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株式会社日立国際電気(東京都千代田区)

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株式会社日立国際電気
(東京都千代田区)

 株式会社日立国際電気は、2000年に日立グループの映像、通信、半導体製造装置関連事業を手掛けてきた3社が合併して誕生した。通信、情報、放送、映像、そして、それらのテクノロジーを支える半導体の分野で、「幸福で安心・安全な社会の実現に貢献するものづくり」に取り組んでいる。本社、富山工場、東京事業所、その他全国の営業拠点、また、グローバル化に伴い海外にも拠点がある。従業員数は2,418名(2014年12月現在)で、グループ会社まで含めると4,952名である。
 東京駅からJR中央線で約40分。東京都小平市の市街地からバスで15分程行ったところに、東京事業所はある。通信・情報、放送・映像システムの製品の開発、設計、生産を行っており、全従業員の半数近くがここで働いている。
 今回は、健康管理センタの保健師である椋梨(むくなし)奈保子さん、山崎彩さんと、嘱託産業医を務める吉野聡さん(吉野聡産業医事務所 所長)の3人にお話を伺った。

健保組合におけるメンタルヘルス不調に関わる傷病手当金の支払額を6年で2割削減

最初に、メンタルヘルス対策に取り組むきっかけについて伺った。

椋梨さん
「メンタルヘルス対策をはじめたのは2006年です。2014年から日立グループ全体の健保組合に移行しましたが、当時は当社の単独健保組合がありました。その健保組合の事業でメンタルヘルス対策を実施することになり、筑波大学人間総合科学研究科の松崎先生と吉野先生に支援していただくことになりました。ゼロからのスタートでした。」

吉野さん
「当時、メンタルヘルス不調者関連の傷病手当金の支払額が増加して健保組合としての負担が大きくなったこともあり、2006年から2008年までの3カ年計画でメンタルヘルス不調に関わる傷病手当金を削減する計画を立てました。単独健保組合のため、会社内の状況をそのまま把握することができました。」

椋梨さん
「当時、健保組合に医療職はいませんでした。そこで、2008年に会社側で保健師を2名採用して、”健康管理センタ”という組織をつくることになりました。同時にメンタルヘルス対策の事業も健保組合から会社側に移管してきた経緯があります。その後人の入れ替わりがあり、2012年から現在まで私と山崎さんの保健師2名体制です。」

「現在、日立国際電気のグループ会社のメンタルヘルス対策は、それぞれ単独で行うことが難しいため、基本的には私ども健康管理センタがグループ会社を含め対応しています。」

次に会社側に設置した「健康管理センタ」と社内の「診療所」の違いについて伺った。

椋梨さん
「健康管理センタとは別に、事業所ごとに診療所があり、それぞれで選任された産業医がいます。診療所では内科領域の診療や長時間残業に関する健診などを実施しています。健康管理センタは診療所とは別組織です。健康管理センタでは診療はせずに、1次予防と3次予防に特化しています。よって診療につながる医療的な相談は、ほぼ医療機関を受診するように勧めます。主治医の診断内容を元に、必要であれば吉野先生等による産業医面談を行います。産業医面談では病気かどうかではなく、働けるか働けないかを検討します。」

山崎さん
「昔からある診療所のことは皆知っていますが、最近できた健康管理センタのことは、従業員の間にあまり浸透していませんでした。そこで、社内のイントラネットに”健康管理センタ”のコーナーを作成したり、3か月に1度”健康管理センタだより”を発行したり、社内研修のときにスライドの最終ページに”健康管理センタのご紹介”を掲載するなどして、周知活動を行ってきました。また、これまで別々に活動していた診療所と協力体制をつくり、メンタルヘルス不調の可能性があれば早い段階で健康管理センタに連絡がくるようになりました。診療所だけでなく人事総務部門など、社内関係部署との連携も大事だと思っています。」

次に「産業医」の役割について吉野さんを中心に伺った。

吉野さん
「”健康管理センタ”では、私ともう1人の精神科産業医の2名で相談対応をしています。まずは保健師が情報収集をして、医師による面談が必要かを検討します。必要と判断した場合は、全国の事業所へ相談対応に伺う場合もあります。その点では、保健師の活躍が大きいですね。保健師が下地を作り、最後に会社として医師が判断しなければいけない部分だけは、私達が行くイメージです。」

