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株式会社ジェイアール西日本メンテック
(大阪府大阪市)
株式会社ジェイアール西日本メンテックは、1958年に設立。JR西日本エリアの鉄道や商業施設等を利用するお客様の安全・安心、快適さを創造するため、車両の整備、清掃およびビルメンテナンス業を中心に行っている。また、最近ではホテルの清掃業務や介護事業なども新たに行っている。事業場は関西の2府4県にわたり約60か所である。
契約社員やパート社員などの準社員を含む従業員数は、全体で約2,700人。その内、8~9割が現場で活躍している従業員である。
今回は、人事部の仲河匡章さん、竹内あすかさんの2人にお話を伺った。
管理者への定期的な教育・研修により、早期に相談しやすい環境をつくる
最初に、メンタルヘルス対策の取り組み、相談窓口、教育研修などについて、お話を伺った。
「以前より従業員が各事業場の管理者(所長等)に日頃から相談しやすい環境をつくり、管理者が必要に応じて就業上の配慮を行う対応はしていました。また、専門的な内容に関しては、産業医などの社内産業保健スタッフに、従業員が相談したり、管理者が部下のことを相談した上で助言をもらったりしていました。この仕組みに、2010年頃、人事部のメンタルヘルス推進担当者と社外カウンセラーによる“社外カウンセリングサービス”を加え、社内外の相談体制をつくりました。」
「2013年頃、社内で別々の部署として対応していたハラスメントとメンタルヘルスの社内相談窓口を一本化しました。それまでは別々の相談窓口として従業員からの相談に対応していましたが、例えば『ハラスメントを受けたためメンタルヘルス不調になり休む』といった事例に関して、会社として後手に回ってしまう可能性があることから、連携しフォローし合う必要性を考え、1つの窓口として“社内相談室”体制として設立しました。両方の担当者が産業カウンセラーの資格を取得した後ということもあり、設置までスムーズに進みました。また、社内相談室窓口の専用携帯電話があり、何かあった場合は、すぐに電話をかけやすい体制になっています。そして、社内の私たちだけで対応できないことは、社外カウンセラーにつなげたり、アドバイスをもらったりしています。」
「社外カウンセリングサービスは、当初、外部EAP機関が所有する社外の相談室で対応していました。しかしながら、従業員からさまざまな要望があったこともあり、2013年からは、社外カウンセラーに当社に来てもらい、本社の一室を相談室として開放し、月1回対応してもらっています。相談は基本的に予約制としておりますが、昼から随時、相談室をオープンにしておき、『相談がある方はいつでも来てくださいね』と、間口を広げて案内しています。」
「当社は50~60の事業場がある中で、労働者50人以上の事業場は約25か所あります。事業場ごとに産業医を選任し、日々の安全衛生業務に携わってもらっています。労働者50人未満の事業場に関しては、統括産業医が、日々の相談対応や、必要事案があれば個別に依頼し、対応してもらいます。」
「ストレスチェックは、労働者50人未満の事業場も含め、準社員を含む全従業員約2,700人を対象に実施しました。当社の特徴としては、チェック項目の最後に、社外カウンセリングサービスの利用について、独自の項目を加えています。そこで、相談したいということがあれば、すぐに社外カウンセラーの方で対応する仕組みにしています。相談をすること自体が、一次予防につながるという思いから実施しました。」
「従業員へのメンタルヘルスに関する情報提供としては、2010年にセルフケアについてまとめたハンドブックを準社員を含む全従業員に配布しました。一般的なメンタルヘルスの内容について知ると共に、セルフケアによる気づきの促進やストレス対策のきっかけづくりとして作成しました。」
「教育研修としては、大きく分けると、“ラインケア研修”と“セルフケア研修”の2種類があります。“ラインケア研修”は、管理者を対象に行っています。“セルフケア研修”は、新入社員の入社時や、パートやアルバイトなどの準社員が正社員になる社員登用時に行います。」
「管理者対象の“ラインケア研修”は、毎年実施しています。毎回内容を変えて、当社の現状に沿った内容で行っています。さらに、2年前からは主に管理者対象に、大阪商工会議所のメンタルヘルス・マネジメント検定Ⅱ種(ラインケアコース)を団体受検しており、費用は会社側で負担しています。毎年、ラインケア研修を実施してきたことで、そろそろ受検できるだろうと考え、会社側で公式テキストと問題集を対象者に配布した上で、各自で学習してもらいました。目的としては、管理者同士で競って学んでほしいという思いがあります。学習を通じて、管理者本人はメンタルヘルスへの関心を高めることにつながりますし、その学習している姿を部下が見ることで、メンタルヘルスについて関心を持つ部下が増えることが期待できます。当初、特に年配の方が多い管理者を中心に、受検への抵抗もありました。ただ受検を楽しむ管理者もいて、『落ちて悔しいからもう1年受けるわぁ』や、『自分で申し込んで受けてくるわぁ』などの意見もありました。その他、『管理者ではないけれど、受検したい』と興味を示す従業員もいました。自主的に受検する従業員が増えた点では、効果があったと考えています。」
