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ジヤトコ株式会社
(静岡県富士市)
ジヤトコ株式会社は、1943年に設立された日産自動車株式会社吉原工場を母体とし、分社化、合併を何度か経て2007年に現在のジヤトコ株式会社となった。AT(自動変速機)や、CVT(無段変速機)などの自動車部品の開発・製造・販売を主に行っている。
従業員数は全世界で約14,600人(2018年3月末)。このうち国内(関係会社を含む)約7,000人の社員を対象とした産業保健を担当している。
今回は、安全健康管理部統括産業医の西賢一郎さん、産業医の益田和幸さんのお2人からお話を伺った。
管理職研修を毎年実施し、その中で早い段階で相談室へつなげる必要性を繰り返し伝える
最初に、メンタルヘルス対策の体制の状況と取り組みについて、二人からお話を伺った。
「当社の産業保健は、健康サポート室にて担っています。体制としては、常勤は統括産業医の私(西先生)と、本社地区担当の益田先生の2名です。その他に、各工場と事業所にそれぞれ1名ずつ配置し、全体で6名います。また、保健師は全体で10名おり、多くは常勤です。産業医と保健師が連携して取り組んでいます。」
「メンタルヘルスの教育研修は、大きく分けて一般職向けと管理職向けがあります。一般職向けは、セルフケアからマネージメント、コミュニケーションに関する教育などを外部講師が行っております。また、パソコンが配置されている職場では、Eラーニングによる教育も行っております。セルフケア教育を中心に、定期的に内容を変えており、今年はアンガー・マネジメントについて学んでいます。」
「管理職向けの研修は、私(西先生)が年に1回実施しています。弊社の管理職は全体で700人近くいますので、十数回に分けて行っております。講義形式や実習形式などテーマや形式は、毎年変えています。昨年までは、一般的なメンタルヘルスの知識や、よくある事例の検討といった内容でした。今年は、メンタルヘルス不調による休業の内部規程と当社独自の“休業・休職~復職に関する手引き”に沿って、仕組みや体制、流れの話を中心に行っています。事例を挙げながら、『こういう状況になれば、内規のこの部分に該当するので、このルールで対応するんですよ』といった話をしています。過去に職場復帰支援を行った経験のある管理職は、すぐに理解していただけましたが、ほとんどの管理職はそのような経験をしたことがありません。そのため、弊社の内規や手引きに沿った対応を説明することが、全く経験したことがない管理職には、とても分かりやすかったようです。研修の中では毎回、『ちょっと具合が悪そうな人や、ちょっと元気がなさそうな人がいた時には、私たち健康サポート室が支援しますので、まず私たちに相談するということを思い出してくださいね』とずっと伝えてきました。最近では、“まず相談”といった形ができつつあり、健康サポート室での面談件数は増えつつあります。」
「実際、少し悩んでいる段階での相談のため、休業まで至らなかった社員の面談件数も増えています。件数が多くなり私たちは忙しくなりましたが、早めに相談に来ることで、大事に至る前に会うことでき、安心につながっています。最近は、緊急対応が必要な内容の相談は、ほとんど無くなりました。職場風土が変わりつつあるのだと感じています。」
産業医が管理職研修を毎年実施し、その中で、「部下がいつもと違う状況の際は、早めに健康サポート室へ相談すること」を繰り返し伝えることで、早期の相談対応により休業に至らないケースも増えた。また、管理職研修の中で、事例を挙げながら、職場復帰に関する内部規程や手引きの該当箇所を説明することで、メンタルヘルス不調者の対応を経験したことがない管理職も身近な問題であることと実感することができる。
休業中の段階から産業医による面談を実施することで職場復帰に向けた対策が早めにできる
次に、職場復帰支援に関する取り組みついてお話を伺った。
「以前から、職場復帰支援に関する内部規程はありました。ただ、産業医による面談は職場復帰の判定時に関わる時だけでしたので、本人の情報が乏しく判定できないといったことが多くありました。もう少し早い段階から関わり、休業者本人との面談機会を増やすべく、2014年に見直しました。」
「また、内部規程の見直しと合わせて、“休業・休職~復職に関する手引き”を作成しました。こちらは、保健師が中心となって作成いたしました。休みに入る際じっくり説明しても、具合が悪い状態では、内容を覚えていないと思います。自宅で休養した上で、調子が良くなってきた時に、復帰に向けての手順をまとめた手引きを読み返してもらうことで、安心感を与えることができると考えています。手引きの中には、“ご本人へ”と共に“ご家族の方へ”の項目もあります。“休業中の会社とのコンタクトについて”や“安心してゆっくり休養させてください”といった内容を家族の方々にも知っていただきたいと思ったからです。職場復帰にあたっては、家族の支援が本当に大事だと思います。毎年内容を更新しています。」
「ただ、この手引きは、休む時だけに必要なものという訳ではなく、管理職には仕組みや内容について事前に理解してもらわなければならないと考えています。そこで、手引きとは別に“上司の方へ”向けて“傷病によりお休みする際の注意事項”をまとめたものも作成しました。管理職向けの研修で紹介することで、心身の不調を訴える社員から上司に相談があった際に、休業から復職への流れや、傷病手当金などの保障の話が簡単でもできるようにしました。」
「休む前に関しては、本人から連絡があった時、産業保健スタッフから『よければ会ってお話ししませんか』とアプローチし、本人の了承が出たら、まず会って話をします。最初に本人から上司に話があった場合は、『健康サポート室に話をしてみないか』と伝える上司も増えています。産業保健スタッフが本人と直接面談をした上で、受診が必要な方には促し、その後、休業を始める方もいれば、休業まではせずに経過をみる方もいます。このような取り組みを通じて、以前より、急に休業に関する診断書が提出されて戸惑うといったことは減りました。」
