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株式会社竹中工務店 九州支店(福岡県福岡市)

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株式会社竹中工務店 九州支店
(福岡県福岡市)

 株式会社竹中工務店は、建設業の大手ゼネコン(ゼネラルコントラクター:総合請負業)である。「最良の作品を世に遣し社会に貢献する」という経営理念の下、建築主へ設計・提案を行い、工事を受注した上で、建築物の元請けとして、協力会社の力を借りながら、1つのプロジェクトを遂行し、建築物を完成させて顧客に引渡すことを事業としている。

 全社7,335人(2014年1月時点)の内、九州支店(九州地区、沖縄県を含む)は450名程の人員である。作業所(建設現場)においては男性が約8割を占めている。

 今回は、管理部人事グループ課長の岡原貞一郎さんと、管理部人事グループ厚生担当主任で保健師でもある門田美紀子さんの2人にお話を伺った。

仕事量の増大とコントロールできない環境要因からの過度なストレス負荷を減らす

最初に、職場のストレス要因に関して、岡原さんにお話を伺った。

「当社のような建設業においては、大きいプロジェクトで数10人の場合もありますし、小さいプロジェクトでは1人、2人の場合もあります。規模や内容、建物の種類によって様々です。お客様のニーズや限られた工期の中、効率的に業務をこなさなくてはならず、天候に左右されるコンクリート工事等により勤務時間が長くなる場合があり、ストレス要因となることもあります。また、作業所で”監督さん”と呼ばれる当社の社員は、管理者としても責任度合が強い上に、お客様のニーズを把握し、Q(品質)・C(コスト)・D(工期)・S(安全)・E(環境)の複雑な課題をバランスよく解決しなければならず、周囲の関係者との調整力やコミュニケーション能力が必要となります。一人ではなく、組織(チーム)として成果を上げる業務でもあるので、関係者が多い中で、周りに遠慮してしまい自分一人で悩んだり、うまくいかないと不安になったりすることがあるようです。今後は、建設業界全体として就業者不足が予測され、より一人当たりのストレス度が高くなることが想定されます。そこで、中途採用者を増やすこと等により人員確保に取り組み、一人当たりの負担を極力減らすような努力をしています。」

次に健康相談室の歴史を、門田さんからお話を伺った。

「”健康相談室”は、1992年に設置されました。支店の中でも眺めが良く、食堂の横にあるので、休憩がてら、ふらっと寄ってもらいたいという思いもあって、この場所が選ばれたと私は思っています。ですから、ドアは面談中以外いつも開けており、自由に出入りができる支店の中のオアシス的な感じで、運営しています。」

「設置のきっかけですが、当時はバブル期で大変仕事量が増えていました。作業所担当者は、多種多様な業種の方々をまとめて、工期内に仕事を仕上げなければいけない中、1人にかかる仕事量が非常に増大していました。また、OA化が徐々に進み、人間関係も複雑になり、会社内に相談できる窓口があった方が良いのではないかということが、健康相談室のスタートでした。当時、市の保健所にて地域保健に関わっていましたが、”健康相談室”開設と同時に常勤保健師として、当社に採用され、20年以上、健康管理という側面から社員の方を見守ってきました。」

「ちなみに、当時、九州地区では、金融系や電力系の大企業には、常勤の産業医の下、保健師が配置されている企業もありましたが、私のように保健師のみが1人で常駐しているのは、珍しかったと思います。」 

「私自身、初めて保健師という立場で会社の中に入ったのですが、当時、社員の皆さんに、『保健師です』と言うと、『保険のおばちゃんか?』と言われたのが、大変ショックでした。社員の皆さんにとっては、『なんだろう、この人は?』といった感じだったのでしょう。そこで、『保健師の存在を宣伝してまわらないといけない!』と思い、保健所で着ていた白衣をユニフォームとし、4年間くらいは支店内を歩きまわっていました。保健師の存在を知ってもらいたいという思いが最初は強かったですね。4年経ったら、やっと認知されてきたので白衣は脱ぐことにしました。」

