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株式会社高知大丸
(高知県高知市)
高知市の中心部に位置する百貨店「高知大丸」は、戦後すぐの1947年に大丸グループの関係百貨店第1号として誕生し今年で68年を迎えた。地域の顧客に支えられ黒字経営を続けており、現在はJ.フロントリテイリンググループの連結子会社である。
従業員数は、合計227名(2014年12月現在)で、正規社員が約2/3、非正規社員約1/3の割合である。正規社員の男女比はほぼ半々ながらも、男性の方が若干多い。また、販売職を主に担当している非正規社員はほとんど女性で、男性約1/7、女性約6/7である。
今回は、業務推進部長の入交(いりまじり)邦彦さん、健康管理室の保健師、三宮文枝さんのお二人にお話を伺った。
最大の強みは、「結束力」と「チームプレー」。全社員の集合研修を年2日実施
最初に入交さんから小売業の特徴、並びに高知大丸の社員の特徴と取り組みについてお話を伺った。
入交さん
「小売業では、売上高で企業規模を測られる傾向があります。ですが、我々の最大のミッションは、この事業を継続することです。店舗経営存続に向けて全英知を絞っています。四国内においても過去に複数の店舗が営業不振で閉鎖に至った歴史があります。競争の中で生き残れなかった、辛い経験をいくつも見てきました。」
「”従業員満足度(ES)”と”顧客満足度(CS)”の両輪を大切にしたいという意識はあります。高知大丸の最大の強みは”結束力”と”チームプレー”だと思っています。人間同士の関わり合いを重要視して、社員同士や部門間での信頼関係の基本である”報・連・相”の徹底を業務遂行の基本としています。」
「高知大丸では全館の定休日を合計6日設けています。最近では元旦以外に定休日をいくつか設けている百貨店は多くないと思います。その内2日間は出勤扱いで、社員が全員集まって研修会をします。変形労働制のため、職場のメンバーが一同に集まる機会が中々無いんですよ。細かいメンバー間では、開店時、昼間、帰る際と、3回位ミーティングをしています。そこまでしないと情報が伝わらないんです。そこで、全員でコミュニケーションを取る場をあえて作るため、研修会を開きます。」
「我々の”人事施策”や”サービス施策”の中で一番難しいと考えていることは、『お客様との接点となっているのは、高知大丸の社員だけではない』というところです。それぞれのお取引先から派遣されて、店頭に立っている約500名のお取引先従業員もいます。化粧品、婦人服、食品等、それぞれの会社から派遣されて、給料をもらっているお取引先従業員が店頭ではひときわ多いわけです。その方々の就業規則は高知大丸の就業規則ではなくて、それぞれのお取引先の就業規則や雇用契約に基づいて仕事をしています。一般企業における派遣契約、つまり、派遣元会社に依頼をして、労働力として人材を提供してもらっている人材派遣とは違い、我々には、指揮命令権はないんです。それぞれのお取引会社の管理職の方に、品揃えやサービス等、販売体制について計画を出してもらい、お客様に対しての最高のパフォーマンスができるかどうかを相談し、その後、それぞれの会社から各お取引先従業員に指示を出す流れとなっています。」
「しかしながら店頭でお客様が商品を購入する際は、そのお客様の接客をする担当者が高知大丸を代表する”選手”になります。お客様はその接客に”高知大丸の真実の瞬間”を感じることが多いですよね。我々が高知大丸全社員にいかにサービスを語ろうが、コンプライアンスを語ろうが、お取引先従業員の方々まで伝わらないと、企業としての成功にならないというところが、他の業種と違うところです。」
1つの百貨店の中においても、働いている方の雇用形態は様々である。全体の組織風土を良くするためにも、雇用形態に関わらず「結束力」と「チームプレー」を活かすコミュニケーション育成は欠かせないと感じられた。
現場を直に見て状態を把握
次に保健師の三宮さんに、事業場内産業保健スタッフの役割について、お話を伺った。
三宮さん
「私は、保健師として常勤で勤務しています。衛生管理者としての役割も保健師が担っています。また、産業医は嘱託で月2日来所しています。その内1日は店舗を廻ってもらい、もう1日は安全衛生委員会の出席や社員との面談をお願いしています。バックヤードや従業員スペースも巡視してもらい、具体的な指摘を受けています。」
「高知大丸の社員に対しては、健康管理室から予防的な働きかけができますが、お取引先従業員へは確かに難しい状況です。ただ、急に具合が悪くなったりした場合はやはり現地でないと対応できないので、こちらの健康管理室で対応しています。」
