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希望の里ホンダ株式会社
(熊本県宇城市)
希望の里ホンダ株式会社は、1985年に設立された障がいを持った人も健常者も一緒に働ける環境の整った工場である。「障がい者も健常者も気持ちよく働ける雇用の場づくり」を目的として、熊本県宇城市の「希望の里」に設立された。熊本県、宇城市、本田技研工業株式会社の第三セクターであると共に、本田技研工業株式会社の特例子会社でもある。ホンダの二輪・四輪及び汎用の部品製造および印刷・校正業務等を行っている。
従業員数は63人。その内、障がい者は28人(2018年9月現在)。
今回は、総務課主幹の西浦博美さん、総務課の小畑愛梨さん、同社が契約している集団健診機関に所属する保健師の堀口真愛さん、管理栄養士の堀川善恵さんの4人からお話を伺った。
産業保健スタッフの定期的な訪問支援日を定め、従業員に周知し、相談できる機会があることを知らせる
最初に、従業員の健康・メンタルヘルス対策全般の状況について、4人からお話を伺った。
西浦さん、小畑さん
「集団健診機関とは約25年前から、健康診断契約をしています。産業医業務も同じ頃から委託しています。」
堀口さん、堀川さん
「私たち集団健診機関では、産業医と保健師、管理栄養士が1つのチームとなって、トータルヘルスサポートを行っています。チームで対応することで、メンタルヘルスケアだけではなく、健康診断の事後指導や特定保健指導などもスムーズに行うことができます。また、メンタルヘルス不調で生活リズムが整っていない場合、管理栄養士による食事指導を通じて整えていくといったこともあります。」
西浦さん、小畑さん
「昨年からは、毎月第1月曜日を“からだスマイルデー”と定めて、従業員に対して健康に関するさまざまな活動を行っています。従業員にも、『第1月曜日は“からだスマイルデー”』だということが浸透してきました。」
堀口さん、堀川さん
「健康診断の事後指導や特定保健指導、メンタルヘルス対象者の面談も、この日に実施しています。また、職場巡視を行って、気になる方への声がけを通じて面談につなげたり、環境整備を促したり、血圧や体重をその場で測ってアドバイスを受けられるコーナーを設けたりしています。“禁煙チャレンジャー”への面談もこの日に実施して、昨年は社長をはじめ3名の禁煙成功者が出ました。」
「さらに今年からは、昼食時間帯に食堂で、“ホーリーズクッキング!”と称して、私たち2人によるミニ料理教室を行っています。従業員の目の前で、実際に調理して、バランスランチのレシピの提供と食育を行っています。従業員にバランスランチに関する感想を聞いたところ、『味は薄いけど土日に暴飲暴食をするので、月曜日にバランスランチでリセットできるような気がする』、『最初は薄いと感じた味付けも、最近は薄さを感じなくなってきた』といった声がありました。食事全体の塩分量は変えていないので、薄味に慣れてきたのだと思います。」
「その他、“からだスマイルデー”とは別に、就業時間内に全従業員を対象として、メンタルヘルス関連のセミナーも定期的に行っています。睡眠や食事に関すること、ストレッチなど、毎回テーマを決めて、1時間ほど実施しています。」
西浦さん、小畑さん
「産業医は、法令で定められているストレスチェックの高ストレス者や長時間労働者への医師面接指導の他、職場復帰時の状態確認が主な活動です。昨年からは、社長より“残業ゼロ”という方針が示されたこともあり、現在、長時間労働者はいません。」
次に、ストレスチェック制度への取り組み、および高ストレス者への対応について、お話を伺った。
西浦さん、小畑さん
「ストレスチェックが義務化される前は、健康診断と合わせて厚生労働省の“労働者の疲労蓄積度自己診断チェックリスト”を実施していました。集団健診機関が集計した上で、健康診断結果と合わせて結果を伝えていました。気になる方には、事後指導の面談の中で保健師がケアしていました。」
「ストレスチェックは、毎年4月の定期健康診断に合わせて実施しています。“職業性ストレス簡易調査票(57項目)”の質問紙を配布しています。実施者は産業医、共同実施者は保健師、実施事務従事者は小畑さんが担当しています。」
堀口さん、堀川さん
「障がい者の中には、“職業性ストレス簡易調査票(57項目)”の質問項目の文言のままだと実際の状況や状態をイメージしにくい方もいます。そのため、わかりやすくするために質問項目に私たちの方で少し説明を追記した質問紙を渡すなどの工夫をしました。」
西浦さん、小畑さん
