先生を招いて、社内の会議室にて皆でヨガを行うこともあります。活動によっては夕方以降に集まるケースもありますが、子育て中の社員の方などは昼休憩など、それぞれの事情に合わせて、スケジュールを調整したりしています。社内でのこのような緩やかなつながりがちょうどいのではないかと思います。」
【図1】
「次に行った活動が、“コミュニケーションセミナー”の実施です。人事部門と共同で講師を招いてワークショップ形式のセミナーを開催しました。研修は管理職向けの必修とした研修と、一般社員向けの希望者研修の2種類を約2時間の研修として行いました。」
「当社が契約している外部EAP機関に講師をお願いしました。メンタルヘルスの基本的な内容だけでなく、対人間のコミュニケーションスキルやアクティブリスニング(積極的傾聴法)、アサーション、効果的なフィードバックの方法などについて行いました。その際、名刺サイズの“EAPによる24時間無料電話相談サービス案内カード”も独自に作成し、社員に配布した上で、ご家族も含めていつでも利用可能であることを周知しました。24時間相談窓口であると共に、英語対応している点なども併せて知らせ、広く利用してもらいたいと思ったからです。日本語が話せない社員やご家族もいますので、この24時間無料電話相談サービスは、役に立っています。」
「そして、3番目の活動としては、年末の最後の3日間に、“Thank you カードキャンペーン”を実施しました。コミュニケーションの活性化を目的に、今年一年間の社員間の感謝の気持ちを手書きのカードで表す活動です。キャンペーンは、全社員にメールを送って周知し、カード自体はキャンペーンポスターと一緒に設置し、枚数制限は設けずに自由に利用してもらいました。内容も、カードを渡す相手も制限を設けず、ご家族へ渡すこともOKとし、社員同士でも直接カードを渡せるようにしました。基本は設置した社内ポストに投函していただいたものを期間中随時、私たちが配達しました。誰が何枚書いたかは、私たちの方で数えており、多く書いた方には“サンキュークッキー”を景品として差し上げました。グループ全体で130通の“Thank you カード”が行き交いました。社内ポスト利用以外にも、直接本人に渡されたケースもあったようですので、実際はもっと多かったようです。【写真2】」
「私も実際にカードをもらったら、『ありがとう』だけではなく、『〇〇をしてくれて、ありがとう』と具体的に書いてくださっていて、本当にうれしい気持ちになりました。自分が意識してない何気ない行動などに、感謝が示されているので、仕事のモチベーションにもなりますし、気づきにもつながります。紙に記載されるので、すごくありがたく感じますし、1年に1回ぐらいは、感謝の気持ちを示す機会をつくることはとてもいいなと思いました。社員の間でポジティブに受け止めていただいたので、今年も期間を決めてぜひ取り組みたいと考えています。」
【写真2】
「私たちが決めたこれら3つの活動とは別に、さらに当社グループ全体のグローバルな取り組みとして“Wellbeing活動”があります。この活動はアメリカの本部が中心となっていて、各国にWellbeingアンバサダーと呼ばれる推進役を1,2名置き、内容については電話会議などで話し合って進めていきます。日本では人事部門とタイアップして、アンバサダーによる積極的な広報活動にて広めています。」
「2018年は“The Attitude of Gratitude(伝えよう!感謝の気持ち)”というテーマで“気持ちのフィットネス活動”に取り組みました。実施は期間限定で3月7日から4月11日までの5週間です。具体的には、ストレスを減らすために、個々人でどのような行動、態度をとればいいのか、毎日お題に取り組むという活動でした。もとは全て英語で書かれた1枚のカレンダーでした。これを皆さんに取り組んで頂くために日本語訳を付けて、毎日の“日めくりカレンダー”のように朝一番でオフィス内に紙で配布したり掲示したり、チームの朝会で毎朝紹介したりして、取り組みを促していきました。」
「例えば、“元気の源!”がテーマの日には、『あなたにとって、幸せ・愛・勇気・友情・笑いの源はなんですか?リストにしてみましょう。』といったお題が書かれています。また、“10分、見つけましょう!”がテーマの日には、『ミーティングを10分早く終わらせましょう。その10分をブレイクタイムにしませんか?』と書かれています。自分のことを考える機会はなかなか無いと思いますが、お題を通じて、毎日一瞬、自分のことを考えるという、良い取り組みができたと思います。【図2】」
【図2】
「こうした全世界的なWellbeingやメンタルヘルスへの取り組みのほか、多様な人材をお互い認めて、社内で活用していくという考えが根本にあります。このような考え方は、長年伝えてきていることなので、会社としてはメンタルヘルス対策に取り組みやすい環境にあったと思います。今後、さらに新たな活動を広げていこうといろいろ探っています」
【ポイント】
- ①社員同士のコミュニケーションが活発になるような仕組みを会社側が提供をすることで、周囲の人に関心を持ち、話しかける機会が増える。
- ②お互いを知ることで、不調時の変化に早期に気づく二次予防にもなる。
- ③他者に感謝の気持ちを伝えやすい環境を会社側で工夫することで、仕事のモチベーションが向上し、一次予防につながる。
【取材協力】エーオンジャパングループ
(2019年10月掲載)