読了時間の目安:
約15分
西鉄人事サービス株式会社
(福岡県福岡市)
西鉄人事サービス株式会社は、西日本鉄道株式会社から給与計算、社会保険、健康管理、安全衛生管理に関する部門をアウトソーシングする形でつくられた会社である。約80のグループ会社の内、19社において、健康管理業務を全面的に受託している。
担当している19社は、乗務員を抱える会社が中心である。主に運輸業が中心のため、お客様の安全第一を考え、乗務員の健康管理はグループ会社も含め同じ基準でやるべきだという全社的な考えがあり、それに基づき行っている。対象人数は約8500人。その内、乗務員が半数以上を占めている。
今回は、健康管理センター所長の吉留玉士さん、保健師の北園みゆきさんのお二人にお話を伺った。
問題点を把握し対策を講じるため「こころの健康づくり計画」をまとめる
最初に、「健康管理センター」の業務と人員体制について話を伺った。
「私たちの健康管理業務としては、職場の巡視、健康やメンタルヘルスに関する相談対応、復職支援、健康診断、がん検診、乗務員検診、健康教育が主な内容になります。」
「産業医は、嘱託も含め10人います。職場巡視や、対象者との面談・指導もしています。また、別途、嘱託の精神科専門医が1人います。月2回来社し、労働者本人や管理監督者、看護職からのメンタルヘルスに関する相談にのっています。また、復職時に、主治医からの復職可能の判断後、運転業務も含めて復職可能かどうかという視点で面談を実施しています。」
「看護職は福岡地区に15人、北九州地区に2人、合計17人います。当社や先程のグループ会社19社を、看護職による担当制としています。看護職は50人以上の職場は産業医とともに必ず月1回の巡視をしています。また、他に月1回程度、健康相談日として職場を訪問しています。健康相談日は事前にポスター掲示によって案内をしているので、巡視時と健康相談日を利用して相談にきてもらいます。」
次に、メンタルヘルス対策取り組みの経緯について話を伺った。
「”メンタルヘルス指針”が公表された翌年の2007年頃から取組み始めました。西鉄グループとしてメンタルヘルスケアに取り組んでいくことを示すために、まず、”こころの健康づくり計画”をまとめました。」
「こころの健康づくり計画策定にあたり、産業医や精神科専門医と相談し、”①問題点の把握”、”②教育研修・情報の提供”、”③メンタルヘルス不調への気づきと対応”、”④サポート体制の確立”の4つの柱とそれぞれにおける具体的な取り組み内容を示しました。」
「”①職場環境の把握”という点では、具体的な項目として”メンタルヘルス不調者の把握”と”ストレスチェックの実施”を示しました。それぞれ計画を立てて、実施できるところから実施していこうということでスタートし、計画が進むにあたり内容を少しずつ充実させていっています。」
「”②教育研修・情報の提供”としては、全従業員を対象にポスター等を利用しての情報発信、ラインケア研修、セルフケア研修等を実施し、正しい知識の普及を図っています。我々産業保健スタッフも各種メンタルヘルス研修に参加し、スキルアップを目指しています。」
「”③メンタルヘルス不調への気づきと対応”としては、社員の意識啓発という点で、本人に気づいてもらうことが第一だろうと考え、特に会社に少し慣れ始めた社歴の浅い従業員を対象としたセルフケアに力を入れております。また、職場のキーパーソン、例えば衛生管理者、所長、主任等、周囲が気づくための教育も必要と考えました。メンタルヘルスに関する相談窓口の充実という点では、産業医や看護職が職場に出向いた時に気軽に相談できるような場も作っていますが、誰にも知られずに利用できる場を作ることも必要と考え、外部相談窓口の設置や、公的相談機関の紹介も行っています。」
「”④サポート体制の確立”としては、社内的、組織的に体制を作っていくということや、”職場復帰支援プログラム”の作成が必要と考えました。管理監督者へのサポート体制として”西鉄グループ管理者メンタルヘルスマニュアル”を健康管理センターで独自に作成しました。部下の変化への気づきから、休職者の復職に至るまでの内容を掲載しています。”専門機関の活用の検討”として、民間医療機関とのネットワーク構築や、復職に関してはリワーク利用などをすすめております。」
産業医や精神科専門医と相談しながら作成された「こころの健康づくり計画」では、4つの柱を定め、それぞれの柱に対し、具体的な取り組み内容が示されている。
健康診断時にストレスチェックの個人結果と照らし合わせて看護職が必ず面談
続いて「ストレスチェックの実施」に関して経緯と実施方法について話を伺った。
