読了時間の目安:
約13分
株式会社友伸エンジニアリング
(東京都府中市)
株式会社友伸エンジニアリングは、1971年に設立。配電盤を中心としたハイテクシステムの開発および産業用のソフトウェア開発を行っている
従業員数は、129名。本社と東京工場が89名、他は福島県の鹿島工場、岩手県の一関工場などに在籍している。
今回は、総務部 部長の栗須健二さん、主任の大平真弓さん、そして外部EAP(従業員支援プログラム)機関のカウンセラーである横森聖さんの3人からお話を伺った。
最初に経営者自ら、メンタルヘルス対策に取り組む旨の方針発表を社員に対して行うことで、全社での取り組みの大きな第一歩となる。
最初に、メンタルヘルス対策に取り組むきっかけと現在の体制、およびストレスチェック制度への取り組みついて、お話を伺った。
栗須さん
「2011年の東日本大震災の後、震災の影響でメンタルヘルス不調になった社員がいました。震災に伴う勤務地の転居、業務量や内容の変化など、様々な要因が重なっておりました。」
大平さん
「今までメンタルヘルス不調者への対応をしたことがなかったので、慎重に丁寧に対応しながらも、方法が分からないまま四苦八苦していました。」
栗須さん
「そうこうするうちに、また別の新入社員がメンタルヘルス不調になりました。先程と同様に、しばらくは会社側で丁寧に対応していたつもりでしたが、ある日その社員の親から『皆さんにまかせられないので、連れて帰ります』と言われ、そのまま退職することになりました。私たちはできる限りの支援をしてきたつもりでしたが、そのことが本人やご家族に伝わらなかったことに、残念な思いとショックを受けました。」
「その時期は、他にもメンタルヘルス不調者の方が何人かいるような状況でした。そのたびに、総務部では、毎回ハチの巣をつついたようにざわつき、自信がないながらもなんとか対応しているという状況でした。専門的な知識がない中での対応は私たちにとっても不安を伴い、他の総務部門の業務にだいぶ支障が出てきました。このように総務部で苦労していたことは社長や常務にも相談していました。」
「ちょうどその頃、外部EAP機関による公開セミナーを受け、2015年からストレスチェック制度が義務化されることと、職場のメンタルヘルス対策の必要性を知りました。社長にも実例を交えながら必要性を説明したら、決断していただき、その外部EAP機関にストレスチェックの外部委託機関としてお願いすることにしました。」
「産業医は、以前から会社の近くの病院の先生にお願いしています。健康診断に関わる業務や安全衛生委員会の出席をお願いしています。」
「ストレスチェックを実施する前に、東京大学と日本生産性本部による“健康いきいき職場づくりフォーラム”のセミナーを受け、『ストレス対策の取り組みは、ストレス負荷の高い者やメンタルヘルス不調者が起きてからではなく、そもそもそのようなことが起きない職場づくりをどうやって行うかだ』というお話がありました。そこで、2015年4月に、私たちはまず、当社の経営発表会で“ストレスチェックを実施する”ことと、“健康いきいき職場づくりに取り組む”を説明し、社長による“今年の目標”にも盛り込みました。そして、高ストレス職場の状態にならないような活動をやっていきたいという思いもあり、ストレスチェック制度が義務化される前にまず実施しました。」
大平さん
「2015年の最初のストレスチェックから、事業場規模に関わらず、全社員を対象に実施しました。質問票は紙方式で行いました。法律で受検が任意とされる前でしたので、『全社員受けるように』と強くいったことで、受検率は100%でしたが、記入漏れの方が何人かいました。社員からすると『会社が言うから受ける』といった受け身的な感じが最初はあったと思います。」
