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株式会社セントラル情報センター
(東京都渋谷区)
株式会社セントラル情報センターは、1972年に設立。システムの受託開発や保守運用などをはじめとするソフトウェアサービスを行っている。
従業員数は約290人。契約社員を含めると約320人で、ほとんどの社員は顧客先の現場で働いている。
今回は、取締役業務本部長の宮川幸雄さんを中心に、副本部長の曽根健司さん、情報管理課課長の土田裕子さんの三人からお話を伺った。
ストレス状態をいつでもセルフチェックできることで、体調不良が心の状態からくるものではないかと振り返るきっかけとなる
最初に、メンタルヘルス対策全般とストレスチェック制度への取り組みについて、お話を伺った。
曽根さん
「当社の仕事は、社内開発もありますが、社外に出て、顧客先の現場で業務を行っている者が多いです。私が以前プロジェクトリーダーをしていた頃は、担当する現場は1つでしたので、メンバーの様子を日々確認し、積極的に会話をし、不調があったらすぐに休養を取ってもらうといった対応をしていました。その後、課長になってからは、8~10の現場にいる30~40名ほどの部下を管理することになります。さらに関係者も含めると、50~60名ほどになることもありました。私が全員と日々会話することが難しくなり、直属の部下であるプロジェクトリーダーを通じて、不調確認の対応を行う仕組みをつくりました。」
宮川さん
「業界団体に所属していると、同業の経営者たちと意見交換することがあります。どうすれば社員が健全に暮らし、仕事を続けていけるかといった話題の中で、早い段階からメンタルヘルスの問題も挙げられていました。経営資源である“人”・“物”・“金”の中で、私たちの業界では“人”に頼る割合がとても大きいのです。」
「2006年頃、うつ病などで会社を休む社員が何人か出てきている中で、社内外の状況を確認することからメンタルヘルス対策を始めました。その後、加入している健康保険組合を通じて研修を受ける中で、『一番大事なことは、早く気づくこと』と教わりました。会社として独自に施策を行わなければならないと気づかされ、社員への相談対応を行うことを始めました。さらに、外部EAP機関と契約し、2009年頃からは、社員がいつでもパソコン上でストレス状態についてセルフチェックできる仕組みを導入しました。」
「『お腹が痛い』、『肩がこった』といった体調の悪さは、肉体疲労や風邪によるものだと感じていたことが、ストレス状態に関するセルフチェックを導入してからは、『単なる体調不良ではなく、心の状態からきているのかもしれない』と社員自身で捉えてもらえるようになったと思います。」
「ストレスチェック制度の義務化後は、法令に則った方法に切り替えて、年に1回実施しています。前回の受検率は、99.3%でした。また、毎月1回、各自でセルフチェックできるような仕組みは引き続き行っています。職場が点在している中では、健闘した方だと思います。長年続けていると、会社側から受検勧奨しても、社員は『また言っているよ』といった感覚になりがちです。しかしながら、それでも私たちが言い続けることで、社員にもストレスチェックの必要性が浸透していくのだと思います。ストレスチェック後の組織分析結果は、各階層の管理職会議の中で説明しています。若手社員に高ストレス傾向にある者が多いので、注意するように言っています。」
「メンタルヘルス研修に関しては、それだけに特化して全員集めて行うことはなかなか難しいです。月1回の朝礼時のちょっとした時間に行ったり、年2回の全員集会時に他の研修と合わせて行ったりしています。朝礼は、WEB会議システムを通じて行うので、他の拠点にいる社員も見られますし、録画しているので後から誰でも動画で見ることもできます。」
「社外の勤務地にずっといると、『自分はどこの社員?』といった感覚になってしまいがちです。そのため、社員に“帰属意識”を持ってもらえるような取り組みに力を入れています。グループウェアを通じて、社内の情報を多く発信したり、懇親会などの社内イベントを多く開催したりといったことを行っています。社内イベントを行い、当社に帰る機会をつくることで、私たちもその社員たちの状況を把握することができます。最近は、メンタルヘルス対策など直接的な活動から、このようなコミュニケーションを円滑にする活動に重きが移ってきています。」
ストレス状態をいつでもセルフチェックできる仕組みにすることで、心身の状態に対する気づきを促す機会を増やすことにつながる。また、職場が広く点在している状況でメンタルヘルス教育を行う場合、WEB会議システムを利用した朝礼時などで、その中の短い時間を使ってなんども細目に行っている。
新入社員を孤立させないために、若手社員同士の自発的なコミュニケーションを促し、相談しやすい環境を作る