「ストレスチェックを最初に実施したのは、2007年頃になります。まずは試行という形で、600人程の西日本鉄道株式会社本社ビル内の従業員のみを対象に、中央労働災害防止協会”ヘルスアドバイスサービス”を利用した外部委託による実施を2年間行いました。2年間試行実施してみたところ、事前広報を行っていたためか、大きなトラブルはありませんでした。」
「工夫した点としては、回答したくない従業員の把握もできるように、無回答でも良いので記名して提出するようにお願いしました。提出しない従業員もいたし、無回答での提出もありました。実施当初の回収率は85%程度だったのですが、最近では97%程度の高い回収率となっています。」
「2年間の試行実施後は、行政が無料で公開している”職業性ストレス簡易調査票”をダウンロードし、社内健診プログラムの中に”ストレスチェックシステム”を制作し、受託会社全体に拡大していきました。実施は、インターネット上ではなく紙面で実施しています。乗務員にはパソコンが支給されていないこともあり、同じ職場の方が同じ時期に実施できることと、回収が確実に行えることにより、質問票は紙ベースで行うようにしました。」
「実施に際し、最初に全従業員に事前説明やポスター等で案内をしました。その後、ストレスチェックの質問用紙を配付して、専用の封筒に封入後、各事業所の担当者が回収し、健康管理センターへ返却します。労働者本人にとっては、”①回答を専用用紙に記入”、”②専用封筒に入れて封入”、”③担当者へ渡す”という作業になります。」
「回答回収後の入力作業は、西鉄のグループ会社に依頼しています。その後、出力された結果を封筒に入れ封をして、それぞれの部門の担当者宛てに送ります。その際、プライバシーの保護には十分注意をはらい、担当者より個人への返却をお願いしています。」
「本人への返却後、各事業所単位で集団分析を行うため、ストレスチェック結果に基づく”仕事のストレス判定図”を出力します。判定図については、各事業所の担当看護職から事業所長へ結果説明をします。また、各事業所で月1回開催している安全衛生委員会で議題として取りあげ、結果についての説明や今後の取り組みについて話し合いをしています。」
「西日本鉄道株式会社では全従業員を対象に健康診断を年2回実施しています。ストレスチェックについては、検査項目の少ない秋の健康診断にあわせて実施しています。秋の健康診断が始まる前に、ストレスチェック実施の告知をして、健康診断の開始前に本人宛に個人結果を返却します。まず、本人にセルフケアの一貫として自身のメンタルヘルス状態に気づいてもらいます。ストレスチェックの結果返却に追従する形で秋の健康診断を行い、その中でストレスチェック結果を含めた内容の面談を行っています。面談後、担当看護職が問題があると判断した場合は産業医に相談して、すぐ専門医を受診させる、精神科専門医との面談、または次回の産業医による職場巡視の際に産業医面談を設定する等、意見を伺います。」「労働安全衛生法に基づくストレスチェック制度に関して、当社の精神科専門医は、『ストレスチェックで数量化するのは良いけれども、数字が高いことが本当にメンタルヘルスの状態が悪化していることを必ずしも示していないのではないか。高ストレス者かどうかを質問内容だけから得ることは難しく、結果の数字だけに惑わされるのは良くないのではないか。数字で区切っただけで状態の良し悪しを分けず、従業員全員を対象に面談したほうが望ましい。』と、話していました。その点で、健康診断を利用した全員の面談実施には意味があると考えています。」
「また、集団分析に関しては、今後の取り組みについて、その職場で取り組みやすい改善案を健康管理センターに提出してもらい、取り組むこととしています。自分たちの職場を良くするにはどうするか、全員の意見が言えるということが大事だと考えています。」
ストレスチェックシートの回収や返却におけるプライバシーの保護に重点を置いた仕組みにより、回収率も高くなっている。その結果を照らし合わせて、看護職が健康診断時に全員と必ず面談を実施している。
復職後も1年間は精神科専門医と看護職によるフォロー面談を実施
続いて、メンタルヘルス不調者への対応、並びに職場復帰支援の流れについて話を伺った。
「職場復帰支援は、健康管理センターの体制ができた1992年位からありました。従来より疾患の種類を問わずこの仕組みに則っています。精神疾患の場合は、精神科専門医と面談し、その上で、”精神科専門医意見書”を提出する点が異なっています。」