「実際の活動としては、月に1回開催する安全衛生委員会では、建設業のため、作業所の労働災害対策に重点を置いています。ただ、時代が変わりゆく中で、最近ではメンタルヘルスケアへの関心度が高まってきました。委員会の最後には必ず社員全体の近況報告として、休業率など数値データを示しています。また、産業医が実施する、長時間労働者やメンタルヘルス不調者の面談等での要フォロー者に対する、保健指導をしています。その他、当社では、全従業員向けにEラーニングで”ラインによるケア”と”セルフケア”等の研修を実施しています。他に、学校の”保健だより”のような感じで、各種健康情報をまとめた”健康だより”を制作・配布しています。」

ゼロから職場のメンタルヘルス体制づくりを行う上で、健康相談室の存在を、1人でも多くの従業員に知ってもらうことは重要である。保健師が常勤でいることで、何かあったらいつでも相談できる仕組みであることを、自ら周知している。

常勤保健師が作業所に直接出向き、毎年面談を実施

次に門田さんの日々の相談対応に関してお話を伺った。

「支店内では、社員の方に自由に会えて『どうですか』と声掛けできるのですが、営業所、作業所の方とはなかなか会うことはできません。そこで、年1回は各営業所、作業所に私が巡回をして、個人面談を必ず実施するようにしています。面談をすることで、私の存在を年1回思い出してもらおうという思いもあり、『何かあったら1人で悩まずに、私に相談してね』というPRを兼ねて地方巡回しています。面談時には”職業性ストレス簡易調査票”の昨年の結果と結果分析をするためのシート、そして、”健康診断結果”を持って行きます。”職業性ストレス簡易調査票”は事前に送付しておきます。九州支店では、”こころのゆとり度調べ”というネーミングで実施しています。事前にチェックしていたものを、結果分析をするためのシートと重ねて、一緒に結果項目を見ながら、『去年はこうでしたね』と昨年の結果と比べながら1人につき30~40分ほど時間をとって面談しています。」

相談室で待っているだけではなく、事業所に定期的に出向いて相談対応を行う。従業員のメンタルヘルス対策に対し、保健師による能動的な働きかけが行われている。

「このように『九州支店の外勤社員を面談するために、年に一度は必ず事業所を訪問する』取り組みが根付いたことで、各事業所に行きやすいですね。事業所全員を面談するという仕組みなので、周りから見ると要フォロー者が特定しにくくなっています。」

人事部門の視点で、岡原さんからもお話を伺った。

「私も今ちょうど同じように、各事業所を廻っています。ただ、私は人事の立場で話を聴くことになるので、社員がなかなか本音を言えないこともあると思います。その辺りを門田さんが廻ることで、本音を話しやすい環境がつくられているのかなと思っています。」

健康相談室のプライバシーへの配慮について岡原さんに聞いてみた。

「私と門田さんとのやり取りの中でも、社員の健康に関わる情報は門田さんが守っています。その上で、職場改善策等、組織上必要な情報を話せる範囲で共有します。私としては職責上、適正配置を行う上で、もう少し社員の個人情報を知りたいと思うこともありますが、そこは線を引いて、きっちりと守秘義務を守っていただいています。」

門田さんにも伺った。

「メンタルヘルスに関する事項に加え健康相談や血圧測定等全ての相談も含めると、相談件数は月に約120件です。それだけ社員が気軽に相談に来ていただいているものと思います。」

産業保健部門と人事労務部門がお互いの役割をわきまえながら、良い連携をしていると思われた。

休職前や休職中は、本人だけでなく同僚・上司や家族へも支援

次に、職場復帰支援について門田さんからお話を伺った。

「以前は”いつもと様子が違うので心配だ”という相談は、上司からが7割、本人から3割といった割合でした。最近では、本人からの自発的な相談が増えてきたように思います。相談対応の際は、まず身体症状に焦点を当てながら、医療介入が必要かどうかを判断し、必要に応じて医療機関への受診を促します。本人が受診することに迷いがあり積極的でない場合には、私が付き添って同行受診することもあります。受診をして休業が必要となると、給与はどうなるのか、復帰できるのかと考え、休業することへの不安が出てきます。休みたがらない社員も最初の頃は多くいました。そのような場合は、本人に対するケア、並びに上司、同僚の方に対し、病気の正しい理解を深めるための説明を丁寧に行うことから始めるようにしています。休職に関する制度を説明したり、休業中の窓口を明確にし、『会社とつながっているんだよ』ということを確認したりしています。そして、『段階に応じて支援していくので、焦らずに治療しましょう』と説明することも大切にしています。」

