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3 うつ病の治療と予後

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うつ病の治療

うつ病の治療には、「休養」、「薬物療法」、「精神療法・カウンセリング」という大きな3つの柱があります。こころの病気の治療は特別なものと考えがちですが、実はこの治療の3本柱は身体疾患と基本的に同じです。

たとえば骨折を例にとってみますと、骨が折れてしまった場合には、患部をいたわりギプスを巻いてあまり使わないようにします。これが「休養」にあたります。しかし腫れや痛みといった症状がひどい場合には、休養もしっかり取れません。そこで鎮痛剤を服用することになります。このように苦痛な症状を軽減し休養を有効に取りやすくすることによって、自然治癒力を引き出そうというのが「薬物療法」です。最後に、骨がまた折れることがないよう、再発予防を考えます。強い骨にするために食習慣や運動習慣を見直すなど、生活習慣上の対応を考えていくのが「精神療法・カウンセリング」にあたります。

では、治療の3本柱について具体的にみていきましょう。

休養

生命体は、傷んだ部分をあまり使わないようにすることで回復していく力を持っています。うつ病は脳のエネルギー欠乏によるものですので、使いすぎてしまった脳をしっかり休ませるということが治療の基本といえます。先ほど骨折を例にあげましたが、骨折でも、軽いひびが入っている状態と完全に折れている状態では休養の仕方が違うのと同様に、うつ病の治療における休養も、仕事を軽減する・残業をしないというレベルから、仕事を休んで療養する、というレベルまでさまざまです。自宅療養をしていても家族に申し訳ない気持ちで過ごしていると落ち着かない、というような場合には、軽症であっても一時的に入院するのがよいこともあります。

薬物療法

治療には「休養」が何よりも不可欠ですが、苦痛な症状により休養が十分に取れないことがあります。また、「うつ病の原因」の最後に述べたように、脳内の神経細胞の情報伝達にトラブルが生じています。そのため、脳の機能的不調を改善し、症状を軽減するために薬物療法が行われます。

薬に頼ることに抵抗感をお持ちになる方もいらっしゃると思いますが、身体の病気と同様に、「脳という臓器」がエネルギー欠乏の状態による障害が起きているため、薬を使用する、と考えてみてはいかがでしょうか。

うつ病には、「抗うつ剤」という種類の薬が有効であると考えられています。抗うつ剤によって、「人格が変わってしまうのでは」、「自分ではなくなってしまうのでは」という不安や恐怖を感じる方がいらっしゃいますが、もともと自分が持っているセロトニンやノルアドレナリンなどの神経伝達物質が有効に機能するようサポートするのが抗うつ剤の役割です。具体的には、もともと自分の脳内の神経細胞内にあるノルアドレナリンやセロトニンなどが、神経細胞と神経細胞の間で多くなるよう働きかけます。

ただ、抗うつ剤は即効性のある薬ではないため、効果が現れるまでに少し時間がかかります。効果の発現にはおおむね2週間くらいかかるとお考えください。すぐに効果が現れないからと服薬を中断してしまう方がいますが、主治医の指示に沿って一定期間継続することが大切です。

最近の抗うつ剤は副作用も少ないものが開発されていますが、眠気、胃腸症状などを自覚することがあります。副作用は、服薬開始の1週間ほどに感じやすく、徐々に軽減することがほとんどです。最初の1週間は効果の発現も明らかでなく、副作用のみを感じやすい時期ですが、副作用がつらい時は専門医に相談してください。

「うつ病の主な症状」でも述べましたが、多くのうつ病患者さんは不眠を伴っています。また、不安感や恐怖感などで苦しんでいる方もおられます。これらの症状には睡眠導入剤や抗不安薬(精神安定剤)などが併用されることは珍しくありません。これらの薬物は抗うつ剤と比べると効果発現が速く、服用後から効果が現れます。

精神療法・カウンセリング

「うつ病の原因」でも述べましたが、「うつ病を引き起こす原因はひとつではない」ので、休養と薬物療法のみが治療ではありません。抗うつ剤で環境要因は解決しませんし、ましてやストレスをため込みがちな性格傾向や考え方も変わりません。精神療法・カウンセリングは、主に再発予防という観点が中心となります。同じような状況の中で、うつ病が再燃・再発しないように、ご自身の思考パターン・行動パターンを見直すということになります。

精神療法・カウンセリングの中には、「認知行動療法」、「森田療法」、「内観療法」などさまざまな治療法がありますが、共通しているのはご自身の中にある「生きようとする力」を見出す点です。重要なこととして、精神療法・カウンセリングは心の専門家が一方的に行うものではなく、患者さんが専門家とともに考えていくという自主性が大切です。医師が食事指導を行った際、大切なのは患者さんが食生活習慣を改善する意志と行動であるのと似ています。

うつ病の予後

うつ病は治療を始めればすぐに治療が終わるというものではありません。骨折など病院に通う必要のある身体疾患と同じように、治癒していく過程にはある程度の期間が必要になります。治っていく経過も、良くなったり、悪くなったりという小さな波をもちながら、階段をゆっくりと1段ずつ上るように改善していきます。そして、うつ病の多くは、以前の元気が回復している状態=「寛解」状態を迎えることができるとされています。

治療の期間は、「急性期」、「回復期」、「再発予防期」と大きく3つの期間に分かれると考えられます。急性期に特に重視したい治療方法が休養および薬物療養であり、回復期や再発予防期では薬物療法および精神療法・カウンセリングといった治療方法が重視されます。

「うつ病を引き起こす原因はひとつではない」ので、3つの期間がそれぞれどれくらいの時間を要するかは、状況によってたいへん幅があります。急性期が1か月~3か月、回復期が4か月~6か月、再発予防期が1年~、というのが典型的なうつ病の場合の大まかな目安となります。もちろん軽症で早期に治療を開始した場合には、より早く再発予防期に移行することが可能となります。生活習慣病と同様、早期に対応することが重要であることは変わりありません。

最後に大切なことをひとつ述べます。それは「元気が回復してもすぐに薬は止めない」ということです。「回復期」の途中で寛解の状態を迎えます。その時自己判断で薬を止めてしまう方が珍しくありません。その結果、せっかく寛解まで来たのに再発してしまうことがあるのです。薬を減らしていくタイミングは主治医によく相談することが大切です。長期の服用は心配だと思いますが、心配な点は主治医にも伝え、根気強く「再発予防期」を過ごすことが大切です。