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複数の業務上災害の理由が精神症状によるものと考えられた事例

概要

男性・40歳代・事務職

通勤途中に電車とホームの間に足が挟まれて捻挫したとの通勤災害発生の報告があり、状況を確認するために産業医面談を行いました。面談の結果、以前よりたびたび、駅の階段などでつまずいたり、バイク運転中に自動車と接触事故を起こしていることが分かりました。

職場では、日頃から他の社員と話しもほとんどせず、時どき一人でニヤニヤ笑うなど、「無口な変わり者」と見られていたようです。仕事を与えてもマイペースで、締め切り期限内に実行できず、重要な仕事はとても任せられない状態が続いていました。このように、職場で単に「変わり者」と見られている者のなかに、精神疾患に罹患している者が含まれていることは、けっしてまれではありません。単に本人の注意不足と思われていた軽微な事故の原因が、実は精神疾患(幻聴)に起因することが、産業医面談で初めて明らかになりました。本人によれば、「自分にはもともと霊がついていて、いつもブツブツ何かをつぶやいているので、何を言っているのか気になってしまう」とのことでした。今回の事故の際も、そうした声が気になって足元への注意が疎かになっていたのが原因でした。さらに「上司は非常に高度な仕事をわざと与えるなど、いやがらせをしてくるので、ストレスがたまって眠れない」と被害妄想と不眠を訴えました。上司からは「作業の内容は単純な書類整理で、30分もあれば誰でもできる程度の作業であるのに、その処理に丸1日かかっている。仕事中は居眠りをしていることが多く、いくら注意しても無視している。」との話があり、こうしたことから、幻聴を伴う精神疾患が強く疑われました。産業医として医療対応が必要であると判断し、本人に対して「人の声が気になって物事に集中できないことや不眠について、このままではいずれ大きな事故につながるので一度詳しく原因を調べて治療を受けたほうが良い」と助言し、精神科専門医への受診を促しました。精神科医により統合失調症との診断を受け、治療が開始されました。治療開始後、3か月程度で幻聴などの症状は軽快し、作業能率は上昇しました。また、事故の頻度も減少しました。

ポイント

このように、統合失調症を含む精神疾患で幻聴をきたす者の中には、周りの声が気になり物事に集中できず、結果として職場での作業能率が落ちたり、労働災害を起したりする例があります。

今回の事例では、精神症状は、実は入社以来あったにも関わらず、職場では単なる「変わり者」としかみなされず、周囲の者も積極的に話しかけることがなかったため、早期発見、早期対応ができていませんでした。このことは、職場の上司や人事担当者に対してのメンタルヘルス教育が不十分であり、作業能率の低下や事故の背景に精神疾患が存在する可能性があるとの認識が薄かったことが要因と考えられます。

職場では、典型的な精神症状に気づいて産業医や保健師などに相談する例が多いと思われますが、遅刻や欠勤、作業効率の低下、労働災害をきっかけにみつかる軽度の精神障害をいかに早く見つけだし、適切な対応をとるかが今後重要になってきます。そのために、日頃からの職制や人事担当者に対する教育が不可欠であり、勤務態度の変化を見落とさず、異変に気づいた場合には気軽に産業医に相談することができる体制づくりが必要と考えられます。