「休業中の連絡は、本人の意見を伺った上で、なるべく休職者の携帯電話に直接するのではなく、自宅の固定電話にするようにしています。その場合は、奥様が電話に出られることが多いです。奥様もこのまま家にいて大丈夫なのかと不安を抱えていらっしゃいます。そこで、『最近はどんな感じですか』等、奥様のお話も伺い、フォローした後で、本人に電話を代わってもらっています。家族も含め一緒にフォローしていくことが大切ですね。また、人事部門や上司の方と状況を共有することを、休職者本人へ確認した上で、それぞれに報告するようにしています。」

休職中は家族にとっても不安である。従業員を支援する家族に対して自然な形で気配りをすることが大切であると思われる。

状態や環境に合わせた職場復帰支援プログラムを作成した上で、産業医の指示の下『試し出社制度』を活用し、徐々に体を慣らし、復職への準備を整える。

引き続き、職場復帰支援に関して、門田さんからお話を伺った。

「本人の状態や環境に合わせ、”①試し出社”、”②リハビリ出社”、”③慣らし出社”という順番に位置付け、人事と話し合い色々工夫しならがやってきました。2011年度、当社に『試し出社制度』が導入され、欠勤・休職中の従業員に対する適切な休業中のケアとスムーズな復職、後戻りしない復職ができる仕組みが構築されました。」

「”①試し出社”は休職期間中に実施し、会社に来てもらうことで復職の可否の判断を目的に行っていました。最近はあまり実施していません。”②リハビリ出社”は、休職期間中、復職が決まった段階で、復職に向けて会社という場所を借りながら、会社に来て作業することに慣れるためのリハビリを行っています。さらに九州支店では、産業医の指示の下、”③慣らし出社”を職場復帰後に、勤務に慣れる目的で実施しています。具体的には、復帰後の1週間~4週間は業務を行いながら、本人のペースに合わせて産業医から就業制限に基づき、半日勤務と終日勤務を交互に行っていく形をとりました。”③慣らし出社”において、以前は午後の途中である15時や16時に帰るケースもありましたが、本人にとっては、途中では帰りにくく、そのことがストレスになっていたようです。そこで、午前勤務と終日勤務の2つに明確に分けることで、『今日は終日勤務だから気分を持続させよう』、『今日は半日勤務なので気が楽です』と本人にとってもメリハリがつけやすくなりました。」

「職場復帰前後で本人の状態に合わせて”②リハビリ出社”や”③慣らし出社”ができるといいですね。リハビリに会社の部署が借りられないとなると、最近では本人の自主的な活動として、休職中に毎朝8時半に出勤の練習のため健康相談室に来て、その後、図書館で過ごすというように、休職中は会社の事務所を使うのではなく、健康相談室に顔を出すことで、復職に向けての確認を私と一緒にしていくことが多いですね。」

「2005年頃の話ですが、主治医の”復職可の診断書”のみで判断した結果、復職がうまくいかなかったケースがありました。”病気の回復”と”社会復帰としての回復”は違うことが分かりました。復帰に際して”会社側の指標”を持たないと、会社も大変だし本人もつらい状況になってしまうということから、そろそろ復職の状況となった時に、復職に向けての指標(復職条件)を渡して、本人と一緒に確認します。その後、主治医の”復職可の診断書”が出されても、指標に沿って復職に向けての支援をし、産業医の判断を経て、私と人事部門とで検討して最終的な判断をする仕組みとしています。」

「復職可能となった後は、人事労務担当者、上司、本人、そして保健師である私とで、本人が話せる範囲で、上司にこれまでの経過を伝えます。更に、産業医面談の際の復職に関する就労条件(時間外労働の禁止等)を上司に伝えると共に本人にはそれを守るように伝える等、職場復帰支援プログラムに沿って説明しています。復帰1か月後くらいで終日勤務、3か月から半年後くらいで就労制限が解除されるといった判断を産業医からされることが多いですね。」

