事例
- 概要
大卒後、現在の会社に総合職的な内容で就職して21年。夫と子どもが2人います。長女であり、親の期待に応えてきた、いわゆる「いい子」で、女性の第一選抜で選ばれ努力をしてきた人です。性格は几帳面、頑張り屋で融通性が乏しいタイプで、勝気な性格でもあります。趣味といえるほどのものはありません。
4月に女性活用の追い風もあり、抜擢され本社のエリートコースである営業企画課長に昇格しました。「女性のトップランナーだから、後輩の模範にならなければ。上司から良くやっている、と言われたい」と期待にこたえようと頑張りますが、対外折衝やマネージメントの仕事が多いポストゆえ、焦りも重なり、本人の思う通りにいきませんでした。 - 症状
実績などが前任者を下回ったことが契機となり、「会社でフラフラする。倒れそうになる」などの、めまい感や吐き気が起こりました。内科医を受診。血圧は最高血圧が180、最低血圧が100(定期健康診断では150と88)で、高血圧症と診断されました。降圧剤により140と90になりましたが、症状は軽快しませんでした。「朝の気分がブルーです。起床しにくい。本社の高層ビルをみると動悸がし、冷汗が流れる。足がすくんでしまう」という、就業への不安・焦燥症状が出現しました。内科医の紹介で精神科外来を受診しました。
- 家族の気づきとサポート
夫は多忙で妻が過剰ストレス状態にあるのに気づいていませんでした。後述する対応には必要に応じて診療に同伴し、サポートができていました。
事例の解説と対応
本人は努力家で勝気。女性の第一選抜の「女性のトップランナー」として頑張り、評価されて課長に昇格しました。営業企画課長は企画力や根回し、部下のマネージメント能力が要求され、職務適性も課題になります。 過剰なストレス状態に陥り、さらには業績があがらず、気分転換もうまくできず、長男の高校入試という家庭のストレスが重なり発症しました。第一選抜として、「後に続く女性のモデルになりたい」、「男性社会で女性の実力を示したい」などの思い入れやプレッシャーが強かったようです。
治療としては、本人が言う「トップランナーのしんどさ」の状況や心情に共感するとともに、「思い入れの強さ」を減らすように、カウンセリングを行いました。すなわち、「モデルになろうとするより、あなたはあなたらしくあってほしい。肩の力を抜いて、それなりに仕事ができたらいい」と助言をし、受容されました。必要に応じて夫が同伴しサポートをしたことも有効でした。力みがとれ、課長職から同格の参事として復職を果たしたのです。再発はありません。
職場の課題
このケースの場合、会社としての女性社員の昇進への考え方や対応に課題があります。女性の昇進や転勤などへの体制づくりやサポートが不十分であったと考えられます。男性管理職が段階的に受ける研修が、この方に対してはなく、ポンと課長ポストに据えられたという感じです。必要な研修の実施や、職務内容と適正に関する見通しなど、女性社員の昇進や昇格に際して、組織としてどのようなバックアップ体制を敷けるかが重要です。
対応のポイント
昇進は女性に限らずストレスを感じる大きな変化です。加えて、管理監督者が男性ばかりの中で女性が昇進した場合には、ロールモデルの不在や相談しやすい先輩の不在などがあり、よりストレスを感じやすい状況に置かれると考えられます。そうしたことを職場は十分理解し、定期的に面談を行うなど丁寧にフォローすることが求められます。
また、昇進した女性の上司に対しては、女性特有の健康問題について理解を深める健康教育を行うことも必要です。厚生労働省サイト「働く女性の心とからだの応援サイト」などを参考に研修を行い上司の理解を深めることで、より相談しやすい環境を整えることができます。
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