「休業中の本人との窓口は職場の上司が行っています。休業に入ったら、まずゆっくり休養するよう伝えています。その間は、上司が月1回は連絡対応することとしています。その後、調子が良くなったと感じたら、健康サポート室に連絡するように言っています。休業中に私たち産業保健スタッフが関わるのは、本人が調子の良さを感じた段階からです。連絡後、実際に会って面談した上で、生活リズム表をつけて様子を見たり、リワーク施設に通うことを勧めたりしています。その後、定期的に職場復帰に向けて、面談を行う流れになります。」
「休業中の面談の中で、『生活リズムが整わない』、『本人の復帰意欲が弱い』などといった個人要因が大きく、面談しても本人の認識に変化がない場合は、リワーク施設を勧めています。その他、再休業者や困難事例の場合や、もともとコミュニケーションをとることや、他者と関わること、自分の意見を言うことなどが苦手な方にも、リワーク施設を勧めています。プログラムの中で、さまざまな人々と関わる中で、刺激を受けているようです。」
「この5年間で、リワークプログラムを提供している病院や精神科クリニックが、静岡市や富士市などこの近隣でも増え、利用しやすくなってきました。利用しているリワークプログラムは、3ヵ月間程度のものが多いようです。私たちが勧めると、最初、本人が抵抗することがありますが、『対人交流を通して得ることも多い』と説明して、参加を促しています。このように説明をした上でリワークプログラムに参加した方は、その後の職場復帰も順調なことが多いです。再休業を防いでいる点で、効果は出ていると考えています。」
「リワーク施設には、私たちに対し、プログラム途中の“中間報告”やプログラム終了時の“最終報告”を行っていただくようお願いしています。来社してもらい、本人を交えて上司と私たち産業保健スタッフが、リワーク施設の担当者から何を学んで、どう感じているかなどの報告を受けます。中には、中間報告の時点で、お互いに認識のズレがあることもあり、そこを調整することで、最終報告時には、うまくいったということもあります。」
「職場復帰前の産業医面談の中では、体調確認の他に、今回の不調の要因について確認しています。そこで聞いた内容は、その後、上司にも同席してもらい、フィードバックしています。復帰にあたっての実際の問題点や、本人の思いなどを上司とも共有しています。本人が仕事の負荷が高かったと感じていても、意外と上司は気づいていないことが多いです。上司自身が忙しくて、職場を見られていなかったと気づく上司もいます。仕事の負荷の軽減や、担当の見直しなどを確認します。このようなすり合わせは、とても重要です。その後の復帰時に、職場が何を配慮したらよいかについて、本人の思いを踏まえて、お互いに納得の上で、業務内容や業務量調整、職場環境改善についていろいろな提案をすることができます。これら受け入れ準備を念入りに行うことが大切です。」
「以前の社内規程では、復職の条件が抽象的でしたので、2014年の改定時に明文化しました。一番の条件は、『安全に通勤できること』。その上で、『本人に復帰の意欲がある』、『8時間就労できる生活リズム・気力体力がある』、そして、『主治医による職場復帰可能の診断書がある』などの条件を踏まえて、産業保健スタッフを含めた会社側が職場復帰を判断するとしました。明文化したことで、本人だけでなく、上司にとっても復帰時の状況を想像することができるようになりました。」
「職場復帰後は、3か月間のフォローアップをする独自のプログラムがあります。その中で、月1回、産業医面談で確認することとしています。まずは、本人と産業医とで面談を行い本人の体調などを確認した後、上司も加わり、職場や本人の様子などの確認を行い、就業制限の調整などを行います。復帰後すぐは、残業や休日出勤をしないなどの制限をかけていますが、調子が上向いてきたら、上司は制限をはずしてもよいのではと考えるかと思います。現場判断で制限をはずさないようにするため、本人も上司・職場も、そして私たち産業保健スタッフも共通の認識で行えるよう上司も加わった産業医面談としています。」
「職場復帰支援に関する内部規程を見直し、“休業・休職~復職に関する手引き”を作成した2014年度からの3年間においては、復職から1年以内に再休業した者は減少し、30.3%から15.5%になりました。私たち産業医が早い段階から関係を持つことやリワークなどの職場復帰支援施設を活用することで、円滑な復職支援ができ、こうした結果は産業医としてさらに職場復帰の判断について自信がもてるようになりました。」
休業中の段階から産業医による面談を実施することで、早めの状況把握につながると共に、職場復帰に向けた生活リズムの確認や、リワークプログラムを推奨することができる。また、職場復帰前の面談では、本人に不調になった要因について考えさせた上で、上司も同席し改善策を一緒に考えることで、お互い納得の上で、再休職しないための対策を講じることができる。
【ポイント】
- ①管理職研修の中で、事例を挙げながら、職場復帰に関する内部規程や手引きの該当箇所を説明することで、経験したことがない管理職も身近な問題であることと実感することができる。
- ②休業中の段階から産業医による面談を実施することで、早期に状況把握ができるため、職場復帰に向けた生活リズムの確認や、リワークプログラムの推奨といった対応を適切な時期に行うことができる。
- ③職場復帰前の面談では、本人に対し不調になった要因について振り返りの機会を与えた上で、上司も同席し改善策を一緒に考えることで、お互いが了解できる再休職防止の対策を検討することができる。
【取材協力】ジヤトコ株式会社
(2018年11月掲載)
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