「2016年の義務化以降は、産業医が実施者として、外部EAP機関のカウンセラーとスタッフ、そして私たちが実施事務従事者として実施しています。2016年は高ストレス者が少し多かったのですが、自ら医師の面接指導を希望する社員はいませんでした。2017年からは、外部EAP機関の横森カウンセラーによる面談を始めました。その年も自ら希望する社員はいなかったのですが、私が本社を職場巡視している時、高ストレス者に『ちょっと面談を受けてみませんか』と声をかけて、横森カウンセラーとの面談につなげたこともあります。」
「ストレスチェックの時以外でも、本社と東京工場では月に1回横森カウンセラーの面談日があるので、悩みや不安があれば、そこで相談できる仕組みにしています。最初、全体朝礼の時に、お話しいただき、その様子はWEB会議システムで地方の工場でも見てもらいました。ストレスチェック実施時にも、横森さんの顔写真を相談窓口として合わせて紹介しています。職場復帰支援の際に、地方の社員が面談に来ることもあります。」
「横森カウンセラーによる面談は、新入社員に対しても行っています。入社3年目までの新入社員、中途社員約30人を対象に、ストレス耐性などを測定するチェックの結果説明と合わせて全員と面談していただいています。地方だとなかなかその後の状況が分かりにくいので、月に1回、幹部会議で地方の工場長などが集まった時に、間接的に様子を聞いて、面談が役に立っていると感じることがあります。」
「横森カウンセラーに関わっていただいてから、私たちだけで対応しなければならないという不安がなくなりました。専門家に協力していただきながら一緒に対応していく体制がいいですね。社員にとってもカウンセラーに話を聴いてもらいアドバイスをもらうことで、不安を取り除くことにつながるので、導入して本当に良かったと思います。」
栗須さん
「集団分析結果では、会社全体としての健康リスクの数値は、2016年と2017年では、あまり変化はありませんでした。ただ、部署ごとに見ると変動があります。工場の製造部門は、顧客からの要望に応じて、個別生産していることもあり、繁忙期と落ち着いている時期とで、仕事量に波があります。そのあたりももう少し調整できるようにしていきたいと思います。」
大平さん
「集団分析結果から特に地方の工場の社員への支援が必要だと分かりました。今年は、地方の岩手と福島の社員に対して横森カウンセラーによる全員面談を行う予定です。面談を希望者制にすると、周囲の目を気にする者もいるので、全員対象にしました。」
最初に経営者自ら、メンタルヘルス対策に取り組む旨の方針発表を社員に対して行うことで、全社一丸となって推進していく第一歩となる。総務人事部門の担当者だけで対応が難しい場合は、社外の外部EAP機関などの専門家の支援を受けることで、社員だけでなく担当者自身の安心感にもつながる。
職場のコミュニケーションを円滑にするために、総務部が率先して関与や支援をしていく
最後により良い職場環境にしていくための様々な施策について、お話を伺った。
栗須さん
「2015年に経営計画発表会で宣言した以降は、役員会での最初の議題は、毎回メンタルヘルス対策の話です。メンタルヘルス対策に積極的に取り組むと一度決めると、社長も役員も部長も皆、当たり前のように進めていく社風ですので、私たちも活動しやすいです。」
「職場環境改善という点では、以前、購買部にて発注先の担当者の顔写真を貼り出すことで、電話対応が格段と良くなったことがあります。購買部は、部品の購入連絡を電話などでやり取りするのですが、発注先に対して、『この部品をいつまでに用意してくださいね』といった感じで、電話の声だけだとどうしても冷たい感じがして、会話もギスギスしてしまいがちでした。そこで、発注先の会社の了承を得て、会議の時に、『皆さんが日頃電話対応しているのは、この方々です』と、発注先担当者の顔写真を示しました。その後は、顔を知ることで、相手のことをおもいやり、少し優しい口調になりました。合わせて、『逆も必要だね』ということで、当社の購買部の社員の写真も送り、発注先の担当者に示すことで、さらに、お互いのコミュニケーションが良くなりました。」
大平さん
