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Q8:職場改善活動の進め方の留意点は?

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Q8:職場改善活動の進め方の留意点は?

【Q】質問

 メンタルヘルス対策の一次予防として、職場改善活動が重要だと聞いています。その重要性は確かに理解できるのですが、組織全体をドラスティックに変えるような改善(改革)を行うと、その活動に乗れず、逆にストレスを高めてしまう労働者もある程度の人数発生してしまうのではないかという懸念があります。杞憂でしょうか。

【A】回答

1)不利益が生まれることもある

 メンタルヘルス対策の一次予防では、セルフケア、管理監督者教育、職場環境改善の3種類が主に展開されています。このうち、職場環境改善では、職場の心理社会的環境、物理的環境などの改善を通じて職場でのストレス要因を低減し、メンタルヘルスの向上につなげることを目的としています。わが国では、職業性ストレス簡易調査票1)、仕事のストレス判定図、メンタルヘルスアクションチェックリスト2)、MIRROR・WIN3)などの職場環境改善ツールが開発され、これらのツールを用いた改善事例も蓄積されつつあります。
 一方で、質問にもあるように、職場環境改善を行うことによって、一時的に仕事量が増えたり、職場内の葛藤が増えたり、離職者が増加したりするなど、一定の「副作用」が生じることがあることも指摘されています4)。つまり、メンタルヘルスの向上を目的として職場環境の「改善」を図った場合でも、かえってメンタルヘルスを悪化させる労働者も発生してしまうのです。
 たとえば、労働者一人ひとりの裁量権を上げるための対策を行うことを例に挙げてみましょう。多くの労働者にとって、組織や上司から一方的に仕事を割り振られたり強制されたりする働き方よりも、裁量権を持ちながら働くことの方が、よりストレスは少ないことがわかっています。ところが、新入社員などで知識やスキルが十分でない人、指示を受けたことをそのままこなした方が好きな「省エネ」タイプの人にとっては、自律的な働き方はかえってストレスを高めてしまいます。裁量権を持つことで、自律性と責任を持たされるからです。
 また、職場内のコミュニケーションをよくするために、ミーティングを増やすことを検討している職場はどうでしょうか?多くの労働者にとって意見交換が活性化し、相互の理解も深まることでストレスが低減することが予想されます。ところが、業務量が多く非常に多忙な人、他者と関わりを持つことを苦手とする人にとっては、ミーティングを頻回に持つことでかえってストレスを高めてしまいます。ミーティングによって作業時間が減ってしまったり、苦手な同僚との交流が増えてしまったりするからです。
 このように、多くの労働者にとって一見利益のありそうな職場環境改善であっても、実は一部の労働者にとっては利益にならない、あるいは不利益になることもあるのです。ですから、職場環境改善を企画・実施する担当者は、次の3点に留意しましょう。

  • ① その対策を行うことで、誰に利益がもたらされるのか?
  • ② その対策を行うことで、誰に不利益(副作用)がもたらされるのか?
  • ③ その対策によって利益がある人であっても、不利益(副作用)はないか?

2)職場環境改善の6つのポイント

 では、職場環境改善を行う際に、労働者の利益を最大化し、不利益(副作用)を最小化するには、どのような工夫ができるでしょうか? 以下に、6つのポイントを提示させていただきます。

(1) トップダウンによる一方向的な対策ではなく、参加型の対策を行う

 職場環境改善の計画、立案、実施において、経営トップが関わるだけでは効果は不十分です。なぜなら、経営トップには、職場での「生きた」情報がなかなか届きにくいため、利益を受ける労働者よりも不利益を受ける労働者の方が多くなりかねないからです。職場の強みも弱みももっともよく知っているのは、そこで働く労働者です。労働者の意識が変わり、行動が変わらない限り、組織は変わりません。だからこそ、職場の環境改善には、そこで働く労働者の関与が必要なのです。

(2) スモールステップ方式により、実施可能な活動から積み上げていく対策を行う

 職場の環境改善に向けてのモチベーションを上げるには、「できること」を「できることから」積み上げていくことが重要です。理想的な対策であっても、ヒト、経費、時間がかかる対策では、心理的なハードルが高くなってしまうからです。新しい対策をゼロから始める必要はありません。これまでに効果的だった対策を強化する視点、他職場のよい事例を水平展開する視点も併せて持つとよいでしょう。

(3) 職場の持つ「強み」に注目し強化する対策を行う

 ストレスの少ない健康的な職場づくりでは、職場の弱みを克服するという視点も重要ですが、それ以上に重要なのが、強みを伸ばすという視点です。なぜなら、弱みに直面し続けるにはエネルギーが必要で、途中で挫折することが多いからです。自分たちの強みは何か、その強みを伸ばすために何ができるかという視点から活動を始めるほうが、取組みへのモチベーションも上がり、その取組みも長続きします。

(4) 問題追及型ではなく目標志向型の対策を行う

 職場の環境改善では、過去の問題を解決する視点も重要ですが、あまりお勧めはできません。問題追求型の対策にばかり注力していると、やがてその問題発生に関わった犯人探しが始まるからです。すると、職場はギスギスし、「犯人」以外のメンバーは対策に無関心となってしまいます。「自分たちの組織をどのようにしたいのか?」という将来の目標を共有し、その目標に向けて組織内のメンバーがともに対策を行う状況が理想的です。
 なお、すでに起こっている問題が非常に重大で、その組織に多大な影響を及ぼしている場合には、その解決を優先すべきなのは言うまでもありません。今起きている火事の消火活動もしないで、将来の防火対策を話し合っても、現実的な対策とはならないのです。

(5) 短期的な視点だけでなく長期的な視点も持つ

 職場の環境改善を行う際、人手が必要だったり、他部署との調整が必要だったりして一時的にストレスが上昇することがあります。しかし、こうした対策によって職場のストレス要因を根本的に解決することは、結果的にストレスを低減することにつながります。ですので、対策を計画・立案する際には、短期的な結果だけでなく長期的な結果にも注目する必要があります。

(6) 個人的アプローチを併用する

 上で述べた様々な工夫をしても、職場環境改善によって不利益を受ける労働者は出てきます。この場合には、不利益を受ける労働者の個別性に注目し、その労働者の個人的な問題にも配慮した対策を併用することが重要です。

文献

  • 1 )下光輝一,横山和仁,大野裕,他.職場におけるストレス測定のための簡便な調査票の作成.平成9年度労働省委託研究「作業関連疾患の予防に関する研究」報告書,1998:107-115.
  • 2 )吉川徹,川上憲人,小木和孝,他.職場環境改善のためのメンタルヘルスアクションチェックリストの開発.産衛誌 2007;49:127-142.
  • 3 )真船浩介.職場のニーズに応じた職場環境改善の展開.産業ストレス研究 2010;17: 275-280.
  • 4 )Semmer N. Job stress interventions and the organization of work. Scand J Work Env Hea 2006;32:515-527.

執筆者:島津明人(東京大学大学院医学系研究科公共健康医学専攻社会医学講座 精神保健分野)

【出典】産業精神保健 Vol.22特別号(2014)「職場のメンタルヘルスQ&A」(日本産業精神保健学会 編)