続いて、職場環境改善への取り組みや離職防止対策などについて宮川さんを中心にお話を伺った。
「4年前に長谷川社長が就任した際、約1年かけて自らすべての顧客先の現場に出向き、そこで働く社員たちと面談したことがありました。社長は、現場出身ですので、以前から社員の顔と名前をよく覚えていました。だからこそ、その時の現場と社員の様子を社長自身の目で見たかったのだと思います。社員たちからは、社長が来てくれるとは思っていなかったので嬉しかったという話を聴きました。」
「近年は全社員を対象として、定期的にアンケートを実施しています。“仕事のやりがい”に関してや、“上司からの支援”があるか、“会社が発信しているメッセージについて”など幅広く質問しています。この中には、“役員との面談の希望の有無”についても質問しています。毎回、十数人の社員から希望があり、私(宮川さん)と社長の2人で、すべて対応しています。今の状況を知ってもらいたいと思う社員の話を聴く機会をつくれますし、私たちの考えが現場にどこまで伝わっているのかを知ることにもなります。このような取り組みは、中小企業だからこそできる強みだと思います。また、これとは別にご意見箱も設置しており、上司でなく、私たち経営者に直接質問したいものも、氏名の記名・無記名を問わず、意見を受けつけています。」
「面談内容を踏まえ、必要に応じ、私(宮川さん)が顧客先の現場に行って、職場環境を是正して頂くよう依頼することもあります。残業が多く社員に負担がかかっているようなことは、お互いのためにならないと説明しています。その上で、人員の増強や仕事量の調整などをしていただいています。」
「さらに、社員からの意見の中で、『職場内で音楽を流してほしい』といった要望は、以前より多く挙がっていました。シーンと静かな職場の中で、座ってパソコンをパチパチと音を立ててタイピングをしていると、息が詰まるというか、話がしづらいため、何か少し音楽が流れているほうが話しやすいというものもありました。」
「そこで、オフィス向けBGMサービスを導入いたしました。タイマー機能により、“集中力向上”の曲調や“リフレッシュ”を促す曲調など、時間帯で変えることができます。曲調が変わることで、昼休みの時間であることや、退社時間であることに気づくことにもなります。結果として、残業しないで早く帰ることにもつながっているように思います。」
「当社では入社2~3年目の若手社員に、新入社員へのOJTを担当してもらっています。10年ほど前から彼らに対して研修を行っています。自分たちが新入社員だった時のことを思い出してもらい、先輩に言われて嬉しかったことや嫌だったことなどを振り返り、OJT担当者としてどうあるべきかを考えてもらう研修です。研修を通じて、新入社員からの話をより聴けるようになり、新入社員も相談しやすくなったと思います。」
「若手社員に対しては、社員寮も設置しています。地方からの採用が多く、現在は2棟設置しています。若手社員同士で交流したり、一緒に遊んだりすることで、コミュニケーションも活発になり、それなりの効果があったと思います。」
「新入社員研修のプログラムでは、メンタルヘルス教育と合わせて、2年目の社員が講話する機会を作っています。その後、2年目の社員と新入社員との間で、お互いの理解が深まり、翌年には、その新入社員が同じように講師になります。会社がそのようなきっかけを作ることで、新入社員を孤立させることなく、自然と自主的にいろいろなことを先輩や同期に相談できる環境が形成されていくのだと実感しました。」
「何か施策を打ったからといって、社員たちにすぐに響いてくるものではないと思います。逆に私どもが施策を打つにあたって、すぐに結果を求めてもいけないとも思っております。社員たちには、『会社がひとつひとつ丁寧に対応している』ということが、伝わっていくことが大事です。社長は、『社員全員が会社に来るのが楽しみになるようにしたい』という夢を話しており、そこからいろいろな施策が出ています。会社のことを好きになってもらうことがなによりも離職防止につながるのではないかと思いでいます。」
会社側が工夫した新入社員研修を行ったり、OJT担当者に対する研修を行ったり、社員寮を整備したりすることにより、若手社員同士の自発的なコミュニケーションが促進される。新入社員が孤立することなく、早い段階で自主的に先輩や同期に相談できる環境が作られていく。
【ポイント】
- ①ストレス状態をいつでもセルフチェックできるシステムは、心身の状態への気づきを促す機会となっている。
- ②職場が広く点在している状況でメンタルヘルス教育を行う場合、WEB会議システムを利用した朝礼などの短い時間を利用し、何度も行っている。
- ③若手社員がOJT担当者として研修を受け、新入社員への良いコミュニケーションが生まれ、社員同士が気軽に相談しやすい環境が作られていく。
【取材協力】株式会社セントラル情報センター
(2018年3月掲載)