「予防的な活動としては、中央労働災害防止協会のストレスチェックを使い、年に1回、全社員を対象に実施しています。必要な方には、その後、面談を行っています。また、身体の健康診断時にも私が面談を担当しているので、メンタルヘルス面で気になった方がいた場合は、そこで声掛けし、継続面談に繋げています。」
「また、職場巡視という形で日頃から店舗の売場へも行き、現場の状況を見て、気になる方に声掛けをしています。その際に、さりげなく自然な声掛けをするようにしています。」
保健師と産業医による店舗内巡視や年1回ストレスチェックを実施することにより、常に全体の状態が把握できるように気を配っている様子が伝わってきた。
安全衛生委員会にて産業保健スタッフと人事労務部門にて情報共有
さらに、休職者に対する安全衛生委員会の役割やその他のサポートについて、入交さんにお話を伺った。
入交さん
「月に1度、産業医と保健師も参加し、安全衛生委員会を開催します。その中の必須事項として、病欠者数と状況並びに復職者の状況に関して個人名が特定されない形で現状報告があります。毎月開催しているので状況経過が把握できます。ちなみに診断名は産業医と健康管理側だけで管理をしています。疾病名を公表しなくても事例についての事柄のみを限られた中で公表することで対応は可能だと思います。」
「その他、各部署には管理職とは別に相談対応してくれる”相談員”を配置しています。また、管理職にはメンタルヘルスやパワーハラスメントに関する研修や情報提供を実施しています。」
月に1度の安全衛生委員会にて、産業保健スタッフと人事労務部門が情報共有をすることで、労働者本人の情報のみならず、組織としての対応方法について、検討している。その際、病名などの「疾病性」に着目するのではなく、どのようなことが職場での困りごとなのかという「事例性」に着目することが大切だと考えさせられた。
復職者の得手不得手両側面をかんがみて最適な職場復帰を
続いて、「職場復帰支援」に関し、復帰に向けた流れと特徴について、お二人からお話を伺った。
三宮さん
「以前の事例では、最初、メンタルヘルス不調者の同僚の方から、面談の依頼がありました。その後、本人に会って面談してみると明らかに自分でなんとかできる状態ではないことを、本人も気づいていました。すぐに病院に行きましょうということになり、病院をいくつか探して、本人が希望する通院しやすいところへ一緒に行きました。休職期間に入った後も、保健師との面談は、1ヶ月に1回、復職が近くなると1か月に2回行っていました。主治医とも定期的に話し、その後、本人にも話を伺いました。復帰時も、主治医に直接話を伺い、その後産業医面談の流れとなりました。」
入交さん
「問題の把握と復帰後の対策については、復帰時のどの段階の面談で把握するかではなくて、日々の面談の積み重ねですよ。これくらいの企業規模なので、日々、全従業員を見て接していると、”気になる”従業員が出てきます。特に注意を向けなくても業務が遂行できる人がいる一方で、苦手な人もいます。そのような人達に対しては、苦手な作業を極力和らげて、得意分野を発揮できるために、限られた中でどうすれば良いかと、日々試行錯誤しています。」
本人の得意分野を活かす職場で自信を持たせることが効果的だと思われる。
スムーズな職場復帰のために人事労務部門が復帰後の業務を調整
さらに、職場復帰時の産業保健スタッフと人事部門の関わりについて、お二人からお話を伺った。
入交さん
「経験の長い方が退職をしてしまうと、長年培ってきた技術や技能、また、お客様との繋がりもばっさり切れてしまいますので、同じ従業員の雇用を何とか継続していきたいという思いはあります。」
「産業医と保健師は、休職時から関わります。どういった治療を受けているのか、主治医はどういったプログラムで完治に向けた対応をしているか等を確認します。更に、産業医と保健師の間で復帰後もイメージした上で”職場復帰プラン”を組みます。」
三宮さん
「復帰に際しては、産業医の面談による意見を求めています。まず、産業医の面談を行い、復職するにあたり、主治医からどんな注意を受けているかを産業医が確認します。例えば、重い物の取り扱いはしばらくの間はできない等、本人から話してもらい、それに対して産業医から会社側に、こういった業務は避けるようにと指示を出します。職場復帰後は、頻繁な関わりが必要な場合はこちらから勤務している職場に行く場合もありますし、来てもらう場合もあります。状態によって違います。」
入交さん
