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岐阜県庁
(岐阜県岐阜市)
岐阜県は本州のほぼ中央に位置し、県庁所在地の岐阜市は、長良川でのアユを捕らえる鵜飼いで有名なほか、金華山の山頂の岐阜城からは、濃尾平野を遠くまで見渡すことができる。
県内には42市町村あり、県全体の推計人口は約200万人(平成30年12月現在)。岐阜県の知事部局の職員は、非常勤も含めると約5700人で、地方公務員として幅広い分野で様々な業務に携わっている。例えば、行政職では、危機管理・防災、健康福祉の増進、農林水産業・商工業・観光の振興などの分野があり、勤務地は、岐阜県内全域にある。
今回は、総務部職員厚生課健康管理係の中土康代さん、メンタルヘルス相談員の山本香緒里さんの2人からお話を伺った。
高ストレス者の就業上の措置については、面接指導した医師の意見書をもとに、関係者による検討会で決定する
最初に、ストレスチェック実施の全体の流れについてお二人からお話を伺った。
「ストレスチェックに関しては、岐阜県庁全体では、今年度5,082人が受検しました。受検対象者には、今年4月時点で採用されており1年間働く見込みのある方で、1週間の労働時間が2分の1以上の非常勤職員も含まれています。法律で義務化された対象(1週間の労働時間が4分の3以上)よりも幅広くしています。受検率は89.1%と昨年度より少し下がりました。今年度の実施期間中に起こった7月の豪雨災害への対応で、受けることができなかった職員がいたのではないかと考えています。」
「ストレスチェック実施の年間スケジュールは、まず7月の最初の2週間に対象となる職員にストレスチェックを受けてもらい、8月に各職員へ個人結果を返します。その後、高ストレス者の中から医師面接希望の職員を募り、9月から面接を行っていきます。そして、面接を実施した医師からの意見をもとに、どのような就業上の措置を行うか、もしくは行わないか検討会を順次行い、10月頃には全員の措置が決定されるという流れです。」
「岐阜県庁では、ストレスチェックの後だけではなく、日常的に職員がいつでも医師に相談できる“心の健康相談”という事業があり、県内の7地域の精神科医に依頼しています。高ストレス者への医師の面談指導は、この“心の健康相談”の医師を中心に、別途個別に依頼している医師と合わせて8名で対応しています。」
「ストレスチェックの実施代表者は、健康管理医(産業医)です。面接が終わった後に就業上の措置について考える検討会は実施代表者と職員厚生課の職員である私たちで行い、異動の措置を検討する際は人事課の職員が加わります。各地域で面接した医師から意見書の提出を受け、本人にも内容を確認し、別途所属長にも面談で状況を確認した上で、意見をまとめ、その資料をもとに検討し、決定しています。医師の面接指導の実施時期の期間は1か月半ほどあるので、できるだけ対応が遅くならないよう、今年は検討会を2回実施しました。」
グループ討議による職場環境改善活動を行う場合、職員全員の参加や意見が反映されやすいように工夫する
次に、ストレスチェック実施後の職場環境改善活動についてお二人からお話を伺った。
「ストレスチェック実施後の組織への対応としては、職場ごとの集団分析結果を10月までに各所属長に返しています。その後、各職場の所属長参加による集合研修を実施し、集団分析結果の見方を説明すると共に、職場環境改善の考え方と実践方法について説明します。また、高ストレス状態の職場の所属長に対しては、研修後に私たち産業保健スタッフが個別面談を行って、職場環境改善策を一緒に検討しています。」
「また、岐阜県庁独自に“職場環境改善事例集”を毎年まとめて、職員誰もがイントラネット上でいつでも見られるように公開しています。毎年、集団分析結果の研修会を終えた10月頃に各職場に通知を出した上で、翌年2月くらいまでに、事例の提出をお願いしています。高ストレス状態の職場面談を行った部門からは必ず提出していただきますが、その他の職場からは“良い取り組みを共有したい”と伝えることで、多くの提出がありました。1年目は、集団分析結果の研修会で、職場環境改善事例として一般公開されている高知県庁の取り組み事例集を配布しました。そこに取り組みやすい項目が多く掲載されていたので、それらを参考にしたようです。2年目の昨年は、1年目に集まった岐阜県庁の“職場環境改善事例集”を参考に実践したようで、1年目よりもさらに多くの事例が集まりました。独自に各職場でグループ討議を実施したという事例もいくつかありました。」