椋梨さん
「産業医の先生はそれぞれ月2回の訪問です。対面で相談可能な時間が限られているので、適宜メールで相談させていただいています。」

吉野さん
「最初の3年間(2006年~2008年)は、これまで潜在化していた事案を掘り起こしていったので、メンタルヘルス不調者の数は、減るどころかどんどん増えていきました。当時、保健師がいない中で産業医が全国の事業所を全てまわり、メンタルヘルス不調のサインなどがないか確認し、研修を通じて徹底的に教育していきました。このようにして『メンタルヘルス不調に対応していかなければならない』という文化が、最初の3カ年計画で根付き始めたと思います。そして、顕在化した不調者をそのままにはできないという状況にもなり、その後も3カ年計画で継続して実施することになりました。その結果、メンタルヘルス不調に関わる傷病手当金を、6年前と比較して20%減少することに成功しました。現在では私たち産業医だけではなく、保健師も全国各地をまわって相談対応をしています。」

メンタルヘルス対策の費用対効果を考える際、労働者の個人情報保護に留意した上で、健保組合と共同でメンタルヘルス分野に関わる「傷病手当金」の総額に着目することも手法の1つだと考えさせられた。

経営層対象のメンタルヘルス研修を毎年実施することで、経営者が積極的に方針を示す

メンタルヘルス対策の取り組みについて、「教育・研修」を中心にお話を伺った。

椋梨さん
「当社では、メンタルヘルス対策の2本柱として、”研修・教育”と”復職支援”に重点を置いています。メンタルヘルス研修は2006年からスタートしました。当時から、経営者層、管理職、一般職、新入社員や新任管理職など、階層別に研修を実施しています。毎年実施していた時期もありましたが、基礎知識はひと通り行きわたったこともあり、現在では、どの社員も必ず3年に1回はメンタルヘルスの教育を受けるというカリキュラムになっています。」

吉野さん
「当社の特徴としては、経営者対象のメンタルヘルス研修に力を入れている点です。1年に1回、社長を含め役員向けに研修をしています。毎年違った研修内容にしていますが、メンタルヘルス対策の基本的な柱として、 “経営的な視点”と”リスク管理”の2つについて話をします。”経営的な視点”としては、メンタルヘルスの問題は企業の業績に直結するという内容です。経営者はメンタルヘルス不調の休職者数に関心が向きがちですが、実際は、休職していなくてもモチベーションが下がった状態で、業務を行うことができずただ出社しているだけの社員がいる訳です。休職者の有無という問題より、『従業員皆が良い状態で働けるということは経営にとってプラスですよ』という話をしています。経営者は今まで勝ち抜いて来られた方々が多いので、『なぜこれで病気になってしまうのだろう』となかなか理解が難しい面もあります。2つ目の”リスク管理”の話では、これまでの職場のメンタルヘルス関連の裁判例に着目し、『対策しないとこのように訴えられる可能性もあり得ますよ』と話しています。」

「数年前、年頭の社長挨拶で、会社としてメンタルヘルス対策に取り組む旨のメッセージが発信されたことがありました。『まずメンタルヘルス不調にならない職場づくりをしなければいけないし、メンタルヘルス不調になった場合は早急にサポートできる体制を整備しなければいけないと考えて、経営していきます』という内容のものでした。この業界では、優秀な人財であればあるほど負荷がかかることが多く、ストレスがたまり病気になってしまうこともあります。経営者が積極的にメンタルヘルスの問題に取り組む方針を示すということは、事業場内産業保健スタッフにとってもたいへん心強い話です。」

椋梨さん
「現在は経営者と管理職への研修講師は医師が担当し、一般職への研修講師は保健師が担当しています。座学だけではなく、グループワークも多く取り入れています。研修により社員の意識にだいぶ変化がみられたと思います。例えば管理職層では、『いつもと様子が違って心配だ』と部下を健康管理センタに連れて来てくれるようになったり、『焦らずしっかり休んでしっかり治ってから復帰するように』と先を見通した対応ができるようになってきています。」

