コラム「身体のストレス反応から考える職場のメンタルヘルス対策」:No.1

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読了時間の目安:約4分

No.1:ストレスと腰痛

新たな視点に立ったこれからの腰痛の捉え方

 心理的ストレスは腰痛を治りづらくする原因である場合が多くあります。

これからの腰痛の捉え方「腰と脳機能の不具合」

 明確な原因が特定しきれない腰痛を非特異的腰痛といいます。その中には、姿勢や動作に関係する「腰自体の不具合」と心理的なストレスに伴う「脳機能の不具合」によるものがあると考えられます。ここでいう不具合とは、MRIや血液検査などの病院で標準的に行われる検査では捉えられず、説明できない異常のことです。明確な病気になる前段階(未病)であり、自分でコントロールが可能な状態を指します。

 不良姿勢や持ち上げ動作による負担が、腰自体の不具合(椎間板内のズレなど)をもたらす場合(図1-①)、仕事への不満や周囲のサポート不足、人間関係の問題など、さらには痛みへの不安や恐怖(専門的には「恐怖回避思考」といいます:後述)といった心理的ストレスが脳機能の不具合を起こす場合があります(図1-②)。

 脳機能の不具合として身体に現れる症状では、筋肉などの血流不足を生じるメカニズムとなります。両方の不具合は共存することが多く、その共存する割合は、同じ人が同じ日であっても身体的負荷や精神的負荷の状況に依存します。この理論で、腰痛あるいは頑固な肩こりを捉えると、対策を講じやすくなります。

図1

松平浩「新しい腰痛対策Q&A 21」および「ホントの腰痛対策を知ってみませんか」より引用改変

ストレスが腰痛を引き起こすメカニズム

 心理的ストレスが脳機能の不具合を誘引し、その結果、「身体化」が起こります。「身体化」とは、いわゆる身体に現れるストレス反応のことです(図2)。睡眠障害や疲労感、頭痛、下痢・便秘・吐き気など胃腸の不調、息苦しさ・動悸などが身体化に関係する症状の代表格ですが、肩こりや腰痛として現れることもあります。息苦しさや動悸の症状は、心理的ストレスにより冠動脈が一時的な痙攣を起こすことでもあるといわれています。腰痛や肩こりにも、心理的ストレスによる脳機能の不具合として筋肉の血流不足が強まって起こるタイプがあっても不思議ではありません。

 一方、心理的ストレスは、脳機能の不具合とは別のメカニズムが関与して「ぎっくり腰」の発生リスクを高めることもわかっています。心理的ストレスを抱えた状態で持ち上げ作業をすると、作業時の姿勢バランスが微妙に乱れて椎間板への負担が高まります(図1-③)。つまり腰自体の不具合による腰痛を発症するリスクが高まるため、介護作業時の「ぎっくり腰」予防という観点からも、心理的ストレス対策が重要と言えます。

図2

松平浩「新しい腰痛対策Q&A 21」および「ホントの腰痛対策を知ってみませんか」より引用改変

腰痛の予後に悪影響を及ぼす恐怖回避思考

 とっつきにくいと感じるでしょうが、「恐怖回避思考」は、大変重要な概念です。恐怖回避思考とは腰痛になったことで、「将来、さらに腰痛が悪化するのではないか。もう治らないのではないか」などと悲観的に考え、不安感や恐怖感を持ち、その結果、必要以上に腰を大事にする行動をとってしまうことを指します。

 わかりやすく言えば、不安や動くことへの恐怖から腰を必要以上に保護してしまうことです。コルセットの常用は、その典型的な思考・行動といえます。この恐怖回避思考が、腰痛発症後の回復具合や就労状況の悪さに強く影響します。「腰痛があっても心配しすぎず、できるだけ普段どおりに仕事や生活をする」ほうが回復への望ましい態度といえます。

 一方、腰痛だけでなく前述した身体化を疑う症状が複数あることなどから、過度の疲労や心理的ストレスが蓄積していると判断できる勤労者には適度な休養が必要です。私たちの研究では、ワーカホリック(私生活の多くを犠牲にして仕事に打ち込んでいる状態)であることが、メンタルヘルスのみならず仕事に支障をきたす腰痛とも関連があるという結果となりました。ただし、それは「腰痛のために休ませる」のではなく、「心理的ストレスや疲労(腰痛はその中の一症状)を回復してもらうために休ませる」という認識で、リフレッシュを兼ねた十分な休養を与えることが肝要です。

参考図書

東京大学医学部附属病院 松平 浩

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