「12月上旬に職員厚生課でも実際に、こころの耳サイトでも公開されている“いきいき職場づくりのための参加型職場環境改善の手引き”を参考に、グループ討議を行いました。参考にしたマニュアルでは1時間程度と書いていましたが、1時間も職員が職場を抜けてしまうと仕事に差し支える可能性があるのと、全員一緒に職場を離れることはできないので、基本の時間を1回30分にしました(図1参照)。当課の所属職員は、1つのフロアに25名います。 “研修会1”は、職員全員を半分に分けて、2日間の開催でどちらかには必ず出席するように依頼しました。まず、ストレスチェックの概要と個人結果、当課の集団分析結果について解説しました。その後、“いきいき職場づくりのためのアクションチェックリスト”を用いて、個人ごとに職場の良い点・改善したい点を意識して、チェックしてもらいました。」
「1週間後の“研修会2”では、グループ討議を行いました。各係 3 名ずつ選出してもらい、6名ずつ2つのグループに分けて30分間で実施しました。参加できない職員からもチェックリストを事前に提出してもらっていましたので、参加者が各自持参したチェックリストと合わせて意見交換してもらいました。グループ討議では、最初に“良い点”について各自発表し、その後、“改善したい点”について順番に発表しました。一通りこれらの発表を聞いた後、今出た意見の中で、“良いと思った意見”や補足意見などを出し合いました。(図2参照)」
「グループ討議の中で出てきた意見は、その場で私(山本さん)が1つずつメモ書きし、アクションチェックリストに示されている4つの視点の枠組み “A.仕事のすすめ方”、“B.作業場・オフィス職場環境”、“C.人間関係相互支援”、“D.安心できる職場のしくみ”に分類して、グループメンバーの目の前で仕分けていきました。これらの意見を色分けしてまとめたものを、最終的に課内全員に共有しました。」
「グループ討議の中では、“良い点”として、“Outlook(メールソフト)の予定表やホワイトボードの活用”などについて意見が出ました。そこからさらに“より良くしたい点”として、“Outlookの予定表やホワイトボードの書き方が統一されるともっと情報共有が図られる”といった“改善したい点”につながりました。その他、“改善したい点”として、消耗品の不足感や職員間のコミュニケーションの取り方の他、電子レンジ・ポット周りの電源延長コードについても話題が上がりました。」
「その後、グループ討議にて反応の多かった意見をもとに、“①すぐに実行可能なもの”と“②低コストで実施可能なもの”を基準として、今回の活動の取りまとめ役にあたる管理調整監が取り組み案を決定し、それらの担当者も指定しました。そして、翌年1月の末に、“改善のための7つの取り組み”として資料を配布して、職員全員へ周知しました。」
「取り組みの1つ“予定表やホワイトボードの記入方法などの統一化”については、紙帳簿との重複記入をやめたり、Outlookの予定の記入時は内容によって色分けしたり、ホワイトボードに帰社時間を記載したりするなどを掲げました。これらを周知したことで、現在は、記入方法に関して職員間で徹底されているように思います。また、“消耗品のあり方のルール”は、グループ討議のメンバーに消耗品管理の担当者が入っていたことで、細々とした内容に関しても意見を出し合い、改善策につながりました。」
「また、職員の入れ替わりがある中で、職員間で質問の仕方やその答え方がうまくできないといった課題については、“工夫で変わる会話術”としてアサーションやコミュニケーション手法などの内容を1枚の紙にまとめ、周知することにしました。管理調整監から、『皆、コピーを取りに行くときに視界に入るから、コピー機の前に貼ろう』といった提案もあり、この貼り紙はコピー機の前に掲示することにしました。
