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第5回 夏目 誠さん

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第5回 夏目 誠さん
大阪樟蔭女子大学大学院 教授

「うつ状態」をめぐる混乱

 精神科医が書く診断書の「診断名」の半分以上は、「うつ状態」ではないでしょうか。その一方、「うつ状態」の診断書をめぐる混乱が生じています。混乱の原因は、3点にまとめられます。1つは、現在の心の状態、症状を示す「状態」が「病名」と混同されていること。次に、「うつ病」という病名がよく知られていること、3つ目に「診断書の意義」と効果にあると思います。

 第1点目の、「状態」と「病名」との違いについて説明します。診断書を書くのは初診時です。その段階では薬の効果や経過を見ていないため診断を下すのが難しい。そのため「うつ病」という病名はつけにくいのです。現在の症状を示す「うつ状態」とします。加えて、「うつ状態」には様々な病名が含まれています。「適応障害(職場への適応が、うまくいかない)=職場不適応症=出社恐怖・拒否症」や「自律神経失調症」など。なかでも、「適応障害」を「うつ病」と誤解して対応をしてしまうことがあります。この二つは違う病気。本来であれば対応が異なるのに、「うつ病」と対応してしまうのです。そのために混乱が生じています。

  2点目に「うつ病」という病名がよく知られていることもあると思います。診断書を受けとるケースや職場関係者などは医学の専門家ではないのですから、「うつ状態」を「うつ病」と取り間違えることも多いのではないでしょうか。

 3点目に「診断書の意義」と効果です。診断書は公的な書類です。家族や職場関係者へ、「こういう病気があるから無理をさせてはいけない」、また「治療が必要である」と示すのが最重要ポイントであり、診断名はそれほど重要なものではないという点を、医師は職場や家族に説明する必要があるのです。その努力が医師には少ないのではないでしょうか。つい、形式や慣行に流されて診断書を書いていることへの内省です。

  本コラムでは、「うつ状態」という診断書に伴う混乱の原因を示すとともに、対応について説明しました。