概要
Aさんは、コンサルティング会社で翻訳業務に従事している48 歳の女性社員です。
2年前に中途採用のBさん(42歳、男性)が上司として着任したころから不調を自覚するようになりました。
当初、同僚らから見てAさんのミスは増えていたものの、Aさん自身は、肩こりや首の痛みを感じて整形外科を受診しましたが、特に異常はないと診断されたこともあって、そのまま業務を続けていました。
それでも改善が認められないため、産業医に相談したところ、適切な睡眠がとれていないことが分かりました。一般的な指導(生活リズムを保って適度に体を動かすことなど)を受けたものの改善が見られなかったので、精神科を紹介してもらい受診しました。
その後、人事担当者が職場の状況を調査したところ、Bさんの厳しい業務指導がAさんに集中していたことが判明します。海外経験の長い上司のBさんは、会社から期待された即戦力としての自負と、もともとのエネルギッシュなリーダー気質が相まって、高圧的な言動を繰り返していたようです。
会社は、Bさんのハラスメント傾向にある業務指導を改善させるべく、「①パワーハラスメントをテーマに管理職研修を行いBさんにも参加してもらうこと」、「②職場の具体的な言動を例にBさんに個別指導をすること」、「③部門内でのAさんとBさんの接触を極力減らすこと」といった対応をとりました。
しかし、これらの配慮をひととおり実行してもなお、Aさんの不眠は改善しませんでした。
聞き取ると「業務の流れの変更でBさんとの接触が減り、心理的な圧迫は減ったが、1人だけ遅れをとっているような不安が出てきた」ということでした。Bさんは部下を集めて定期的に勉強会を開くのですが、Aさんは参加を免除され、かえってそれが疎外感につながってしまったようです。Aさんが持つ仕事への意欲に寄り添うことも必要だったかもしれません。
Aさんの意向を踏まえ、会社としてAさんの別部門への異動を提案し実行しました。新しい部門に異動したAさんは不眠がおさまって順調に勤務を続けることができています。一方、Bさんは研修の受講と個別指導の効果もあって、部下を穏便にマネジメントしているとのことです。
ポイント
- 不眠だけの問題と判断せずにメンタルヘルスの不調も想定して対応したこと。
- 人事と産業保健部門の連携によってライン教育や当事者の緩やかな分離といった配慮を講じたこと。
- 段階を踏んで配置転換を選択することで当事者の納得感を得たこと。