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株式会社ミライト
(東京都江東区)
株式会社ミライトは1944年設立の情報通信エンジニアリング企業である。主力事業の通信インフラ設備構築(ブロードバンド固定通信、移動体通信)に加え、近年は、クラウド・オフィスソリューション等一般企業の情報通信システム、ビル内電気・空調設備、太陽光発電、蓄電池、EV充電器といった各種設備の構築・保守・運用等、ICTソリューションから環境・新エネルギーまで幅広い分野で事業を展開している。
従業員数は、連結も含め4,702名(2017年3月末現在)。江東区の本社ビルの他に、全国に14支店ある。
今回は、人材開発部第二人事部門長の藤井豊さんを中心に、笹木幸治さん、戸谷恵司さん、岩脇健一さんの4人からお話を伺った。
ストレスチェック制度実施後、相談できる窓口を充実した
最初に、メンタルヘルス対策状況、およびストレスチェック制度への取り組みについてお話を伺った。
「当社のメンタルヘルス対策は、人材開発部にて行っています。私たちの他に本社の産業保健スタッフとして保健師もいます。産業医は現在2人です。長時間労働者への面接指導や産業保健全般を担う産業医と、ストレスチェック制度に合わせて、新規に選任したメンタルヘルス関連を主に担当する産業医がいます。」
「メンタルヘルス担当の産業医には、ストレスチェック制度の実施に合わせて、全国安全衛生委員会で研修も行ってもらいました。実施前には、制度に関する説明、実施後には、ストレスチェックの個人結果の見方に関する説明を行いました。その際に、メンタルヘルスに関してさらに深く知ってもらうために、うつ病や適応障害などの精神疾患についてや不調者に関わる人たちへの対応についての説明なども行っています。」
「一定の階層に上がった段階で、社員は階層別研修を受けることになります。毎年実施している階層別研修の中には、“メンタルヘルス”の項目が必ず入っています。新入社員や中堅社員、一般職などに対しては、セルフケア研修を中心に行っています。管理監督者になると、各階層に応じた部下へのケア、ハラスメント、安全配慮義務や長時間労働による健康障害などの内容を含んだラインケア研修を行っています。研修では、最初に当社のメンタルヘルスに関する制度説明や社内状況について、私たちや産業保健スタッフが説明しています。」
「合併した2012年に職場復帰支援プログラムを策定しました。メンタルヘルス不調の休業者が、再休業を繰り返す傾向がありましたので、休職期間の長い方の会社の規定に合わせて、就業規則を改定しました。回復が不十分な状態で慌てて復帰し、すぐに再発をしてしまわぬような仕組みにしたいという考えがありました。」
「ストレスチェック制度に関しては、義務化前に、厚生労働省から示されたストレスチェック制度の法令や実施マニュアルに沿って、57問の職業性ストレス簡易調査票にて試行実施しました。実施者は当社の産業医と保健師、そして、外部委託機関も共同実施者として関わっています。」
「試行実施時、57問だけではどうしても分析しきれないと感じる部分がありました。個人のストレス反応はある程度分かるのですが、ストレス要因をもう少し細かく分析したいと考え、それ以降は質問数を140問に増やしました。追加した質問は、さまざまな外部委託機関のストレスチェック項目や結果シートを比較検討した上で、新たに選定しなおしました。」
「当社全体では全国平均と大きな差はないのですが“改善・変革指向”が低く、伝統・慣例・前例を重視し、変化や改善、環境変化を嫌う傾向にあるという結果が出ました。30年近く同じ業務を行っている部門においては、『今さら変えることはできない』といった意見も多くあります。また、集団ごとに比較してみると、部門や仕事によって特徴にばらつきがあることがよく分かりました。各部門によって、仕事内容が異なる以上、単純な比較だけではダメだと思い、各部門をそれぞれ深掘りした部門別ストレスチェック結果レポートにまとめました。全社のデータと各部門のデータを示し、それぞれの部門の特徴、問題点や課題、良いところなども説明しています。部門を分類する際、産業医のアドバイスに基づき、当社では個人が特定されないように、40人以上を目安に分類することにしました。」
「個人への対応としては、法令に基づく医師による面接指導を受けたくない者等に対しては、ストレスチェック制度を実施した外部委託機関の電話相談窓口を紹介しています。ストレスチェック制度実施後、約3か月間、匿名で相談可能としています。この電話相談の後、保健師の面談につながったり、自主的な医療機関の受診につながったりした例もありました。」
「医師による面接指導時には、会社側への結果の開示についての同意を、本人から書面に記入してもらった上で、実施しています。産業医を選任していない地方の事業場に対しては、今回のストレスチェック制度開始に合わせて、その地区の医療機関と契約し、そこで面接指導を受けられるようにしたり全国に医療機関のネットワークがある外部EAP機関に依頼し、面接指導を出来るようにしたりしました。地域によって社員に不公平がないようにしたいとの思いから、全国で同じ体制にしました。」