「総務部の目標である“健康いきいき職場づくりに取り組む”一環として、各部門に対して、月に1回、社員一人につき5000円を支給して、コミュニケーションをとるための活動を支援しています。例えば、美味しい物を皆で食べに行ったり、ボウリングに行ったり、バーベキューに行ったり、温泉に行ったりとそれぞれの部門でコミュニケーションをとることを目的に利用しています。結果的に、『言いたいことが言えた』や、『あの仕事、もうちょっとこうした方が良かったね』といった会話も広がりますし、ストレス解消にもなります。」
栗須さん
「当社の社員は、年代ごとのバラツキがほとんどなく、10代から60代までそれぞれほぼ同じくらいの人数です。様々な年代が同じ職場にいるからこそ、このような“コミュニケーションを取る場を作る”ことに費用をかけることで、仕事にも役立ちますし、上司と部下との関係も良くなります。」
大平さん
「新入社員は、最初1ヶ月間の集合研修があり、その後、各配属先でのOJTとなります。一つの節目として、入社から3カ月経った6月の終わりに“友心亭”というイベント名で、その年の新入社員だけで企画を立てて、社員や社外の関係者を呼んで、おもてなしをするといった教育を、毎年実施しています。今年は、新入社員に若手の中途社員を含めた4人が行います。東京と福島に分かれているので、SNSなどを使って意見交換しているようです。昨年は、大量のからあげとハンバーグ、そしてバケツプリンを料理していました。その日の内に作らないと間に合わないし、ハンバーグは分量を考えないと全員にいきわたらないので、分量計算から研究し、新入社員皆で協力しあっていました。」
栗須さん
「3年前から、『入社から3年目までは見放さない』という方針で対応しています。実際、この3年間で離職した新入社員はいなく、定着率も良くなりました。新入社員は1年間、月1回、私たち総務部と面談しています。」
「それ以外では、以前、社長から『部長は、新入社員と毎日朝と夕方は会話をしなさい』と指示が出ました。毎月の面談では、質問項目の中で、部長がそれを実施しているのかという問いを設けて、確認をしています。最初は、『たまにしかしていない』といった意見が多かったのですが、指示を徹底したことで、部長の方から、仕事内容の確認の他に、仕事以外の話や最近楽しかった話などをするようになり、自然と新入社員の方からも話をするコミュニケーションができあがっていきました。」
「他には、上司からの指導に関して、一人ずつ発表していく中で、Aさんが『とても厳しく指導されました』と言うと、Bさんは『私の方がもっと厳しいよ』といった話になり、指導内容を振り返っていく中で、『自分が言われたことは、そんなに気にするほど大きなことではなかったのかな』と気づいたり、『それは言い方が悪かっただけだよ』や、『それは相手が気分屋だから、気分の悪い時に言ってしまったのだよ』と、他の社員がフォローしたりすることで、不安や悩みを共有し合っています。当初は、1年目で終わる予定でしたが、雰囲気がとても良くなってきていたので、2年目と3年目に対しても定期的に続けています。」
「メンタルヘルス不調で会社を辞める人がいなくなり、それ以外の離職者もだいぶ減りました。高校や大学に求人票を提出した時、学校側は離職者数に注目するのですが、最近は離職者が少ないことに好印象を持っていただいています。」
職場のコミュニケーションを円滑にするために、総務部が率先して関与や支援をしていくことが大切である。また、新入社員と定期的に面談する仕組みをつくることで、日常の業務の中での悩みや不安について話ができるようにする。
【ポイント】
- ①最初に経営者自ら、メンタルヘルス対策に取り組む旨の方針発表を社員に対して行うことが、全社的な推進の大きな第一歩となる。
- ②総務人事部門の担当者だけで対応が難しい場合は、社外の外部EAP機関などの専門家の支援を受けることで、社員だけでなく担当者自身の安心感にもつながる。
- ③職場のコミュニケーションを円滑にするために、総務部が率先して関与や支援をしていく。
【取材協力】株式会社友伸エンジニアリング
(2018年9月掲載)