「当課は同じフロアでも県職員だけではなく、約半分は共済組合などの他団体の職員や非常勤職員など、所属がさまざまです。よって、県職員対象のメンタルヘルス研修やストレスチェックなどを受けていない職員もいます。これまで、職場環境に関する内容で各係が集まって話をする場は無かったのですが、今回、ストレスチェックの結果説明を1つのきっかけとして実施できたことは、職員が皆漫然と感じていたことが共有できた点からも良かったと思います。」
「また、私(山本さん)が岐阜県庁内の他の部や課から依頼を受けて、職場環境改善の研修を実施することもあります。2年目の昨年はある研究所の所属長から依頼がありました。来年度大きな組織改編があることが決まっていることもあり、職員も不安があるのではないかという考えが所属長にありましたので、事前に何度も打合せしました。研修当日、研究所の職員はほぼ皆参加しました。職員厚生課で実施した研修と同じように、アクションチェックリストを用いました。3つのグループに分けて、各グループに司会を置き、“良い点”、“改善したい点”を出してもらい、話し合っていただきました。私は、それぞれのグループのまとめをホワイトボードに書いていき、それらをアクションチェックリストに示されている4つの視点の枠組みに色分けして、並べて示していきました。」
「グループ討議では、“良い点”としては“自由度が高い”や“環境的に静かで業務に集中しやすい”などがありました。“改善したい点”としては、“個人で行う業務が中心のため、チームとして機能しにくく、相談できる人がいないので改善したい”という意見が全グループからありました。この点は事前に心配している点として、所属長から同様のことを聞いていたのですが、職員皆がそう思っていたということを確認できてよかったとのことでした。この事例も岐阜県庁の“職場環境改善事例集”に掲載しています。」
「その他、岐阜県庁の各事業場から集まった職場環境改善の取り組み事例としては、ある児童施設では、『2,3人集まればケースカンファレンスをという意識付けのために、その場にいる職員が違和感、気づいたこと、感じたことなど口に出せるよう、雑談を大事にできる雰囲気づくりをしている』といったものや、土木事務所では、『9月と12月にそれぞれ約2週間の期間を定め、全員で文書・資料等の整理整頓(クリアデスク)を実施』や、危機管理部門においては、『災害時に災害対策本部が臨時で設置された際、その個室には個別空調が設置されておらず、職場環境が悪い中での勤務となっていたが、個別空調のある隣室との間の扉を開放することにより、温度管理が可能となった』などがありました。67の事業場から報告いただいています。」
「“いきいき職場づくりのための参加型職場環境改善の手引き”によると、自分たちの働く職場環境を管理監督者や同僚と一緒に見直して、働きやすい職場環境に改善することは、メンタルヘルスに役立つと考えられ、働く人たちが自主的に改善した働きやすい労働環境は生産性に直接的・間接的に良い効果をもたらすと言われています。私たちもこういった機会を定期的に設けていくことは今後も大切だと考えています。」
産業保健スタッフが各職場に対して、「より良い取り組みを共有したいと伝えることで、職場環境改善の好事例が多く集まり、さらにそれらを団体独自の事例集としてまとめることで、組織全体への広がりにつながる。また、グループ討議による職場環境改善活動を行う場合、職場の「良い点」を最初に発表し合うことで、「さらにより良くしたい点」、「改善したい点」と新たな気づきや発想につながっていく。
【ポイント】
- ①グループ討議による職場環境改善活動を行う場合、職員全員の参加や意見が反映されやすいように、短時間で行ったり、事前に全員にチェックリストをつけてもらったりするなどの工夫をする。
- ②グループ討議で出てきた意見は、アクションチェックリストに示されている4つの視点の枠組み “A.仕事のすすめ方”、“B.作業場・オフィス職場環境”、“C.人間関係相互支援”、“D.安心できる職場のしくみ”に分類して示すことで、参加者も分かりやすくなる。
- ③担当者が各職場に対して、うまくいった取り組みを共有する機会を設けることで、職場環境改善の好事例が多く集まる。こうした事例を“事例集”としてまとめ、各職場が参考にすることで、環境改善が組織全体へ展開することが期待できる。
【取材協力】岐阜県庁
(2019年2月掲載)