ストレスチェック制度実施後、相談窓口をつくることが、その後適切な指導につなぐことに寄与している。また、全国に事業場が分散している場合は、面接指導方法や書式を統一することも、社員への公平な配慮という観点で重要である。
職場環境改善活動は、管理職等を対象に集合研修を行い、持ち帰った研修結果を職場展開する
次に、集団分析結果に基づく職場環境改善活動について、お話を伺った。
「2015年から、ストレスチェック制度の集団分析結果に基づく職場環境改善研修を実施しています。階層別の研修とは別に、本社の組織別、支店別に研修を実施しています。
「集団分析結果は、各部門の結果を外部委託機関の全国平均に対する標準偏差として偏差値で示し、さらにそれを4段階に分けました。偏差値表示は、当社の方から外部委託機関に依頼しました。点数表示だけだと1点の差にどれくらいの意味があるのか分からなかったのですが、偏差値にしてどの段階に多く集まるかによって、傾向が見えてきました。平均値だけではなく、全体の分布図を見て分かるようにしました。この見方では、7つの部門が高リスク職場として抽出されました。しかしながら、7部門だけに対して職場環境改善活動を実施するのではなく全社的に職場環境をより良くすることを目標に、会社全体で管理職等に対する職場環境改善研修を行うことにしました。」
「研修は、管理職等参加によるグループワーク形式で半日かけて行います。グループワークでは、第1段階は、『職場環境の分析を行いながらストレス要因を職場ごとに深堀りし、評価、洗い出しを行う』。第2段階は、『上記に対し、具体的な改善施策を考える』として、改善施策を検討します。改善施策は各職場で実行可能な短期的目標と中長期的目標の両面から考え『自分達で①すぐにできそうなこと、②少し時間はかかるが実現したいこと』とに分けて各グループ毎に模造紙に列記し、それを発表します。そして、外部講師のコメントが有り、情報を受講者全員で共有します。その後、全情報から『自らが①すぐにできそうなこと、②少し時間はかかるが実現したいこと』を2点ずつ各自のワークシートに記入して研修は終了です。さらに、人材開発部ではそのワークシートをコピーして次年度研修の検討材料としています。」
「研修前には外部講師がWEBアンケートを行います。研修約1ヶ月前に部門全員に回答してもらいます。その結果を、管理職群と一般職群に分けて、グラフで比較しています。ストレスチェック制度結果に基づく集団分析結果は既にありますが、職場環境改善活動においては、上司と部下との認識ギャップも参考にしてもらうために、研修前にアンケートをとることにしています。」
「部門によって、特徴は異なります。例えば、コミュニケーションに関する質問だと、管理職は伝えることができていると考えていても、一般職には伝わっていないといった傾向が現れることがあります。研修では、『管理職の皆さんの話は、実は言葉が足りていないようです』と伝え、そこからコミュニケーション不足や上司のサポートが足りないところが結果に示されているなどを説明します。その上で、グループワークを行い、弱い項目を確認しあい、改善策を検討していくことになります。ただ、良い結果が出ている項目に関しては、管理職も一般職も同じく良い傾向が見られることが多く、これらを研修の最初に紹介しています。」
「事前アンケートの質問項目の選定は、私たちとの打合せ内容や集団分析結果、過去の事例を踏まえた上で、職場環境改善研修を行う外部講師が行っています。さらに、事前アンケート結果を踏まえて、その部門に合うよう、研修内容を組み立てていきます。」
「管理職等は、この研修結果を持ち帰って、職場展開します。例えば研修で一方的に『毎朝挨拶をする』と改善策を決めても、管理職等だけが挨拶して、部下が返してくれないとなると、うまくいきません。お互いに思いを共有しあって、協力しあって『働きやすい職場に改善していこう』という考えから、自分たちで活動展開するように促しています。活動は『対策によってストレス要因が改善されたかどうか評価する』として、PDCAサイクルをまわしていくことにしました。この研修は大好評でほとんどの参加者から大変有意義で大いに活かせることが多かったと、社内で実施する事後アンケートの結果が出ております。」
職場環境改善のための研修では、管理職等対象にグループワーク形式の集合研修を行った後、その研修結果を持ち帰って職場展開することで、お互いに思いを共有しあって職場全員が改善施策を実施することができる。また、改善施策は、自らが「すぐにできそうなこと」及び「少し時間はかかるが実現したいこと」に分けて考えることで、実現につなげることができる。
【ポイント】
- ①職場環境の改善施策は、自らが「すぐにできそうなこと」及び「少し時間はかかるが実現したいこと」に分けて考えることで、実現可能性を高める。
- ②研修では、グループワーク形式の参加型にすることで、参加者の活発な議論がなされる。
- ③管理職等対象に集合研修を行った後、研修結果を持ち帰って職場展開することで、お互いに思いを共有しあって職場全員が改善施策を実施する。
【取材協力】株式会社ミライト
(2017年9月掲載)