「高ストレス者に対しては、産業医による面接指導とそれを希望しなかった方への保健師面談を通じて、対象者全員と面談しました。対象者へは、社内窓口の小畑さんが、あまり周囲の人がいない時に直接声掛けし、個人結果を見たか確認した上で、見ていない方にはまず見るように促しました。その上で、一人ひとりにサポートすることを丁寧に伝え、保健師が毎月来ているので、面談を受けてみないかと伝えました。さらに、保健師も“からだスマイルデー”などを通じて、従業員にとって日頃から顔なじみであったことが、全員との面談につながったのではないかと思います。」
「産業医による面接指導においては、保健師も同席しています。高ストレス者との面談では、その後もフォローが必要な方には保健師が継続面談を行っています。基本的には、月1回の訪問日に実施しますが、追加で面談日を設けることもあります。」
保健師と管理栄養士によるミニ料理教室を通しての食育など、生活習慣病の予防にも注力している。また、産業保健スタッフの定期的な訪問支援日を従業員に周知し、相談できる機会があることを示している。高ストレス者に対しては、社内の実施事務従事者が、直接声掛けし、支援する旨を丁寧に伝えることで、医師面接指導と保健師面談により対象者全員との面談の機会を設け、心身両面からの予防対策を行っている。
職場での取り組みや親睦活動においては、障害のある方も参加できるよう配慮を心がける
最後に、ストレスチェック後の集団分析結果などによる職場環境改善活動の取り組みについて、お話を伺った。
堀口さん、堀川さん
「高ストレス者への面談や集団分析結果などから見えてきたストレス要因の課題としては、“対人関係のストレス”の高さがありました。さらに健常者と障がい者に分けて比較したところ、障がい者の方が“対人関係のストレス”が高く、特に聴覚障がい者に多いという傾向がありました。まず、“従業員同士の相互理解とコミュニケーションの促進”の観点から、聴覚障がい者への支援に焦点をあてた活動を考えました。」
西浦さん、小畑さん
「聴覚障がい者の配属先はバラバラです。職場で健常者同士が話をしていると、何を話しているかが分からないので、自分の陰口ではないかと考えてしまうといった声が多くありました。そのため、健常者同士で話をしている際も、できるだけ手話を使ってほしいといった要望も出てきました。また、上司から直接、説明や指示等があっても手話を使ってくれないといった不満もありました。」
「そこで、社内で“手話教室”を開催することにしました。参加希望者を募り、週1回、初心者にもわかりやすいように指文字からはじめました。聴覚障がいのある従業員が自ら講師となり、職場で少しでも手話を使って話ができるように、毎回、内容を変えて実施しました。」
「参加者は全従業員の7,8割と結構多く、初めての方から長い間手話を使っていなかった方まで幅広くいました。参加者は手話を学び、皆さんと交流できてとても良かったと言っていました。また、聴覚障がい者の方々にとっては、周りの従業員の多くが手話を覚えようとする姿勢がうれしかったようで、健常者の方々と心理的距離が縮まったと感じられたようでした。手話教室だけが改善の要素という訳ではありませんが、1年経って今年のストレスチェックでは、高ストレス者の中に聴覚障がい者の方はいませんでした。」
堀口さん、堀川さん
「その他、“従業員同士の相互理解とコミュニケーションの促進”の観点からは、もう1つ、“Let’s☆いきいき職場づくり”と称して、今年の2月に参加型職場改善活動を実施しました。就業時間中に60分間時間をとって、従業員全員が参加するグループワークを行いました。グループは、管理職、女性、聴覚障がい者など同じ立場・状況の方で、9つに分けました。」
「最初に、私(堀口さん)から、“オンとオフの切り替え法”など簡単なセルフケアの説明をしました。その後、職場環境に関する2つの事例を紹介し、イメージを持ってもらいます。1つはコミュニケーション不足や作業環境が悪いなどの良くない職場の事例。もう1つは信頼関係や情報共有ができていて、活気にあふれている良い職場の事例。他の会社で実施する場合、この2つの事例は、動画で紹介することが多いのですが、こちらでは、聴覚障がい者も多いので、私たち2人による寸劇を中心に、外部の手話通訳ボランティアによる支援と配布資料の説明文を多くすることで、分かりやすく伝える工夫をしました。そして、『希望の里ホンダさんはどうですか?』と、自分たちの職場について考えていただく流れにしました。」
「実際のグループワークでは、まず自分たちの職場の“働きやすい点”と“働きにくい点”を自由に意見交換してもらいます。その後、チェックリスト項目に沿って点検してもらい、“役立っている良い点3つ”と“これから改善したい点3つ”を挙げて、グループでまとめてもらいました。最後に、それらをホワイトボードに書き出して全体発表した上で、自分たちで3つに絞って改善策を考えていく流れで進めました。」
