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第二回 香山リカさん(精神科医・立教大学教授)

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第二回 香山リカさん(精神科医・立教大学教授)

いま必要なのは、手を差し伸べること

(残間)香山さんは23年間、精神科医として心の病に悩む患者さんに接してきたわけですが、この間に何か変化はありましたでしょうか。

 私が精神科医になった頃は、うつ病というのは初老期や高齢者がかかる病気だったんです。極端に言えば若者は関係ありませんでした。ところが次第に40代、30代と低年齢化してきて、今ではメンタルヘルスを損なって長期休職しているのは30代が中心です。さらに20代や入社3~4年の方たちにも増えているのが特徴ですね。

 この傾向は90年代の半ば、いわゆるバブル崩壊以降なんですが、同じ頃に成果主義、効率化、経費削減、IT化といった職場の変化があったと思います。

バブル崩壊前も、みんなかなり働いていたはずなんですが、何か忙しさの質が変わった気がしますね。

 IT化は便利なことではあるんですが、24時間、どこでも仕事ができるようになってしまったんですね。オンとオフをうまく切り替えるのが難しくなっています。

 海外の金融マーケットはどこかは開いていますし、24時間稼働しているサーバをメンテナンスする必要もあります。私も原稿が遅れていても、昔は終電の時間になれば編集者も帰るだろうし、明日の朝やればいいやという感じだったんですが、Eメールはどこでも受け取れるので、今は「朝までずっと待ってます」なんて言われてしまいますね。

うつ病の広がりと同時に自殺者も増え、日本では毎年3万人以上の人が亡くなっています。香山さんはこの事実をどう受け止めていますか。

 日本の自殺者は1998年に3万人を越えたんですが、当初は、バブル不況から連なる平成不況のせいだと言われていました。ところが、小泉改革の頃の景気が多少上向きになってきた2003年に、それまでで最悪の3万4千人を記録したんですね。ここに来て、自殺者の増加の原因は 心の問題だとやっと世間が気づき始めたんです。

国もメンタルヘルスを深刻に捉えるようになってきて、このサイトができたこともその表れだと思います。いま必要なことは何だと思いますか。

 確かに相談する公的機関の窓口は増えました。それは悪いことではないし、私たち精神科医のところにも来やすくはなったと思います。

 ただ、以前はそういったところに来る前に、周囲の人に相談していたはずなんですね。友人だとか、恩師だとか、親類。それで相談された人も面倒だとは思いながらも、「経済的なことだったら○○さんのところに行ってみたら」とか、「○○さんが、以前、同じようなことで苦しんでたから、話を聞いてみれば」というように話を聞いてあげていたんです。医者や行政といった公的なサービスの前に、「助け合い」があったはずなんです。

 ところが最近は、いきなり精神科医や公的機関に来てしまう。それでも来る人はいいんです。解雇され、失業保険も切れ、友だちもいなくて誰にも相談できず、都会で孤立して死を考えてしまう人がたくさんいるんではないかと思います。ここを根本的に変えていかない限り、解決していかないんじゃないでしょうか。

「助け合い」というと、具体的には何をしたら良いでしょうか。

 要するに周囲に調子が悪そうな人がいたら、一声かけてあげる、ということなんですよね。ところがいつの間にか、「他人とは関わりあいにならないほうが………」という雰囲気が職場で強くなっています。

 もちろん、自分から選んでドライにやっている人もいたと思います。社員旅行とか職場の飲み会とか勘弁してくれっていう感じで。私も若い頃はそういうの嫌いでしたし。だけど人間、そんなに個人だけではやっていけないんですよね。「私、私」でやれるのは、元気な時や若い時だけです。同僚の生活のことを何も知らない、立ち入らないでは、ダメなんじゃないでしょうか。

 たまには会社の帰りに一緒にお茶やお酒を飲んで、仕事やプライベートでの悩みを言いあったりすることって、意外なくらいに大事なことかもしれません。

「手を差し伸べる」というのは、ちょっとした心遣いがあればできることですが、それぞれの人間性に関わるだけに難しいですね。解決の糸口はあるんでしょうか。

 悪い状況ではないと思うんです。みんな気づき始めています。自分が自己実現すれば、それでいいというのは、ちょっと違うんじゃないかと。オバマが「核兵器の廃絶」とか言いましたが、ちょっと前ならギャグ扱いされていたはずです。会社も変わってきています。個人のパフォーマンスを高めれば上手くいくわけじゃないと。「手を差し伸べなきゃ」と、みんなが思い始めているんじゃないでしょうか。

 日本の自殺者は今年間3万人強ですから、10年で30数万人。未遂者はその10倍と言われますから、高い代償を払いましたが、少しずつ状況は変わっているんだと思います。

(2009年10月 撮影:岡戸雅樹)

香山リカ(精神科医・立教大学教授)

香山リカ(精神科医・立教大学教授)
1960年北海道生まれ。
東京医科大学卒業。学生時代より雑誌等に寄稿。
臨床経験を活かし、新聞・雑誌で社会批評、文化批評、書評などを発表する。
現在は、立教大学の現代心理学部にて教鞭をとる傍ら、数多くの執筆や講演活動、テレビのコメンテータとしても活躍。
また、精神科医として、現代人の”心の病”について洞察を続けている。
『しがみつかない生き方「ふつうの幸せ」を手に入れる10のルール』、『生き抜くこと-対論』(雨宮処凛氏との共著)など著書多数。

残間里江子 Rieko ZAMMA プロデューサー

残間里江子(プロデューサー)
1950年仙台市生まれ。アナウンサー、雑誌編集長などを経て、80年に企画制作会社を設立。
プロデューサーとして出版、映像、文化イベントなどを多数手がける。