「当社の場合、変形労働制が復職後の短時間勤務の導入をしやすい環境であった一つではなかろうかと思っています。一般的な企業のように朝の9時から5時、月曜日から金曜日、全員同じ日時に出勤という前提で働いている職場では、勤務時間を短くする、または、1日交代の休み等というのは周りからの目を本人も気にすると思います。しかし、『今日は短い勤務だからお先に帰ります』というのが当たり前のこの環境では、短時間勤務時の本人の気持ちの負担が減るのではないかと思っています。」
「復帰前に人事側は復職者の状態を把握し、可能な勤務形態を検討します。その後は人事と配属先とで調整をします。その間、保健師が産業医と本人との間で、復職プランの検討・調整をします。復職後は、まず人事部付けとしての勤務になります。スタート後は、計画通り行く場合、計画が本人にとって難しい場合、計画が本人にとっては緩すぎる場合等様々です。本人と定期的に話し、人事部門での管理の下、都度調整を行っています。」
「人事部付けでの短時間勤務時においても、業務内容としては、販売やレジ業務等、人事部門の仕事ではなく現場の仕事をします。ただ、通常と違う点は、指揮命令権は人事部となり、現場の上司が勤務時間や作業内容の指示を出す権限はありません。現場の上司から指示があったとしても『人事の部門長に確認した上でその仕事ができるかどうか答えさせてください』と言える環境を作っておくことが大切だと思います。」
「復職者にとっては、精神的、また体力的な部分について、現場の上司に100%伝えられない部分もあります。まだ完治している訳ではなく、完全に働ける状態ではないということを人事部門がきちんと現場に伝えて、さらに、本人にも伝えて理解してもらい、仕事の調整は人事部門が行うこととしています。」
「復帰後、現場の上司に相談するということはなかなか簡単にできないと思います。心配ごとや困ったことがあれば、最初の窓口としては保健師が受け止めると伝えています。その上で保健師から人事部門へ、そして人事部門から職場に対して改善依頼や本人への対応方法等を行う流れとなっています。せっかくここまできたところにトラブルがあって再度休職となると、次の復帰が更に大変になると思うんですよ。ですので、このように丁寧に対応しています。」
小売業は商品の運搬など身体に負担がかかる業務から、接客など神経を使う業務まで様々である。職場復帰に際しては、変形労働制をうまく活用し、自然と業務に慣れさせると共に、人事労務部門が現場監督者と本人の間に立つことが重要だと思われる。
従業員のやる気に目を向け、職場改善に繋げることで組織活力を上げる
最後に入交さんから組織全体での取り組みと今後の課題についてお話を伺った。
「先日、組織活力を図るための組織診断を全従業員に実施しました。業績に関しては、売上だったり利益だったりと数値で出てきますよね。そこで、働く人たちの意欲みたいなものを数値で示して考えてみることにしました。自分が働いている職場において、『私の職場では他の職場から手を貸してもらえる』、『人材育成につながっている』、『チーム活動が順調である』といった質問に、答えてもらいました。それらを部門ごとに見ていくと、同じ制度・仕組みの中で動いていても、上司によって違っていたり、処遇によって違っていたり様々ですよね。部門長が交代したら良くなったなどいろいろな環境変化があって、組織の活力となり従業員のやる気につながっていくことが分かりました。従業員に視点を向けて、皆が元気に活き活きとチームワーク良く、そして、ハラスメントもなく全員参画して関わっていくようになれば、パフォーマンスも上がっていくと考えています。」
小売業では目の前のお客様へのサービスに重点を置いた「顧客満足度(CS)」向上を重視してしまいがちだが、それらサービスを直接提供している従業員の「従業員満足度(ES)」の向上があってこそ、成り立つものであると実感させられた。「従業員の雇用を継続させたい」という入交さんの思いが、職場復帰支援などの三次予防の充実に繋がっていると共に、今後、一次予防や二次予防の向上にも繋がると思われる。
【ポイント】
- ①定期的に従業員全員が集まり、コミュニケーションを取る場を作る。
- ②雇用形態に関わらず、労働者全体へ組織の方針が浸透する工夫が重要。
- ③産業医と保健師が実際に職場内を廻り、声をかけ、現場を知ることで常に全体の状況を把握する。
- ④安全衛生委員会を開催し、産業保健スタッフと人事労務部門とで情報共有する。その際、事案に関しては、疾病性ではなく事例性に主眼を置く。
- ⑤復帰後は、スムーズな職場復帰のために本人の得意分野にも着目し、人事労務部門が現場との間に立ち業務内容を検討する。
【取材協力】株式会社高知大丸
(2015年1月掲載)
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