厚生労働省「労働者の心の健康の保持増進のための指針」においても、まず、「事業者がメンタルヘルスケアを積極的に推進する旨の表明を行うこと」と記載されている。そうすることで、事業場内産業保健スタッフ等、現場の担当者は自信をもって実際に取り組めるようになる。また、経営者の方々に認識していただくためにも、経営層対象のメンタルヘルス研修を毎年実施することも重要である。

産業医面談では管理職も入れて三者面談を行い、「職場全体での支援」の必要性への気づきを促す

続いて、「職場復帰支援」の取り組みについて、椋梨さんに具体的なお話しを伺った。

椋梨さん
「休職者とその管理職用に、ハンドブックを作成しました。療養から復帰までの流れをきちんと理解した上で休職に入れるように、当社の休職制度の説明や復帰条件の目安について説明しています。復帰する際は、”本人の職場に戻りたい意志”と”主治医からの復帰可能の診断書”の2つが必要です。これらが揃ったら、産業医面談をする中でいつ頃からどのような仕事をするのかという職場の受け入れ体制を整えていきます。その上で産業医が復帰可能の意見を出し、会社が最終的に復帰許可の判断をする流れです。この流れを休職前に説明するのですが、休職する時は当然具合がよくない状態ですので、あまり多くのことは口頭だけで説明できないし、仮に説明したとしても頭に入りません。そのためハンドブックにこの流れを記載しています。また、休職できる期間や社内の主要連絡先一覧も記載しています。休職希望者が相談に来た際は、管理職も同席して、一緒にハンドブックを見ながら話をします。1人暮らしの休職者もいるので、音信不通になってしまうことを防ぎたいですし、安否の確認を含めて、定期的に管理職と連絡を取り合うこともお願いしています。」

「また、必要な方には、生活記録表に起床就寝時刻、日中どう過ごしたか、体調などを記録してもらっています。産業医面談の時に、記録ができているかどうかも含めて生活リズムの確認をしています。これが記録できないような状態の方は戻れない、仕事はまだ無理という目安にもなります。朝起きて昼間活動して夜きちんと寝られているか、そこを産業医が見て医学的見地からのアドバイスをしています。」

「基本的には、保健師から休職者へ直接連絡はしません。保健師が動いてしまうと、職場の皆さんが保健師にお任せになってしまうことがあるので、あえて管理職経由で連絡をするルールとしています。定期連絡を取り合う過程で、『今すぐには復帰できなくても体調確認のために会いましょうか』という形で産業医面談を入れて、今の体調や治療の様子などを確認します。職場復帰直前だけではなく休職中全体を通して関わり、様子を見るようにしています。」

「職場復帰に関する産業医面談では、管理職も入れての三者面談を基本としています。産業医面談は、『ここは病院ではないので診察や診療ではない。つまり患者としての面談ではない』ということを明らかにしています。会社を休職している従業員、体調の悪い従業員として相談対応を受けるというスタンスですので、いわゆるよろず相談や医療相談ではなく、『会社で働くためにどうしていくか』を相談する場ということを、管理職も入ることではっきりさせています。原則として直属の管理職が同席しますが、場合によりライン上の管理職の時もあります。誰もいない時は、私たち保健師や総務部門が連絡を取って窓口になることもありますが、滅多にありません。『基本は職場。あなたの部門の従業員ですよ』ということを管理職が改めて認識することにより、職場復帰に際しても『自分のところに帰ってくる、自分がしっかり面倒を見よう』と自覚と責任感が生まれます。管理職が休職中から体調を確認して把握することで、『こういう具合の悪さなのだな』、『こういう時にこういうふうに調子が悪くなるのだな』と理解でき、本人からも直接話が聞けるので、復帰後どんな仕事をしてもらおうかと前向きに考えることができます。」

