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西日本ビジネス印刷株式会社
(福岡県福岡市)
西日本ビジネス印刷株式会社は、1979年に設立。総合印刷業の他、ソフト開発、コンテンツ作成なども行っている。従業員数は25人。
今回は、代表取締役会長の園田慶一さん、総務部経理課の森内愛民さん、福岡産業保健総合支援センターのメンタルヘルス対策促進員である大城悦徳さん、労働衛生専門職(両立支援担当)である三谷梨紗さんの4人からお話を伺った。
「心の健康づくり計画」にまとめることで、職場のメンタルヘルス対策を体系的に整理することができる
「心の健康づくり計画」策定を起点とした職場のメンタルヘルス対策の取り組みに関して、園田さんを中心に4人からお話を伺った。
「私(園田さん)が、以前大手IT企業にいた頃、会社に行くのがつらい日々が続くといった経験をしたことがありました。その後、自らこの印刷会社を立ち上げた際、『会社に行くときには、楽しい気分で。社員がつらい思いをしながら会社に来ることがないようにしたい』という思いを胸に、これまで組織作りを行ってきました。私(園田さん)からは、出勤時などに社員の顔を見ながら声掛けするようにしています。経営者自らが、社員に近づこうとしなければ、本当の社員の様子は見えてこないと考えているからです。」
「社員の皆さんにはこれからも健康で元気に働き続けてほしいと思っています。これまで行ってきた女性活躍や子育て支援、がん就労者支援などの様々な活動の延長の中で、心の健康問題にも真剣に取り組むことにしました。業界団体での説明会の中で、職場のメンタルヘルス対策に関する無料の公的支援があるとの情報を得て、その時配布された用紙に記入して、すぐさま福岡産業保健総合支援センターに、FAXで支援依頼をしました。その後、三谷さんから連絡があり、当社の支援ニーズを踏まえて、全体的な体制、組織づくりということで“心の健康づくり計画”を策定する方向性が決まり、さらに助成金も活用でき、大城促進員の支援を受けながら、進めることになりました。」
「2018年9月に大城促進員より“心の健康づくり計画”の概要と項目や書式の説明を受けました。その後、私(園田さん)と森内さんの二人で時間をかけて、計画を作成しました。当社らしい計画をと考え、その思いを最初の基本方針に盛り込みました。」
【基本方針(目標)】
産業の構造的変化や最近のIOT、AI等の進化と普及、人間関係の複雑化は企業の経営のみならず働く従業員の心身の状態にまでも変化を及ぼす事態です。最早、従業員の健康、とりわけ心の健康への配慮は待ったなしの状況にもありしかも企業のBCP(事業の継続に関する計画)にも重要な課題として捉える必要もあります。高齢化や少子化の問題、家族の育児や介護の問題に腐心し心の健康を害する事態を早くから察知し、そのサポートと自らが自分のメンタルヘルスについて真剣に学び、その排除や対策に取り組もうとするものであります。
「具体的な実施事項には、相談窓口の設置やメンタルヘルス研修、“メンタルヘルス推進委員会”の設置と定期開催など、基本的な内容は含まれています。その上で、以前から取り組んでいた社内の整理整頓といった職場環境改善活動や、毎朝のラジオ体操の実施、地域の清掃を通じた社会貢献活動の推進なども盛り込みました。」
「新たな活動としては、全社員に対して、毎月第2水曜にストレス関連のセルフチェックを実施しています。独自のチェックシートに実際に書いてみて、自身で点数を計算することで、各項目で気になる箇所があれば、良くしようと意識することにつながります。こうした取り組みを継続して行うことで、社員一人一人がメンタル面での気づきが起こることを期待しています。」
「月別の実施計画表を2018年10月から2019年9月まで、1年分まとめました。10月1日にメンタルヘルス推進委員会のメンバーにより、“心の健康づくり計画”を策定いたしました。そして、10月9日の朝礼時に、私(園田さん)からメンタルヘルス対策の必要性について推進表明しました。その後、10月30日には大城促進員を講師に、全社員に対してメンタルヘルス教育を実施しました。業務の都合もあり、社内で朝早くから実施しましたが、皆さん熱心に参加いただきました。また、時節に合わせて、3月は1~8日の“女性健康週間”にちなみ、とりわけ女性従業員の心身の健康について考えたり、8月は心身に負担の少ない夏季休暇の過ごし方について情報提供を行ったりすることにしています。まずは1年かけて取り組んでいきます。」