「チェックリスト項目は、希望の里ホンダ独自に10項目つくりました。こころの耳サイトにも掲載されている厚生労働省の“メンタルヘルスアクションチェックリスト”を基に、実際の職場をよく知っている総務課のお二人と話し合った上で、日頃の職場巡視や面談の中で必要だと思う視点を大切につくりました。」
西浦さん、小畑さん
「今回のようにグループ形式で職場について話し合う研修は初めてでした。皆で自分たちの職場のことに焦点をあてて、話をするという場をつくったことで、終了後のアンケートでも参加者の満足度は高かったです。参加者にお茶を用意して和やかな雰囲気をつくり、話しやすくするよう心がけました。」
「3つ掲げた改善計画の中の1つ、“有給休暇の取り方の改善”に関しては、3連休や5連休取得の推進を行っており、リフレッシュできる時間が持て、従業員の間では好評を得ております。また、“各班でのミーティングを継続して行う”も現場では定期的に行われるようになりました。来年も2月頃に参加型職場改善活動を行う予定ですので、今回の計画に対してはそれまでに報告と評価を行いたいと考えています。」
「職場環境改善活動は、これまでもハード面に関しては、前から小さな改善を随所で行ってきました。例えば、水道の蛇口を、車いすの方でも使いやすいよう、手動から自動に変更したり、通路の確保や整理整頓も日頃から心がけています。さらに、いろいろな障がいを持った方々と健常者が同じ職場で働くうえで、作業台や組立治具などを作製し、特許を取得したり、iPadを導入するなど、誰もが楽に作業しやすいように工夫しています。これらは、全て従業員の改善提案活動から生まれたものです。」
「また、従業員の親睦活動としては、“遊望会(ゆうぼうかい)”と称して、従業員同士のコミュニケーションを図るための活動を、自主的に年に数回企画し行っています。これらの活動は、車いすの方でも参加できるスポーツやイベントであるよう配慮しています。」
「このような活動を通じて、2016年には熊本県が独自に行っている“ブライト企業”の認定を受けました。熊本県では、働く人がいきいきと輝き、安心して働き続けられる企業を“ブライト企業”(ブラック企業と対極の企業をイメージした熊本県の造語)として認定しています。認定のための基本的な4要件として、“①従業員とその家族の満足度が高い”、“②地域の雇用を大切にしている”、“③地域社会・地域経済への貢献度が高い”、“④安定した経営を行っている”が挙げられていて、それらを認められたことはとても嬉しかったです。さらに、2018年には残業“0時間”達成したことに対し、ブライト企業賞の働き方改革推進部門賞をいただきました。」
「今後は、これまでの親睦活動やハード面での職場環境改善活動と合わせて、参加型グループワークでの改善計画に基づくソフト面での職場環境改善活動にも力を入れていきたいと考えています。」
堀口さん、堀川さん
「希望の里ホンダさんは、会社と労働者の皆様を良くしていこうという思いが熱く、計画立案とその実行もしっかりされています。健診データも私たち集団健診機関と一緒に確認し、協働しながらできていることを感じています。お互い相談しやすいので、『こういうことをしたい』とお話しされると、私たちも実現に向けて積極的に支援でき、とても良い関係であることがうれしいです。」
障がい者が感じている不安や悩みに関して面談を通じて確認した上で、障がい者も健常者も一緒にいきいきと働ける職場づくりを目指した活動を行う。また、参加型職場改善活動を実施する際、障がい者にも内容を理解してもらった上で、活発な意見が出せるよう、外部からの支援を得たり説明を多くしたりといった工夫をする。
【ポイント】
- ①高ストレス者に対しては医師による面接指導以外の面談の機会を作ることで、高ストレス者全員との面談が実施できている。
- ②保健師と管理栄養士によるミニ料理教室を通しての食育など、生活習慣病の予防にも注力し、心身両面からの予防対策を行っている。
- ③障がい者が感じやすいストレスについて面談を通じて確認し、障がい者と健常者が一緒に働きやすくするための活動を行う。例えば、施設の整備といったハード面だけでなく、健常者が手話を学ぶ機会を作るなどソフト面の対策も実施する。
- ④参加型職場改善活動を実施する際、障がい者にも内容を理解してもらった上で、活発な意見が出せるよう、外部からの支援を得たり説明を多くしたりといった工夫をする。
【取材協力】希望の里ホンダ株式会社
(2019年1月掲載)