最後に、「職場復帰支援」時における産業医面談等の関わりについて、吉野さんに具体的なお話しを伺った。

吉野さん
「職場復帰のためには、復帰する職場の協力が不可欠です。そのため、復帰する本人、復帰する職場の管理職と産業医の必ず三者が集まることが大前提なんです。休職者と産業医の単なる産業医面談ではなくて、皆でこのケースを対応していくという意味で、私たちは”ケースマネジメント”と呼んでいます。面談の流れは、最初に本人と、次に管理職と、最後に三者で行います。まず本人に体調などを確認して復帰できそうとなれば、復帰時期や勤務時間などを本人の希望を聞きながら打ち合わせます。その後、管理職から職場の状況と受け入れ態勢を確認します。最後に三者そろって本人と職場の状況を確認しながら、どのような配慮が必要かということも含めて調整して、復帰後の方針を決定します。面談を本人と職場と産業保健スタッフで行い、人事総務部門が同席しない理由は、人事が同席すること自体の難しさもありますし、必要時には連携できる関係ができているからです。就業規則などは保健師も理解しているので、大抵のケースではこの流れで問題ないのですが、復職が難しいケースや復職時に異動を伴うケースなど複雑な対応が必要な場合には、産業医面談の後に、保健師を通じて人事総務部門と相談する形にしています。」

「会社側に残業や出張制限を提案する根拠として、産業医という立場で意見書を書いているので、復職後は原則就業制限が外れるまでは産業医のフォローが必要だと思っています。就業制限が外れるまでは原則月に1度は産業医が面談し、就業制限が外れた後は保健師にお願いしています。当社では、復帰後6カ月以内にもう1回休職した場合、休職期間が通算されますので、それまでには万全に働ける状態になっている必要があります。再休職を防ぐため、その6カ月の最初の3カ月で就業制限解除を1つの目安にしています。」

「主治医が復帰できる状態と判断したら直ちに復帰できるのではなく、『給料が発生している分は働くということ』が『会社に来ること』であり、それをもって『復帰であること』を、休職者に伝え自覚してもらうことが再発防止に繋がると思います。当社の場合は、産業医の判断で80%程度の回復、復職後当面は就業上の配慮はするが、3か月後には通常期待されるレベルの業務を遂行できるくらい元気になっていることが予測される程度、を目安としています。試し出社制度はありません。就業制限という形で仕事の質・量の軽減はしますが、午前中勤務なら午前中は働こうというスタンスです。もちろんそうは言っても、最初は簡単な作業から入ってもらって徐々に慣らしていきます。」

「現在、再休職が全くないかと言えばそうではないですね。ただ、以前に比べて早い段階での対応ができるようになっています。具合が悪くなりはじめた段階で、保健師が対応してくれています。保健師2人は常勤ですので、早めの相談対応が可能です。最近では、休職に入ってしまってから産業医にはじめて相談が来るということが極端に減っています。以前は、具合が悪くなり診断書を持って来て、休職するしかない状況になってから把握していましたが、今は通常よりパフォーマンスが落ちてきた段階で相談に来てもらえるようになっています。その結果、一時的に業務負荷を落として対応したり、主治医に手紙を書いて処方薬の相談をしたりするなど、対応策の選択肢が増えました。保健師のこまめな面談やフォローによって確実に再休職になる確率は減ったと思いますよ。」

常勤の保健師が日々の相談対応を行いながら、職場のメンタルヘルス対策の下地をつくっている。その上で、医師の専門的な見地が必要な職場復帰に関する面談や経営層への研修時等で、非常勤の産業医に依頼する仕組みである。産業医の限られた勤務時間を有効活用するためにも、日々の保健師のこまめなフォローが重要な役割となっている。また、産業医面談においては、管理職も一緒の三者面談を基本とし、「労働者個人の病気の問題」ではなく、「職場の問題」として捉えている点も重要だと思われる。軸をしっかりと持って対応することは、結果的に、休職者にとっても会社にとってもメリットがあると思われる。

【ポイント】

  • ①経営層対象のメンタルヘルス研修を毎年実施することで、経営者がメンタルヘルス対策を行う意義の理解を深め、自ら積極的に取り組む旨の方針発表に繋げてもらう。
  • ②療養から復帰までの流れをきちんと理解した上で休職に入れるように、休職者とその管理職用に、職場復帰に向けてのハンドブックを作成する。
  • ③職場復帰に関する産業医面談では、「職場の問題」として捉えるために、管理職も一緒の三者面談を基本とする。
  • ④常勤の産業保健スタッフによるこまめな面談やフォローを通じ、産業医が早い段階で状況を把握し、迅速に改善策を取ることができ、産業医の限られた勤務時間の有効活用に繋がる。

【取材協力】株式会社日立国際電気
(2015年3月掲載)