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日産車体株式会社
(神奈川県平塚市)
日産車体株式会社は、鉄道車両および自動車の車体製作メーカーとして1949年設立。その後、1951年より日産グループの一員として日産ブランドのクルマづくりを担い続け、開発から生産まで、全社一体となってグローバルに展開している。
従業員数は約1800人。また、福岡県には関連会社の日産車体九州株式会社があり、従業員数は約1100人である。その他、グループ会社は神奈川県に多く、九州地区と合わせて7社あり全体で約5000人である。
今回は、人事部健康管理センター・メンタルヘルス相談室の山田秀樹さん、茅根明弘さん、田村隆さん、そして保健師の金田勢津子さんの4人からお話を伺った。
管理職OBの社内カウンセラーが社内状況を踏まえた上で個人と職場に深く対応できる
最初に、メンタルヘルス対策の体制、相談室の体制および研修についてお話を伺った。
田村さん
「実際にメンタルヘルス対策の活動を始めたのは2001年くらいからです。最初に相談室を開設し、その後、研修を始め、職場復帰支援プログラムの策定、そして法制化前からストレスチェックの実施も行い、徐々に活動の幅を広げてきました。初めは産業カウンセラーの資格を持つ管理職OBが1人で始めました。」
「メンタルヘルス相談室に関わっている者は現在6名となっており、全員産業カウンセラーの資格を取得しています。管理職OBが4人、保健師が1人、非正規社員が1人です。管理職OBは、社内のこと、事業や業務内容をとても理解していて、人脈も豊富です。そのため、従業員にとって相談相手が見えやすく、職場からの理解も得られやすいというメリットがあります。人事的な介入が必要な時にも、従業員本人から意向を聞いた上で、管理職と直接やり取りすることもあります。」
山田さん
「メンタルヘルス相談室は人事部直轄の部門です。従業員からすると、人事部が関係する部署だと、人事部に情報が洩れるのではないかと不安に思う方もいると思います。そこは、各種研修で、秘密厳守を徹底していることを繰り返し伝え、また物理的・地理的にもビルを分けて配置したりしています。」
「対面相談においては、本人が自ら申し出た場合は、面談対応のみで解決することがほとんどです。『話して、スッキリした』で終わり、受診につなげるほど重いケースはあまりありません。一方で、本人ではなく上司から申し出る形で始まる相談では、限界まで頑張っていたためか、すぐに治療が必要な場合が多いです。」
「メンタルヘルス不調により1週間以上休業した方の発症要因の分析をしています。相談対応した社内カウンセラーが、“職場環境要因”、“個人のストレス耐性の問題”、“その両方”の3つに分類した結果により調べています。推移をみると、2012年は、“職場”が要因だとする方が約4割と多かったのですが、職場環境改善活動の効果もあり、2015年は約2割まで減少しています。対して“個人”が要因だとする方は、2012年は約2割だったものが2015年は約4割まで増加しています。完璧主義、自責、とり越し苦労など考え方のゆがみ傾向によって、ストレス耐性が弱く、自力で対応しきれていないことが多い感じがします。」
「メンタルヘルス相談室では、毎週、社内カウンセラーが集まってグループカンファレンスをしています。社内カウンセラー間で事案を共有し、皆で検討しています。また、社外の相談窓口を委託している外部EAP機関の臨床心理士もスーパーバイザーとして、四半期に1回、参加しています。カンファレンスを通じて共有し検討することで解決に早くつながりますし、社内カウンセラーとしても、自分の体験以外の疑似体験ができ、ノウハウが培われていると思います。これらの事案の中から、特に対応が難しかったもの約300件の社内事例集をもとに、“対応ナビ”としてまとめています。社内カウンセラーや担当者が変わってもしっかりと続くよう、ノウハウを得る参考書のようなものにしています。」
「メンタルヘルス研修に関しては、管理監督者対象のラインケア研修から始め、セルフケア研修、パワーハラスメント研修と広げていきました。最初、講師は外部EAP機関にお願いしていましたが、その後は、社内カウンセラーが講師をしています。」
「現在は、各階層別に内容を変えて実施しています。我々が日頃、相談対応している中で、挙がってきた課題や同業他社が抱えている事情などを協議した上で、内容を決めています。内容によって、回数や実施間隔を定めて、教育体系に基づき、それぞれのテキストを作って実施しています。」
管理職OBが社内カウンセラーを務めることによって、業務内容や人脈など社内状況を踏まえた上で、実践的な対応することができている。また、職場環境改善活動や研修などで、管理職や職場へのはたらきかけを行うことで、職場環境要因によるメンタルヘルス不調の休業者の割合が減少している。
集団分析結果に社内カウンセラーによる職場の情報を統合して総合的な分析結果としてまとめる
次に、ストレスチェック制度への取り組み、および集団分析結果に基づく職場環境改善活動について、お話を伺った。
「ストレスチェックを始めたのは2006年からです。最初は中央労働災害防止協会の職業性ストレス簡易調査票で実施していました。そして5年目からは、親会社によりグループ全体で同じ調査票を使うことになったので、外部EAP機関の約100問あるストレス調査票を使用しています。法制化前からストレスチェックを行い、その結果を分析した上で、従業員全員に個人結果を報告し、組織診断結果をもとに職場環境を整えるという一連の厚生労働省のストレスチェック制度実施マニュアルに記載されている活動は実施していました。」
「法制化後、1回目はグループ会社の従業員も含めて実施しました。2回目からは、さらに、1年以上勤務している期間従業員も含めて実施しました。実施者は、産業医と保健師(金田さん)で、メンタルヘルス相談室の社内カウンセラーは、実施事務従事者として役割を示しています。」