「個々の取り組みを、“心の健康づくり計画”の中にまとめることで、体系的になり、職場のメンタルヘルス対策がどういったものなのか、イメージがついて整理ができました。そして、それぞれの取り組みの意義も分かってきました。月別の実施計画表に沿って、順次実施していくことで、最近では社員の心の健康づくりに対する意識が次第に上向いているのが、見えてきました。また、“心の健康づくり計画”は、当社のホームページにも公開しています。トップページにバナーを設置して目につきやすいようにしています。同業他社にも職場のメンタルヘルス対策の取り組みに関心を持っている会社は結構ありますので、広がることを期待しています。こうした取り組みの成果か、当社では退職はほとんどありません。採用も今のところ順調です。“心の健康づくり計画”をつくると良いことばかりだと思います。」
「実施事項の中に、“笑顔と思いやりのある職場づくり”という項目があります。仕事においては、失敗することや問題が起こることもありますが、そのような場合でも、笑顔があれば、互いに大きな争いにならず物事を進められると考えています。私(園田さん)自身、笑顔を作ることを、日頃から実践しています。“笑顔は幸せの呼び水”という言葉が、持論でもあります。仕事を楽しく、能率よく行いたい。そのためには、まず笑顔です。笑顔で相手に接することの大切さなどは朝礼などでもよく話をしています。人の悪いところを見るのではなく、良いところを見つけることが大事だと思います。さらに、良いところが際立つと目に留まりますので、そこを褒めることにしています。職場の中でフィードバックすることで、社員の皆さんは仕事が楽しくなっていくものと考えています。会社としては、売り上げや利益も大事ですが、社員の良いところを認め、褒めることで、結果は後からついてくると考え、地道に続けています。」
「国が新しい方針を示した時には、社会的にもその方向に進んでいくことになります。それらに対して、中小企業は、まだ実施しなくていいという訳ではなく、当社は他社よりも早く取り組む、という姿勢で行っています。取り組むまではハードルが高そうに感じるのですが、案外、実施できるものばかりでした。」
「福岡県は、競争入札の際に地域貢献活動によって評価点が加点される“地域貢献活動評価制度”が全国の中でも進んでいる方です。女性の活躍推進、社員の健康づくりの推進などに努力する企業が評価されています。当社は先駆けて取り組んできましたが、当社の規模の割には、非常に高い加点ポイントを頂いています。」
「職場のメンタルヘルス対策のみならず、がん就労者支援や子育て・介護支援、がん検診支援、飲酒運転撲滅運動、ハラスメント対策などに関して、これまで取り組んできました。これらは、社会保険労務士に相談したり、自ら学習したりしながら、就業規則に反映してきています。そのため、今では当社の就業規則は100ページを超すボリュームになりました。さらに今後は、介護や子育て中で事務所まで出てきて働けない方などに対して、テレワークや在宅勤務を通じて、継続して働ける環境づくりを準備しています。経営者は社員のことを熱心に一生懸命考えて努力するからこそ経営者だと思っています。そうした努力をすることが、中小企業にとっての生き残りにつながると考えています。」
中小企業ならでの機動性と浸透力という利点を活かし、「心の健康づくり計画」をホームページ上で公表することにより、社員に対し元気に長く働き続けてほしいという思いを広く周知することにつながり、そのこと自体がメンタルヘルス対策となっている。
【ポイント】
- ① 「心の健康づくり計画」策定においては、以前から取り組んでいた活動もメンタルヘルス対策として関連があるか検討し、実施事項に盛り込む。
- ② 「心の健康づくり計画」を社内外に示すことにより、社員に対し元気に長く働き続けてほしいという思いを広く周知することにつながる。
- ③ストレス関連のセルフチェックを定期的に実施することで、自身のメンタル面での気づきを促すことができる。
- ④経営者自ら出勤時などに社員の顔を見ながら声掛けすることで、日頃の社員の様子を知ることにつながる。
【取材協力】
西日本ビジネス印刷株式会社
福岡産業保健総合支援センター
(2019年7月掲載)
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