「相談件数は、特に管理者を通じての相談が多くなりました。その理由は、部下がいつもと違う状況である時に、すぐに相談をしてくる場合もありますが、学習したことを活用し、管理者自身で部下の対応をしつつ、社内相談室に相談してくるといった場合も見られます。」
開かれた社内相談室を設置すると共に、セルフケアやラインケアの研修を実施し、管理者には検定試験を通じた学習の機会も与えることで、いつもと違う部下に早期に気づき、相談対応につながりやすい体制づくりを行っている。
職場復帰支援プログラムに沿いながらも、個別にプランを立て柔軟に対応する
次に、職場復帰支援の取り組みについて、お話を伺った。
「“職場復帰支援プログラム”は、2010年に策定しました。このプログラムに沿って、個別にプランを立てて対応しています。休業に入る前には、基本的に社外カウンセラーのカウンセリングを受けてもらうことにしています。相談を通じて不調が見られ、まだ受診していないのであれば、医療機関に繋いで、そこでの診断をもって、休業に入ることもあります。休業中は、社外カウンセラーと本人とで定期的に話をするようにしています。休業中の悩みや不安を聴いてもらい、本人の同意があれば会社側に状況連絡をしていただく場合もあります。」
「職場復帰可能の診断書が会社側に提出されたら、まず社外カウンセラーを交えて、人事部と本人とで話をします。働く時間帯や業務内容、復帰先の職場などを検討します。元の職場での復帰が難しい場合、異動先の調整が必要です。自宅から近い職場であったり、勤務時間を短くすることが可能な職場であったり、業務負担が軽減できる職種であったりなど、関係先の管理者などに相談の上、調整しています。元の職場での復帰が難しくても、当社では様々な職種・職場があるので、他の職場で復帰するチャンスを模索します。」
「復帰先の職場が決まったら、1か月間程度は通勤訓練を行ってもらいます。その後、職場復帰し、1か月は勤務時間の3分の1にあたる午前中の3時間勤務、次の1か月は3分の2勤務とし、そしてフルタイムで通常勤務という流れにしています。業務内容は個々の職場によって状況が異なるので、個別にプランを立てて対応しています。また、人事部から管理者と本人に対して、復帰後のフォローアップを行うこともあります。」
「職場復帰の判定に関しては、産業医を選任している事業場では、メンタルヘルス不調で1か月以上の長期休業している場合、産業医面談をした上で、職場復帰判定を行っています。復帰後も継続的に産業医によるフォローアップを行っています。また、産業医の選任義務がない事業場も、必要に応じて統括産業医が面談をした上で、職場復帰判定を行っています。」
「当社の場合、長時間労働が原因となるメンタルヘルス不調は少ないです。その分、職場の人間関係の問題がきっかけとなっているものが多く、その場合、本人の意向を確認しつつ復帰先を変えることがあります。また、異動後にメンタルヘルス不調になった場合、状況が許せば、復帰先を元の職場や職種に戻すこともあります。その他、職場によってはシフト制勤務や夜勤などもあるため、睡眠リズムが崩れやすく、睡眠障害などで体調を崩すこともあります。その場合、復帰時は睡眠リズムを整えることを優先して、当面は日中勤務になるようにしています。」
「社内相談室での相談を通じ早期に対応したことで、最近は休業期間が長期化することなく、短期間で職場復帰するケースが多く見られます。相談時に不安がある場合、とりあえず1か月間だけ休むケースは増えたように思いますが、その後、すぐに復帰して働いています。中には、配置転換を早めに行ったり、管理者から細かくフォローしてもらうよう人事部からはたらきかけたりといった対応で、休まずに済んだケースもあります。早めの相談により早めに対処できることが、本人にとっても会社にとっても、最も生産性が良いのではないかと考えています。」
職場復帰支援プログラムに沿って、個別にプランを作成し、休業者に沿った対応を行っている。また、元の職場への復帰が難しい場合でも、柔軟に社内調整を行い、本人に合った職種・職場での復帰に努めている。
【ポイント】
- ①人事部のメンタルヘルス推進担当者と、外部EAP機関のカウンセラーによる社内相談室を設置することにより、いつでも相談しやすい社内環境をつくる。
- ②管理者に対して、毎年研修を実施したり、検定試験を通じた学習の機会を与えたりすることで、部下の不調にも早期に気づき、対応することにつながる。
- ③職場復帰支援プログラムに沿いながらも、個別にプランを立てることで、復帰先の職場の検討など、休業者に合った柔軟な対応ができる。
【取材協力】株式会社ジェイアール西日本メンテック
(2017年6月掲載)
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