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保健師として

大神労働衛生コンサルタント事務所
保健師・労働衛生コンサルタント 大神 あゆみさん

保健師とは

 保健師は、看護学を基礎に公衆衛生活動を担う国家資格として約70年以上も前に誕生した職種です。国民の公衆衛生向上のために、診断・治療に関すること以外の活動を「保健指導」と称した役割を担った職種で、その役割の特性から保健所や市町村等、行政の公的機関に多くの保健師が雇用されてきました。戦前戦後の結核や乳幼児の死亡、公害等々、国民の生命を守るための個別の対応や施策の検討に、保健師の地域に根差した日常的な活動が随分と効を奏した歴史があります。

 保健師は、単に発生した疾病の対応だけでなく「生きづらさ」に着目し、新たな健康課題の発生も念頭に置き、長期的目線で、人々の「普通のくらし」が守られることを大事にしてきました。 時代は変わり、平均寿命の延伸や疾病構造や生活形態が多様化とともに、現在では児童相談所での子どもの虐待などの問題や地域包括支援センターでの介護の問題などに対応する保健師も増え、その活躍の場は多岐に広がってきています。

 人数は非常に少ないものの、企業等事業場の保健活動に従事する保健師も戦前から存在していました。結核罹患者の多い時代には、職場での蔓延防止策への貢献、円滑に治療が進められるための支援とともに罹患者の休業・就業に関しても支援活動を行い、職業病対策においても類似の活動を行ってきました。

 現在、働く人に関与する保健師は、(1)事業場、(2)健康保険組合、(3)労働衛生機関や健診機関等、(4)事業場との個別の顧問契約や業務委託契約等、その雇用先の主となる事業や方針、契約内容等によって、活動の範囲やかかわりの程度は異なります。「人々が元気に働き続けられる」ための支援活動を第一に、万一働き続けられなくなった場合でも生き抜くためにどうしたらよいか、関係するそれぞれの人々の目線での解決策を一緒に講じることが仕事です。

保健師の特性を活かした職場のメンタルヘルス活動

 保健師の活動で思い浮かべられやすいのは、「健康診断」や「相談対応」の場面でしょうか。これらの活動では、一般的な健診結果のデータにみられる病気の早期発見や治療の勧奨、生活習慣病関連の狭義の教育的な保健指導だけでなく、仕事を含めたその人の生活のあり方を聞きながら、仕事を続けていくためにはどのようにすればよいか、一緒に考えます。また、一人ひとりの個人の状況に加えて、職場集団全体の状況にも目配りします。必然的に「メンタルヘルス」に関連する職場内の要因、職場外の要因の情報も得て、何らかの対応を行うことになります。

 保健師が、労働基準監督署への申請によって衛生管理者資格を取得できる資格であることを思えば、衛生管理者の業務を兼ねつつ、さらに発展させた活動も期待できます。

 働く人に関与できる立場の保健師が、衛生管理者の「職場巡視」の業務と協働して(あるいはその業務を兼ねて)、物理的環境への着眼に加えて働いている人の表情ややりとりにも目を向け、職場の日々のありようを定期的に把握し、臨機応変な対応をするだけでも、職場のメンタルヘルス関連問題への早期の対応が広がると考えます。「安全衛生委員会」にメンバーとして加わることで、プライバシーに配慮しつつ、働いている人々の健康に関する情報などから事業場の安全衛生施策に繋げられることもできます。

 保健師は医学的診断や治療はできませんが、想定される疾患については精神疾患のみならず、身体疾患も含めて考慮した対応策(たとえば適切な診療科目への勧奨等)を講じることができるのも強みです。たとえば、不眠や食欲低下や抑うつ状態といったメンタルヘルス関連の症状と思われやすいものに、身体疾患に起因するもの、関連するものも少なくないからです。

 ところで、近年「職場のメンタルヘルス対策」の一環で、専門職の相談窓口を設置する職場が増えました。その施策はある一定の効果を上げたように聞きますが、自発的な「来談者」のみを対象にした相談活動には限界のあることを意識せざるをえません。明らかに困っている状態なのに「困っている」と言えない人が存在するからです。だからこそ、職場に出向くことも大事にし、また、職場で「何かあったら」ではなく、「何か『気になることが』あったら」その声が届くようにできる仕組みを考えます。

 以前、「職場に『死にたい、死にたい』と言う後輩がいるのだけど、どうすればいい?」ととても遠慮がちに聞いてきた社員がいました。私は、人が専門職に相談することは敷居の高いものだということを肝に銘じています。その上で、「困っている人(この例では後輩のことを相談してきた社員)」が、まずどうすればよいかを支援しています。

産業保健活動と保健師

 働く人の健康は誰が主体となって守るのかといえば、働いている人であり、一人ひとりが自己の健康に気を配ることは当然です。また雇用している側も、働く人の健康に配慮することが必要です。

 こうした両者の健康に関する取り組みが円滑に行われるよう、保健師の職能を活かし、当事者目線で支援したり協働したりするような活動が重要となります。もちろん、この活動の中には、他職種との連携やその調整が含まれていることは言うまでもありません。