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小牧市民病院(愛知県小牧市)

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小牧市民病院
(愛知県小牧市)

 小牧市民病院は、558床、31科を有する総合病院であり、愛知県尾張北部の地域中核災害拠点病院、三次救急医療機関である。
 職員数は正規職員、非正規職員合わせて約1,150人。
 今回は、産業医(精神科部長)の佐部利 了さん、臨床心理士(精神科所属)の大脇 貴美子さん、精神科医師の服部 理裕さん、病院総務課の鉾立 愛さんの4人からお話を伺った。

日常的なメンタルヘルス相談の窓口があることで、ストレスチェック制度による医師面接指導を受けることに抵抗のある高ストレス者も相談しやすい環境がつくられる

最初に、メンタルヘルス体制とストレスチェック実施の流れおよび医師による面接指導の状況について、お話を伺った。

「当院の産業保健スタッフは、精神科のスタッフの一部が兼務しています。産業医は、精神科の医師である常勤の佐部利先生が兼務しています。服部先生は、非常勤の精神科医師として週1回勤務しています。臨床の傍ら、ストレスチェックの実施や“メンタルヘルス改善意識調査票MIRROR”の利用方法と報告のまとめ方などについて、支援しています。臨床心理士の大脇さんは、普段は臨床現場にて、入院患者や外来患者の対応をしています。兼務として、職員からのメンタルヘルス相談に対応したり、ストレスチェックの実施にも関わっています。市職員である事務の鉾立さんが、衛生委員会の準備からストレスチェックの実施事務まで細かい調整をしています。医師と心理職と事務職がチームとなって取り組んでいることが特色だと思います。」

「ストレスチェックは、平成30年度は8月に実施しました。病院総務課で回収後、集計と分析は外部業者に委託しました。秋頃に個人結果を通知し、高ストレス者で医師による面接指導の対象者には、面接希望依頼書を1枚追加してお伝えしました。対象者には、面接指導前の準備面談を臨床心理士が行った上で、産業医が医師による面接指導を行う流れになっています。準備面談では、現状やこれまでの経緯をお聞きした上で、精神科治療の必要度合いや緊急性などを確認し、産業医に情報を伝えています。」

「これらの面談は、業務時間内に実施しているので、対象者は、その部署の管理者と事前にスケジュール調整をする必要があります。管理者(職場の上司等)に面談内容は伝わらないのですが、面談を受けることで高ストレス者であるということが分かってしまいます。どうしても管理者に知られたくないという場合は、相談者の業務時間外に対応することになりますが、産業保健スタッフは、日勤のみのため、例えば看護師であれば、夜勤入り前後の時間に面談するなどの工夫をしています。また、ストレスチェック制度とは別に、日常的に開設している職員向けのメンタルヘルス相談窓口で面談を受け付けることもあります。」

「日常的なメンタルヘルス相談は、産業医と臨床心理士の2名で対応しています。しかし、職員数が1,150人もいる中で、すべての相談にうまく応じきれていないといった課題がありました。そこで、昨年末からイントラネット上で事前に相談予約できるシステムを導入しました。また、これまでは、初回面談時にいちから経緯を聴いていましたが、“相談シート”を導入し、事前に記入して提出してもらっておくことで、円滑に面談を進められるようになりました。」

日常的なメンタルヘルス相談の窓口があることで、ストレスチェック制度の医師面接指導を受けることに抵抗のある高ストレス者も相談できる機会が広がる。また、相談者本人がイントラネット上で予約したり、相談シートを事前準備してもらったりすることで、相談対応が円滑になっている。

産業保健スタッフが、職場環境改善を行う部署の管理者やスタッフに対して、“一緒に取りくむ”姿勢をもち、関係づくりを大切にする

次に、ストレスチェック後の集団分析結果などによる職場環境改善活動の取り組みについて、お話を伺った。

「集団分析結果を活用した職場環境改善の取り組みにあたっては、全職種の管理職十数名からなる“ストレスチェック検討委員会”を新たに立ち上げました。厚生労働省のストレスチェック指針に基づき、組織レベルで改善に取り組むというトップの方針を、病院長から発信しました。そして、集団分析結果は、慎重に取り扱う必要があるので、その旨を確認しました。その上で、私たちから高ストレスの状態にある部署の説明をした上で、どの部署に職場環境改善の介入が必要かを検討委員会で話し合い、5つの部署を対象としました。その中の4つの部署で、職場改善ツールとして職場における望ましい状態を示す45項目から構成された産業医科大学が開発した“メンタルヘルス改善意識調査票MIRROR”を利用することにしました。」

「職場環境改善の介入にあたり、各部署でいきなり『職場改善の話し合いをしてください』と言われても、よく分からない上、医療現場ということもあり、ただでさえ皆忙しい中、負担感しかないのではという思いがありました。そこで、具体的な足がかりとなるものとして、 “メンタルヘルス改善意識調査票MIRROR”を、WEBアンケート形式で実施しました。対象部署の職員は、アンケート案内通知書に掲載されているQRコードを各自のスマートフォンで読み取ることで、簡単にアンケートに答えられるよう工夫しました。その結果、多い部署では68%の回収率を得られました。」