「復職に関しては、”通常勤務ができるまで回復する”ということが条件です。病状的には100%の回復でなくても、本来求められる仕事ができる状態まで回復していることが必要です。試し出勤制度等は実施していません。」
「休職中は、必要に応じ看護職から休職者へ連絡を取り、休職中の状況確認を行っています。また、看護職が本人と一緒に主治医を訪問し、意見を直接聞くこともあります。これら休職中からの支援を通じて、休職者本人へは、復職の流れの説明を行い、戸惑いなく復職に向けた準備ができるようサポートしています。また、復職前にクリニックや病院で実施しているリワークプログラム等を休職者に紹介し、利用する場合もあります。」
「休職者本人から復職したいという申し出があれば、まずは主治医による復職可能の判断が必要です。主治医が復職可能と判断した後、社内にて職場復帰可否の評価を行います。専門医の判断が必要な場合は、精神科専門医の面談を行います。精神科専門医から復職の可否、並びに復職が可能な場合はどのような注意が必要なのか等を専門医意見書に記入してもらい、それを産業医に提出するという形を取っています。産業医は精神科専門医の意見も踏まえて、本人・所属長同席の上復職について検討し、就業に関する意見書を作成します。」
「乗務員の場合は、安全運転の観点から薬による眠気等について、主治医に業務内容の説明をした上で慎重な確認を取っています。また、実際に飲んでいる薬や服薬により出てくる可能性のある症状についても、精神科医専門医との面談で、内容を確認しています。」
「復職者へは、通常勤務内での職場の配慮でカバーしていきます。例えば、バス運転業務では、長いダイヤがあるので、あまり長くないダイヤから始める、または、最初の2ヶ月位はきちんと週2日の公休日を確保する等、職務制限ではなく、通常勤務としてできる範囲の配慮について、復職の面談の中で産業医、本人、所属長、担当看護職で話し合います。その後、所属長より会社へ書類を提出し、そこで正式に復職が決定するという形です。」
「また、長期休業の復職後、運転業務の乗務員の場合は、すぐに路線に出るということはしません。まずは社内の自動車教習所で訓練をします。自動車教習所では、運転訓練の他にお客様へのサービスの仕方、身体障害者へのお手伝い、車内操作、ICカードの使い方等を訓練します。長期休職後はやはり感覚が鈍ってしまうので、もう一度この訓練を行っています。」
「教習所での訓練が終了し職場に戻った後でも、翌日からすぐにお客様を乗せて運転することもしません。まずは、”空車運転”として、お客様ではなく管理者を乗せて主な路線を運転します。その後、所長判断で許可が下りた後、お客様を乗せての運転開始となります。」
「精神科専門医が復職時面談をした場合、復職して約1ヶ月後に面談します。この面談は、精神科専門医、本人、看護職の3人で行います。その後、精神科専門医の判断により1~3ケ月の間隔で面談を行います。復職して1年を過ぎるまで、復職後のフォロー面談が続きます。復職後に就労が継続できることが一番大事であり、再発しないように見極める必要があるということを実施しています。」
「メンタルヘルス不調における再休職は、以前と比べると少しずつ減ってきているように感じます。このことは、復職後の精神科専門医による丁寧なフォロー面談や産業医巡視場面での所属長との連携の効果もあるかと思います。復職者の調子が悪くなってきた場合は、産業医から主治医へ治療依頼や問い合わせをしたり、所属長へ通常業務内での配慮の申し入れを行ったりすることで、3次予防に繋がっていると思われます。」
運輸業においては、お客様の安全を守るためにも、乗務員の健康状態にはより一層の注意を払わなければならない。その点においては、産業保健スタッフによる日頃の健康管理業務と精神科専門医によるフォローアップが重要な役割を担っている。ストレスチェックの実施や職場復帰支援も、最初の「こころの健康づくり計画」に基づき、職場のメンタルヘルス体制ができあがった土台の上で行うことで、より効果的になっていると思われる。
【ポイント】
- ①産業医や精神科専門医と相談しながら、問題点を把握し対策を講じるため「こころの健康づくり計画」をまとめる。
- ②ストレスチェック実施の際、労働者の個人情報保護に十分に務める。また、健康診断時に合わせて看護職が全員に面談を行うことが、高ストレス者をそのまま放置しないことにつながる。
- ③職場復帰は「通常勤務」ができることを条件としながらも、復帰後、精神科専門医を含む産業保健スタッフによるフォローを実施する等、再休職しないための支援を充実する。
【取材協力】西鉄人事サービス株式会社
(2015年9月掲載)
関連コンテンツ