「休職中から健康相談室に来ているので、支店の内勤の人は、『復職後も毎日健康相談室に顔を出してね』と伝えることで、気分転換に立ち寄りやすいみたいですね。外勤の人は『最近調子はどうですか?』という電話を掛けやすく、復職後の状況も把握しやすいです。」復帰後の最初は部署にいるのは緊張するけど、健康相談室では落ち着けるみたいです。だから、休職中からのケアは、職場復帰支援においてはとても大切だと思います。このように取り組んでからは、再休職の割合は減ってきました。」

職場復職してから間もなくは、復職者に焦燥感や緊張感が出現しがちである。休職中から健康相談室に顔を出していることで、復職後も気持ちを落ち着けたり、何でも相談できる場所が確保され、段階的な職場復帰につながるものと思われる。

復職後、周囲から「変わったね」と言われるようになってほしい

最後に、門田さんから社風に関してお話を伺った。

「真面目な方が多いと思いますね。だから、悩んでしまって…。そのような場合、性格的に向いていると判断した方には、復職に際し、日々の業務内容や感じたことをまとめた日記をつけてもらうようにしています。」

「福岡障害者職業センターの復職支援制度(リワーク)を利用したケースもあります。中途採用の社員で、在籍期間が短かったことから、付与される休職期間が短いこともあり、本人も私も慎重に復職を進めなければならないと考えていたからです。『私だけではなくみんなの力を借りて支援していく制度があるよ』と説明すると、本人も興味を持ち、3か月間利用しました。セルフケアのみならず、問題解決方法やアサーション(自己表現)などグループワークを通じて学び、最後には本人による発表もありました。休職前は大変真面目な方でしたが、職場復帰してからは、いい意味で”良い加減”でメリハリをつけて仕事を頑張っていますね。」

「休職者が周りの方から『変わったね~』と言われるようになるととても嬉しく思います。本人の人生観や働き方が変わったのでしょうね。もし以前と一緒だと、また同じことにつまずいて、繰り返してしまうことにもなりかねません。」

「職場復帰支援は日頃の人間関係作りから始まると思います。その延長線上でメンタルヘルス不調者が出ないような職場にすることを目標に、今後も予防活動をしていきたいです。」

岡原さんに社風に関してお話を伺った。

「健康相談室は、組織上は人事グループの中に入っています。ただ、健康情報は門田さんがしっかりガードしています。門田さんが相談しやすい雰囲気づくりを心がけていることは、社員へ安心感を与えています。その上で、会社が社員を大事にする風土はとても重要だと思います。最近九州へ赴任したばかりですが、九州の土地柄として、人柄が良く、とても親切な方が多い印象です。それでいて会社自体に仲間を大切にして協力し合う風土がある環境だからこそ、復職に対してとても協力的かつやさしくできるのだと思います。現在私たちの建設業界も人材不足の厳しい中にいますので、職場復帰できる方が増えると、大変ありがたいと思います。」

従業員規模400人の事業所に常勤保健師が1人いることで、20年以上、職場の健康増進活動、メンタルヘルス対策にきめ細かく対応できたのだと考えられる。職場のメンタルヘルス対策において、事業所外資源に丸投げをするのではなく、まず、社内の中心人物(キーマン)を決めて、育て、活動しやすい環境・体制を社内につくることが大事ではないかと考えさせられた。

【ポイント】

  • ①常勤の産業保健スタッフの存在を従業員に周知するため、相談室で待つだけはなく、日頃から事業所内を巡回し従業員に声を掛ける。
  • ②分散している事業場に出向いて、各従業員に対し年1回ストレスチェックを行い、必ず面談を実施する。その際、比較のため前年のストレスチェックも持参し、過去実施分も十分に活用する。
  • ③休職前・休職中に、産業保健スタッフが本人のみならず家族や職場の上司・同僚と連携をとることで、本人の職場復帰に対する不安の解消につながり、円滑な職場復帰が可能となる。
  • ④復職後の慣らし出勤時期には、個々のケースの状況に応じて、産業医の指導の下、柔軟な措置を取り入れる。

【取材協力】株式会社竹中工務店 九州支店
(2014年11月掲載)