「社内カウンセラーは日々の活動を通じて、各職場の事情を把握しているので、外部EAP機関が集計したストレスチェック後の組織分析結果が、ある程度合っていることは分かります。しかしながら、外部EAP機関が集計した組織分析結果は、データだけをもとにまとめたコメントに過ぎません。外部EAP機関による結果データと職場の実際の状況、そして私たちが支援している不調者の状況、それらの情報をすべて統合した上で、当社としての組織分析結果としてまとめています。」
「例えば『仕事の量的負担が減ったことで、高ストレス者が減少した』とのコメントだけでは、仕事の量的負担がその職場でどのように変化したことで、良くなったかまでは分かりません。私たち社内カウンセラーは、活動を通じて、そのあたりのこともよく分かっています。前年と比較して新規開発業務が無かったといった理由や、前年度まで二交代制だったものを、昼番・中番・夜勤の三交代制にしたことで、毎日2,3時間残業していた者がゼロになり、ストレスが高い状況も解消されてきました。それぞれの実際の理由と合わせて、役員会や各種研修で報告できることが特徴だと思います。」
「また、外部EAP機関が集約したデータベースをメンタルヘルス相談室でさらに分析し、各ストレス要因の因果関係をみていきました。当社の特徴として、『仕事量が増えると仕事への取り組み方が淡白になったり、精神的に消耗感が出たりする』や、『仕事の質的負担が増えると、仕事の充実感が低くなり、職場の人間関係に影響を与え、結果的に精神的な消耗感が強く出る』と考察できました。」
「これら分析結果をもとに、経営陣には年に1回、ストレスチェックの実施結果とメンタルヘルス相談室の活動報告をしています。事業場の安全衛生委員会では毎月メンタルヘルス全般や長時間労働に関して報告しておりますし、年に2回、全社的な中央安全衛生委員会で報告しています。」
「経営陣への実施結果報告では、グループ会社別に高ストレス者割合の経年変化を示します。さらに、細かく管理部門、開発部門、製造部門など部門ごとの状況を外部EAP機関が把握している自動車業界の平均値と比較して示しています。そして部門ごとのストレス要因を偏差値で表しています。その後、中央安全衛生委員会では、経営陣への報告を踏まえて、全社の計画として、各職場の特徴を捉え状況を踏まえた職場環境改善活動をしていくことを促しています。」
「ストレスチェックの委託先である外部EAP機関による独自の評価基準に基づくと、高ストレス職場は2012年には16職場ありました。それら職場に対して職場環境改善活動を行うことで、2016年にはその16職場は2職場まで減少していきました。しかしながら、毎年新しく加わる職場も少なからずあり、2016年の高ストレス職場は12職場ありました。」
「高ストレス職場に対しては、社内カウンセラーがコンサルタントとしてその職場にすべて出向きます。職場のストレスチェクの分析結果を報告したうえで全体討議を行います。討議の中では、なるべく多くの社員から意見を出してもらったり、ケースによってはカウンセラーが職場全員から話を聞いたりして、真の要因をつきとめて、職場の改善策を考えてもらいます。」
「法制化後2回目の今年の受験率は、約92%でした。毎年、90~95%の間です。その中で、高ストレス者の割合は約10%、その内、医師による面接指導の申し出は約3%、実際に面接を受けたのは約1%でした。高ストレス者の多くが、申し出をしていない状況は前回も同様で、そのことへの対応が必要と考えていました。そこで、今回は、WEB上でのストレスチェック受検後、高ストレス者に対して、医師への面接指導の案内だけではなく、メンタルヘルス相談室を案内するボタンをつけました。高ストレス者の内、約23%は押したのですが、相談室の案内を見て、実際に電話やメールで相談依頼してきた方はいませんでした。押した方を相談室の方で把握できれば良いのですが、連動できるシステムにすることが今後の課題であります。」
「メンタルヘルス相談室では、健康の一つの指標として、休業率で目標管理をしています。具体的には、千人あたりの新規休業人数と、年単位での延べの休業人数です。2016年は前年よりも減少しました。ただ当社におけるメンタルヘルス不調による年間総計の延べ休業人数は約12人と非常に大きな損失があります。従業員の安全や健康は働く上での基盤であり、それが揺らぐと生産性や活力が低下し、収益にも影響すると考えています。そのため、経営陣も一緒になってうまく活動していけるよう、ダイバーシティ、健康投資、従業員の活力向上など新たな視点を取り入れて、それらを軸とする健康経営の取り組みも行い、より進化していきたいと考えています。」
職場環境改善活動では社内カウンセラーがケースによっては該当部署の全員と個人面談をした上で、コンサルタントとして検討の場に加わり、改善策を促している。高ストレス職場の減少という結果にもつながっている。また、組織分析結果のデータから、職場をよく知る社内カウンセラーが解釈を加え、仕事の量と質、人間関係が端を発して職場が高ストレス状態になっていくという分析結果も得て、今後の環境改善に活かそうとしている。
【ポイント】
- ①社内カウンセラーが定期的に集まってグループカンファレンスを行うことで、お互いの研鑽につながっている。また、困難事例への対処法などを事例集としてまとめることができ、それらを今後の担当者の参考書にもなるようにしている。
- ②ストレスチェックを外部機関に委託した場合、報告を受ける集団分析結果のデータだけでなく、職場をよく知る社内カウンセラーによる解釈も加え、総合的な分析結果としてまとめる。
- ③職場環境改善活動では社内カウンセラーがコンサルタントとして検討の場に加わり、改善策を促していく。
【取材協力】日産車体株式会社
(2017年7月掲載)