「集計結果は、各部署ごとに、“改善が必要”の高い順番に回答割合と合わせて45項目を並べて1枚のシートに示しました。“改善が必要”な点だけでなく、職場の強みも見つけてほしいという思いから、“実施済”の高い順番に並べたシートも作成しました。」

「集計結果シートは、最初、該当部署の管理者に、産業医と臨床心理士から説明しました。その際、例えば、看護師長の場合、『師長さんのところのスタッフさんはこんなに大変な思いをして頑張っていらっしゃるんですね。師長さんも大変でしょう』と言葉をかけ、関係を築くことから始めていきます。また、『少しでもそれらの負担を和らげるために、何ができるかいっしょに考えましょう』と何度も伝え、一緒に取り組むという姿勢を大切にしながら進めていきました。」

「その後、該当部署のスタッフに対して、参加型の職場環境改善のグループミーティングを実施しました。グループミーティング実施日の前に、別途、業務時間内に30分ほど時間を取り、2種類の集計結果シートの説明をしました。そこでも『一番大変な思いをしながらも頑張っている部署なんですよ』という言葉を最初に伝えました。そして、効率的に進めるために、後日、グループミーティングで話し合う改善項目を各グループで事前に決めておくようにお願いしました。」

「グループミーティング当日には、管理者は参加していません。部署全員が同じ時間に集まれないので、複数の日時に分けて実施しましたが、1時間~1時間半かけて1グループ4,5人でグループワーク形式で検討しました。“実施済”のシートでできているところを改めて確認した上で、“改善が必要”のシートを見ながら、“改善計画・実施チェックシート” (【図1】参照)に沿って、事前に決めておいてもらった改善項目について検討してもらいました。」

図1

「改善項目と改善策はグループごとにまとめるので、複数出てきます。これらを一覧にまとめて、管理者に報告し、私たち産業保健スタッフとの面談の中で、実践する項目を管理者に選定してもらいます。その部門としてまとめた計画を、さらに管理者からスタッフにもどして、具体的な行動レベルでの計画に反映されるよう、再度検討してもらいます。」

「取り組みがスタッフにおろされてしばらくたったある日、介入部署のある管理者から、『スタッフがこんな良い提案を書いてきたので、見てほしい!』と、私たち産業保健スタッフに、新たに改善策シートを持ってきてくれたことがありました。この部署は、もともと、スタッフがあまり主体的に取り組むことができていないという課題がありました。しかし、シートの内容から改善の話し合いを通じて、スタッフ自身がもっと具体的に検討し、切り分け方や優先順位の基準を考え、職場全体の改善への意識づけがなされたと思いました。また、なにより、その管理者が私たちと共有したいと思ってくれたことを、嬉しく思いました。

「これらの活動がうまく進んだのは、第1に最初の時点で、トップが方針を明示して実践していく旨を表明すると共に、私たち産業保健スタッフに、一定の裁量が与えられたことが大きいと考えています。そして、第2に、私たち産業保健スタッフと現場の管理者およびスタッフとの関係性が、日頃からできていたことも大きいと思います。日常的なメンタルヘルス相談対応をする中で、信頼関係が築きあげられてきたと感じています。事業場内産業保健スタッフが中心となって職場環境改善活動を行う際の大きなメリットだと思います。」

「今後の改善取り組み結果の評価方法としては、その部門の総合健康リスクが上がったか下がっただけではなく、改善取り組みを通じて、職場内で起きている目に見えない小さな変化も大切にしながら、各職場で活動を続けていくことができるよう支援していきたいです。」

産業保健スタッフが、職場環境改善を行う部署の管理者やスタッフに対して一緒に考えるという姿勢をもち、関係づくりを大切にすることが大事である。また、グループワークを通して、職場環境改善に関する職場での話し合いの機会をつくることにより、スタッフが自発的に改善策を提案すると共に、管理者も実施計画が立てやすくなる。

【ポイント】

  • ①日常的なメンタルヘルス相談の窓口があることで、ストレスチェック制度の医師面接指導に抵抗のある高ストレス者も相談しやすい環境がつくられる。
  • ②産業保健スタッフが、職場環境改善を行う部署の管理者やスタッフに対して説明する際は、“一緒に取りくむ”姿勢をもち、関係づくりを大切にする。
  • ③“メンタルヘルス改善意識調査票MIRROR”を利用する場合、自分たちの部署でできている項目を確認した上で、改善が必要な項目を選択し、具体的な改善策を考えていく。
  • ④職場環境改善活動を目的としたスタッフ参加型の研修では、スタッフから出てきた改善案を管理者が確認し、選定する。選定された項目に対し、スタッフ主導で具体的計画に反映させるというプロセスが、職場全体の改善への意識づけにつながる。

【取材協力】小牧市民病院
(2019年4月掲載)